君想う・廃惑星編
【08】
ヨルハ公爵と彼に抱えられたイデールマイスラは、本隊を目指していた。
”推理”でジベルボート伯爵と導き出したものの、それが真実であるかどうか? 確証はない。いま彼らの手元にある確実な出来事は襲撃されたことだけ。まずは本隊に事態を伝える必要がある。
確実に事態を本隊に伝えられるのはヨルハ公爵だけ。そしてイデールマイスラを守りきれるのも彼だけ。
よって二人で本隊へと引き返すことになった。
残った三人はというと、
「臨機応変に対処するということなんだね、ケーリッヒリラ子爵」
「そうなるな。クロントフ侯爵」
襲撃者たちがヨルハ公爵たちの後ろを追って行ってくれることを願いつつ、
「殺される覚えはないが、目くらましにはなるからな」
襲撃される可能性を考慮して動く。
幸い……ではなく、ガルベージュス公爵の裁量は見事なもので、固定罠の達人である子爵と距離さえ保てれば多数の襲撃者と応戦できるスナイパー伯爵を組ませ強固な防衛布陣を可能にし、どのような状況下でもイデールマイスラを連れて本隊に戻って来ることのできるヨルハ公爵を同行させる。些細な異変をめざとく見つけることに長けているクロントフ侯爵を組み会わせた。
そして ――
「あなたが一緒ですと、無理をしませんからね」
「なるほどな」
異変が起こった際、無理をせずにすぐに連絡のために引き返そうと決断を下す判断材料となり得る王婿予定のイデールマイスラ。
「どうする? ガルベージュス公爵」
イデールマイスラとヨルハ公爵が戻って来て”襲撃された!”とガルベージュス公爵に告げ、全員が集まって事態を聞き、周囲に注意を向ける。
「そうですね。まずはヨルハ公爵はもう一度ケーリッヒリラ子爵たちの部隊に合流してください」
「いいよ。でもさ、もう二人くらい連れていきたいな」
「当然ですね。ヨルハ公爵が連れていきたい人、いますか?」
「一人はエルエデスがいいな」
ヨルハ公爵が指さすと、エルエデスは頷き荷物をまとめるために輪から離れた。
「なるほど。もう一人はエシュゼオーン大公でどうでしょう?」
「いいね。じゃあ一緒に行こう、エシュゼオーン大公」
「分かりました。そうそう、ヨルハ公爵。私のことは気軽に女皇殿下と呼んでください」
「分かった!」
―― 女皇殿下《デセネア・ダーク=ダーマ・プロレターシャ》は長いだろうが
エルエデスは内心で当然のことを呟きながら、荷物をまとめ終えた。戻って来たイデールマイスラの話を聞いていたメディオンはヨルハ公爵について行きたい……とは思わなかった。
彼女は子爵が気になって仕方ないが、自らの責務を忘れることはない。仕えている王子が襲撃されたと聞いて、彼から離れようなどと考えたりはしない。
「ヴァレン、頼むぞ」
「任せて、メディオン」
メディオンは準備を終えた二人とともに子爵の元へと(あと二人います)向かったヨルハ公爵を見送り、見えなくなったところで目を閉じて子爵の無事を祈り”きっ”と目を開き、ガルベージュス公爵の”これから”について耳を傾けた。
「襲撃犯の目的はまだ推測の域を出ていません」
子爵たちの推理は当たっていたが、前にも述べたように確証はない。ならばどうするか?
