Alternative【05】
響はお父さんのお兄さん夫婦の一人息子で、響が八歳の時に事故で亡くなった。それで我が家で引き取ったんだ。
最初はさ、落ち込んでるなんて言葉なんかじゃ足りないくらい沈んでた。
浮上する切欠になるような事件もなかった。本当に時間が響を癒してくれて、ある日家族全員でテレビを見ていて、事故の後遺症から立ち直った人生の再現ドラマが終わってCMに変わった時 ―― こんな劇的なことがなくても立ち直れてた俺って、幸せだったんだな ―― って独り言を呟いた。
それを聞いて……やっぱり誰も騒ぎはしなかった。泣きそうにはなったけれども、欠伸をして誤魔化した。お父さんは黙ってて、お母さんはお茶とお菓子を持ってきてくれた。いつもは頼んでも”自分で持ってきなさい”っていうのに。
「俺の職業は覚えてるよな」
響は自分で立ち直ったんだと、私は今でも思ってる。手助けなんて……できたとは思えない。
「警察でしょう」
勉強ができた響は公務員試験に合格して、警察官になった。ドラマなんかだと、現場を知らない足手まといで会議室にいるような警察官側なんだって言ってた。
「警察ってなにか分かるか? アイェダン王」
「犯罪者を捕まえる方だと聞きました」
響はそういう人じゃないらしいよ、アイェダン。私も説明できないけれどさ。
「その通り、アイェダン王。それで王に聞くが、異世界召喚してはいけない人がどんなものか、知っているか?」
「知っています。未成年者、犯罪者、扶養家族がいる者、疾患のある者です」
「俺の仕事は異世界の違法召喚を取り締まることだ」
治安維持って叫んでたもんね。かなり恥ずかしい役職名で。
「漠然としてて解らないんだけど」
「例え話だが、未成年者が忽然と消えたらどうなると思う?」
「そりゃあ……誘拐だと思うよ。それも変質者絡みの」
昔は未成年者誘拐=金銭目的というイメージだったんだけど、最近は未成年者誘拐=変態としか思い浮かばない。金銭が目的なら会社から取るのが最近の誘拐だね。個人なんて限度額が知れてるし。
「誘拐事件は発生から数日経過してから公表するだろ? その間に異世界召喚してないかも調べている」
「日本に召喚することを報告してるんだから、データベースとかで簡単に調べられるんじゃないの?」
「本人は納得していなくても正式な召喚なら照会して分かるが、俺が言っているのは正式な召喚じゃないほうだ」
「駄目なんでしょう?」
違法呼び出ししたら、酷い目に遭うってアイェダンが言ってたけれども。
「違反でもやるヤツは腐るほどいる」
「そうだよね。ついでと言ったらなんだけど、私みたいな記憶があって、召喚されることを知ってた人じゃないけれど、正式な召喚された人はどうなるの?」
「家出人扱い。成人年齢に達しないと召喚はできないようになっているのは、この絡み。家族は必死に捜してくださいと懇願してくるが、大体簡単に異世界で婚姻やら、性交渉して戻ってこられなくなって終わりだな。ちなみに同意のない性交渉、所謂強姦でも帰還できない」
うわあ……ひでぇ。
理由も分からず召喚された上に、むりやりでそれって最悪だ。
「物語みたいに、若くて召喚される人はいないんだ」
でも召喚って二十歳前の若い子だよね。
「大勢いる。それを見つけ出すのが俺の仕事だ。異世界の王さま、若いの好き過ぎ。自国の領民に涎垂らして後宮に入れて妃を選べってんだよ。それなら俺たちも文句言わないからさ」
口が悪い響きだけれども、それを差し引いても怒ってるなあ。
よっぽど数が多いんだろう。
「その場合、王さまは罰せられるの? それとも治外法権でお咎め無し?」
「未成年者を違法に召喚するような下劣な相手だ、法治国家の代表として全力を持ってお相手する」
そう言って拳銃を取り出した。
「警察ってそういう組織じゃないでしょ。拳銃所持してていいの?」
「犯罪者に甘い顔するわけにはいかないだろ。法律そのものは、異世界の王も同意してる。同意させたと言ったほうが正しいが、こっちにも事情がある。ちなみに不法召喚で相手の意思を無視して婚姻を結んだ場合は、問答無用で殺す。殺害しないと婚姻関係を解除できないからだ。異世界人同士の結婚は、そこまでしないと”縁”が切れない」
モンフェスト将軍と麻衣さんは、正式召喚で結ばれた仲だけれども、むりやりは協定みたいなのに抵触する恐れがあるんだ。
「犯罪者が召喚されても困る。殺人犯が見つからないと思ったら異世界にいたりとか本当に困るだろ?」
「それは困るね」
犯人が見つからないことで叩かれるのは警察だもんね。
「幼子を抱えた母親が召喚されて自分では食事もできない幼児が寒い部屋に取り残されたりとか。疾患のある者は本人が治療を受けられないで死亡することもある。結核を患ったまま召喚されて異世界に結核菌をばらまいて国が全滅というのも過去にはあった。逆にそれが目的で召喚されることもある。召喚生物兵器は使用してはならないと定められているので、急いで回収しにくる」
召喚って本当に何の為にあるんだろう?
