剣の皇子と偽りの側室【05】

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[登場人物紹介]

【お題】
 結婚目前の彼女が自損事故(雨の日に車を運転中、スリップして電信柱に激突・即死)で死んでしまった。
 嘆き悲しむ彼は叫ぶ「誰か、彼女を生き返らせてくれ! どんなことでもするから! 代わりに俺が死んでも……世界が滅んだって構わない!」

【01】悪夢師ローゼンクロイツ
「誰か、彼女を生き返らせてくれ! どんなことでもするから! 代わりに俺が死んでも……世界が滅んだって構わない!」
「その望みを叶えてやるよ」
 現れたのはローゼンクロイツ。
「本当か!」
「ああ」
 彼は目を覚ました。カーテンの隙間から眩しい朝日が差し込んでくる。枕元に置いている目覚まし時計代わりの携帯電話を手に取り彼女へと連絡する。
 朝早くの電話に彼女は驚いたものの、
「そんなに心配なら、これから会おう」
 笑って許してくれた。
「ああ」

 彼は彼女と会い、抱き締めて現実だと実感し、彼の幸せな時間は永遠に続いた ―― 彼が【死んだ彼女が生きていると言い続け、妄想世界の住人となった息子の将来を悲観した両親に殺害される】まで。

【02】骸師パラケルルス
「誰か、彼女を生き返らせてくれ! どんなことでもするから! 代わりに俺が死んでも……世界が滅んだって構わない!」
「本当に生き返らせるだけでいいのだな?」
 パラケルルスそう言い、彼女の遺体に触れる。
「ああ!」
 パラケルルスは彼女を生き返らせた。
 事故で破損した体はそのまま。
 生き返った彼女は手術室に運ばれたが、即死するほどの大怪我。医者にもどうすることもできず、だが彼女は死なず、そして傷が治ることもなく。
 ”死なせて”と叫び続ける彼女
 その彼女を見ていられなくなった彼は自分の責任だと、彼女を解放するために手で首を絞めたが死なず……
 彼女を抱き締めて飛び降り自殺をはかったが、二人とも死にきれなかった。彼女は今も死ぬ程の苦しみを、彼は頭ははっきりとしているが意思表示が一切できぬ状態に。
 そしてパラケルルスはやってきた。

「やはり”死んで生きている”のは美しいが”生きて死んでいる”のは醜いな。お前たち二人を見てより実感したよ」

【03】呪解師テオドール
「誰か、彼女を生き返らせてくれ! どんなことでもするから! 代わりに俺が死んでも……世界が滅んだって構わない!」
「大雑把だね」
「誰だ!」
「私が何者であるか? それは君が喚んだ者だ」
「喚んだ?」
「私は彼女を生き返らせることはできる」
「じゃあ、生き返らせてくれ!」
「分かったが代償を貰う」
「なんでも!」
 彼はなんでも”望まれたら”渡すつもりであった。
「君が決めるんだな」
 だがテオドールは彼に決めさせることにした。
「え……」
「君が死ぬのか、それとも世界を滅ぼすのか? どちらにするのだ?」
「あ……あの」
「どんなことでもするのだろう? だから君が決めるんだよ。君が提示した条件のどちらかで良い。自分が死ぬか、世界を滅ぼすか? 死に方や滅ぼし方も君が提示してくれ。私は一々考えるのは面倒なので。事細かに決めてくれたまえ。適当は私がもっとも嫌いとするところだ」

 彼は怖じ気づき、彼女は死んだまま ――

【04】?
「誰か、彼女を生き返らせてくれ! どんなことでもするから! 代わりに俺が死んでも……世界が滅んだって構わない!」

「やだ」

【05】剣師ノベラ
「誰か、彼女を生き返らせてくれ! どんなことでもするから! 代わりに俺が死んでも……世界が滅んだって構わない!」
 言い終わると同時に彼は真っ二つに斬られて死んだ。
「生き返ることを期待するより、死んだほうが早いし確実だよ」
 遺体安置室に転がった彼の遺体。検死解剖が行われたが、なににより切断されたのかは、謎のままである。

