Alternative【02】
私は誘拐されたらしい。いや”誘拐されたらしい”じゃなくて誘拐された。
日課になりつつある城下町の散策。
女王さまとは結婚してはいない。モンターグのやつが家から出てこないから事情が聞けないから、結婚しないでいた。
私は女王さまとの結婚を望んでいるわけではないけれど、現状が分からないのは腹立たしい。モンターグは無理に連れだそうとすると『自殺する』と抵抗し、こっちから会いに行っても家に入れてくれもしない。
死なれると帰る手立てがなくなるので、強行には出られない。
女王さまは 「結婚するために」モンターグを説得して、説明させると請け負ってくれた。……で、とくに仕事のない私は、城下町の散策に連れ出された。
「私と貴方の国と町。ぜひ間近で見てやってください!」
女王さまの国と町だけど、私の国と町じゃない。そうは思ったけれど、町は見てみたかったので喜んで外出することにした。
治安はよく王でも単身で出歩くことができる。それにはかなり驚いた。普通は護衛が付いていると思うじゃない。どこかに隠れて居るのかな? なんて思ったこともあったけれど、女王さまに「そんな無駄な人員は配備しておりません」と言われた。
普段は女王さまと一緒に城下町を歩き、港で船に乗せてもらい湾内一周を楽しんだりした。でも今日は女王さまが忙しいとのことで、一人で散策に。
異世界にきて困ったことはたくさんあるが、最近困っているのはこの格好。
ロメティア王国は地位が高い人はぴったりとした体にあわせた洋服で、地位が下がるにつれて体型を隠すことができる洋服。
下半身が太めな私は体型を隠せる洋服のほうが着たい……でも異世界から呼ばれた私は地位が高いらしく、このむちむちな太股にぴったりとしたズボンを穿くはめに。
この格好を晒すのは恥ずかしいけれども、城の中にずっといるのも気が滅入る。城が暗いのよ。あんな暗いところに居るくらいなら、城下町のほうがいい。
城下町の人たちも女王さまと一緒にいる異世界人の私のことはすっかりと覚えてくれたようで、声をかけてくれる。
たまには商品をくれたりと。
今日は赤い実をもらった。商品札には「エリドー」と書かれている。
大きさはキウイくらいで皮ごと丸かじりできる。皮の下は歯ごたえがある白身がかった果肉で、大きな種が一個中心にある。
果物は元の世界のように甘くはない。品種改良が進んでないんだと思う。私がいた世界が品種改良し過ぎなのかもしれないけれど。
でも不味くはない。
”果物食べてる!”って感じがする。
「アキラさま!」
「アキラさま!」
”さま付け”で呼ばれるのは恥ずかしいし、帰るつもりだからそんなに慕われても困るのだけれども……って、モンターグ!
「……ん?」
頭上に影がかかった。
視線を上に移動させると、棒みたいなものを持った男が立っていた。振り下ろされる棒を前に私は食べかけの果物を持ったまま止まる。
「危ない!」
誰かの声が聞こえてきた。
「アキラさまを助けろ!」
「お城に知らせに行け!」
頭じゃなくて肩と首の間を叩かれた私は、ゆっくりと意識を失った。
「アキラさまを助けるんだ!」
聞き覚えのある街の人たちの声が悲鳴になり――
街の人たちの怪我が酷くなければいいなあ。死者とか出たら……許さないってよりも、まさに”うつ”になる。
目をさました私は自分が誘拐されたと、はっきりと自覚した。
見張りが”目覚ましたぜ”と誰かを呼んだ。
やってきたのは女の人。私よりは年上……なのかなあ? 異世界の人はとても大人びていた。たしかに日本人は外国じゃあ子どもに間違われやすいとは言うけれども……まさか女王さまが私と同い年だったなんて。最低でも二、三歳は年上だとおもったのに。
「あなたが異世界人ね」
「そうよ」
「あっさりと認めるんだ」
「……はあ」
手首を縛られた上に上半身も縛られて、人の顔に見える木目が禍々しい木の枷を足首に嵌められて違うと叫ぶのも無理がある。なによりも私のこの顔、ロメティアでは見ない日本人顔。
ごく有り触れた日本人顔は目立ってた。町中で本当に目立ってた。そして私を誘拐した人たちとも顔もスタイルもまったく違う。
「なによ」
誘拐犯の高い位置にある腰に、恨みの篭もった視線をぶつけたら、相手が怒ったように話だした。
「私を誘拐してどうするの?」
普通怒るのは私じゃないかな?
