ALMOND GWALIOR −274
 豊富な天然の湯が浴槽から溢れ出し、タイルを濡らし、二人の足元をも濡らす。オリーブの自然な香りで満たされてる浴室。
 暗い場所が苦手なカレンティンシスのために影が生まれるような箇所はなく、だが体について知られることを警戒して、外からは完全に遮断されている。
 いまだ貴族としては短く、帽子を着用し榛色の髪を隠してしまっているカルニスタミア。黄金色の緩やかで大きく波うつ髪が上半身を覆い隠すカレンティンシス。
 両者とも彫刻とも見紛うような美しい容姿をさらけ出し、向かい合う。
「なんで儂が兄貴を抱かねばならぬのじゃ」
 湯気が髪の表面に露を作り、それが伝い落ちる。
 カルニスタミアは出来る限り表情を変えず――本人は変えていないつもりだったのだが、呆れが声や表情から溢れ出している。
「儂とて抱かれたいわけではないぞ!」
 敏感でなくとも感じられるその態度に、カレンティンシスはまた怒り喚く。
「では止めようではないか」
 両性具有は近親者に惹かれる傾向が強いことをカルニスタミアは思い出す。ザウディンダルは近親者のデウデシオンに惹かれ、またデウデシオンもザウディンダルに惹かれたので丸く収まった ―― そこに至るまで簒奪未遂を含む紆余曲折が含まれる ―― だが、残念と言うべきか普通と言うべきか、カルニスタミアはカレンティンシスに対して肉親以上の感情は持つことができない。
 両性具有だと知ったことで、少しは体調を気遣ったりするようにはなったが、カルニスタミアにとってカレンティンシスは根本的に実兄。
 どれほど顔が美しかろうが、色気があろうが、カルニスタミアはそれを感じ取ることはない。鈍感と誹りを受けようともカルニスタミアは実弟であって、実兄をそのように見ることができないのだ。
「止められんから言っておるのじゃあ!」
「……そんなに欲求不満ならば、ほれ、新しい情夫にでもな」
「新しい情夫じゃと! 儂は古い情夫などおらんわ!」
 カルニスタミアは湿った髪をかき上げながら、天井を仰ぐ。この口やかましい兄貴をどうしてくれようかと ――
「儂は貴様を憐れんでじゃなあ!」
「むしろ、今、兄貴が儂に憐れまれておるぞ」
「貴様! 儂を誰だと思うておる!」
「テルロバールノル王」
 カルニスタミアの態度に怒りを覚えたカレンティンシスが湯で濡れている床で地団駄を踏むと、そのまま足を滑らせて背面を床に強かに打つところであった。
 ”なんで滑らないように作られている床の上で滑るんじゃ”
 カレンティンシスの腰に腕を回し、そのまま自分に引き寄せて、顔をのぞき込む。
「理由を教えてくれ、理由を」
 言わなければ容赦はしないとばかりに、抱き締めている腕に力を込める。
 温かな湯で温められている浴室の温度を下げるかのような冷たさを感じさせる声と表情に、カレンティンシスは少し息を吸い込み話はじめた。

「それはじゃな……」

**********


 ビーレウストによってラティランクレンラセオの元から強引に連れ出され、そのまま関係を結ぶことを強要されたカレンティンシスは、帝后宮のベッドの上でビーレウストにのし掛かられていた。
「待たんかい! 子供でもあるまいし」
 上着を乱暴に脱がされたカレンティンシスは、ビーレウストに”やめろと”と腕でビーレウストの上半身を押す。
 もちろんカレンティンシスの腕力ではびくともしないが、拒否を伝えるポーズを取ることで、
「わかった、わかった」
 相手に伝わる。
 体を離したビーレウストに、関係を持つ際に幾つかの条件をつけた。その一つに、カレンティンシスは自分は女王なので、抱くとしても男として扱うよう命じたところ、
「やっぱ女王は前は嫌いか」
 もう一体の”女王”と同じだと告げられた。
 ビーレウストも関係を持ったことのある、もう一体の女王といえばザウディンダル。
「やはり? とは」
「ザウディスは前には触らせなかったんだぜ。俺はまだしも、あんたの大事な弟王子さまにもな。エーダリロクから聞いた話じゃあ、処女なんだとさ」