【06】呪解師テオセベイア
「誰か、彼女を生き返らせてくれ! どんなことでもするから! 代わりに俺が死んでも……世界が滅んだって構わない!」
「なんでそんなに労働させようとするの?」
 テオセベイアは不機嫌さを隠さずに彼の望みを突き放した。
「ろ、労働?」
「そうでしょう。死んだ人間を生き返らせた上に、あなたを殺したり、全世界を滅ぼしたり、すごい労力がいるじゃない」
「それは……」
「世界を滅ぼすより貴方の命を貰ったほうが簡単で楽よね。じゃ、貴方の命、貰うわ」
「ま、まってく……」

 そして彼女は生き返った。

【07】?
「誰か、彼女を生き返らせてくれ! どんなことでもするから! 代わりに俺が死んでも……世界が滅んだって構わない!」

「自分でどうにかしろよ、屑が」

【08】妖蛆師ゼノヴィシャス
「誰か、彼女を生き返らせてくれ! どんなことでもするから! 代わりに俺が死んでも……世界が滅んだって構わない!」
「じゃあ生き返らせる代わりに、世界を蛆に食わせる。お前ごとな」

 彼女は生き返った。誰もいないどころか、動物や植物、食糧が皆無となった世界に取り残される。そして彼女は一週間ほどして衰弱死した。

【09】錬金術師リュドミラ
「誰か、彼女を生き返らせてくれ! どんなことでもするから! 代わりに俺が死んでも……世界が滅んだって構わない!」
「本当だな」
 現れた女は彼女を生き返らせた。彼は抱きつこうとしたが、彼女は彼の目の前から消えた――
「彼女は何処へ?」
「異世界の生贄に」
「どうして!」
「生き返らせる……までしか言っていなかっただろう? 生き返らせたあとのアレをどうしようと、私の勝手だ」
「彼女を返してくれ!」
「死んだらこの世界に返してやろう」

 彼女の遺体は遺体安置室から消えてから一年後、異国のオフィスビルの備品倉庫の段ボール箱の中で見つかった。身元が判明するのに、それから更に三年を要した ――


【10】呪解師テオドラ
「誰か、彼女を生き返らせてくれ! どんなことでもするから! 代わりに俺が死んでも……世界が滅んだって構わない!」
「いいですよ」
「本当か」
「はい……はい、どうぞ」
 生き返る彼女。驚き、そして喜び抱き締める彼。
「それでは」
「待ってくれ」
「はい、なんでしょう?」
「どうして生き返らせてくれたんだ?」
 彼は代償を求められるのではないかと、彼女を庇うようにしてテオドラに尋ねる。
「生き返らせてと言ったから」
「代償は?」
「ありませんけど」
「どうし……」
「彼女が生き返っても、大したことないので。貴方と生き返った彼女の子孫は、地球が滅びるまで世界の大局にはなんら関係なく、世界を変えるような発明に関わるわけでも、人助けをすることもないので。もちろん子孫だけではなく貴方がたも然りです。代償を求められる人というのは、生き返ったことで未来が代わる可能性がある人だけに求められるものです。ご安心ください、貴方がたとその一族は未来永劫平凡です。世界にとってはどうでもいい存在ですので」

 立ち去るテオドラ。残された彼と、彼女。視線を合わせない――二人とも”平凡でいいじゃない”と自らに言い聞かせながら生きたが、はっきりと「世界にとってどうでもいい存在である」と言われたことから後に生きる希望を失い自殺。

「テオドラ、ひでぇな」
「私のどこが悪いのですか? ローゼンクロイツ。みんな平凡が良いと言っているじゃないですか。未来永劫平凡ですよ。最高の未来でしょう」
「まあ……なあ」


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