君が消えた六月三十一日
前書き
[01]登場人物(随時更新)が文字化けしてしまいました。原因不明で書き直しも削除もできないのでそのままになりますが、あまり気にしないでください。
[24]水没都市【2】(一話目の文字化けについて)
寮は一瞬にして海水らしきものに満たされた――
唯一の例外は私の部屋。鯖缶が積まれていたので、サバチーが本気を出して鯖缶を守った”おまけ”で被害を免れた。
荷物を部屋に投げ捨てるようにして置き、財布を持って病院へ。
到着すると手術は無事に終わり、アリは集中治療室にいました。
病院にいたのは柳生だけかと思ったら、いまは聞けば誰もが知っている組織で頑張っているアンディと、この騒ぎの張本人でもあるカールハインツまでもがいました。
病院だというのにも関わらず、この三人は大騒ぎをしていて、警備がやってくるような状態。
「なにしてるんだ……」
私は激高しているアンディとカールハインツの間に割って入って、殴られて気を失うハメに。
気がついたらベッドの上。外国の病院内、それも公衆の面前での出来事でしたので、脳のMRIも撮影されたよ。料金はもちろん殴ったカールハインツ持ちでな。
入院は二日だったが、どこか悪いわけでも……殴られた頭は瘤ができて、非常に痛かったが、脳にはなんら損傷はなく、移動も制限されていなかったので、集中治療室から出たばかりのアリの枕元で、私とアリを心配し付き添っていてくれた柳生に事情を聞いた。
柳生が知っていることは――
アリと寮で話をしていた。
アリの携帯にナターリアからメールが届いた。内容は”助けて”
何処にいるのか? メールを返したが最早届かなかった
二人は寮へと急いだ
女子寮が不浄な水で覆われていた
女子寮内にカールハインツと、彼の仲間というか、幇間というか、そんなやつらが居るのが見えた
アリ不浄な水に飛び込んでいった
柳生は入れなかった(体力の問題だと思われる)
二時間後、包んでいた水が消え、殴る蹴るされ瀕死のアリを柳生が発見
女子寮内にいたカールハインツたち、事情を聞かれるも”気付いたら”で逃れる
救急車に乗せられたアリが、柳生に言った”カールハインツたちがナターリアを殺した”と
柳生、付き添う
事故後、アンディが寮内の生徒を捜した
ナターリアだけ見つからなかった
アンディ、アリが事情を知っているのではないかと考えて病院へ
アリに止めを刺しにきたのかどうかは不明だが、事情を聞かれ解放されたカールハインツたちも聖マリア病院へ
柳生からナターリア失踪について聞かされていたアンディ、カールハインツに事情を聞くがはぐらかされる
そこに颯爽と現れ、速攻で殴られ意識を失ったのが私
「ナターリアが……」
冴えない東洋人二人、残念すぎる顔でナターリアの無事を祈ったものの、意識を取り戻し話が出来る状態となったアリから、ナターリアは死んだと聞かされ、残った荷物も実家に送り返されてしまい――
「アリ」
退院前にアリは大学を辞めた。
「Fか」
「大学辞めたんだって」
「ああ」
カールハインツたちは証拠不十分でお咎めなし。弁護士たちも活躍してくださったようで……ちっ! 弁護士め!