「あなたには関係ないわ」
「……」
”私のことだから関係ないはずないでしょう!”と叫ぶより先に”面倒だ”が頭を過ぎって、もうどうでもよくなった。なによりも聞きたくはないよね。
変態親父に売りつけられるなら……まだ良いほうかな?
人体実験に使われたりしたらどうしよう? 絶対そっちの可能性のほうが高いよね。なにせ異世界人だもん。モルモットだ実験動物だ。ああ! 考えるだけで吐き気がしてくる。
「あら? だんまり」
「教えるつもりがないのなら、口を開くだけ無駄でしょう」
「異世界人にしては反応が鈍いのね」
”異世界人にしては?”ということは、この誘拐犯のなかでも一番偉そうな、この主犯格らしい女は私以外の異世界人を見たことがあるということか?
「……」
「興味ないの?」
頭が切れる人なら喋るのもいいかもしれないけれど、私はさほど賢くないし。
なにより喋ってたら吐きそう。これが現実の誘拐だったら警官になったいとこが助けてくれるって自分を励ませるのに。いや、現実で誘拐されるのも御免だ。誘拐されてすぐに……考えるだけで泣きたくなる。あ、泣きそう。
誘拐なんて他人ごとだと思っていたけれど、異世界召喚されるような運の悪い私だもの、誘拐の一つや二つ経験してもかしくはないか。
手枷と足枷を乱暴に床に叩きつけたりして助けを待っていた。”壊れはしないよ”と薄笑いを向けられたが、黙っていると狂いそうだし、なによりこんなに思い切りものをぶつけていいのは初めての経験。
普通はこんなことしてると止められるし、止められないまでも近所迷惑だからとやる前に止めるけれど、いまは暴れても許される立場だから。
たまに自分の手をぶつけてしまい、痛さで泣いた。痛くて泣いたのであって、泣くのを我慢できなかったわけじゃない。
大泣きする前に助けがやってきた。
「アキラ!」
天井から声がして上を見たら、剥き出しになっている梁に女王さまが! どうやって梁に?
「ロメティアの国王だ!」
女王さまはきらきらしている鎧を着けて、水晶みたいな透き通る刃の細身の剣を持って立っていた。
「女王さま? 危ない来ちゃだめ! 敵は武器を持ってるし男もいる」
普通は騎士団とかそういう人たちじゃないの?
驚いている私と誘拐犯たち。
「アキラ!」
女王さまは飛び降りて……漫画だったら”すぱんっ!”と効果音がつくような勢いで、誘拐犯の一人を縦に切り裂いた。
私はそれを見て気を失った。
頭が考えることを拒否したらしい。つぎに目を覚ました時は、見慣れ始めてきた城の最上階の寝室にいた。
「アキラ。無事で良かった」
女王さまが抱きついてきた。
血の匂いとかそんなものはなく、いつも通りの甘い花の香り。触り心地の良い金髪に指を絡めて、ああ……私無事だったんだと、やっと安心できた。
「女王さまは怪我はない?」
「ありません」
女王さまと生活するようになって気付いたんだけれど、結構間抜けなんだよね。賢いんだけど間抜けっていうか……だから、心配したんだけど怪我してないならいいや。
女王さまに”お腹空いていませんか?”聞かれ、人が縦に裂かれた姿を見たあとは食べられない……なんてことはなく、私は焼き魚を頬張りながら誘拐犯たちのことを聞いた。
意外と自分が図太いことにショックを受けながらも、焼き魚(塩味、柑橘系果物添え)と大麦粥の美味しさには逆らえない。
誘拐犯たちはほとんど生け捕りにされたらしい。あと町の人は怪我人は出たが死者は出なかったと。ああ、良かった。
レモンによく似たフィティカッタという名の柑橘類を搾り、二匹目の焼き魚にかけて身を箸でほぐして食べる。
ロメティアは白身魚も赤身魚も絶品だ。今食べている魚はメイロンといい、脂の乗った秋刀魚とほぼ同じ味。このメイロン、ロメティアでは一年中取れいつでも旬。大根の変わりになる野菜をみつけてすり下ろして食べることが私のいまの目標!
