君が消えた六月三十一日

前書き

水瀬リュリュさんが書いていた小説を発見したので。
無断転載ですが、情報が欲しいので、あえてさせてもらう。
あの謎を知りたいので、水瀬さんから連絡が欲しいのですよ。
(本人かどうかを確認するために、核心部分等は掲載しません。ご了承ください)

[20]月の柩 水瀬リュリュ・作

A(本当は名前がありますが、ここは仮名で)は夏休みを持て余していた。
それというのもAは事情があり、夏休みの間、父の田舎で過ごさなくてはならない。
両親は用事があり同行することはなく、Aは一人で祖父母の元に預けられた。
Aが子供のころから老人であった祖父母。
久しぶりの再会に祖父母は喜んでくれた。
「大きくなったねA」
Aが物心ついた時から老人であった祖父母。
「おじいちゃんもおばあちゃんも変わらないね」
Aにとっては二人の姿が変わったことはわからなかった。

近所にはコンビニもなく、あるのは色が禿げた看板を掲げている雑貨店だけ。

かつて炭坑の村として栄えた村。
この村の子供たちが通っていた小学校は十年以上前に閉校になっている。
平屋建ての木造校舎。
村の中心近くでありながらひっそりと佇む。

廃墟としてネットの何処かにアップされるくらいしか使い道は残っていない。
肝試しに使われるには少々道が複雑で、外灯もないに等しいので、外部の人が夜間に辿り着くこともない。

Aは夏の陽射しの元、元気に遊ぶような性格ではない。
暑い最中、出歩くのは馬鹿のすることだと思っている。
そんな彼だが、昼過ぎに外へと出た。
暇すぎたのだ。
出かけるときに祖母に言われたとおり帽子を被り、雲一つない青空にうんざりしながらも。
廃坑には近付かないように注意されている。
Aは好奇心旺盛ではないので、近寄らなかった。
娯楽施設すらない、よく表現すると自然豊かな村。
Aは高台へと登り、村を一望した。
「小さい村だな」
痛んだ屋根が目立つ家が点在している。
道を歩いている人も見えない。
汗が噴き出す。
どうして僕はこんな所にいるんだろう?
Aは怒りのような哀しみを覚えた。
陽射しを避けるかのように手で顔をおおいかくす。
聞こえていた蝉の鳴き声が止み、Aは顔を上げた。

目に飛び込んできたのは一際おおきな建物、廃校になった小学校――

Aは高台から降り、小学校を目指した。
途中ですれ違う人もいない。
小学校の正門は鍵がかかっていた。
「とうぜんだね」
入れるところはないかと捜すと、校舎裏側の窓の鍵が開いていた。
木枠の古びた窓から校舎へ潜り込む。
実際よりも長く感じられる廊下。
校舎内は風の通りがあまりよくないのに、涼しく感じられた。

教室内を見て回ったが、面白いものは見つからなかった。
図書室は本が残されていた。
これは意外だった。どこかに寄贈しなかったのだろうか?
埃を被り背表紙は色褪せている。一冊手にとって本を開く。
校舎に似合う古書の匂い。
窓を開いて風を通して、二冊ほど本を選び、校庭が見える窓側の席に陣取る。

「・・・・ん?」

Aは誰かに見つめられているような気がした。
視線を感じたところを見るけれども、室内にはAしかいない。
Aは幽霊を信じたりする性格ではなく、幽霊が現れても驚かないタイプ。
「初めまして」
「誰だ?」
Aはとつぜん声をかけられた。
いままで誰もいなかったし、図書室に入ってきた気配もなかった。
「私は山下 月茂(やました つきしげ)と言います」
「僕はAだ」
「初めましてAくん」
Aは注意深く月茂を見ます。
彼・・・・月茂は男性でした。黒いズボンに白い半袖シャツ。学生服を着ていたのです。
でもデザインがあまりにも古いような感じがしました。
「近くの高校生?」
「ちがいます。私は100年前にこの学校を卒業した生徒です」
「・・・・僕はからかわれるのは嫌いだ」
「本当ですよAくん。私は幽霊です」
廃校舎とはia(”いえ”の誤字だろうが、そのまま)夏の陽射しが眩しい昼過ぎに幽霊と言われて、誰が信じるでしょうか。
「僕は信じていない。信じて欲しいのなら、よそを当たってくれ」
「Aくんのような人がくるのを待っていました」
月茂はAについてくるよう手招きをします。
「どこへ?」
「職員室まで」
月茂は図書室の入り口をすり抜けました。
ドア上部についている磨りガラスの向こう側に人影らしいものが。
でもAは月茂が幽霊だと考えませんでした。
手の込んだいたずらかも知れないと考えたのです。

