そういえばこの人は学者で大寵妃だったんだよな、と。そう思った
「エルスト、クラウスから離れるなよ。言わなくても解るだろうし、言わなくてもくっついてるだろうけど」
「目はなさないくらいで良いんじゃないの?」
「いや、ぴったり引っ付いてろ……言いたい事はわかるけどよ」
あのさぁ、俺は流される方だし多少の事がばれても、叱られても、何となく生きていける男だけどさ……
**********
昔って程昔じゃないけれど、そうだな三年以上前だドロテアと結婚する前だったから。故郷を出て、マシューナル王国で何をするわけでもなく下宿で時間潰して盗賊の寄り合いに顔を出して、カジノに行って遊んでそれなりに女も抱いてと、何処の誰が見ても不健康……いや自堕落か? そんな生活を送ってたんだが、半年程して知り合ったドロテアに『手伝え、元々テメエは“アレ”に仕える為のモンだったんだから!』と怒鳴られて引きずりまわされた。やる事もなかったし、嫌な上司がいるわけでもないし競う同僚がいるわけでもない上に、金は恐ろしいほどくれるし。最もあの危険さからいけばあのくらい貰っても恐縮する事はないだろうけど……思い出すのも恐ろしい数々の出来事。
それは別にしておいて、ドロテアと知り合って半年が過ぎた頃だから、王国に来て一年が経過したんだろう。ドロテアが何処かから聞いたらしい。
「テメエ、故郷に帰らねえのか?」
まだこの頃はまだ、綺麗で頭の切れる女性としか認識してなかったんだよね。当然だろうな。
「多分俺、故郷に帰らないと思う」
軽くそう返したんだが、今にして思えば相手が悪かったというか何と言うか。
「へえ……。なんか理由でもあるのか?」と聞かれたからさ、故郷で自分の幼馴染に手出したんだけれど、それがその女性の弟の出世と……とか軽く話したんだよ。大したことだと思わなかったし、実際大したことじゃないからな。表面的に人を納得させる力のある話だしな。
その日はその話で終わった。その後もボチボチと話をした訳だ、ドロテアと会話する話題はまるで無かったから、結局の所無難で……もないな、ドロテアは故郷を失っているから。とにかく、無難に昔話をした訳だ。自分の幼少期とかそういうヤツを話しながら乾燥した薬草を棒で叩いて割ってたりして小遣い貰ってたんだ。
うん、甘く見てたんだと思う。やっぱり、俺も生まれ育ちはギュレネイス皇国だからなあ。でもさ、ドロテアじゃなきゃ気付かなかったと思うよ
「なあ、結局テメエはクララが好きだったのか? それともクラヴィスが気に入ってたのか? ドッチだったんだ? ビルトニア」
焦って否定するとかそういう問題じゃないよな。
「俺は正直言って、女しか好きじゃないな」
でもさ、気に入ってたっていうなら当然“友達だったクラウス”。友達止めた覚えはないんだが……
「なる程ねえ。相手のクラヴィスはテメエの事を好きな事にも気付いていないし、当然テメエが気付いている事にも気付いてないわけだよな……くくく、可哀想に」
「そんな話したか?」
やっぱり相手が悪かったんだろう。
「フェールセン人もゴールフェン人も、どんな奴等が立国しても自分達が住んでいる場所から動こうとしなかったヤツラだろうが。そんなヤツの子孫が態々引越してくるなんて随分な理由が必要だろう。テメエみてぇに、他人に何言われても胃の一つも痛くならないような男が国を出る理由? そりゃ深刻な問題だな」
確かに深刻だな、幼馴染が俺に明らかに間違った感情を抱いているってのは
「あれは、勘違いなんだよ」
「じゃあ、そう言えば良かっただろうが」
「認めるようなタイプじゃないし」
普通の男は認めないと思うよ。
クラウスが十歳の時だった、引っ越してきたといえば聞こえはいいが色々あったみたいだな。確かにゴールフェン人も滅多な事じゃあ土地を動かないだろうけれど、とにかく越してきて近くに住んだ。
目立つ子供だったよ、特に俺にとっては。真っ黒な髪に赤い瞳をした少年は。
友達になってくださいと言われて、頷いたけれども……俺にも昔からの友達もいるわけだから、そうそう遊びはしなかったな。連れて行こうとしたんだけれど、どうもクラウスが気後れしたんだろう。暫くして、町外れで遊んでいるクラウスを見かけた、遊び相手は……まあ、なんて言うかその子も普通の子とは遊べない子だったからな。父親が犯罪者だったかなあ……確か。俺より二歳くらい年上だった気がした。でも偶に遊んでたりもしたんだが。
そのクラウスの遊び相手になっていたクラウスより五歳年上の男は、直ぐにクラウスの前から消えた。いや、家からも消えていた……家出だったらしい。家が家だったから両親も探すのを諦めたし、何処にも頼めなかった。