女王さまと結婚してないから暇なんだって。卵産むなんて真剣に考えたくないことだしさ。
「私を誘拐してどうするつもりだったんだろう?」
私と一緒に魚を食べていた女王さまは、普通に答えてくれた。
「まだ裏はとっていませんが、売るつもりだったのは確かでしょう」
「……どうして?」
「説明しておりませんでしたね」
女王さまの説明不足っぷりは、控訴大国アメリカなら連戦連敗するレベルだ。
「説明してくれる?」
「はい。この世界において、異世界人は高額で売れるのです。どこの世界でも同じだとは思いますが」
「なんで? 普通に異世界召喚したらいいじゃない」
こんな普通で取り柄もない私くらいなら、幾らでも召喚できると思うんだけど。
「召喚というのは手間がかかるのです」
「手間がかかる? でも、モンターグみたいに専門の人がいるから、そういう人たちがお金儲けのために呼び出すとかは?」
善し悪しは抜きにして、誘拐よりは足がつかないはず。
「無料ではないのです」
「無料じゃない? それは儀式にお金がかかるってこと?」
「儀式などはありませんし、呼び出し行為そのものにはお金はかかりません」
そうだよね。
私が呼び出された時も、気付いたらロメティアの大地に立ってたし、周囲におかしな物もなかった。見たくはないけど生贄や大量のろうそく、魔方陣が描かれたところなんてなかったもんね。
「呼び出したいと思えばすぐに呼び出せるの?」
それにしても、どうやって呼び出しているんだろう?
「呼び出しそのものは、難しくはないそうです。ですが、異世界人を召喚する際にお金を支払う必要があるのです」
「人身売買ってやつ?」
もしかして私、身売りしたことになるの?
「奴隷の売り買いとは違いますし、個人に支払うものではありません」
怖ろしいことにこの世界には奴隷がいる。
普通召喚された私のような立場の者は「奴隷ダメ!」とか説得するところだが、残念ながら私は奴隷のなにがダメなのか、女王さまに説明することができないし、なにより奴隷たちが幸せそうなので口を挟まなかった。
奴隷解放戦争の奴隷じゃなくて、古代ローマの奴隷っぽい雰囲気。
「個人に支払ってない?」
奴隷はさておき、個人じゃなくてどこの誰に支払うの?
召喚ってファンタジーじゃないの?
「異世界の人間を召喚する場合、その人が今まで”そちらの世界”で享受したものと、死ぬまでに稼ぐ金を全額前払いする必要があるのです」
「誰に?」
「アキラが属していた国家に」
「そうなの?」
「そうなんです」
ちょっと待って。
国に金を前払いしているということは、私がここに来ること国は知っているってことだよね。なにより当事者である私に許可なく金を受け取って……ええ? もしかして帰るに帰れないの?
「女王さまは私を召喚するのに幾らぐらい払ったの?」
「私ではなく父の代の交渉でしたが、この国の五年分の国家予算だったと聞きました」
「結構な額だよね」
ロメティア王国はそんなに豊かな国じゃないけれど、だからこそ私を呼び出すのに国家予算五年分って……。
「そうですね。父以外に王族が二名おりましたが、二人に王族としての生活をさせられないということで、自害をさせたと聞いております」
「……」
どう考えてもおかしいでしょ。
私を呼び出して女王さまとの間に卵を産ませて、そこから生まれる生き物に国の未来を託するって。普通に結婚して普通に育てて……それで充分じゃないの?
