ALMOND GWALIOR −22
「……」
此処は何処だ?
「目が覚めたか」
「ラティ……」
両手と両足を固定されている、特に両足は開かれて見せてはならない箇所が露わになり目の前のモニターに見たくもない自分の『存在しないはずの性器』から血が出ている映像が映し出されていた。
「どうだ? 三十四歳にもなって初潮を迎えた気分は、カレンティンシス」
下半身に走る “慣れてしまった” 暴行とはまた違った鈍痛の理由は、膣から伝っているこの血が原因か。
完璧にレビュラ公爵を妊娠させることが可能になってしまった。
「生理を見られて何か感じるとでも思ったか? それとも貴様にはそのような趣味があったのか? ラティランクレンラセオ」
ラティランから視線を外すと、
「顔色が土気色だ。随分と生理が重いようだな」
言いながら儂の髪をつかみ頭をゆする。表情が一切変わらんのが恐ろしいところだが、怯えたような顔をしようものなら調子に乗るのは目に見えている。
「ほぅ、これは生理が重いというのか。それは知らなかった、知識のある貴様の体に子宮と卵巣をぶち込んで実験したほうが良かったのではないか? 両性具有の末裔だ、さぞや生殖臓器も定着しやすかろう」
髪を握っている手に力がこもり、頭皮からブチブチと髪が引き抜かれてゆく。
「相変わらず、愛しくなるほど気が強い王だ」
痛みに体に力を入れると、中から血が溢れるような感触が。
「ふん貴様に愛しいなど言われると反吐が出るわ……それで、もう実験は終わったのだろう。解放するがいい」
「まあなあ」
ラティランは手を離して笑う。
「カレンティンシスア、お前の生理の痛みはどうも子宮口が狭いことにあるらしいのだ。だから試してみようとおもう」
ただでさえ冷えている体から、体温という体温が消え去った。
「どういう意味だ」
「子宮口を開く」
「必要はなかろう」
「何かに使えるかもしれんしな。麻酔は “なし” だ。貴様の子宮口は硬いそうだから激痛が走るかもしれんな」
動けない儂の前で、マスクで目だけしか見えない技師が、無表情のまま音を立てて器具を並べだした。口で説明することなく、儂の目の前に器具をつきだしてきた。 “こうして拡げます” と言ったように指でまわすと先端が徐々に開いてゆく、拷問器具にしか見えないものを最大まで開き再び小さくしてゆく。あれを入れて押し開く……のか?
痛みがどれ程の物か当然ながら知らない、だが想像もしたくはない。
「……」
指先で固定されている座をかきむしるのが精一杯の抵抗だ。
体の内側が無理矢理こじ開けられる感触。
「感じているのか? それとも痛いのか? ありもしない子宮口が痛むのか?」
「貴様にはわからぬ……こと、だ。聞いても、しかた、なかろう……ラティランクレンラセオ……」
目の前の技師が無表情のまま子宮口を開いてゆく。開かれているのが本当に子宮口なのかどうかは知らぬが、今まで感じたことのない種類の痛みだ。
「今何センチだ?」
ラティランの問いに、
「2cmほどになりました」
感情一つこもらぬ声で答えを返す。
多分この技師は自分が殺されることを知っているのだろう。
ラティランは儂の秘密を握り、優位に立つことを考えている。噂として儂の体の秘密が漏れることを阻止するために……殺すだろう。
八年近くに及ぶ儂に対する実験、その間に儂の体質を疑うような噂が立ったことは一度もなかった。儂は心の奥底では、何処かから漏れてそこから……あの殺された男王のように、楽になれるのではないだろうか? そう願っていたが、この男はそんな失態はしなかった。
「知っているか? カレンティンシス?」
「ぁ……な、何が、だ?」
気がつけば技師は変わっている。儂を実験体としてデータを採取する者は覚えているだけで五十人以上いる。姿を見なくなってから、再びその姿を見たことは一度足りとないが。
全身から噴出す汗、叫び声だけは漏らすまいと奥歯をかみ締める。
それにも限界はあるが。
「貴様の子宮はそれ用ではないが、通常人間が子どもを産む際に子宮口は10cmまで開くそうだ。中には何もないが、折角の機会だ開いてみようなカレンティンシス。こんな機会でもなければ、子宮口を最大に開くこともなかろう? この前のように入れておけば良かったかな?」
「あ……」
今何センチなのかは知らんが、腕や足を固定しているベルトが触れている箇所が暴れていたので切れて、血が滲んできた。
もっとも、そこら辺は全く痛みを感じぬが。
「痛むか? そうそう、カレンティンシス。子宮口がそれ程までに痛むのなら、痛みを分散させれば楽になるのではないかと私は思うのだ」
「……き、さま、あ……」
洋服の前を開き、背後から乳首に爪を立てる。
下半身の激痛の前には全くと言っていいほど痛みを感じぬが……
「私の爪程度ではたいしたことなさそうだな。ではこれで」
ラティランが指の間に挟んでいるのは、長い針。
「立った乳首を串刺しにしてみよう、一つに三本くらいは刺せるかな。少しは子宮口の痛みから気がそれるといいな。気がそれる前に発狂せねば良いが。暴れるなよ、カレンティンシス。背後から見ないで刺すのだから。ああ、見ながらは貴様が可哀想過ぎて私には刺せないよ」
何を言っても刺すだろうに。
「……っ、させ……すきに、しろ! ……」
「では刺させていただくよ、カレンティンシス」
何処の段階で子宮口が10cmになったのか全く解らない。
視界の端に映る、痛みに震えるたびに揺れる針と串刺しにされた乳首と胸の肉の方が現実感があった。痛みは下半身の方が勝るが。
拘束を解かれ自分で針を引き抜き、それを捨てる。
血があふれ出している下半身をどうしていいのか解らないこともあるが、とにかく乳首から針を引き抜き床に叩きつける。
「最後まで叫び声一つ上げんな。試した女は全て絶叫し白目をむいたショック状態に陥ったが、やはり気位の高い王は別格だ。ほら貴様用に調合した鎮痛剤だ」
言いながら “拾え” と床に裸の錠剤を一粒投げてきた。
「誰がこんな床に落ちたもの!」
その錠剤を踏みつけ粉々にして睨みつける。
「貴様はどこまでいっても気位の高い男だな。さて、テルロバールノル王がお帰りできるようにお洋服を着せてやれ。あと出血の処置も」
「服とその他を寄越せ! 貴様のところの下郎如きがこのテルロバールノル王に触れられるとでも思っているのか! おこがましい! 処置などいらぬ」
「好きにしろ。ここは “掃除” するので早急にお帰り願いたい。テルロバールノル王殿下」
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「ガルディゼロか」
カレンティンシスが部屋からでるのと入れ違いに入ってきたキュラは、
「ブラベリシスに呼ばれてきたけど、後片付け? うわ、変な匂い。これ、なに?」
室内の異様な匂いに嫌悪感を露わにする。
「月経血。血液以外の成分も多量に含まれているせいだろう」
「ふ〜ん。で、今日は誰を処分すればいいのかな?」
「ここに居る私以外の “物” 全てだ。もう用はない」
「はいはい」
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