PASTORAL −7

 三正妃との成婚がつぶれた経緯と、イネス公事件の顛末。それら詳細を語って下さると仰られた兄上だが
「しばし待て、金星公が訪れる予定となっている」(金星公:ケスヴァーンターン公爵の別称)
 そう言われたので、待っていた。そして座って待つ事、一分もしなかっただろう。
 ケスヴァーンターン公が訪問して、俺に対して軽く詫びを入れてた。配下の不始末だから、謝罪したくなくても謝罪しなければならない。
 格下皇族に頭下げるのは、嫌だろうなあ。自慢のお綺麗な顔立ちに、ヒビはいりそうな状態だ。
「私の方は、もう」
 それ以前に、まだ何が起こったのか全く聞いていないから、どう返事をしたら良いのかも。別に、ケスヴァーンターン公も、特に俺に謝罪したかった訳ではないはずだ。
 普通の場合なら、屋敷の方に呼び出して謝罪風の口封じの脅しをして、品物を持たせて終わりだろう。態々此処に来て、謝罪しているのは言うまでもなく兄上へのご機嫌うかがい。
「次は帝国一の美姫を遣わせるのだぞ、カウタマロリオオレト」
 相変わらず呼び辛い名前が多い一族だよな。カウタマロリオオレト……とても名前には聞こえない(兄上達とは従兄弟同士)
 謝罪を終えたケスヴァーンターン公が退出すると、今度は召使達がわらわらと沸いて出てきて、着替えをさせ始めた。
 正装を解いて、再び椅子に座った所、話が始まった。俺が予期しない方向に。
「調べた所、二年間無聊を囲っていたようだな」
 何処まで調べられたんだ……後ろ暗い所はないから良いが、前向きな部分もあまりないが。
 それにしても女遊びをしていなくて良かったような、全くしていなかったので少しばかり恥ずかしいような。
「はい。婿として出向きましたので、間違いなどがありましたら、陛下にご迷惑をおかけしてしまいます故」
「それがあの者共に拍車をかけたようだが、良い判断だと言えよう。余の相手を務めよ、二年間の無聊を余が慰めてやろう」
 ……『良い判断だと言えよう』『余の相手を務めよ』この間に、何かあるものでは? むしろあって欲しい! あったところで何の解決にもならなそうだな。
 二年間やっていなかった事を憐れに思われたようだが、普通はそこで相手(女性)を寄越すが普通では? いや、それ以上にまさか! 無聊慰めるって! えっ!
「いえ、結構至極に存じ申します! 陛下がそのようなお心遣いを臣に下さるとは! ありがたく頂戴いたしますが、謹んで辞退させていただきたい所存でございます!」

 何言ってるんだろう(自己嫌悪)

「安心せよ、別に余を抱けといってるわけではない。……奉仕してもらうか」
 ごめん、全く会話がかみ合ってないけれど、陛下を抱くわけではないのね……それだけで頑張れそうだ、奉仕って、奉仕?



 結果、どうなったか?



「顎は一度外れるとクセになりますので、お気をつけください」
 だって陛下、中々イッて下さらないんですもの(アホな丁寧語だとは解かっている)
 初めて拝見させていただいた(出来れば一生拝見したくはなかったが)それは、ご立派でご立派で。ありがたくも手袋越しに触らせていただきました(一生触りたくはなかったけれども)
 太さも特筆するべきでしょうが、それ以上に長さがとてもとても。
 平均的な男性の特徴を備えている俺の口でも辛いくらい長さが。その長さが辛くて、それでもまあ……バカ正直に口の中に入れてたんだが、思えば舐めるとかにしておけば、顎を外すハメにならなかったものを。
 俺の下手さもあるんだろう(下手で全く結構だが)もっと早くに終わらせられれば、こんな事には……努力したし、そこら辺が良いと思ったんだが違うのかな?
「ゼルデガラテアは元々綺麗な顔立ちだが、顎が外れても悪くは無いな」
 それに兄上は絶対自分で完全にコントロールできるに違いない。アレだけ刺激与えたら、少しくらいは先走りが出るのに、一切そんな感触……ってか味がなかったから……最も知りたくは無いがっ!(力説!)
「確かにお綺麗ですね。顎が外れてこれ程整っておられる方も珍しいです」
 追従してないで顎治せよ、医者! まあ、兄上のご意向に沿わないとやってられないんだろうがな、宮廷医師なんてさ。
 それにしても兄上はお優しいのか何なのか。髪を掴んで顔をスライドさせるような真似もなされなかったし(俺もした事はないが)……むしろしていただきたかったが。そうしたら、直ぐに終わった筈だ。間違いなく吐いただろうが。
 それをせずに兄上は、黙って奉仕という程にもならない奉仕をしている俺を見下ろしながら、淡々と三正妃候補との婚礼が潰れた経緯を話し始められた。 
 理路整然と語られていたようだ、何せ途中詰まるような所は一切なかったようだから。どうやら兄上は上半身と下半身が、俗人とは違う意味で別物らしい。

 そして確りと語っていただいたのだが、俺は必死。

 根元やらなにやらに手を添えて、必死に自分の口をスライドさせたり、舌を動かしたり。自分が上げる舌の音と、気を抜けば直ぐに喉奥に届いてえづいてしまうそれを堪えるのと、次はどうしようか? などを考えていて、三正妃候補がどうなったか殆ど聞いていなかった……今度、誰か別の人に尋ねてみようと思う。
 そして俺の奉仕は見事に失敗し、陛下にイっていただく前に(どう表現していいのか解からない……)顎が外れてしまった。
 他者の追随を許さぬ、稀有なる自制心をお持ちであられる兄上は、怒るわけでもなく黙っておられた。暫くしたら熱は引いたらしい、お見事です兄上……でも周囲に居た娘達は残念そうでしたよ。是非ともそれを収めたいと。
 何にせよ、色々な意味で尊敬申し上げます。
 その長さといい太さといい、持続性といい色、艶、形といい帝国の至宝と言っても過言ではありませんので、是非ともそれをお収めするのは帝国の子宮にお願い申し上げます、本気で。
 喋れない俺は、そんな事を考えながら治療されるのを待っていた。
 そして無事に治療された後、背後で兄上が医者に向かって命ぜられた。
「夜伽用の薬と機械を用意しておくように」
「大公殿下、ご経験はおありですか?」

問:……本気ですか?

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