「話は逸れましたが、これらの料金を支払わず召喚したり、召喚権を持っている者のが勝手に行えば、アキラのいた世界から人がやってきて正規料金に罰金が加算されます。召喚許可証を持っている者が違法な召喚を行うように指示を出せば、国民抹殺で国を滅ぼされます。」
その国を滅ぼすのって、どこから来るの? 日本人を勝手に召喚した場合は日本から? そんな恐い組織、日本にあったの? 戦国時代の忍者とか江戸時代のお庭番とか、もしかしたら平安時代の安倍晴明の子孫の陰陽師とか? その人たちがそんなに強いかどうかは知らないけれど。
むりやりアホな想像してみたけれど、実際思い当たる節ないなあ。日本で戦えそうなのって自衛隊……は戦わないんだよね。警察の機動隊? 正直、機動隊もあんまり強いイメージはないな。テレビ番組の「衝撃の昭和映像」なんかで鉄球で山荘を壊してるイメージしかないし。
いとこの響《ひびき》は「自衛隊もそうだけど、機動隊だって出動しないで漠然といしたイメージ持ってるだけでいい。それだけ平和なんだから」と言っていた。
……具体的な国はイメージしないでおこう。うん! もしかしたらFBIかもしれないし、CIAかもしれないし。あの人たちなら国外で異世界でもなんとかしてくれるだろう。
「召喚権に召喚許可証?」
「この国ではモンターグが召喚権を持ち、私が召喚許可証を持っています」
うわ……めんどくさそうな話。
でもこの際だから詳しく聞いておこうかな。日本に帰るためにも、召喚について知らないと無理だろうし。
―― 帰ることはできないよ ――
「……」
「どうしました? アキラ」
「なんでもない」
なんだろう? いまの声。
聞いたことない声なのに懐かしいという感情が体内に広がる。
「アキラ?」
「あのさ! その二つ、召喚権と召喚許可証について、もっと詳しく教えてもらえるかな?」
懐かしいという感情とともに、あることに気付いた。
私は日本のことを忘れて始めている。両親やいとこの響、近所のことは覚えてるけれども、ロメティアに召喚される直前まで通っていたはずの大学のことや、なにより乗車したバスのことも忘れ始めている。
元の世界に帰ろうと思わなければ、忘れ初めていたことにすら気付かなかった。そして忘れ始めているのに、それが恐くないことにも。
「はい。異世界召喚はアキラのいた国が、私たち”異世界”に権利を与えることにより、承認されます。異世界召喚許可は永続的なものではなく、二年から五年に一度査定があり問題がなければ更新料支払うことで更新可能となります。これが召喚許可証となります」
私が空想と妄想の隙間でもがいているところに、女王さまが現実を叩き込んでくれた。
「呼び出し以外にもお金かかるの?」
異世界召喚は想像以上に現実的で、金のやり取りばかりだ。
《王の妻になるために》とか《世界を救う神子》だとか、そういうファンタジーな世界だとばかり思っていたのに。
「そうです。維持費もけっこうします」
「結構な額だったりするの?」
女王さまが微笑んだ。
「はい」
明確な金額を言わないところをみると、相当な額を支払ってるんだな。
「呼び出さなくても払ってるって無駄じゃない?」
「呼び出したい時に呼び出せないと困りますから。査定は厳しくはありませんが、取得はかなり難しいのです」
「最初から呼び出さないって考えはないんだ」
「それは……」
「いまはその話はいいや。それで、召喚権っていうのは?」
「召喚権はアキラの国と異世界を繋ぐことができる権利を持つ人です。召喚その物はお金はかかりません。技術さえあればできることです」
「技術を持っている人と許可された人は違うってこと?」
「そうです」
「なんで別々なの?」
「二重構造にすることで無秩序に呼び出すことを防ぐと聞きました」
女王さまがモンターグにあまり強く出ない理由がなんとなく分かった。
「実際少ないの?」
二匹目の焼き魚を食べ終えて、私は身を乗り出して話を聞く。
「昔はこのような形式でも多かったようですが、ここ十年くらいの間に厳しくなって、数は激減したそうです」
「厳しい?」
「取り締まりの強化と厳罰。それと召喚権所持者をすべてアキラの世界側が管理することになりました。管理を拒んだものはすべて召喚権を剥奪されて殺害されたそうです」
「この十年?」
「たしかそうだと。約七十年ほど前に管理する国も変わったと聞きました。アキラの世界で大きな出来事があり、それが関係していると聞きましたが」
約七十年前の大きな出来事って……んー七十年前か。
なんだろう? おじいちゃんやおばあちゃんが子どもだった頃だよね。となると……
「第二次世界大戦かな?」
それ以外なにかあったかな?
