PASTORAL −133

 余が皇后の事を語り終えた次、エバカインがデルドライダハネのサイコロを放り投げた。
 運を天に任せようと見ておったのだが、あの転がり具合から行くと『初めての射精』のようだな。
 乱数よ、余を萌え殺す気だな。敵はこんな所におったのか! ふっ、ゼンガルセン元気にしておるか? 余は主の凶刃に倒れる前に、乱数により此処で萌え死にそうだ。
 ゼンガルセンが生きている間、余は死ぬわけにはいかぬのだが、少しでも気を抜けば死にそうである。
 余の大事でありながら、最終兵器たるエバカイン。そなたに搭載されておる萌え・可愛らしさ・清らかさはどれ程のスペックなのだ? 余ですら計りきれぬ。
 サイコロを持ったエバカインは、頬を赤らめ上目遣いにして “言わなきゃダメですか?” といった表情を浮かべて。
 そなたの可愛らしい瞳と(鋭いと評判)可愛らしい鼻(鋭角です)マシュマロのような唇(まあそれは触れてみなければ解りませんね)がそのような表情を作ると、全宇宙の可愛らしさが此処に全て集結したかのようだ。
「あ、あの……その、か、語らせていただきます……」
 視線を落として項をほんのりと桜色に染め、語り出した。
 エバカインの語った日付は余がクロトハウセと共にエバカインの元を訪れた日。
 訪れたといっても、正面からではなく窓から侵入、普通に表現するならば不法侵入だが。
「お兄様はご存知ないでしょうが、私……お兄様が初陣から戻って来られた後の凱旋式を遠くから追ってたんです。よく見える場所を探して、人気のない高架橋を発見してそこから船に乗られてるお兄様を追っかけてたんですが、そこ建設途中で足踏み外して落ちてしまいまして」
 人が居ないんだから、気付いてもいいようなもんですよね……と頭をかきながら表情を崩すそなたは、あの日の受精卵と瓜二つ。
「知っておる」
 あの日の穢れ無き受精卵となんら変わらぬそなた。兄として! 嬉しいぞ!
「えっ?」
「そなたから余が見えた、それは言い換えれば余からそなたが見えた。そうではないか?」
「あんなにたくさん人が居たのに……ですか?」
「はっきりと見えた」
 もうはっきりと言うよりは、ズーム・アンド・余がデストロイしてしまいそうな状態であった。
「み、見えてたんですか……そ、そうでしたか」
 照れやすいそなたも可愛らしくて、可愛らしくて。ああそうだ、そなたは受精卵の頃からはにかみやであったな。
「嬉しかったぞ。そなたが必死にこちらを向いて走ってくれていて」
 解っておる解っておる、そなたは受精卵の頃から照れやすく控えめであった。
「……なんか、とても嬉しいです……あーでも恥ずかしいなぁ」
 そして成長した今は、本当にうっとりとしてしまうほどに可愛らしい。どうしてそれほどまでに小さく儚げであり、清らかながら艶を感じさせてくれるのだ、エバカインよ。
 それでエバカインの精通だが、どうも余が剥いた際に僅かに触れた事が関係しておるようだ。
「お兄様の夢を見て、興奮……へ、変な意味ではなくて! その……なんか、その……今にして思えば、お兄様が傍にいるような雰囲気が」
 思いっきり傍におったし、触っておった。どうもそれが誘いの一つになったようだ。
「……つ、都合のいい夢を見たと言いますか、あの……お兄様に 『好き』 に近い言葉をかけてもらった夢を見て、いい気分になって……すごい失礼なのですが」
 全く。むしろ舞い上がって転ぶかの勢いで嬉しい。
 そしてそれは「エバカイン、愛しておるぞ。今度会った時は、何をして遊ぶ?」がエバカインの夢の中にまで入り込んで影響したのだろう。良かったのか悪かったのか判断は付かぬが、これだけは誓おう。
「好き、で良いのか? 夢の中の余は[好き]ではなかったと思うが」
 エバカインよ、兄は責任を取る!
 そなたの精通を呼び起こした責任は取る! この先そなたが射精した精液は全て余が確りと口で処理しよう! 手でいかせた際も舌で舐め取り、行為の最中は最低でも二度口でいかせよう!
「えっ……は、はあ」
「余は夢の中でもそなたに向かって[愛しておるぞ]といった筈だが。夢の中での言葉に先を越されたようになるが、愛しておるぞエバカイン」
「え、あの……」
 簡単には信じてもらえぬであろうが、余はそなたの事を愛しておる。

− あの頃は、お兄様が私を皇族に迎えてくださるとは、夢にも思っておりませんでしたので。ならば自分で拝見できるように努力しようかと……考えておりました −

 そのような思いをさせていた日々を、ゆっくりと埋めていこうではないか。
「私もお兄様の事、好き……あ、愛しております……といってもよろしいでしょうか? 家臣の分際で」
「家臣などと言うな。確かに家臣ではあるが、余は誰よりも愛しておる」
「ありがとう……ございます」

 ああ、その笑顔! す、好き……意識が遠のきそうだ。

*************

「お兄様、そこをくちゅくちゅして」
 その棒読み加減、それもまた可愛らしい。
 現在エバカインに書かれておる文章を朗読させ中である。
「あーん、そんなことされちゃったら、壊れちゃうー」(棒読み)
 必死に書かれた用紙を見ながら、
「おにいさまあ、もっとちゅう? してえ?」(疑問的棒読み)
 役者の感情のこもっておる演技も良いが、エバカインのこの棒読みには叶わぬ。
 次は禁断のアレでいこうか。
 エバカインに新しい紙を渡すと、首を傾げつつも必死に音を紡ぐ。
「らめぇ? みる、くがれ、ちゃ? うの?」(カタコト発音棒読み系)
 このたどたどしさもたまらぬな。
「あの、お兄様、この言葉の意味は?」
「古代言語の変種で “止めてください” という意味だ」
 かなり局地的な言語である上に、意味は嘘だが。
「へえ。“らめぇ、みるくがれちゃうのぉ” で “止めてください” というのですか」
 兄は本当の事が言えそうには無い。
 くっくっくっ、本当に人を疑わず、純粋な目で余を見てくれるなエバカイン。
「古代言語はごく限られた者しか知らぬ故、あまり口には出すな、余の前では幾ら言っても構わぬが」
「はい! よろしければこれらの言葉お教えくださいませ。確りと理解できるようになりたいので」

 全て発音されたら、余が! 余が! 喃語系万歳!


backnovels' indexnext