「単位取得は子爵たちに任せて、わたくしたちは攻めます」
ただし攻めるといっても、殺すのではなく、捕らえるのだ。
この学年で思考を読めるのは子爵のみ。
襲撃者が彼らの能力を熟知していることは確実なので、子爵がいなければ捕まってくれる可能性が高い。
捕らえられることにより自爆で”真の”標的を葬ることも可能。
ヨルハ公爵がエルエデスを連れて行ったのは、
「拠点の守りはエヴェドリット勢に。責任者はリュティト伯爵にお願いします」
拠点に残すには実家関係で危険であったため。
ヨルハ公爵はイデールマイスラをあばら骨が浮いている小脇に抱え走っている最中、ガルベージュス公爵がどのような策を練るのかを考えていたのだ。
捕らえる作業が苦手な者が多い(子爵は除く)エヴェドリット勢に守りを任せ、その中心にメディオンを置く。
メディオンはさほど強くはないので、エヴェドリットである彼らが興味を持つことはない。
「イデールマイスラはわたくしと一緒に。わたくしは陛下より直接あなたを守ることを命じられておりますので」
マルティルディに対する態度がなっていない時は容赦なく攻撃してくるガルベージュス公爵。鯖折りやらアキレス腱固めやら、くすぐり耐久18時間と3秒やら、この一年間でさまざまやられたことを思い出し……
「お、おう」
若干返事は遅れたが、それでもガルベージュス公爵のことは信頼していた。
「ジベルボート伯爵はヒレイディシャ男爵と組んでください」
「はい」
狙われている可能性のあるジベルボート伯爵を、さほど強くはないヒレイディシャ男爵と組ませることにより、襲撃者の接近を促す。
「儂で良いのか?」
儂では守りきれぬぞ――テルロバールノル貴族らしからぬ他貴族を守ろうとする態度。脇で見ていたゾフィアーネ大公は感動して腰布となりブリッジを開始する。
―― 何ごと……いやいつも通りじゃったな
表情は変わらないが内心ではいつものことだと分かりながら驚くヒレイディシャ男爵。
「ご安心ください。先に狙われるのはヒレイディシャ男爵、貴方です。襲撃者たちはイデールマイスラを襲った以上、貴方を無視することはできませんので。色々とありますが、説明する時間がないので”貴方たち二人とも標的です”わかりましたか?」
「分かった」
自分も狙われると聞き、不可思議ながらヒレイディシャ男爵は安堵した。
「あのー僕は」
「貴方は一人で歌を歌っていてください」
一人余ったザイオンレヴィは、食糧を作製していてくれとガルベージュス公爵に託された。
「あ、はい」
襲撃者がケシュマリスタであろうが、なかろうが、マルティルディのお気に入り玩具として名高いザイオンレヴィが攻撃される可能性は低い。
彼は食糧を作製しながら、食糧生産場所を守るのだ。
設備の残りで作製された通話範囲の狭い通信機(トランシーバー)を持たされ、ペアが拠点を離れてゆくのを見送り、メディオンたちからも離れ食糧が実る区画で、ザイオンレヴィは大きな葉の陰に腰を下ろし、美しく咲き誇る花に話しかける。
「仲良くした相手が狙われるなんて、ヤダよね……マルティルディ様だってきっと……」
草むらのなかで襲撃者に対する文句を言い……ザイオンレヴィが気づくと、周囲は枯れ果てていた。
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「ただいま! シク」
「早かったな、ヴァレン」
子爵が作った罠の縁で足を止めて、ヨルハ公爵が”戻って来たよ!”と声を張り上げる。後ろから現れたエルエデスと、
「私のことは女皇殿下と呼んでください」
「だから長い! 黙ってエシュゼオーン呼ばせろ」
エシュゼオーン大公が現れたのを見て、子爵たちは警戒を解いた。
この三人と一緒であれば、並の襲撃犯では太刀打ちできない。
「あとはガルベージュス公爵に任せて、我等は捜索を続けよう!」
ジベルボート伯爵のことは気になるものの、分隊がしっかりと捜索して点数を稼いでおくことが、彼らへの最高の協力となる。
「そうだな」
「襲撃犯を捕まえられたらいいんですけれどもね。そしたらここが何処か? 分かりますし、彼らが乗ってきた宇宙船も手に入れられますから。そうしたら移動も楽なんですけれど」
エシュゼオーン大公の意見に、
「生きて帰らないこと前提の部隊という可能性もあるぞ」
エルエデスが別の意見を述べる。
「襲撃犯はガルベージュス公爵たちに任せて、我等は我等で動くとしよう」
子爵たちは宇宙港を目指すことにした ――
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