PASTORAL −43

「ルライデ大公・デルドライダハネ王女特別編−王か王妃か王婿か」

「そんな小さいお家いやぁぁぁぁぁ!」
 こんにちは、ルライデ大公です。私、帝星防衛主任の座を降りまして、辺境の開拓惑星の税収を上げるために派遣されました。辺境相です、左遷されたかの如き役職ですが左遷ではありません。ですが……辺境なので、住居が小さいのです。
 辺境を管理する為に設けられた辺境開発庁がおかれている惑星は、周囲の百年近く以上経っても未開な惑星よりはマシなのですが、
「部屋が80しかない屋敷ではねえ」
 下働きの家……くらいでしょうね、帝星でこれでは。
「ですがルライデ大公殿下、この惑星にはこの家しかありません」
 私は良いのですが、妻でありますデルドライダハネ王女が嫌だと申されまして。いや、此処まで付いて来てくださるとは思っても居なかったんです。でもね、
『陛下から拝命した任なので、赴かぬわけには行きませぬ』
 と言った所、陛下に忠実であらせられるデルドライダハネ王女は同行してくださったのですが……住まいが。
「お庭もないし!」
 庭はありますが、小さいだけです。クリケットが出来る程度(半径100m)しかありませんが、庭はあります。
「湖もないし!」
 ありませんねえ、残念ながら。
「機動装甲鍛錬所もなければ、重力制御白兵戦鍛錬所もないじゃないぃぃぃ!」
 あれは高価ですからね、作るのも維持するのも。というか、それが必要な人は辺境にはおりませんから。むしろ辺境においておきませんから、即座に首都に呼ばれますので。
「こんな所はいやぁぁぁぁぁ!」
 という訳で、私は単身赴任です。
 いやね、近くの惑星(惑星七つほど向こう)バステス館という結構見られる館があったので(部屋数500程)其方を買い上げてデルドライダハネ王女に住んでいただいて、私は其処から辺境開発庁まで宇宙船で通う事にいたしました。移動に最高速船を使用しても丸一日かかりますが……なにか? 
 周囲の人には“大変ですね”と言われますが、そうでもありません。宇宙船の中でも仕事はできる訳ですから、それに姫のご機嫌を伺うのも夫……ではないですね、大公の仕事ですから。まだ夫ではありません、それもまあ仕方のない事です。
 姫が好きなのはサフォント陛下ですので、私では足元にも及びません。
 姫は強い方が好きなのだそうです、握力120オーバーの姫(エバカインより強い)。私より小柄で腕も細いのですが、さすが父君がリスカートーフォンの出身の事はあります。私握力80切るんですよ、姫と結婚してから毎晩鍛えてるんですが中々……ふう……人間鍛えても限界というものがあるのですよ、越えられない壁ってヤツですよ。
 あ? サフォント陛下ですか? 陛下は200……250? 280? 360? これはサスガに違うような気が……でもサフォント陛下ですからね……幾つでしたっけね? まあ、近衛兵団の上位は全員握力は150は軽く越えてますので。
 あの人達は鉄の塊くらい握りつぶしますから、笑顔で。ゼンガルセン王子とか何が嬉しいのか、素晴しい笑顔で頭蓋骨握りつぶしてらっしゃいますから……それはいいんです、人の自由ですから。
 そんな日々を二ヶ月程過ごして、私は出張に向かう事を告げました。
「何処に行くの?」
「はい、アムラゼイラ開拓惑星群の775星に届け物をしにいってまいります。戻ってくるのは二ヵ月後になりますので」
「なっ、何で貴方が行くの? 仮にもここ一帯の主でしょう! 他の者に任せればいいじゃないのよっ!」
「ロガ兄上様に頼まれたのです。775星で会った方に約束したのだそうです、医療艦隊を届けると。医師も一人しかいないそうで、辺境で医療に従事しても良いという医師を集めたりと」
「行くわよ」
 立ち上がって姫がスカートを払っておられますが……
「姫もご一緒してくださるのですか?」
「ゼルデガラテア大公殿下の名代が貴方一人じゃ不足でしょ! アルカルターヴァの王女である私が同行するくらいしなければ。別に貴方が二ヶ月間も帰ってこないのが寂しいわけじゃないんだから!」
 はあ……そうですか。サフォント陛下の名代でしたら私一人で不足ですが、ロガ兄上様の名代も……不足かもしれませんね、今はもう皇君ともなられたお方ですから。

