ALMOND GWALIOR −21
 意識のない身体、その下半身は着衣を裂かれ男性器の挿入が繰り返される。段々と勃起する性器、そして上気してゆく肌。
『ぁ……ん……』
 鼻にかかったような、明らかにその行為に感じている喘ぎ声が漏れる。前を大きく開けられた見える胸は確かに男のものなのに、男を咥え込んでいるそこは女だ。
 足を抱え上げられている。露骨なまでに結合部をはっきりと映すために。
 男は中に放ち、それを引き抜いた。精液と血が中から溢れてきた
「強姦されても感じるとはな」
 誰に犯されたのかは解らない。
 だが、感じていたのは確かだろう。
「性処理玩具となれば、初めてでも濡らして腰を振って喘ぎ声を上げるものなのだなあ、カレンティンシス」
「知らんな、ラティランクレンラセオ。意識があれば答えることも出来るが。それについての詳細が知りたかったのであれば、儂の意識を喪失させねば良かったであろう」
 儂が両性具有であることをラティランが知らない可能性は半分、後半分は知っているだろうと考えていた。
「それは確かに私の失態であったな。今度犯される時は、意識を失わないようにな」
 つい先ほどまでは、この男を味方とまではいかなくとも信頼していた。
 実弟を預けるくらいには、信頼していた。
「意識を失ったら、たたき起こせば良い事だろうが」
 その実弟を何故、両性具有に近づけ関係を持つように仕向けたのかを問おうとしたら、この有様。この男は前から狙っていたのだろう。ラティランクレンラセオ王に、行き当たりばったりや、思いつきなどはない。考えて、考え抜いて自らの評価が「良く」なるように下準備をしてから行動に起こす。
 臆病なのではなく……用意周到。
 顎を掴まれ、顔を引き寄せられる。見た目は同じだが、中身の性能は格段に違う。ほぼ全てにおいてラティランの方が「高性能」だ。
 顎の骨が軋むほど掴まれる中、下半身から誰の物かも解らない精液が[ある筈もない箇所]から僅かに伝い落ちる。こんな体液の感触を内腿に感じるくらいならば、内臓を引き抜かれたほうがマシだ。 
「王の座についていたければ、お前の取る道は解っているな? カレンティンシス」
「貴様っ!」
「ロヴィニアのエーダリロクが “お前の父親” の後釜に就くそうだ。あのロヴィニア王子が巴旦杏の塔の管理者に選ばれるのは、ほぼ確定なのはお前も知る所であろう。兄のロヴィニア王が推し、帝国側が受け入れた。技術と知識と階級から言って、年若いがあれ以上の適任はなかろうな。あの結構好奇心旺盛な十七歳の王子は、お前の父親の敷いたシステムを色々と弄りたいだろう……追加登録もしてみたいかも知れんな。両性具有は中々生まれないから居たら飛びつくだろう」
「……」
 ロヴィニアのエーダリロクが、管理者の地位につけたいという打診は受けていた。
 儂に父王のような管理システムを構築する能力があればまた違ったが。父王は、それらに関しては天才であったが儂は先天的なセンスというものがない。だが、ロヴィニアのエーダリロク王子にはそのセンスがある。
 エヴェドリットの戦闘能力もそうだが、技術開発などにも生まれつきのセンスなるものが確かに存在する。
 儂は巴旦杏の塔を管理したく、その地位が欲しくて努力したが、あのエーダリロク王子の「閃き」や「感性」には遠く及ばない。同じ知識を持ったとしても、その先に立つことができない。
 同じ部門の長を争った形となるから解るが、ラティランの言っていることは間違いないだろう。
 好奇心が強く、また行動力もある王子だ。単身で趣味の蛇や亀を「生態を解析」して捕まえに行く。サーチシステムを使えば直ぐに発見できるものを、自分の知識の積み重ね、持ち前の解析能力を駆使して見つけることを楽しみとしている。その己の解析による発見・探知能力はサーチシステムを凌げる程だ。
「カルニスタミが賢くても、まだ若い。ランクレイマセルシュ辺りにしてみれば、ライバルが減るということでお前を王の座から追い落として隔離することが出来れば乗るだろうな」
 エーダリロク王子は喜んで儂を調べ、新たなシステムを組むだろう。
 それが悪いとは言わぬ。儂自身が両性具有でなければ、他人であれば「好奇心旺盛でよい王子だな」と応援するだろう。そうだな、例えばザウディンダルを巴旦杏の塔に入れる為に検査、その後のシステムの見直しをするなどと言うのならば、儂は協力してやるだろう。


