PASTORAL −128

 萌えである。
「お兄様、これは?」
「ロガ皇后が着用したウェディングドレスを復元、そなたのサイズにしたものだ」
 シャンパンゴールドのシルクオーガンジーとタフタ、そしてオフホワイトのレースで作られた、プリンセスラインのウェディングドレス。
「は、はあ……」
 帝国の “ドレス復刻” に一役買ったロガ。奴隷から皇后となった、余の祖先にあたる人物だ。
 男女の性差がほぼ無くなった帝国では、着衣も男女同じである。背の高さも体格も、男女差などない現在では当然だが、階級で体格差は存在する。特にロガは奴隷であった為に背が低く(173cm)それを妻として迎えた皇帝であったシュスタークは2mを優に越えていた。
 特にロガは肩幅もなく、体の厚みもない。良く言えば華奢、悪く言えば貧相。生まれと育ちからして、その体格は仕方のないことなのだが。
 二人が並んだ際に、ロガが貧相に見えぬようにと当時の帝国宰相は考え、ドレスを復元する事にした。
 男女の違いない婚礼衣装を着ていた当時、突如バルコニーに現れた豪華なドレスを纏った奴隷出の可愛らしい皇后を前に、人々は熱狂し貴族階級では日常服におけるドレス復古が起こった。それは現在でも続いておる。
「ロガ皇后は似合ったでしょうが、私は……」
「中々に似合っておるぞ」
「そ、そうですか……あ、ありがとうございます、です」
 色彩は文句なしであるが、やはりデザインが幼いな。
 ロガは結婚したのは十七歳になったばかりの頃。エバカインは二十三歳でロガよりも大人びておる。ゆえにこのプリンセスラインのウェディングドレスは式に使わぬと決まったものだ。エバカインは挙式の際には軍服を着せる事が決定した。色はこれと同じシャンパンゴールド、帽子状の冠には十八メートルのウェディングベールが付く。軍服やベールを飾るレースはアンティークを使用することが決まった。
 宝飾に使われるのはオレンジとイエロー、それにブラウンのダイヤモンド。白の貴石は白蝶貝。
 エバカインに教えようと思ったのだが、三大公が揃いも揃って「挙式直前に見せた方がいいですよ! 驚かせましょうよ! 絶対に気に入るのを作りますから!」と直前まで秘密にしておく方が良いと。三大公もはしゃいでおったし、エバカインは式の服に関して全く意見を述べてこない。
 余が決めると告げはしたが、ここまで何も言わないとは。信頼されておると思ってよいのだな、エバカイン。
「で、でもお兄様。この肩幅と筋肉では……ロガ皇后は華奢な方でいらっしゃいましたし……」
「そなたも華奢ではないか」
 布自体はロガの八倍は使用しておるが、それもまた良い。やはりドレスを着る場合も、筋肉があったほうが美しく見えるものだな。余の欲目かもしれぬが、この姿は余だけが堪能するもの、欲目であろうが何であろうが構うまい。
「さて」
「あ、脱ぎますか?」
「余が脱がせよう。その前に」
 ウェディングドレス姿のエバカインを抱きかかえて寝室へと運ぶ。
「あ、兄……様……その、何を?」
 ベッドの上に置かれたエバカインは、おどおどとした表情で、余を見上げながら……何時まで経っても初々しいというか、可愛らしいなそなたは。
「スカートに手を差し込んでみたい」
 スカート着用の女を見てもそんな事は考えもしないが、エバカインのドレス姿となれば違う。裾から手を差し込んで内腿を撫で回したくて仕方ない!
「は? は……は、ほ……?」
「良いか」
「ど、どーぞ、どーぞ、ご、ご自由に。お兄様のお好き……にしてく、ださい、ませ」
 スカートの中にこの手を入れる幸せ! 普通であれば犯罪である。その背徳感とあいまって、まさに絶頂! スカートの中に手を入れただけでこれ程の絶頂を味わえるとは! スカートの中におけるミラクルなまでの禁断よ! 余と尋常に勝負するがよい!