 因みに、姫の側仕えから聞いた所によりますと
『今日、ルライデ帰ってきたりするかしら?』
『今日は帰宅日でありませんので。ルライデ大公殿下は真面目な方ですから、職務を投げ出して帰ってくるようなことはなさらないかと』
『そのくらい知ってるけど! かっ! 帰ってきても、たまには……帰ってきたら職務怠慢で殴って職務にかえしてやるわよ!』
 こんな会話が結構毎日なされているそうです。

私、姫に殴られたら死にます。

「ええ、存じております。姫が同行してくださると心強いです。何でも、ロガ兄上様があの惑星に下りたのは、宇宙船が撃ち落されたからだそうです。その際の打ってきた賊の殆どはロガ兄上様が討伐したそうですが、数名は逃れたのだとか。ロガ兄上様も掃討なさりたかったのだそうですが、帝星に帰還して報告しなければならないことがありましたらか、後ろ髪を引かれる思いで旅立ったそうです」
 マイルテルーザの事を報告する際の出来事です。
 兄上が御報告下さったお蔭で、私は彼女と結婚しなくて済みました。
 基本的にマイルテルーザは好みじゃなかったんですよ。言ってはいけない事ですが実はデルドライダハネ王女が好みでした。もちろん彼女は皇后になる予定でしたので、それ以上は考えませんでしたが。本来結婚する予定であったロザリウラ=ロザリアよりも。
 今だから言える事なんですけどね。
 姫が皇后になられていたらそう想っているだけでも大変な事になりますので。
 そうそう、イネスの罪人三名は死亡したそうです。サッパリいたしましたね。
 なぁにが「男が苦手で、家族以外の男性と目も会わせた事のない令嬢(クラティネ)」ですか! 死にくさりやがって上等でありやがります! ……ごほんっ、失礼しました。
 でもね、しゃしゃり出てこなければ良かったんですよ、イネス家。四大公爵の縁戚だから正妃になれるとかなんとか……他のカロラティアン伯爵家にだって姫はいたのに(もう結婚してしまいましたが)
 大体、イネス公爵家とカロラティアン伯爵家(副王家)だったら、カロラティアンの方が名家であるわけですから、引くべきであったでしょうに……だから最後で誰も庇ってくれなかったんですよ。伯爵はケシュマリスタ王領で絶大な信頼を得てますから。
 それはさて置き、ロガ兄上はミサイル攻撃施設を破壊した時点で、謝罪して帝星に戻る事にしたのだそうです。彼等の生活も大事ですが、帝国の大事もありますので。それに残党だけならば、彼等も何とか抵抗できるだろうと……それでもロガ兄上はご心配してらしたので。
「そんな所に“ひ弱”で“惰弱”で“軟弱”な貴方が一人で行ってどうするつもり。私が行かなければダメでしょう、付いてらっしゃい」
 “ひ弱”と“惰弱”と“軟弱”のところが強調されているような気がするのですが、姫から見れば“ひ弱”で“惰弱”で“軟弱”ですから仕方ないでしょう。
「早くしなさい!」
「あの……姫のご準備は? 何もない未開の惑星ですよ? 充分に準備していかないと不自由な事がたくさん……」
「出来てるわよ、そんなもの! そろそろ貴方の駐在している惑星に行こうかなと思って準備していたわけじゃないから!」

 そんな訳で行って参ります。

backnovels' indexnext