1.方伯皇子の事情
「どうするのよ!」
「どうしようか。でも断りようがなくて」
北の大国と東の大国の間には多数の小国が存在する。
この≪方伯国≫もその小国の一つ。
起源は古く御子を≪皇子≫と呼ぶのも、その古い起源から来るものである。
卓を囲んでいるのは、方伯国の主である方伯とその一人息子の皇子。そして方伯の甥の県尉。
「断れませんよ。落ち着いて皇子」
「これが黙ってられるわけないでしょう! 県尉」
皇子がいきり立つ理由は、北の大国から持ち込まれた結婚。
北の大国は大国の権力を使い、高圧的に方伯国が承知もしていないのに勝手に縁談をまとめ、近々王女が方伯国に向けて発つことまで強引に決められていた。
北の大国の王女が嫁ぐには小さすぎる国だが、王女は王族の婚期を逃がしているため口を出せない小国の皇子が選ばれた。
「第十王女はもう十九歳なのでしょう? 年下ならまだしも、年上なんて! 誤魔化しようがないじゃない!」
「でも第十王女は皇子と違ってお淑やかで後宮の奥でひっそりと生きてきた方だから、意外と誤魔化せるかも」
「どうせ私はお淑やかじゃないわよ!」
「姫として育てても変わらなかっただろうな」
方伯は従兄と言い争っている皇子を眺めながら呟いた。
方伯のたった一人の子は皇子としているが、実際は女。
性別を偽って育てていた。その理由は方伯が若い頃に恋に落ちたことから始まる。方伯は若い頃、城下で踊り子を見初めて妾にした。彼女の優しさに魅せられ、子を身篭ったことから妃にしたいと父に申し出た。
父は踊り子を妃にすることに当然ながら難色を示す。
当時方伯は位を妹の子に継がせれば良いとまで申し出て、踊り子以外の妃は迎えないと言い張った。
そこに呼ばれても居ないのに現れたのが方伯の妹。自分と夫と生まれたばかりの息子とで、立派に方伯国を継ぐと語りだした娘に、父は国を継ぐ能力はないと判断を下すし、踊り子が生んだ子が男児だった場合は正式な妃として向かえてよいと譲歩した。
父から最大限の譲歩を貰った方伯は、男児が生まれてくることを願ったが、生まれてきたのは女児。
踊り子は『この子は私にください。貴方様は立派なお妃をもらってください』そう言って身を引こうとし、方伯は位を捨てて駆け落ちすると言い張る。
困った踊り子は方伯の父に女児ですので国から出てゆきますと挨拶に向かうと、その女児を男児として育てろと命令され、国に残ることが許された。
踊り子の産んだ皇子が姫であることを知っているのは、既に鬼籍に入った前方伯と、方伯と踊り子であった妃、そして妹の息子である県尉と、県尉の父親の県令のみ。
皇子を含めた五人で、どの時期に皇子を姫とするかを話し合っていた時、振って湧いたのが北の大国の王女との婚姻。
県令は北の大国の使者と話し合あっているが、小国の意見など全く聞き入れられず。
「こうなったら、県尉を皇子とするしかないだろうな。覚悟してくれるか? 県尉」
「はあ。それしか方法はなさそうですね」
それ以上の策はないと諦めた空気に包まれた。
一定の方向性が定まったことで、城は花嫁を受け入れる準備に入る。その花嫁である北の王女を出迎える為に、県令が向かうことになった。
陸路で方伯国に向かっている王女と、他の国で対面することに決まっていた。
その一行に、
「本来なら私の妃となる方だったのだから」
皇子も入る。
相手が女性なのだから女性の護衛がいた方が何かと良かろう、何よりも止めて聞くような子ではないしと方伯は許可を出した。
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