 ドレス姿で乱れるエバカイン、それはそれは可愛らしかった。

*************

 萌えで悶絶死しそうである。
「お兄様、これは?」
「帝国騎士の制服を一新する予定だ。そのデザインの一つだが、どうだ」
 似合う! 似合うぞ! エバカイン!
 あの日直接見る事が叶わなかった、そなたの入学式。そなたに最も似合うだろうと変更させた制服。そのデザインを踏襲した帝国騎士の制服! 提出されたデザインの中で、これが最もエバカインに似合う! これ以外ない!
「えっと……すごく半ズボン……っぽいのですが、よろしいのですか?」
 その煌かんばかりの太腿!
「そのデザインであらば、武器を隠し持つ事もできぬからな」
 そなたの太腿は武器に値するがな。その輝きを見ているだけで、余は気が遠くなる。その美しさを前に卒倒だ。ああ、これが貧血というものだろうか? 脳がふわふわするなど、生まれて初めての経験。
「ああ! そういう事でしたか! ハーフパンツだと不味いんですね……あ、でもこの制服、小等学校時代の制服に似てます」
 そのものだぞ、エバカイン。
「そうか」
 麦藁帽子に半ズボンにハイソックス。そなたが身にまとうと、神々しいだけでは済まぬ。
「陛下、失礼いたします。準備が整いました」
「入室を許可する、ダーヌクレーシュ」
 エバカインは余のモデルとはなりえるが、全体的なモデルとはならぬ。髪が短いので、長い者にも着せてみねばならぬのだ。
「ご指定の制服を着用しました」
 ダーヌクレーシュがエバカインと同じ格好をして現れた。中々似合っておるな、やはり童顔には良く合う。
 二人を並べ、交互に見比べる。エバカインは当然の如く似合っておるし、ダーヌクレーシュも変ではない。余より身長はあるが、良かろう。
「帝国騎士の制服はこれにしようと余は考えておるが、着用して何か問題点などあるか。あるならば告げよ」
 余の言葉を聞いた二人は顔を見合わせ、そして向き直ると、
「陛下! 陛下! あの、この制服は全ての帝国騎士が着用せねばならぬのですか!」
 ダーヌクレーシュが膝を付き、血相を変えて声を震わせた。
「制服であるからして、当然全員着用であろう」
 顔に手をあてて、床に倒れこんだダーヌクレーシュ。
「どうした、エバカイン」
「あの……これ、ゼンガルセン王子も着られるのですか?」
「当然着るだろう。余も偶には着用するであろう。余も半ズボンを着用するのは始めてだが」
「陛下! ゼンガルセン王子にこの制服は、色々と問題が!」
 似合わないとは余も思うが、ゼンガルセンは着る事に対し躊躇はしないであろう。ゼンガルセンはそういう男だ。

 結局制服は別のデザインとする事にした。

“えっと……お兄様……お兄様の前でこの格好をするのは恥ずかしくはないのですが……他の方の前ですと、ちょっと恥ずかしくて……我侭を申すようですが、ち、違うデザインの物が……着たいです。もちろん、お兄様がどうしてもと言われるのでしたら、お兄様やゼンガルセン王子やクロトハウセと共に、この制服で列に並びますが……”
 エバカインの恥ずかしげに語る姿があまりに可愛らしかったので、制服は別の物にする事にした。
 これはエバカイン専用としておこう。

 − 着替える為に退出した二人の会話 −

「大公殿下、ありがとうございました!」
「いえいえ、男爵……私としても、陛下がこのような格好をなされるのは……お似合いとか言う以前に、その……」
 “はみだされてはしまわないのでしょうか? とドキドキしてしまいます” エバカインは声を潜めて呟いた。その言葉にダーヌクレーシュは同意しつつ、彼は自分が大ダメージを食らった想像を語る。
「ええ、まあ、はい、陛下はその恐れがありますね。私は……その、母が帝国騎士でして……想像して死ぬところでした」
 五十歳近い母親にしてもらいたくはない格好の、上位ランキングにはいるだろう。 “母さんが短パンにハイソックスで公式の場に並ぶ……” エバカインは自分の母親で想像して、軽く涙目になった。
「そ、そうですね……男爵」
 帝国騎士の能力は衰える事がないので、七十歳になろうが、八十歳になろうが生きてさえいれば現役の帝国騎士なのだ。


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