09

 ラニエが懐妊した噂は直ぐに耳に入った。ダンドローバー公はそれなりの情報網を持っているので……なくても直ぐに耳に入るでしょう。半年を過ぎた今は、全くラニエのことなど忘れていたのが真実です。特に興味もなかったのですが、突然ふってわいてきたような出来事が。
「ラディスラーオ陛下の側近と言われるリドリー・デ・グラショウ参事官を知っておいでか?」
「何度か見た事はありあます、会話した事は殆どありませんよ」
 私は殆どの男性とお話をした事はございません。身分上、私が『話して宜しいです』などと声をかけない限り相手は口を開きませんので。そして別に私と話をしたいという方もおりませんでしたのでね。
「グラショウ参事官はリガルドの友人でして、その参事官から打診があったそうです」
「何の打診ですの?」
「生まれてくるラニエの子、これは陛下の子として認められるが皇位継承権は所持させない方向らしい。あくまでも、貴方の血筋に乗せるつもりだろうが。そうなればそうなったで、爵位の一つでもくれてやるんですが、その候補の中にパロマ伯爵家が入ってましてね」
 パロマ伯爵家が選ばれれば大変な事です。皇帝の最初の子が継ぐ家ともなれば、人々の耳目を集めてしまいます。そうなれば……
「もしもパロマ伯爵家が選ばれましたら、皇后陛下には悪いのですが……」
 そうですね、確かにそうですが……
「パロマ家が選ばれなければ宜しいのですよね!」
「そうですが。一応名家ではありますし、唯一の血縁はこの通り、独身主義者ですから」
「では簡単です。私が陛下に直接お会いして話をしてきます」
 冗談ではありません! 折角楽しくなってきたのに、やっと外の生活にも慣れて市民大学へも通おうとしている時に、宮殿に篭らなければならないのですか! 確か皇室の法典には実子でなくとも配偶者が認めれば皇位継承権を所持する事ができたはずです。パロマ伯爵家を名乗られるくらいならば、皇帝にでもなっていただいた方がよほど困りません。
 その想いが私を後押しして、行動を起こさせました。始めて陛下の執務中に会いに向かうという事。共に執務する皇帝と皇后なども存在した事例はありますが、私には関係ございません。この先も共同統治などする気もありませんが。
久しぶりに見る陛下は特に変わった事はありません。
「陛下、ご子息のご誕生おめでとう御座います」
「イヤミか?」
相変らずの喋り方ですこと。別に構いはしません、構っている場合ではないので。
「そう聞こえるのでしたら私の不徳の至りでしょう。お忙しい陛下のお時間を割くわけには行きませんので、直ぐに終わらせます」
「そうしてくれ」
「ラニエの子を正式な子として迎える事を私は認めます。いえ、むしろしてください」
「お前にとって何の得がある」
……まさかそう返されるとは……。普通は自分の子が皇位継承権を得れば直ぐに喜ぶものじゃないのでしょうか? これが陛下の用意周到と言われる所以なのかしら? 私は頭をフル回転させて
「私にとっての理由など……陛下が最もご存知でしょう? 帝王の血を引きながら継承権を持たなかった若き男爵は今何処においでですか?」
 とりあえず事実だけを述べてみました。陛下の子だったら、継承権を剥奪して野に下らせていたらまたのし上がってくるかも知れませんもの、ねえ。
「下がれ」
「はい」
 何とか謁見を終えて一息ついて、これでパロマ伯爵家が選ばれない事を願う事にしました。
 私の意見通り、陛下はラニエの子に継承権を与える発表をしました! それをTVで一人で見ながら思わずガッツポーズを取りました。これからも陛下と女性の間に子が生まれる事になったら、全部認めていきましょう。

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