手書きの職員室プレートが掲げられた部屋のドアを開ける。
「こっちです、Aくん」
月茂に手招きされAは置き去りにされた空間を横切った。
「このアルバムに載っています。見てください」
卒業アルバムが並べられている棚でした。
Aはアルバムを開きます。
いまとは違い、写真の少ない卒業アルバムでした。
全体写真の児童数にAは驚きました。
「私です」
月茂が指さした少年は、写りは悪いものの、
「似ているな」
いまここにいる月茂を少し幼くしたような感じでした。
「信じていただけましたか?」
「いいや。子孫かもしれないだろう」
「疑い深いところも、ますます好みです」

そう言って月茂はAにあることを教えました。

Aは帰宅し、夕食のときに月茂から言われたとおり、祖父母に小学校卒業アルバムがあるかどうかを尋ねました。
祖父母はあると言い、
「見たいんだけど」
「いいぞ」
Aの願いを叶えてくれました。

Aくんのお爺さんのお名前はBですね。その表情、正解でしたね。ではBくんにこのように尋ねてください

月茂は100年前に小学校を卒業しているのですからAの祖父よりも年上です。
「この人は?」
関係のない人に関して数名尋ねてから、問題の人物について聞きます。
「この小学校で一番頭良かったの誰?」
私の名前が出るはずです。月茂はAに言いました。
随分と自信満々だなとAは思いました。
名前が出なかったら笑ってやろうとも思いました。
ですが祖父は月茂の名前を言いました。
月茂の一族はすでに絶えてしまっていますが、月茂はこの村では有名でした。
とても頭が良くて、海軍の学校を出た人だったそうです。

Aは月茂の姿を思い出しました。
ひょろひょろで、あまり海軍将校のような感じはしませんでした。

翌日Aは月茂に会うために小学校へと向かいました。
月茂は正門でAを待っていました。
今日も陽射しは眩しく。Aには月茂が南方で戦死した幽霊とはとても思えません。
「おまえが幽霊だとして、僕になにをさせたいんだ? 墓参りでもしろというのか?」
「違います」

月茂はAに一緒に謎を解いて欲しいと言いました。

月茂がここに残っているのは、どうしても解けない謎のせいでした。
尋常高等小学校時代、同級生だった少女が月茂をこの図書室に呼び出し、ある謎かけをしました。
月茂は少女よりも賢かったのですが、一晩かけても謎は解けませんでした。
翌日、寝不足のまま登校すると、少女はもういませんでした。
「転校したのか?」
「転校といえるのかどうか」
「昔だから売られたりした?」
「Aくん、らい病って知ってます?」
「ハンセン病のことだろう。知っているよ」
「はい」
「その人・・・・だったの?」
「そうです。彼女の家族も夜逃げするようにこの村から去りました」
「その人の行方を捜せってこと?」
「いいえ。彼女の行方には興味ありません」
「冷たい男だな」
「そうですね。彼女にもia(言われ、の誤字と思われる)ました。でも私が興味を持っているのは、彼女が残した謎だけです」

月茂はその後、海軍将校となり第二次世界大戦で戦死してしまいました。

「死ぬことに恐怖はありませんでしたが、彼女が残した謎が心残りで」
「その思いが強くて、ここに?」
「そうです」
「僕は遺骨を捜しにいったりしなくていいんだね?」
「はい。そこは優秀な部下が遺骨を持ち帰ってくれたので」
「そう。で、その謎ってなに?」

月茂はAに少女が残した謎を教えました。それは・・・・

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 謎も手元にあるのですが、回答部分がないので、読んだ方まで「教えろ!」となると悪いと考えて割愛しました。
 この先ですが、
・ 少女が残した謎はこの校舎が関係していることまでは生前につかんでいた
・ Aは怪我をして続けていたスポーツができなくなったことで落ち込み、それから離れるために祖父母の家へ
・ 海軍時代のお話、ちらほら
・ 月茂が海軍に入った理由は少女に会いたかったから。会えないまでも捜すことくらいできるのではと考えて
・ やっぱり会いたいんじゃないの? とA
・ 謎を解く鍵を求めて、少女の実家があった場所へとゆく
・ 更地で草ぼうぼう。隠れるように古井戸
・ 古井戸は浅く、水はない。横に入れる場所がある
・ Aが降りてゆく
・ その先で……

 実際はっきりと解るのは、月茂が少女がいる療養所を捜そうとしたところまで。それ以降は文章が「あふゅわ あたら わたひふら めどいどるう せこて せこて」状態になってくる。途中途中で分かるところから推察すると、井戸の底の先になにかが――なのだが、分かるのはそこまで。
 それとこの話は、ある物語をベースにしていると水瀬さんから聞いたことがあるんですよ。
 ローカルな昔話みたいなものを。その物語に心当たりがあって、謎が解けそうな人がいたらご一報のほど、よろしくお願いします。
 本当に気になるんですよ。少女が残した謎とこの物語の結末が。