クラウスと俺の二人で城壁の外まで出て探した記憶もあるが、見つかりはしなかった。あいつ、元気かなあ……ああ、済まない話が逸れたな。
それから直ぐ俺は十四歳になって一応総合学院に入学したんだよ、息も絶え絶えな成績だったけれどさ。在学期間は四年、で四年目にクラウスが総合学院に入学してきた。でもな、その頃はまだ若かったから気付かなかったし、多分入学してきたクラウス自身気付かなかったんだろうな。
卒業して間もなく俺はクララと付き合ったんだよ、経緯は忘れたけれどね。
何となくその頃から、人間的な本能? とかが警告なるものを発している気がしてきた。
「子供の頃から、一応一緒というかクラヴィスだかクラウスだかの子供時代は、テメエしか友達いなかったんだろ? その友達も姉に“取られた”と感じて出世レースに乗ったんだろうな」
「そう……なんだろうな」
元々頭のいいヤツだったよ、だけどさ在学期間を二年吹っ飛ばして警備隊に入ってきて、憑かれたように仕事をし始めたわけ。あの陽気を装った悪人、エールフェン人のウィレムが恐怖を感じる程に。丁度、運が良かったのか悪かったのか? その頃司祭が代替わりしてチトー五世になって、国外人を重用して人集めをするようになって、それとクラウスの仕事ぶりが重なって直ぐ俺の上司になったんだよ。
上司になるのは構わないんだけど、仕事を次から次へと持ってくるし……なんというか
「管理されているような気分? ……とも違うか。極力姉からテメエを引き離そうとしているようだった、ってことか。上司になればテメエを制御できるからな」
「ああ。だから“イヤなら別れるよ”と言ったら、火がついたように怒ったんだが。火がつく一瞬前の表情が」
笑ってた……とは言わないけれど、不思議なモンで解かる。人間の感情は複雑なんだと思ったね。
「それって言ってやったほうが良かったんじゃないのか?」
「でもなあ、言うのも恥ずかしいが思春期の感情の書き間違い? とでも言うかね。それって口で言って伝わるとも思えないし」
「でも治んないまんまで、遂にテメエ追い出されたんだろう、ソイツに。でもテメエを追い出したって事は、ソイツはもうかなり」
「何となく気付き始めてたんだろうね。気付いているのを気付いていないと思い込みきって、気付いていない自分を作っていた……とでも言うべきかなあ。自己暗示って言葉でもないような、実際俺に対しての感情は“何”なのかまでは解かっていないはず。多分怖いとかそんな感じを受けているはずだ」
「そいつ、テメエの三つ下なんだろ……俺より年上な割に……まあでも、無いわけじゃないからな、自分の感情を理解できないヤツ」
俺が警備隊を辞めた後も、クラウスは……何なんだろうなあ。別に後をつけて歩いていたわけでもないし、家を覗きにきたわけでもないけれど、クララに俺の状況を聞いていた。当然その頃はもう盗賊紛い、むしろ今より確りとした盗賊だったと言った方が良いな状態だったからクララにも口止めしていたけれど。
クラウスは薄々気付いてたんだろう。でも捕まえないんだよな、あの真面目な男が。そりゃまあ、確かに自分の姉の付き合ってる男が盗んで金稼いでるのは都合は悪いだろうけれど、それを下地に幾らでも罪状を作って処刑するなんてあの国じゃあ日常茶飯事なんだけれど。どこの国でもそう? そうかもね、自分のいた国の暗部のせいで世の中で一番陰惨なイメージがあるからな。で、結局捕まらなかったんだよ。
でもな、此処まではまだ良かった。此処から先が、俺を絶対皇国に戻らないと思わしめた言葉が始まった、乾いた笑いと共に。
「はははははは……なあ? ビルトニア。何でテメエ等の祖先はあの土地を離れなかったと思う?」
明確な理由は解からない、誰も知らない
「フェールセン人を作って召使にしたのは皇帝。ゴールフェン人を作って召使にしたのは選帝侯。この人間達を隣同士においておくと、皇帝と選帝侯の関係になるんだ」
……意味が良くわからな……
「なあ? クラヴィスってビルトニアより小柄だろ?」
よく解かったな、身長なんて言った覚えはなかったんだけれど。成人した大人の身長なんて年齢は関係ないからわからないような
「一番長く共にいるフェールセン人よりゴールフェン人は大きくならないからな。今言っただろう? 皇帝と選帝侯と同じ関係になるって。オーヴァートとヤロスラフはどちらの背が高い?」
言うまでも無く……皇帝だな。成長にまで影響を及ぼすのか?
