我が名は皇帝の勝利


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 ん〜特に策があったわけじゃないけど。こうなるとは思ってなかったぞ、俺も。
 俺が勝手に人手として調達したアグスティンとアーロンなんだが、そこにキサ……自称キャサリンが混ざって大変な事になってる。
 アグスティンはキサを気に入った……父親に似たらしい。だけどキサはアーロンが好きで、アーロンは皇后しか見えてない。でもって、皇后はメセアが気に入ってて……これ以上は進まないから大丈夫。これでメセアがアグスティンに被ったら、惨事になるところだった。
「メセアさんが大人で良かったよ」
「何言ってやがんだ、デイヴィット。あの殿様連中をどうにかしろ」
「いやームリムリ。まっさか、こうなるとは思ってもみなかった。キサ“が”カミラにアーロンの好きなものを聞くようになるとは」
「女は変わり身が早いんだよ、俺のお袋みたいにな」
 開店前の酒亭で、こうやって毎日騒いでいる訳だ。グラスを傾けながら、夕暮れ前のこの時間に……尋ねてみるか。
「どう思う? アンタも似てないと見るか? アグスティンと……」
「昔、同時期に来てたアル中で住所不定男……無精髭生えてて、死んだ魚みたいな目してた。お袋がいなくなって二年後に、劇場の側で凍死したよ。全く似ちゃあにねえけどな、きりりとした佇まいと冷酷さの向こう側にある飽くなき“何か”……いいか?」
 この兄はずっと気付いてたんだ。メセアって男はラディスラーオと名付けられた男が……
「大した御方だと思わんか」
 あの人は伯爵家を踏み台にして、自分の力で男爵の位を得て、そして皇帝にまでなった。
「大した男だとは思うさ」
 あまり好かれる人じゃない、ラディスラーオ陛下は。それでも誰も文句は言わない、それは皇后を妻にしている事と、あの人自身がとても有能だからだ。
 それはご自分も良く知っておられるのであろう。
「肩の力を抜けなんて、簡単な言葉をかけてやれる相手じゃねえから……一生歩み寄る事がないだろうけど……弟ではある」
 複雑なモンだ。
 俺がパロマ伯爵家から養子に行った時の兄貴の表情に似てるな。寂しいってか……なんてか
「おい、デイヴィト。俺も聞きたいんだが」
「何だ?」
「カミラ……から前髪貰ったんだが、どうしたらいいんだ?」
 皇后陛下の前髪……俺は振り返って皇后陛下を確認すると、あのワンレングスだった髪型に変化が。眉の辺りで綺麗に切り揃えられてる……渡したって事は、ご存知なんだよな?
「どうした、デイヴィット? 変な顔して」
「そ、それな……」
 俺は、ゴクリと唾を飲み込む。それな……それは……
「別に法的な拘束力はないが、その……初めて前髪を切り揃えたその髪を、初恋の人に渡すっていうのがな。大体は、その結婚する相手に渡すんだが」
「待てよっ! おいっ! 返すぞ! これっ!」
「折角だから貰っておけよ。別に……多分、アンタの兄はカミラの髪型が変わった事すら気付かないから平気だろ」
 陛下、全く皇后のレンペレード館に足を運ばない……。まあな、何度「先触れ」が館に行っても返事がないから、それ以上の付き合いがない。館で出迎えたりさせれば良いのかな?
 悩んでも悩んでも、決まらんなあ。おまけにアグスティンとアーロンは訳の解からない恋に巻き込まれてるし、救いと言えば最近俺に対するファドルの態度が軟化した事くらいか?
 何で軟化したのかは、解かる。アグスティンとアーロンが原因だ。俺、何時も一人でファドルの家を訪れてたが、最近この二人も一緒だろ。それで、若干勘違いしているらしい……俺はあの二人は好みじゃないから、安心しろ……と言うか言わないかを今悩み中。
 皇后と皇帝の夫婦仲じゃなくて、俺の方が進展してどうする? それは確かに嬉しいが……
「おい、そろそろ開店時間だから行くぞ」
「また来てね! アーロン!」
「カミラ……が来るなら」
 相変らず表情が硬いな、アーロン。
「俺も来るから」
「それではまた来ますから、メセア!」

 どうやったら、収拾がつくか。リガルドに言ったら怒るだろうし、少し考えるかファドルの家で

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