 ビーレウストは騒ぎになることを知りながら、口を開き舌を出しながらそのことを教えた。その表情は悪戯する子供というよりは、相手を食らうことを切望する人食いの笑いにしかならなかった――

**********


「貴様! 情けないとは思わぬのか!」
 弟がザウディンダルのことを国よりも大切にしていたこと、国外追放の命令を下したカレンティンシスが誰よりも知っている。他の王家ならいざ知らず、王家に最も拘るテルロバールノルの王弟が、なにもかも捨てて帝国の両性具有に入れ上げたのだ。
 それなのに ――
「思わん」
 言われたカルニスタミアにしてみると、兄の怒りの理由は、納得はできないものの理解はできた。
―― 儂としては後ろは初じゃったから、それで充分じゃったのだが
 だが、自分がザウディンダルの女性の部分の初を手に入れられなかったこと、兄を抱かなくてはならないことの何処が繋がるのか? 勉強が出来るうえに賢くもあるカルニスタミアだが、皆目見当が付かなかった。
「貴様、玩ばれておったのじゃぞ!」
 カルニスタミアの両耳朶を引っぱりだすカレンティンシス。
「構わんと言っているじゃろうが。儂はそれで良かったのじゃ」
「なんでじゃ! なんで貴様の耳朶は柔らかいんじゃ!」
 湯船の中に投げ捨てたいという気持ちを抑えて、カルニスタミアは空いている腕でカレンティンシスの耳朶をつまんでみた。
「兄貴の耳朶も結構柔らかいと思うが」
 兄の耳朶のことなど、死ぬ程どうでも良いのだが、これで話が「抱け」から離れてくれればと考えたのだが、
「うおぉぉ!」
 カルニスタミアはカルニスタミアの耳朶に噛みついた。
 誘うような甘噛みからは程遠い、雄叫びを上げて照れ隠しに本気で噛みつく。
「兄貴、なにしとるんじゃ?」
 声をかけると、より一層誘うつもりらしく舌で外耳を舐めるのだが、噛みつくときの雄々しさが何処へ言ったのか? というほど控え目。
 カレンティンシスの性格から言って、誘うのは下手だろうことは分かっていたカルニスタミアだが、それにしても下手であった。
 性玩具といわれる両性具有とは思えないほどに。

―― テルロバールノルの血が性玩具を凌駕し……ザウディンダルもだったな

 一族の血がなせる技かと思ったが、ザウディンダルは初めての時から全て上手かった。誰にも触れられていないのに人を焦らし、そして熱を持った体は貪りたくなるようであり、庇護したくなるようでもあり……同じ両性具有なのに、雄叫びを上げて耳朶を噛みちぎろうとしているカレンティンシス。
―― 本人は誘っているつもりなのじゃろうなあ
 カルニスタミアはカレンティンシスの顎を掴み顔を引き寄せる。掴まれた腕の力に驚いて耳朶を解放したカレンティンシスは口づけられた。
 怒鳴り声ばかりあげているとは思えない、繊細な唇に深く口付けて声を奪った。
 驚きで声を失ったことを確認し、カルニスタミアは唇を離そうとする。だがカレンティンシスは離れる唇を逃がすまいと噛みつき、そして背中に腕を回してきた。