「なんですか? その第二次世界大戦って」
改めて聞かれるとちょっと困る。それも私の世界を知らない相手に説明するのは……そう考えれば女王さまはやっぱり賢いんだなあ。
説明不足だけれども、聞けばなんでも私に分かるように説明してくれるもんね。
「大きな戦争があったんだ。私は学校で習う程度のことしか知らないけど。地球上の国の多くを巻き込んだ戦争。だから”世界大戦”」
あまりに大雑把で、自分でも不安になってきた。
「アキラの国はそんな大きな戦いで勝利を収めたのですか!」
「負けたよ」
「ええ?!」
「なにそんなに驚いてるの? 女王さま」
「負けたのに国が残ってるんですか! 民も生き延びたんですか!」
「皆殺しにはならなかった。勝ったほうが支配していた時もあったみたいだけど、私が生まれた頃は違ったよ」
「へー……」
女王さまの驚きに満ちた顔が私は気になった。
「女王さまはどうしてそんなに驚いているの?」
「戦争しても民が死に絶えないのはいいなと思ったのですが、同時に助けてもらえるからと安易に戦争を起こす指導者もいるのではないかと思いまして。どちらがいいのかな?」
「戦争しなければいいじゃない」
「それが正解ですね。でも起きてしまうんですよ。この世界では戦争は皆殺しに繋がりますから、みんな必死で戦います……そうだ、アキラ」
「なに?」
「アキラの世界の指導者は強くなくて良いんですね!」
「強いって、精神的に強いとかじゃなくて、剣をふりまわしたり魔法を使ったりする強さのこと?」
「はい」
「昔は戦に勝った人が指導者になったりしたけど、いまの日本ではそういう強さは求めないよ」
昔は戦国武将とかいたけれども、今はね。
私は戦国武将好きだけれど、彼らが治めていた時代で暮らしたいか? と聞かれたら、悩まずに答えはNoと出す。
過去の彼らを現在の安全な場所で楽しむのが良いのであって、色々あるけれども私は今の世界が好きだ。ちなみに好きな武将は明智光秀。
そうだ! 響に借りてた明智光秀の本返さなくちゃ……響のことだから、勝手に部屋に入って持って帰ったかもしれないけれどさ。
「通りで。アキラを助けにいった時、私に”危ない来ちゃだめ! 敵は武器を持ってるし男もいる”と叫んだのが不思議だったんです。国王の私のこと弱いと思ってたんですね!」
見るからに強そうな体格してたらそんな叫びは上げなかった……いや、上げるよね。
「女性だし、細いし、可愛いし」
”なんか間抜けてるし”……とは言えなかった。
「心配してもらえて嬉しいです。ですが私は戦争を起こす者でもある”国王”として、戦えるように教育されています。これでも結構強いんですよ、そうじゃないと他国に攻め込まれるので」
この世界の国王は全員強いんだね。
それはそれで正しいと思うなあ。
「召喚権って王が持ってるもんじゃないんだ」
「ちがいます。王は召喚許可証を持っているだけです。この許可証も手に入れるのにかなり苦労します。主に金銭面で」
お金尽くしで、夢もロマンもなにもない世界だ。
「そう言えばさ、戦争すると皆殺しにされるって言ったよね」
「はい」
「殺されちゃうと召喚許可証はどうなるの」
「消失です」
「召喚権を持ってる人を殺さないで捕らえて使うとかは?」
「できますけど、使うほうが召喚許可証を持っていないと問題になります」
「女王さま。改めて聞くんだけど、私は正式な手順を踏んで召喚されたんだよね」
「はい。すべて正規の手順を踏んでます」
ということは、私は”日本そのもの”からこちら側に移動しろと言われたことになるのかな――ちょっと複雑。説明されて飛ばされたならまだ覚悟決まったけれど。
なにより……そんなの公務員にすりゃいいじゃない! 響みたいな公務員が飛ばされればいいんだ!
ああ……響、気付いてくれないかなあ。新人警官じゃあ無理か。なにより、役所の何課が取り扱ってるんだろう。
Copyright © Iori Rikudou All rights reserved.