「なにをするのか分からないけど、これ使って」
小切手化した死んだ教授の保険金を、私はアリに渡した。
アリは要らないといったのだが、何をするにしても金は必要だろうと……いや、私にとっても必要ですが、
「被検体で稼げるし」
マッドサイエンティストさえ居れば、なんとかなるので。それに私、学費とか無料なので。
「……感謝する。気をつけてな」
アリは退院後、携帯も解約してしまい消息を絶ちました。
カールハインツたちは尻尾を巻いて逃げたアリと、仲間内で笑いものにして……で、アリがここを読んでいるとは思わないが、その後カールハインツは”こう”なった。
カールハインツがナターリアを殺したのは<旧支配者>に生贄として捧げ、失われた都市への地図を手に入れようとしたため。
実際手に入った……ってことは、ナターリアは死んでしまったということなのだが、そこは触れないでおこう。
意気揚々と今まで知られていなかった都市についての詳細を発表したカールハインツ。元より知られている、無名都市(知られているのに無名とはこれいかに?)や滅亡都市イヴではなく、新たに発見された都市の調査に向かうと急遽予定が変更された。
この都市<水没都市>という
カールハインツは自分が見つけたのだから、当然自分も調査に向かえると思っていたらしいのだが、人気がないってか、自分が助かるためなら他人を見殺しにすること確実ってか、嫌われ者っていうか、
「そしてF」
様々な要因で選ばれなかった。
ほとんどは元々滅亡都市への調査に向かう面子で構成されており、追加されたのが何故か私。
自分が選ばれると思っていたのに選ばれなかったカールハインツの顔といったら、
「ざまああ!」(font size="+5"って感じ)
思わず声を上げてしまった。普段は大人しく控え目な日本人である私ですが、このときばかりは、
「ざまああああ! ねえねえ、どんな気持ち! 俺は最高の気分。まさヘヴン! 失楽園好きな私だが、今だけは楽園を支持するね! 意味わかんねーけど」(font size="+10"な感じ)
大声ではっきりと。響き渡る声と隠しきれない蔑み。そして容赦しない侮辱の表情、及び屑を見下す指の動き。人間ってこんなにも歪んだ喜びが沸き上がってくるとは……まさに人間なんでしょうね。
厳つい顔を怒りに歪め、肩を震わせるカールハインツの前で日本語で。
「天網恢々てってヤツ! ドイツ語でなんていうの? 知らない? 知らない?」
ブルース・リーが胸を切られた血を指先で拭い、舐めてから”かかってこい”するみたいにして ―― やり過ぎたとは思いませんが。
プライドが高いカールハインツはこの屈辱に耐えられず、私にも屈辱を与えようとしたらしい。だからどうして男が考える屈辱は性的暴行なのだと。それはむしろ、男性が男性に対して与える屈辱であってだなあ……
「F、二宮先生が呼んでるよ」
「なんだろう?」
バカにしたあとは、カールハインツを完全無視していた私が、そのこと知ったのは全てが鯖缶になってからのこと。
医務室に行くと、奥の部屋にある施術室のパネルが光って ―― 医務室に手術室がくっついている不思議な造り、それが二宮医師の城 ―― なんか非合法な手術してんだろうなーと思いながら、施術室の扉を開いたわけですよ。
内臓は取り立てて好きではないが、見ても平気なので。
「きたか」
手術衣を着用していない、いつも通りの白衣姿の二宮医師と、ここはかつて貴方が所属していた例の病院ですか? と聞きたくなるような状況の施術室。
床に転がされている男たちは皆腹を裂かれたまま痛みに呻き、手術台に乗っているのはカールハインツ。
そして散らばる空の鯖缶。血と体液まみれなのが不思議です。ごみの分別が面倒で、部屋の片隅に積み上げていた鯖缶にすっごく似ているのですが……ああ、本当に不思議。
「事情聴取しながら手術してやったんだ」
「はあ」
「お前のことを襲うつもりだったと白状した」
「へえー」
「襲うと待ち伏せていたら突如腹部に激痛が走り、動けなくなった」
「ほー」
「レントゲンを撮影したら、胃袋に異物が」
「ふーん」
「取り出したら、空の鯖缶が山ほど」
「腹減ってたんですかね」
「どうだか」
のたうち回る彼らが医務室に運ばれ、原因を探った二宮医師が、レントゲン写真を見て「鯖缶」の文字に気付いた。それで、何をしようとしていたのかを聞くために、
「麻酔無しで手術ですか?」
「少しはかけている。死なない程度、だが痛みは感じる」
「昔研究してた?」
「その通り。最近のデータも欲しかったからな」
「十年前にもやったって言ってませんでしたか?」
悪魔の麻酔で彼らから情報を引き出した。別に裁判所に提出する証言ではないので、
「十年一昔というだろう」
命と引き替えに自白させるのは問題ないだろう。いや、本当は問題だらけだが、そこは……。考えるな!