 唇に噛みついたのはいいのだが、耳朶と同じく柔らかく媚びるような物ではなく”腹減ってるのか?”と聞き返したくなるような有様。
 誘いに乗るつもりはまったく無かったカルニスタミアだが、ここで乗らなければどうなるか?
 カレンティンシスの顔を手のひらで覆い引き離し、
「分かった。命令に従う。では寝室に移動しようではないか」
「ここが良いのじゃ」
「……」
 早く終わらせたいという気持ちがカルニスタミアの全身を支配し、唯々諾々と従うことにした。湯が溢れ出し流れを作っている床に仰向けに寝かせて、愛撫を加えることにした。両性具有相手ならば、手間暇をかけなくとも最高の具合になるのだが ―― 手を抜いて”貴様、下手なのじゃな”と兄に言われるのは避けたいので、丹念とおざなりの間くらいの無難な愛撫を施しながら、徐々に下へと移動させて、問題の箇所へと指が辿り着いた。
 カレンティンシスは体を震わせ、上半身を床から起こす。湯を含んだ髪が、湯を弾いている白い肌にまとわりつき……残念ながらカルニスタミアの心にはまったくと言って良いほど響かなかった。
 それはともかく、カレンティンシスは足を開き、
「こっちで……」
 自分にはあってはならない”女性”の部分を指で控え目ながらも開き誘う。
 実兄の女性器だというだけで気分が盛り下がり、なおかつそこは幼児と児童の間としか言いようのないくらい未発達であった。

 カレンティンシスが誘った理由は、弟が長い事尽くしたのに「絶品」と賞される両性具有の全てを堪能する事が出来なかったと知り、弟のことを思い、自分の身を差し出したのだ。カルニスタミアとしては要らなかったのだが、兄が思いついてしまったので仕方がない。

 ラティランクレンラセオの拷問映像は、実はほとんど関係していない。珍しく自分とカルニスタミアが二人きりで裸になったので、ちょうど良い機会だと ―― うおぉぉぉ! ―― 誘ったのだ。弟以外には誘ったとは思ってもらえない誘い方法で。

 成人女性を好むカルニスタミアは”つるつるな兄貴のヴァギナ”を見て、
「貴様。どうしたのじゃ!」
 なんとか硬度を持ち始めていた男性器が、一瞬にして通常状態に戻った。
「兄貴! 兄貴は自分が陛下のちんこを、一気にしおしおにしたの忘れたのか!」

 シュスタークが初陣に向かう途中、ロガに手を出そうとして我に返って、勃起したまま逃走し……それをどのように処理するかという場面で、カレンティンシスが乗り込み「儂が口で!」と叫び……される前に、シュスタークは己の意志だけで瞬時に元に戻した。それはもう射精寸前から、まるで何事も無かったかのように。吐き出すこともなく、見事なまで華麗に。周囲に居た者たちは「さすがカレンティンシス王」と、称賛の欠片もない言葉でカレンティンシスを称賛した ―― という実績があった。

「貴様と陛下を比べるわけなかろうが! 貴様、調子に乗るな! カルニスタミア」
「そういう意味じゃねえのだが……こっちな?」
「そうじゃ」
 カルニスタミアは「兄貴のヴァギナかあ」と、矛盾したことを内心でぼやきながら、自分自身の硬度を取り戻すために散々苦労してやっと「ご命令通り」に中へと深く身を沈めた。
 通常の女性のそこよりも実際格段に善いのだが、吐息を漏らしているのが自分の兄故に、カルニスタミアは内部を堪能することなどなく、

―― 内側で出すまえに萎むのだけは避けるのじゃ……避け……兄貴じゃあ

 必死に自分自身の硬度のことだけを考えていた。
 カルニスタミアはどうしてもカレンティンシスが”可愛い”とは思えない。一度兄だと思ったら、考えを変えることなどない。まさにテルロバールノル王家の頑固さを発揮していた。
 何度も腰を打ちつけ、カレンティンシスが吐精すると同時に内部が強く痙攣する。それに身を任せてカルニスタミアは内側に精液を放った。
「これでいいか? 兄貴」
「儂が気を失うまで攻め抜け!」
「なんでじゃ!」


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