「フェールセン王朝が解体された時、反対した選帝侯が二人いた。エールフェン選帝侯は自らの力を誇示し、皇帝に反逆を起こしその咎で未来永劫皇帝を嫌いながらそばに仕えることに定められた。僅かでも叛意を持つだけで、それを心中で形に出来ない何らかで持つだけで、体中に激痛が走るんだそうだ。叛意とも言えないような不平不満でもな。そしてもう一人、その忠実な思いから解体に反対した選帝侯がいた。それがゴールフェン、ゴールフェン選帝侯は皇帝の忠臣であったが為に反対し、そして二度と皇帝の側に寄ることを赦されなくなった。エールフェン選帝侯とは逆に、皇帝に忠実になればなる程体が痛むがそれでもゴールフェン選帝侯は忠実である事を止めない。そんな先祖代々忠実なゴールフェンの意志が反映されてつくられたゴールフェン人の側に皇帝の作ったエールフェン人を置いておけばどうなる?」
世の中にはどうにもならない意志があるってことかな? 大寵妃
誰も知らない事実。軽く語った割りに、結構危険な話しだけれどコレ以上にヤバイ話も多数知っているらしい。そういえばこの人は学者で大寵妃だったんだよな。
「かつて、主が叶えられなかった願いなのかもしれないな」
いや……そう言われても困るんだよ、本当に。……なあ、別の誰かを好きになる事は……
「あるわけネエだろ。そんな感情がなくて、ただ只管一点しか見えないんだよ奴等は……それでもまあ、離れていれば少しは落ち着くらしいぞ。ゴールフェン選帝侯が言ってた」
だからその場から離れちゃダメだったんだよ
エールフェン人だったウィレムは叛旗をその地で
ゴールフェン人のクラウスは従順をその地で
来てはいけなかったのだ、この地に彼らは
だから俺は帰らないと決めた、両親の葬式の時も帰らなかった
**********
「全く治ってないぞ、クラウスのヤツ。落ち着いた雰囲気もないぞ!」
会わないで帰るつもりだったけれど、運命って皮肉というかなんと言うか。よくよく考えれば、ドロテアと一緒に来た時点でクラウスには会うハメになりそうだったよ、確かに。
「っとによ、皇国の女はそんなに魅力無いのか? 三年もあったらあの程度の男ぐら骨抜きにできるだろうが!」
会ってすぐドロテアも感づいたから金を貰ってカジノに逃げて、その後も出来るだけクラウスと二人だけで会わないようにして……でもなあ
「ドロテアでもあるまいし……そうは言われてもな」
今問題なのはクラウスをイシリアで事故死させて、その償いに皇帝との会談を設置するという恐れ。
確かに良く聞く話しだけれど、多分司祭は使わないな。やろうとするのはウィレムのように出世を願う奴等。ドロテアはそんな事をされても呼びはしないんだけれど……と言っても通じるわけないしな。
それで益々墓参りを引張られると、鬱陶しいことこの上ないってのが事実。あまりドロテアを怒らせたくないからな、だが
「でもさ、俺がクラウスに引っ付いてるとおかしくならないか?」
「なるかも」
「それだとマズイと思うんだけど。マリアとヒルダと交代で」
「皇国で、男を位から落す際に一番使われる手段は?」
「……女、だね」
マリアに何かした、って噂立てられるだけでクラウスは危険だ。
いくらどうでも良い様な人間で何となく生きていけても「幼馴染だった男が、作った人の感情なのか何なのか解からないが、男の自分に明らかに異質な感情を抱きながらも気付いていない。それを自分の妻が知っている」ってのは少々……俺でも困った気分にはなる。
「じゃあ、極力あの二人には近寄らせない方向で?」
「そうなるな。別に、オマエがクラウスが鬱陶しいので殺したいな! とか思ってるんだったら見捨てれば」
「友達なんですけど」
「オマエにとってはな。だから側についてろって言ったんだろうが」
俺にとっては確かに友達なんだって。ドロテア
**********
ヒルダの作った怪しげな結界に入ったエドウィンとその他大勢(ヒルダ談)
結界をギリギリまで近づけているので縁に立ち会話する事が出来る。そのギリギリに作った結界に『妙技だ』と誰もが呟き、一人両手を挙げて
「当然ですよ。先生が怖いんですから」
と言って歩いているヒルダに、取り敢えず誰も何も言わなかった。……言えないだろうな。
因みに何故両手を挙げて歩いているのかと言うと、ちょっと魔力が手に残りすぎて変な力が掌の辺りを覆っておりぶつかると怪我をさせる恐れがあるためであって、別にヒルダがおかしいわけではない……確かに変わってはいるが。
会話できる場所が整ったので、本格的にエドウィン達とエルスト達は話を始めた。取り敢えず、何が起こったか教えて欲しいというクラウスの問いにエドウィンは「大きくなったね」と言って頷き、直ぐに話し始めた。
