ALMOND GWALIOR −95
 父達の励ましと、帝国宰相の ”陛下が正妃として迎えなければ、あの奴隷はライハ公爵妃になるでしょう。我慢できますか?” という揺さぶりに、自らを奮い立たせてプロポーズをし、彼女を正妃として帝星へと連れて帰る事になった。
 カレンティンシスはその時、ラティランクレンラセオが沈黙を保っている事に不審を感じ、腹心のローグ公爵に探らせるも何も掴むことは出来なかった。
 ローグ公爵が無能というよりはラティランクレンラセオが陰険過ぎるというのが正当な評価だろう。

**********

− データを観る分じゃあ、両性具有としてのザウディンダルに何の問題もないな
《その様だな。だが両性具有としての ”あり得ない行動” を起こしたのも事実だ》
− 自殺を阻止する物質の量は規定値をクリアしている
 エーダリロクは内心でザロナティオンに語りかけながら、画面に映し出されている灼熱の大地で水ぶくれだらけになっている女を眺める。
− この女は、ザウディンダルよりも阻止物質は遙かに少ない。だが、この灼熱の大地で身体を焼かれながらも生きる事を止めない
《苦痛に耐えているのではなく、死を選ぶことは出来ない……で良いのだな》
− そうだ。夫の捨てられ娘が焼け死ぬのを目の当たりにして、助けなど来ない実験に使われた廃星の灼熱の大地の上で、絶望出来る位には頭は良かった筈だ
《殺したくないのであれば、やはり身体の限界まで阻止物質を投与するべきだろうな》

「そうだなあ」

 エーダリロクはそれだけ言うと、映像を切り別の作業へと取りかかった。画面を立ち上げ、入力しようとキーに指をかけた時、
「あ、そうだ」
 エーダリロクは 《金髪に褐色の肌、そして皇帝顔の少年》 の映像を取り出し、
「何時かこれをカルニスタミアに見せる日が来るのかな……」
《それをするのがお前だろう? エーダリロク・ゼルギーダ=セルリード・シュファンリエル》
「まあ……な。じゃあ、それを自分に言い聞かせる為にも、俺以外の人間が再構築できないように映像を分解しておくか」
 それらを分解し、封印した。
「俺を越える天才が現れたら、簡単に破られるだろうけどよ」


 何時かカルニスタミアに ”この少年の映像を見せる為にも”


《所で、この実験に使った女の処分はどうするのだ?》
− 実験終了の報告すりゃあ、ビーレウストが片付けるだろう
《依頼するのか?》
− いいや。終了を告げるだけで殺しに行く。それがエヴェドリットってモンだ
《そうか》

**********

 シュスタークがロガを伴い初陣する事が決まった。
 通常皇帝の外戚王家は、初陣の際に帝星からの進軍を共にする。それ以外の王家は各々の領地から。ビーレウストは帝星でエーダリロクに別れを告げた後、
「よお、ビーレウスト」
「久しぶり、エレスバリダ」
 共に進軍することになっているバーローズ公爵家のエレスバリダと合流する。
「挨拶するよりも聞きたいんだが、ビーレウスト」
「何だよ」
「何で前線じゃなくて、この前実験した廃惑星に向かうんだ?」
 戦争狂人の血を色濃く引く公子は、人殺しに特化した王子と性格が合い、進軍する際は共に前線に向かうことが多い。
「後片付け」
 ビーレウストは素っ気なく答え、それ以上は何も語らず、エレスバリダはそれ以上は尋ねなかった。だが、目的の惑星近くで停泊し、銃を組み立て始めたビーレウストの隣には立った。
 無言のまま傍に立っていたのは、話掛ける為ではなくビーレウストの射撃する姿を見る為。
 当代最も美しく狙撃銃を構える男は、戦闘艇の出入り口を開かせそこから見える惑星の ”それ” に照準を合わせた。
「エレスバリダ」
 エレスバリダはその美しさに見惚れながら問いに答える。
「何だ? ビーレウスト」
「幸せって何だと思う?」
「殺す事だろ」
 戦争狂人バーローズ公爵の跡取りは当然のように、間髪入れず澱みなく答えた。ビーレウストは引き金に指をかけ、
「だよな」
 同調して微笑みながら ”それ” を狙い撃つ。
「さ、行くか」
 ビーレウストは銃を降ろし、開け放たれているそこから捕らえるように指示を出していた惑星を眺める。
「ちゃんと当てたか? ビーレウスト」
「当然だろ」
 その言葉を聞き、エレスバリダは出入り口を閉じるように指示を出し、二人は背を向けて歩き出す。
「その銃良いな。また、エーダリロクに作ってもらったのか」
「まあなあ。良いだろ」

 特別製の銃を自慢する王子と、それに興味を持ち質問する公子、二人は既に先ほど撃ち抜いた物体に対する興味は既に失っていた。
 彼等の幸せは殺害する一瞬。
 その一瞬だけを求めて彼等は人を殺す。
 永続する幸せは彼等には無い、存在するのは一瞬だけ。
 彼等を幸せにしようと思うのなら、貴女は殺されなくてはならない。貴女が彼等を幸せにしようと思わずとも、彼等は幸せになるために貴女を殺さなくてはならない。

 間違いの中に存在していた幸せと、真実の中に存在していた不幸せ。貴女は灼熱の大地で、殺されて幸せでしたか? 不幸せでしたか?

CHAPTER.03 − 幸福と不幸に灼熱を死を[END]


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