 だが自分が閉じ込められるのは、嫌だ。


 父王は儂に[捕まった両性具有の末路]を繰り返し見せた。生きたまま焼き殺される両性具有を何度も、何度も。その映像の恐ろしさは、泣き叫ばない所にあった。焼き殺されていった両性具有は[やっと解放される]といった表情を浮かべ、そして死んでいった。
 生きたまま焼き殺される事に安堵しなくてはならないような日々とはどれほどの物か? 想像したくもない。
 藍色の綺麗な瞳をした両性具有であったのを覚えている。そう、あのレビュラ公爵に良く似た両性具有だ。レビュラ公爵の親かと思い調べたが、それは男王であったので違う。だが良く似ている……。
「…………何が、望みだ? 儂を閉じ込めるのが目的ではあるまい」
 閉じ込められたら最後、あの両性具有のように死ぬ事に安堵をおぼえるような状況まで追い込まれるのだと思えば、恐ろしくて気が狂いそうだ。
「ああ、勿論だとも。お前を巴旦杏の塔に閉じ込めたいとは考えた事もない。両性具有と精神感応が開通しているなど、恥以外の何物でもないからな。それは私の名誉の為にも、細心の注意を払って隠し通せ、最底辺の性処理玩具め」
「早く目的を言わんか。前置きの長い、性処理玩具の直系の子孫王」
「相変わらず気の強いことで。この場合は、気位が高いと言ってやればいいのか? 最古の王家を継ぐ男」
 私の顎を放しつつ身体を押す。
 少しよろめきはしたが、無様に転ぶようなことはなかった。
「貴様は前置きが長いといっているだけだ」
「お前の身体を自由にさせろ」
「自由? 何処までをもって自由とするつもりだ? 儂の生命まで寄越せというつもりか?」
「そこまでは欲しいとは言わぬよ。ただ、性処理玩具の本分を全うさせてやると言った所だ」
「全うなどしたくはないが」
 そう言うと、ラティランは私に着替えを投げつけ、引き裂いた服を回収し去っていった。
 儂はそれを脇目に急いで服を着て部屋を出た。
 その場を離れれば離れるほど、身体に見た映像が本当だと解る感触が蘇ってくる。下腹部の鈍痛と、存在しない箇所の切れた痛み。
 泣くようなことでもなければ、悲しむ事でもない。

 儂は女ではないのだから

 屋敷に戻り、出迎えられたがそれも無視して部屋へと戻る。
 出て行った時から、カルニスタミアの事に関して怒っていた為、他の者達は儂が不機嫌であってもいつものことと頭を下げているだけ。急いで部屋に戻り、この誰も物かも解らない屑の残した精液を洗い流せばそれで終りだ。
 ラティランにこの先何をされるかは大体予想はつくが、今はとにかくこの汚れた身体を洗いたい。
「カレンティンシス殿下。どうなさいました?」
 部屋には側近のローグ公爵。
「プネモスか。どうなさいましたとは?」
「お顔の色が優れません。お体の不調でも?」
 早く身体を洗いたく服を脱ごうとするのだが、手が震えだした。さっきまでは、全く震えておらなかったのに。
「黙っておれ」
 身体のすべてを知っているローグ公爵だけが居る部屋にたどり着き、緊張が解けてしまったようだ。
「殿下、手が震えて」
「触るな!」
「お叱りを受けましても。服を脱ぐのを手伝わせていただきます」
 震える手を、もう片方の手で握り締めながらプネモスは、この状況を見ても儂が言わなければ何事もなかったように接するであろう。
「殿下。湯浴みはお一人で?」
 精液でこびり付いた服を、ゆっくりと引き剥がすように脱がせた、その痕跡を見た後頭を下げる。
「当然だ」
「では新しい着衣と、薬を用意してまいります。着衣の方は焼却処分いたしますので」
「薬など用意するな! そんなもの必要はない! 儂が呼ぶまでは入ってくるなよ」
「御意」
 指を入れ、かきだす。傷がついているが、それ以上にとにかく空にしたかった。
 痛みはするが、この痛みは幻だ。身体の内側から溢れてくるこのぬるぬるとした他人の精液も幻だ。
 儂は「男」であって「女」ではない。
「……んっ……ああ……」
 手についた体液と血。

 儂は女ではないから “ここ” は犯されたわけではない。両性具有は性処理玩具だ、どれほど暴行されたとしても決してそれは罪にはならぬ。儂は犯されてはいない。何もされてはいない。


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