「私の知っている事はこうです。エルストさん達がゴールフェンを発った後に選定が行われました、私は司教になって最高位である“教父”にはドローシュ殿が選出されました。ドローシュ殿はガデイル家でもクロティス家でもありません。それは決っていたようなものなので波風も立ちませんでしたが、クロティスのシュタードルは納得行かなかった模様でした」
最初から位が決まっているなら別に選定会などする必要も無いのだが、慣習というのはそんなものだ。
「シュタードルってここに来る前から聞いているんですが、誰ですか?」
世事に疎いうえに、殆ど戦争に興味のないヒルダにとって“シュタードル”などという名前は聞いた事もない。
「クロティス家という家の当主です。前当主の姪の息子で、私と同じ様なものですね」
「お年は?」
ヒルダにしてみればクロティス家が名門であるという感覚もない。だが、そんな殆どイシリアの内情を知らないヒルダだが、イシリアの宗教についてはそれなりに詳しい。
「私より三才ほど上ですよ、四十歳になったはずです」
「年齢的には“教父”の座に就ける歳なんですね」
イシリア教だけは最高位につく際、年齢も関係するのだ。だが四十歳で直ぐ選ばれる人など今まで居なかったのだが、どうも彼は名門の血筋と年齢だけで選ばれなかった事に腹を立てたらしい。
「そうです、ですが年齢と家柄だけで選ぶ訳にもいきませんから。その彼が武装した集団を引き連れ、突如大教会の一角を占拠したのです」
冷静になって考えて欲しい物だ、名門の血筋と規定の年齢に達して選ばれなかった原因を。もう良いですよ、とヒルダは手を振り後は口を挟まないと一歩後ろに下がる。エドウィンの言葉に
「はあ? 何だそれ」
エルストはそう呟く。もちろん相手に届くような大きさの呟きだ。
「解りませんが、多数の傭兵を雇い入れ教会内で戦闘が起き、力ずくで。当然ながら皆教父総代をお守りする為の配置についたのですけれど、シュタードルは全く逆の方向へと進んでいったのです」
「そして制御室を占拠したのね」
「はい、そうです。占拠した場所が場所ですので私は傭兵の代表者に会って話をしました、さすがに彼らもそれには驚き一時剣を置いてくれたので、私はもしもの為に彼等を二重雇われになるけれどもと説得しこの場に残ってもらう事にしたのです。そこから急いで人を集めて制御室を占拠したシュタードルに対してどのような対抗策をとるべきかを専門である学者達に検討させたのです。学者達はシュタードルでは遺跡を動かせないと判断したのですが、暴走はさせる事はできるかもしれないので、話をしようと全員が非難した大教会へと再び足を運びました。ですが、その時点で既に遺跡は稼動していたようです」
結界の外で「うー」や「ああー」としか言うことの出来ないアンデッドとは大違いのゴルトバラガナ邪術。その語り方は立派の一言だ。エドウィンが口を閉じると直ぐに隣から声が、また冷静に話し始める
「甘かったようでした。これもまた傭兵と同じく外部の者を雇い入れ遺跡を稼動させたのです。ただ相手は正式な学者ではないように私は思います」
聞きたい事が次々と出てくる。クラウスやエドウィンと同じ黒髪に赤い瞳をした、落ち着いた聖職者……というよりは神学者な雰囲気を纏う男。
「彼は?」
「すみません会話に割って入ってしまって。私は学者のビクトールと申します、エドウィンの従兄弟です」
神学者兼学者といったところだろう、黒髪はかなり長めで生前の艶が見事に残っている。顔に独特の文様が浮いていなければ死者とは到底思えない喋り。
「なるほどな、それで?」
聞き返され、ビクトールは“どうぞ、エドウィン”といった風に手を手を出し腰を僅かに下げる。品の良い一族だとはっきりと解かる。
「遺跡が稼動していることを教父総代に告げましたら、ドローシュ殿は“教父の位をシュタードルに譲り遺跡を停止させよう”と言われました。あの場合、それしか対処方法はなかったですし、私達ではそれ以外思いつきもしませんでした。そして他者からみれば滑稽でしょうが、“教父”の位を譲る際には五十六人の高僧が立ち会わなければなりません。教父総代が一人出向き“譲る”と言っても正式なものとして認められないのです」
「じゃあ教父総代と五十六人の高僧でシュタードルの所に向かったんだ」
と言う事は目の前の別の結界に入っている僧侶の中に教父になった人物がいるらしいのだが、殆どの人が誰がドローシュなのか解からなかった。
『誰だと思う、ヒルダ?』
『えーと格好から判別すると……』
ヒルダとマリアはヒソヒソと、顔色の悪い僧侶達を見比べて誰がドローシュなのか当てようとしていた、余裕だ。