私の記憶が失われていることが悔やまれる……でも記憶が戻っても、立派な理由じゃなさそうな気がするのは何故だろう。
「大変なんだ」
「本当に。俺は普通の警察官になるつもりだったんだが、両親のこととお前のことでこの仕事に抜擢された」
「私と伯父さんたち?」
「俺が選ばれた理由は”両親が異世界召喚事故で死亡したこと”と”親戚が正式異世界召喚待機者”だった。二つが決め手だってさ」
「……あ、なんか……ごめん……」
私が謝ってどうなるわけでもないけれど、謝りたくなった。
そうだよね、普通の警察官になろうとして試験受けて合格したのに、いざ仕事をしようとしたら、拳銃持って異世界の王にぶっ放してるとか……撃ったとは聞いてないけれど、響の性格ならためらわずに撃ってるだろう。
「それは良いんだ。知らなかっただけでやり甲斐はある。なにより両親の本当の死亡原因を知ることもできたしな」
「伯父さんたちの事故の原因って?」
「んー。たまに俺たちがいる世界に来ちゃいけないものが、間違って来ちゃったりするんだとさ。島国限定なのはそのせいな。それで、両親は異世界の化け物に運悪く遭遇して死亡した。酷い事故で棺は開かないようにされてたから、覚悟は出来てたけれども、書類に添付されてた写真みたら本当に惨状だったな。異世界召喚するやつはまだ許すが、失敗するやつは死ねと本気で思うな」
「そっか……」
モンターグとエニーの命が危ないような気がするけど、迂闊なことも言えないなあ。
二人のことは知らないけれど、響がどれほど落ち込んでいたか知っているし、誠一伯父さんや美由紀伯母さんの家に遊びに行って縁側で食べたかき氷のことを思い出すと……正直泣けてくる。
私ですらそうなんだから、響はもっと複雑だろうなあ。
「晶のことは教えておかないと職務に支障をきたす可能性があるから、配属後すぐに教えられた。それで俺が事情を知っていることを説明して、晶が重い口を開いたってわけだ。とにかく、叔父さんと叔母さんのことは任せておけよ。この台詞、半年前にも言ったけどな」
「……」
”響に任せた!”そう言えないのは、記憶を失ってしまったから、帰りたいと思う気持ちがあるから。記憶が戻るのかどうかは分からないけれども……いまのうちに色々と聞いておこう。
「響に聞きたいことあるんだけど、いい?」
「召喚に関してか?」
「そう」
「なんでも聞けよ」
響は座り直して”かかって来い”とでも言うかのように指を動かす。
「あのね召喚ってどうしてこんなにお金がかかるの?」
「……」
響の表情が”あ゛?”ってなった。この表情した響は……あまり触りたくない。
怒らせると恐いんんだよ、響。普通にしててもかなり恐いけどさ。
「守秘義務とかやらにひっかかるなら、全然いらないよ」
「そんなものに抵触はしないが……まあ、割り引いて聞けよ」
「なにを割り引くの?」
「適当に。俺たちの言い分は、あくまでも俺たちの言い分だからな」
「そういうこと」
「異世界召喚に金がかかるのは、色々な理由がある。システム面については後で説明するが、一番は見返りがないことだな」
「見返り?」