「まあねえ」
”正直に言わないと縫ってやらんぞ”と脅して全部を聞き出したのだそうだ。
いつも”弁護士、弁護士、べんごし、弁護士”言うやつらだが、さすがに胃を開かれて、内臓はみ出したままの状態で「弁護士呼べ」とは言わなかった。
「こいつら、どうする?」
「どうするって? 警察に突き出すとか、そういう話ですか?」
「いや。これはもう世間的には死んだことになってるから、俺が実験体として貰うことになった」
アリが外部の病院に運ばれたのは、二宮医師の優しさである。この医務室に運ばれた者は九割くらいはそのまま ―― 死んでもいないのに、死んだとされてしまうのだ。
「私に復讐していいよということですか」
「そうだな」
「ところで、胃袋に空の鯖缶がみちみちになってる原因について、私に聞きたいとは思わないのですか?」
どう考えてもサバチーの仕業です。
食べるのはいいけど、ゴミ捨て面倒だなあ……呟いていたのを覚えていたらしく、ごみにごみをぶつけたらしい。でもね、サバチー。空き缶は再利用できるからごみじゃないんだよ。
「人間には不可能なことについては、深く追求しないことにしている」
「伊達に長生きしているわけじゃないんですね……じゃあ、ちょっとだけ痛い目を見て貰いますよ。私自身、直接なにかをされたわけではないので。協力してもらえます?」
「いいぞ」
「それでは、全員の腹部をゆる〜く縫合してくれます? 笑ったり騒いだりしたらかぱっと開いちゃうように。その後のことは、材料を持って来たら頼みますので」
二宮医師に適当縫合を依頼して、私は部屋へと戻り、アリやナターリア、柳生たちと騒ぎながら食べようと思っていたシュールストレミングを。
発酵が進み感がヤバイことになっている。発酵人間ばりにやべえことに(発酵人間・SF小説で奇書として有名)いや、発酵人間全然関係ないが。
シュールストレミングで復讐と言えば、誰もがどのようなことをするのか分かるだろう。そう、密室に閉じ込めて缶を開けるのだ!
日本国内では缶を開ける所で苦心するが、ここはアメリカ! それもミスカトニック!それに関しては問題はない!
私は必要なものを買いに購買へと走り、そして実験用の気密性に優れた部屋を借りた。
腹を縫われたカールハインツはシュールストレミング缶を見て顔を引きつらせたが、ふふ……ただ缶を開けるだけではない。
今、復讐の幕があがる!
そんな大したことはないんだけどね。
先ずはカールハインツの腕を拘束します。ロープとか使うの苦手なんで、両肘から手首までをホチキスでガンガン止めて、肘から上は胸と縫い合わせて拘束帯代わりに。肉を直接縫い合わせるだけの簡単な拘束です。
コピー本作ってたんで、ホチキスさばきには自信があるんです!
それで外国人の必需品である靴を履かせました。ただしスケート靴(購買で購入可能)
靴紐をぎっちりと締めて、右の靴の紐と左の靴の紐を交互に固結びにして、速乾性ボンドで固定。持参した日本人の心意気、畳み針でスケート靴とズボン(と、すね毛もっさりの足)を縫い合わせて、最後にズボンと腰をホチキスでばっちばっちにとめて、カールハインツの準備は完了!
購買で購入した小さな缶を開けるくらいしか威力のない時限爆弾(世界には不器用が過ぎて、缶を爆弾で開けるヤツもいるのだよ)をシュールストレミングに巻き付けてセット。部屋から出て、爆発を待つのみ。
アメリカでシュールストレミング復讐は、銃で缶に傷をつけることが出来るので割と簡単。
「軍にもお前みたいなのはいなかった」
缶が爆破、逃れようとするも靴がスケート靴なので上手く動けず、腹部の縫い合わせた部分から血と腹圧でぶわしゃあああ! べちゃぐっちゃああ ―― これ以上は、年齢制限に引っ掛かるの割愛ですが、
「そりゃあ、私は良心に満ち溢れた優しい市民ですから、人体実験好きたちとは違いますよ」
死ななかったからいいよね!
おめーら、アリのこと集団で殴る蹴るして、片目を失明の上に右手動かなくしたんだから。それに比べたら、失明させなかった私は優しいと思うのですよ。ホチキスでいろんなところ、とめたけど。ちなみに他のやつらにシュールストレミングぶちまけた部屋を片付けさるだけで許してやりましたよ。強制的に二人三脚(ホチキス留め)したけど、優しいよね!
ちなみに私が持ってるホチキス、三百枚とめられます。
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