「はい。そうしたところ、制御室に迎え入れられましたが……罠だったようで、制御室の扉が閉まり彼の悪意に満ちた呪詛と共に我々は死者となったのです。ただ、呪詛がどのようなものだったかまでは解かりません」
「そこまで解かれば大丈夫だよ」
「でもシュタードル一人じゃないわよね、五十七人も縄で縛って吊るすなんて」
「我々が出向く前に大教会に何人かのクロティス家の者達が向かったようでして、それにシュタードルが最初に大教会に率いてきた傭兵達もおりました。彼等を操り我々を吊るしていました」
「その時点でシュタードルは何時もと同じだったんだよな?」
「同じと言いますと?」
「多分クロティス家の人々を操ったのは蘇った“死を与えるもの”が体に植えつけた卵が孵化して脳を支配した事によってしていることだけれど、蘇らせてしまったシュタードルとおそらくゼリウスだろうが、この二人は最初“死を与えるもの”が自分の主だと思って従っていたらしい」
「でもシュタードルって人もゼリウスってお爺さんも死んでるんでしょうか?」
まだ彼等の行方は不明。どっちにしても裁判前に殺されるのは確実だ、何せドロテアが主導権を握っているのだから。
**********
ゴールフェンの人たちの涙の会話場に変わった縁から離れた所でヒルダとマリアとカッシーニは会話していた。エドウィンと話さないの? とマリアが聞くと笑いながら人山を指差す。
どうやらエドウィンと話そうと人が集まり山のような状態になってしまった為、今話すのを諦めたようだ。クリシュナは人山に押しつぶされそうになりながら必死に話しかけている……らしい。少女の声が途切れ途切れに聞こえてくるところから。
「でも何で三千人を越える傭兵がギュレネイスに向かったのかしら?」
「その時点ではまだゼリウスは“死を与えるもの”を従えていたのでしょう」
「じゃあ三千人以上もイシリア教国に来て街中を突っ切って大教会? とかいうところに向かってその後卵を植えつけられて此処からギュレネイス皇国に向かったって訳? 三千人は多過ぎないかしら?」
「五百人程度だったと思いますよ、傭兵は」
カッシーニはそう答える、それは事実だろうが実際にギュレネイスには三千人を超す傭兵が確かに来たのだ。
だが、三千人もが城門から入ってきていたら城門の意味がない。大体、街中に入ってこなければ卵を植えつけられる事もない。それ以前に国境を三千人以上の傭兵が通過したのもわからない程、警備していないわけでもない。何せこの国は一応戦争中なのだからギュレネイス皇国も、それ以上に皇国に雇われ現地から直接教国に攻めてくるセンド・バシリア側には警備は厳重なはずだ。賄賂などの可能性もあるが、三千人規模の傭兵を通した……とは到底考えられない。
「なんか良く解からなくなって来たなあ」
今は結界を外す事が仕事なのだから、別にその原因を探る必要はないのだが気になり始めると、相当気になる。
「うわ〜誰か解説してくれないかなあ」
「ドロテアがいないから解からないわね。誰かこの状態を説明してくれないかしら、ねえカッシーニ」
「御願いしますよ、何故エドウィンさん達はゴルトバラガナ邪術で死者になっていて、三千人を越える傭兵が頭に“食い荒らすもの”を植えつけられて、街中は死者だらけそれも普通のアンデッド魔法なのか?」
「ちょっと私には……後でビクトール様に聞いてみます」
カッシーニは直ぐに匙を投げた。別にそれを責めるわけでもなく、ヒルダはまだ結界に覆われている空に向かって大声で叫んだ
「あー! 姉さん! 説明してください!」
手には大粒で味のよい無花果のコンポートのスライスと、ブランデーの大目にはいったオレンジジャムが飾られたパイを握り締めている。
当然土台のパイ生地は高級バターを幾重にも練りこみ、きつね色にこんがりと焼けた一品。途轍もなく、死体の群れの中では不釣合い。
「あ、コッチの方は後でクリシュナに上げてくださいね」
淡いピンク色の紙に持っているのと同じ菓子を四つ程包み、ヒルダはカッシーニに差し出した。
「はあ、ありがとうございます……」
甘い香りが漂う菓子を受け取りながらカッシーニは、何故こんな戦場にもなろうかという場所にこれほど菓子を持ってきているのだろう? と真剣に悩んでいた。
『後でエドウィン様とビクトール様に聞いてみよう……』
そんな事聞かれても二人も困ると思うのだが。
**********
「…………なんかヒルダのヤツが腹減った! って叫んでる声が聞こえる気がする……あんなに菓子持って行ったのにもう食いきったのか?」
そんな叫び声はあげてない、あげてない。