「そうだ。異世界召喚に引っ掛かるのは、一定の知識を持った若者ってことだ。日本は異世界のために人を育ててるわけじゃない。異世界召喚と言えば聞こえは良いが、ただの搾取だ。表現で言えば援交と売春程度の違いだ。自分の世界の人間を育てることを放棄して、違う世界から育った人間を攫う、最低な行為と俺たちは見ている。そもそも日本は資源がないんだから人間を育てるしかないのに、育ってやっと使い物になりそうになった人間を、無料で持っていかれたらどれ程の損失だと思う?」
「厳しいね。でもさ、日本人じゃないと駄目なんでしょ?」
「まあな。だがそれは正式召喚だけのことだ。違法召喚まで日本人攫って行く必要はないだろう」
「……どういう意味?」
「王が異世界の娘が欲しくて、違法召喚するときすら日本人だ。これがさ、アフリカあたりで内戦によって故国を追われ難民キャンプで暮らしている少女とかだったら、俺も、いや俺たち所員全員目を瞑るわけよ。苦しい生活から解放されて、王妃さまとして大切に扱われて幸せに暮らしていけるなら、俺たちだって内戦収まらない国にむりやり連れ帰りはしないさ。だが異世界の王ってのは、妃は欲しいが教育するのは嫌らしい。異世界の知識をある程度持った女を好む。難民キャンプでろくに勉強もできなかった娘や、ゲリラに誘拐されて暴行され、カラシニコフを持たされて人殺しを強制されたような娘はお好みじゃないようだ。外山センセイに笑われるような受験戦争に巻き込まれた高校生や、人生に疲れたくらいの会社員や、明るくて人を傷つけたことなんてない娘さんが欲しいそうで。こちらの不幸はこちらで、我々は幸せだけを享受するって方針でいやがる」
よっぽど鬱憤溜まってるんだな……
「人間はこっちの資源なんだよ資源。それも税金を使って育てた資源。それを横取りされるわけにはいかない。持って行くってなら、適正価格で買い取ってもらう」
「適正価格って幾らなの?」
「人によって違うが、最低でも一億五千万円」
「……私も?」
「お前はもっと高額だよ、晶。転生分も上乗せされるから、二億八千万円だ。ちなみに消費税はかからない」
人間一人は地球と引き替えとか……そのくらい大きければ漠然としていて気になりはしないけれど、この具体的な金額出されると辛い。
「私にそんな価値はないと」
自殺した前世の私の生活費は単純計算で一億四千万円か。
「晶その物の”価値”じゃない。晶にかかった金と、幾ばくかの未来を推定しての金額だ。ところで晶、人間一人が成長するまで、どれくらいの税金が使用されているとおもう?」
「考えたことないなあ」
「妊娠する。母子手帳配られる、この母子手帳はもちろん税金。無料妊婦検診に出産一時金、これも税金。乳幼児の予防接種、これも税金。自治体によっては子どもの医療費無料、これも税金。小学校から中学校って言ったら、そりゃもう税金使いまくり。市営や県営の建物を使ってたら、使用料は払ってるだろうけれどもそれは維持費で、建築費にはなってない。建築費は税金。歩いていた道だって上下水道だって全部税金。詳細喋るの面倒なくらいに税金。晶の両親は支払っているが、晶自身は支払ってないよな」
「申し訳ない気分になってくる」
公務員叩きとか見てて気持ちいいものじゃないけれど、心のどこかで同意してた……けど、それどころじゃない!