そしてまだ食いきってはいない。
「は……はあ」
一緒にいる人も答えるのに困る呟きだ。
**********
マリアとヒルダとカッシーニから離れた場所で、エルストは煙草を咥えながら木箱を逆さにして椅子にした物に座り、膝に上半身の重みをかけて疲れたような表情を浮かべながらも
「なあ、あと傭兵達に話を聞いてもいいか?」
仕事はしていた。嫌々というか、それなりにというか、でもかなり結界を早く外そう何時になく……そんなどうとでも取れる態度で。
「ああ、聞いてくれ。学者達は今魔鍵を外す為の準備をしている」
「できればクラウスも一緒に」
「ああ、そうしよう」
到着して一日で二キロは痩せたような顔で頷く。
『ヒルダみたいに艶々でも……それにしてもなあ。良くあんなに菓子食べれるよなあ』
ヨイショ……と言って立ち上がったエルストに“年寄りっぽい”とかいう突っ込みもいれず、部下に傭兵を集めるようにとクラウスは命じる。
集められた傭兵達は五十人にも満たないが、それなりに武装はしていた。本人たちは本当にイシリアに攻め入っただけのつもりだったに違いない。
「聞きたいんだけど、答えてくれるか?」
「何ですか! 何でも聞いて下さい! 俺達古代遺跡を稼動させるなんて知らなかったんです!」
凋落の一途を辿っているイシリア教国を滅ぼす一撃になっても恐れるもの復讐程度だが、遺跡を稼動させる手助けをしたとなれば国家で狩られ処刑される事は間違いない。自分の国に戻っても助けてもらえる可能性は皆無、ここで自分達は違うと証明しなくては生き残る術は無い。
本来ならば、証拠を知っているイシリア教徒を皆殺しにして逃げるところなのだろうが、この場は結界で覆われている為にそれができない。そしてそれが幸いして、イリシア教徒とセンド・バシリアの傭兵達は仲良く結界の中に入っていたのだ。絶望的な場合であっても、偶に救われる事がある。不思議な天秤で釣り合いが取られていると言うべきなのだろう。
「落ち着いて落ち着いて。どうやって雇われた?」
「どうやって……いつも通り募集広告があって申し込んで許可が下りればそのまま銀行に行って金を貰って、場所まで連れてこられて……」
皇国が傭兵を雇う手段そのもの、細かく聞きなおしてもおかしな手順はない。クラウスに無言で『どうだ?』と尋ねても『おかしなことは無い』と首を振るだけ。やはり雇ったのは間違いなく「ギュレネイス皇国」の役人だったという事だけだ。だが、絶対に何時もと違う事があるはずだと、エルストは考え、ふと気付いた。
「どうした、エルスト」
目の前にいる傭兵達の規則性に
「いや、ちょっと気になってな。おい、よく思い出してくれ、募集広告に何時もは無いモノは無かったか?」
ギュレネイス皇国を襲った傭兵は徴兵が終わって直ぐ。
「へ?……」
「あ、あの……」
「何でもいいんだ。些細な事がこの場合重要だ」
「珍しく年齢制限がありました。若いの限定でした、珍しいっちゃ珍しいよな気がします」
「確かにそうだったな。普通は……」
他の傭兵達も、そうだそうだと声を上げる。
「雇い主はギュレネイス人だったか?」
「はい、そうでした」
彼らにどうやってこの国に来たのか? と尋ねた所、荷馬車に乗せられてこの近くまで連れて来られたので、どこをどう通ったのか解らない。との答えだった。
だが、案内をしてきたのはどうも自分たちの国の人間ではなかったような気がしたと、断言は出来ないけれど……そう小さく言った若者の声の震えに、恐怖を感じたが慰める言葉をかけるわけでもなくエルストはもう良いよ、とその場から離れた。
再び木箱の椅子に座り、ふ〜と煙草を吸っているエルストにクラウスが声をかける。
「役に立たなかったようだが」
「そうでもない、多分雇ったのはゼリウスだ」
「何故言い切れる?」
「皇国を襲った傭兵もこの場にいる傭兵も全員若い」
「それが?」
「あいつ等はたぶんゼリウスを知らない。警戒したんだと思う、だが警戒しても顔を見せないと皇国で雇うと信用させる事ができない。クラウスは結構苦労してただろ? 傭兵を雇う時」
ゴールフェン人の姿形で傭兵を雇いにいくと、警戒されるのは当然だった。
「最初は苦労したが、傭兵隊長に任命したものが顔を覚てからは……そうだな、全員若い新人と言う事は」
全員”若い新兵”などという募集は普通はない。傭兵を指揮する慣れた人物が必要なのだ、が今回はそれを募集をしたような形跡はない。
「そう、雇い主は顔を覚えられて“いる”事を極端に恐れた。ついでに言えば、それにも関わらず金を払う際にゼリウスが来たって事は、ギュレネイス皇国側の協力者はいないとみて間違いない……」