「晶自身にご両親がかけてくれたお金ってのも考える必要がある。最初から”異世界に戻るので、お金かけないでください!”って言うわけにもいかないだろ? 食費かかるし、おもちゃだって買ってもらうし、習い事だってするし。だから子ども一人が成人するまでに掛かる金ってのは一千五百万円から二千万円。これはあくまで普通ラインだ」
「普通……」
「晶は高校、大学って私立だっただろ? だから総額三千万円越えてる」
「……」
お父さん、お母さん、何不自由なく育ててくれて本当にありがとう。
もちろん子どもの頃は、欲しい物買ってもらえなかったり、お金持ちの子に比べたら家が小さかったり、海外旅行に連れて行ってもらえなかったりと不満はあったけれど、それはただのわがままで、本当に不自由なく育ててくれた。
「一番デカイのは”転生”費用だ。代理出産を無許可で行ってるんだからな。代理出産ビジネスで代理母が死んで裁判になるように、出産はおおごとだ。晶みたいに異世界に戻るために転生するのを産むってのは、母体にかかる負担が大きい。なにせ転生時期が決まってるから、やり直しが利かないってんで、母体を犠牲にして生まれてくることもある。もちろん無許可で母体を危険に晒すんだ。それらの危険手当も返す必要がある。転生召喚はその為に高額になる」
「そっか……」
「育ててくれた両親に対しての謝礼もしなけりゃならない。召喚された人がこれから稼ぎ国に収めるはずだった税金。それらを支払ってもらい、他にも俺たちの経費も支払ってもらうから、一人で一億五千万ほど。一般庶民の俺たちにとっても高額だが、異世界じゃあ国家予算級だ」
「アキラ、この国では貴族が一日三百円で生活できます。ちなみに私は一日五百円です」
日本は物価が高いって言われてたもんね。でも小国とはいえ、一国の女王の一日の生活費がワンコインって……。
あれ? 五百円?
「どうしてアイェダン、日本の通貨を知ってるの? それよりも、どうして日本の通貨が使えるの? 為替取引とかそういうのは」
海外旅行行くときは通貨を両替しないといけないのと同じように、こっちの通貨を日本の通貨にしないと意味ないし、カードはどう考えても使えそうもないし。
「仲介役がいる。そいつらが異世界の財産を買い取って、日本に金額に相当するものを渡す、金や銀、石油や技術。そいつらは仲介料として二千万くらいは取ってるぞ」
酷すぎる!
アイェダンですら一日五百円で過ごしてるっていうのに!
「ここからは聞いても聞かなくてもいい話しだが”安い”って言うなら、さっき言った難民キャンプの子のほうが遥かに安くつく。むかし、イギリスが大英帝国さまだったころ、あっちこっちに植民地を作って、そこに召喚用の魔方陣を幾つか設置した経緯がある。島国限定だろう? ってのは説明長くなるからはしょるが、あの人たち作っちゃったんだな。壊せるところは壊したが、内戦で壊せないところとかまだある。アフリカ以外にもあってな、大英帝国さまったら放置上等で、七つの海の王者の座を降りやがった。その召喚用魔方陣、たまに誤作動を起こして人を飲み込むんだが、俺たちに依頼する金がないから基本放置なんだ」
「助けられないの?」
「それこそデータベースがないから無理だ。なにより国内の違法召喚を追うのが限界だ。違法召喚は縁を結ばれると厄介だから、早急に動く必要がある。殺せば済むが……それはなあ。で、忘れてるだろうからもう一回言っておく。―― もしも、誤作動で召喚された人を見つけたら保護して、俺に連絡してくれ。俺への連絡方法はモンターグが……―― 代わりの連絡方法を用意しておくな」
「うん。それで同じことを聞いてるかもしれないけれど、アフリカ以外はどんな所にあるの?」
人種を見分けることはできなさそうだけれど、聞いておいて損はないだろう。
誤作動で連れて来られる人がいないほうがいいけれども、響の話しぶりじゃあ、ままあることだろうし。
「けっこう残ってるから……カシミール地方にもあったな。インド皇帝さまの置き土産。顔がインドっぽかったら声かけてみてくれ。そうだついでだ、説明しておくか」
顔がインドっぽいって……適当だなあ。