煙草を缶で作った灰皿に押し付け、伊達眼鏡のフレームの端を見つめながら言葉を切ったエルストに、クラウスはどうした? といった表情で
「何か他にも疑問が?」
「いや、ただ……最初からシュタードル狙いだったのか? と。それ以前にどうやってシュタードルと知り合ったんだろうな。シュタードルは名門だろ? そうそう簡単に会うと思うか。ゼリウスです、と名乗っても信用されないのが普通だとおもうんだけどな」
中々に疑問は尽きない。だが、エルストの疑問は直ぐに氷解した
「……紹介屋だろう」
「紹介屋?」
「紹介屋と名乗っているが、実際は亡命を金で請け負う……と見せかけて、途中で追い剥ぎになるようなヤツラだ。ゼリウスくらい金を持っていれば下手は打たないだろうけれど」
「ふ〜ん。国境警備の隙をつく仕事か」
「隙をつくというか……あんな道では……ヒルの住む沼地なんて誰が警備する……」
「もしかしてそいつ等が手引きしたんじゃないのか。あの傭兵の大群をセンド・バシリアからイシリア、イシリアからギュレネイス。それにしても随分と大掛かりな仕掛けに携わったな、よっぽど懐具合が寂しかったのか、俺みたいだな」
傭兵を荷馬車に乗せて、道を見せない。隠れた道を知られてしまってはこの先仕事にならないから、警戒して運んだに違いない。
「っ! ……あいつらが……」
「どうした? クラウス」
「命令を出してくる」
クラウスの後姿を見ながら、思い当たった
懐具合が寂しいとうのは、仕事にならないから金が取れないという事。金にならないというのは彼らが使っていた国境沿いに警備隊が置かれたから亡命者が減った?
クラウスとの話が終わった警備隊の面々の中から、暇そうだが自分の疑問に答えてくれそうな隊員を見つけ
「なあ、少し良いか」
エルストは声をかけた。
「ああ、じゃなくて、はい」
一応昔の同僚だが、感慨はない。エルストは、ふと思った事を相手に尋ねる
「クラウスが警備隊長になる前後から、亡命者って減ってないか?」
「……そんな気はするような気が……。それが何か?」
「いや、なんでもない」
『なる程な……道理でクラウス、首都に入ってきた傭兵の数が多い事にいち早く気付くわけだ。人の出入りを事細かに管理して、亡命者が何処から潜入したかを洗い出していたんだな……昔、言えばやったのになぁ』
傭兵がクラウスに見つかったのは必然だったらしい。
**********
向うに着けば幸せになれるからと
あれは親が自分に言い聞かせていたに違いない
紹介屋は金を取る
「ここから先の道を知りたければ追加」
それの繰り返し
ギュレネイス皇国に着いた頃には殆ど金を取られて
「まあ、この料金じゃあ最低の道しか教えられないな」
死に物狂いで抜けた先にあった場所も
私は幸せにはならなかったけれどね
紹介屋は首都について人と仕事を斡旋してやるという触れ込みだったが
金が尽きた私達家族はその沼で置いていかれた
親には親なりの考えがあったのだろう
本当に幸せになろうと思っていたに違いない
仕事も何も斡旋してもらえず全財産を奪われた父は
多分そこで変わったんだろう
父が辿り付いた頃はまだゴールフェン人には風当たりが冷たかった
今でも冷たいけれど
冷たいといえば雨か
フェールセンの雨は冷たい
あのヒルで埋まっているような沼地で浴びた雨の冷たさに
帰ろう! と叫びだしたかった
あの時の“帰ろう”は望郷でも苦しさでもなく
よく解からないけれど
私はこの地に来てはいけないような気がしてならなかった
「イシリアの騎士の方々にご協力いただきたいのだが、紹介屋を捕まえて欲しいのです。どうも彼らが国境を破った犯人のようです」
**********
「エルストのモノを考えている仕草って、ドロテアに似てきたわね」
木箱に浅く腰をかけ、煙草を咥えて上を向き、利き手で宙になにやら思索を書き表す姿は、とてもドロテアに似ている。
その姿を視界の隅に納めつつ、マリアは食事を配っていた。ドロテアと同じような考える姿をしているエルストは、煙草の端を噛み殆どその煙に乗った芳香を味わっていないない。警備隊達が結界の中に入っている紹介屋を探している姿を前に、違うことを考えていた。
ギュレネイス皇国で雇った傭兵を、センド・バシリア側からイリシアに入れて、また別の国境線を破る
ギュレネイスの役人は賄賂を要求するが、あんな傭兵団を通すほどではない。三千人を国境警備の目から逃れさせる方法
亡命者と同じ道を通したか
だが、リスクも大きい……操られた? それにしても、センド・バシリアからイシリアにも三千人規模の傭兵を連れて来たのは確かだ
イシリア側からのギュレネイスの国境線で、ヒルが多い沼地?
一般の家族を相手にしていたらしい紹介屋が、イシリアからギュレネイスに向かう抜け道を潰されて
当然ゼリウスも紹介屋の事は知ってただろうな
真面目さが仇となったというべきか
俺の思い過ごしか
……ヒルが多いんじゃなくて、ヒルで埋まっている沼地なら
ギュレネイス特有の深い森と、ありえないような沼
でもあそこは人が通るような場所じゃないだろ
大人の握り拳より大きなヒルが
獲物が無ければヒルがヒルに食いつくような場所
いくら警備が薄くても、ドロテアだって通ろうとは言わないだろう道
焼き払ってしまうだろうな
十歳になるかならないかのクラウスが、そこを通ってきたわけか?
誰かが誰かの首を絞めるんだ
「エルスト義理兄さん! ご飯ですよ!」
「ああ、今行く」
紹介屋は自分達の仕事を潰したのは、その強欲さのせい
それだけは確かだ
煙草で一杯になった灰皿を手に、床に直接座りだされた皿に盛り付けられた料理を見る。
「今日は肉を使ったピラフですよ。中々にお肉が美味しくなりました」
自分の分は一番色の薄いやつだろうな、と手を伸ばす。あたっていたようで“違います”とも言われない。
「何の肉?」
「食べて当ててみてくださいよ。当たったらもれなく大盛りにして上げますから」
手に取った皿は直径がエルストの肘から手の指までの大きさがある丸皿、それに結構な山盛りに見えたのだ、エルストにとっては
「え? コレ大盛りじゃないの? ……か? ヒルダ」
木彫りのスプーンを持ち、わずかに硬直した面持ちでヒルダに問い返す
「違います、違います」
エルスト=ビルトニア。よく金をカジノにおいてくるギャンブラー、取りも直さずそれはよく外れるという証……なのだが
この男、そういえば勇者証も取ってきたことがあったな
生存者の中にいた三人ほどの紹介屋を捕まえ、イリシア側に尋問を依頼して戻ってきたクラウスの目に映ったのは
「どうしたんだ、エルスト」
「なんていうんだろうな……給食が食べれなくて残されている子供の気分」
何がどうしてどうなったのか? といいたくなるようなピラフの山盛り。両側に取っ手が付き、底の浅く口の広い大型の鉄の鍋に山盛りのピラフにスプーンが埋まっている。取っ手を持ったまま、硬直したようなエルストに
「あ、余したのか」
なんとも間抜けな声をかけるクラウスと
「ちょっと……な。全部食べないとある種の恐怖が迫ってくるから……食わないか? というか食ってくれないかクラウス……」
“ちょっと”どころではないピラフを前に言語に支障をきたしたかのようなエルスト。ある種の恐怖というのは、色々あるからいわないでおこう……
「いただこう」
埋まりかかっているスプーンを手に取ったものの、クラウスはその量を前に既に満腹感以上のものを覚えていた。が、可哀想なクラウスは作ったのがヒルダかマリアだとエルストの行動から察知し、機嫌を損ねてはいけないと決意を固めた。その決意を”ふにゃふにゃ”にするかのように
「でも、クラウス。レーズン苦手だったよな、それは今外すよ」
ピラフに手を突っ込んで、レーズンをつまみ口に放り込みはじめるエルスト。
「大丈夫だ……それより量が……」
「ヒルダにとっては食べられない量ではない……そうだ。男二人がかりで片付けられない量でも……成長期じゃないからな、俺達は」
「そ、そうだが……だが残したらランシェ司祭の気分を」
「害したりしないけど、とにかく食いきろう」
男二人が夜の教会の片隅で、片方が鍋一杯のピラフを持ってもう片方が必死にスプーンでそれを口に運ぶ姿は、誰に何の感銘をも与えないのだが、とにかくクラウスは食べた。で、結果
「……苦手なら苦手って正直に言ってくれないかな、クラウス君」
苦手なレーズンを前に、挫折した男。食べた量も量の上に、嫌いな物を食べたせいで顔色は悪い。ここに着いてから顔色が悪いのに、ますます悪くなっていた。
「もう、食べられると思っていたんだ」
この場で指揮官にそんな無理をされても困るんだけどな、とエルストは袖口で口元を押さえているクラウスからスプーンを受け取り、再び食べ始めた。残しては駄目だし、他人は他人で食べ終えていた。それにもしも食べたい人が居たとしても、警備隊隊長の下に来るはずもない。
ヒルダ同様、クラウスも偉い。間違いなくヒルダより偉い。それに、気さくな上司でもないクラウスの元に“そのピラフください!”などといってくるような者はいない。
「……どうだ、故郷の居心地は」
当然、ギュレネイス皇国と停戦中のイシリア教国の人が並んで食事するはずもないし、イシリア側からみれば裏切り者のクラウスには誰も近寄りたがらない。
「良い分けないだろ」
「そーだな。だから俺も足が遠のくんだよな」
『何となくヒルに見える……』
エルストはレーズンを口に多数放り込みながら、そんなことを何時もながら心の中で呟いていた。
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