「なに?」
「召喚してはならない人の条件だが、暗黙の了解としてもう一つあるんだ」
「なに? アイェダンは知ってるの?」
「はい、アキラ。暗黙の了解は特定の宗教を信仰していないことです。異世界の方の多くは、複数の神を信じ、他の神を排除しないので、安心して召喚することができると……違うのですか?」
十二月最後の一週間でキリスト教と仏教と神道巡りする、シャーマニズムだとかアミニズムだとか、八百万の神とか付喪神だとか、ギリシャ神話の神さまの人間臭さを笑ったりとか……昔はどうだった知らないけれど、私はこの大雑把な感じけっこう好きだ。なによりも、それが日本人だと思ってた。
「ここが重要なポイントだ、晶」
「?」
「敬虔なキリスト教徒を召喚したら、結婚相手にもキリスト教徒になることを求めることがある。生まれた子供が洗礼を受けることができないなんて、敬虔なキリスト教徒にとっちゃあ、気が狂いかねないほどの出来事だ。神父さまも牧師さまもいない、聖書が手元になかったりしたら、もうこの世の終わりだ地獄だ。神父と牧師が並びたつのは、これも大英帝国の遺産で、ヘンリー八世の前に異世界に召喚されてカトリックを根付かせちゃったイギリス人がいて、それが伝説となった頃同じ国にイングランド国教会を信じるイギリス人が呼ばれて、面倒が起きたこともあった。その点日本人は、カトリックやプロテスタントの西方教会やギリシャ正教会やロシア正教会なんかの東方教会も、全部まとめてキリスト教だしな。せいぜい分かるって言ったら、イスラム教とユダヤ教とキリスト教くらいじゃないか?」
響の言ってる言葉が呪文に聞こえた。最後はなんとか分かったけれど、途中は呪文だった。
「ヒンズー教も名前だけは知ってるよ」
でもよく日本に根付いちゃって、なんかもう「……」となった人のコピペとかあったような
「戒律で食えないものがある、これは大きな問題だ。某コピペみたいに、他国だから大丈夫って人も居るかも知れないが、それを見分けるのは面倒だ。なにより異世界は”宣教師殺しの日本”じゃないから、そこまで馴染まないだろうしな。日本人が思っている以上に敬虔な信者は多いし、彼らは異世界の宗教には馴染まない。だから日本人は送り込みやすい。宗教を広めようともしないしな。新世界の神になる系はたまにいるが、それは個人宗教だからお好きなようにってところだ」
アイェダンが朝晩祈りを捧げているのは見てたから、宗教があるのは分かったけれど、せいぜい「忘れずにお祈りしてて偉いなあ」としか思わなかったくらいだ。
「宗教があると、結婚とか大きな問題だからな。結婚する際に異世界の宗教をガン無視できるのは日本人だけだ。悩まずに流されて改宗できる適当さは、どこを捜してもいないな」
私も問題視はしてなかったけれど、ああそうかもしれない。本当は重要なポイントなんだろう。
「敬虔な信徒は異世界召喚されないの?」
「しないようになった。昔は宗教無視で召喚してたらしいが、最近やっとシステムが整って回避できるようになった。このシステムを作るために、SEたちはデスマーチを繰り広げてる」
「……」
一つを救おうとすると、もう一つが救われないってことなの?
「アキラ、ですまーちとはなんですか?」
”プログラマーたちの過酷な状況”って言ってもアイェダンには通じないよね。なんて説明したらいいのかな? と響に助けを求めてみた。
「無理難題を押しつけられて頑張るってことだ」
「はあ、なるほど」
響は無理難題を押しつけてる方だよね? なんでそんなにあっさりと!
「こちら側でもっとも厳しく精神にくるデスマーチだ。なにせ終わりがないからな」
「納期はどこに行ったの!」
「納期はログオフした……わけではなく、所長曰く”デスマーチと言ったからには、本当に死ぬまで行軍し続けてもらおうか”だそうだ。その方針のもと、次々と仕様変更が持ち込まれてる」
「助けてあげて!」
「無理だな。所長の方針だから逆らえない。あの人が一番恐いからなあ」
ちょっと! 所長さん!
Copyright © Iori Rikudou All rights reserved.