PASTORAL − 95

 兄上と二人きりといっても、当然ながら外には警戒の兵士がついている。
 兵士や、他の必要な人員は地下の方で待機しており、玄関入口傍の床がエレベーターになっていて、そこから料理が送られてきたり、こちらから出向いたりするのだそうだ。
 ログハウスはごく一般的な間取りだ、大きさは規格外だが、それも兄上がお泊りになるのだから当然かもしれない。
 部屋数自体はリビングと一階に寝室が一つ、クローゼットやダイニングキッチンもある。風呂もトイレもある……宮殿サイズからみればとても小さいが、一般的なサイズからみれば驚きの広さ!
 二階も寝室は一つで、あとはこう天井が斜めな広い多目的スペースみたいなのがあるよ……ああ、ロフトか! そうそう、ロフト。
 ログハウスに到着してしたことは『着替え』
 確かに、この場に皇帝陛下の準正装は似合わないと言いますか、浮くと申しますか……ですが! ですが! 兄上の御私服姿というのも、びっくりです!
 観た事ございませんよ! 市民が着る様な洋服を着られた兄上なんて! ……それが顔に出てたのか『初めてだ』と兄上は仰いました。
 凄いなあ、初めてでも自分で着られるんだ。尊敬いたします! 何時も尊敬させていただいておりますが。
 兄上、黒いズボンと黄色地に黒い「十」の縦線がすこし右側に寄った模様の入っている、セーターをご着用。
 黒と黄色の補色関係も、兄上の赤い御髪の前には色褪せるってか、負けてるってか……なんていうのかなあ、全体的にキラービー?(殺人蜂) ……失礼しました! キラービーは別に赤い触角はしていないよな!
 でも、そのくらい迫力がおありです。殿下の蟻に関する話以来、ちょっと昆虫から離れられなく、そして兄上のお姿を表現する言葉が足りなく……俺、詩の心得がなくて申し訳ございません兄上。
 対する俺は、同じような黒のズボンと、ピンクのセーター……なんでピンク? それも兄上曰く、
「ベビーピンク」
 だそうです。いつもの真剣そのものの表情で言われてしまった。薄い綺麗なピンク色、俺が着て似合うかどうかは知らないが、兄上は『似合っておる』と言ってくださったので、似合うんだよ。銀河帝国は兄上のお言葉で動くんだから、似合ってるのさ!
 それにしても兄上の私服姿は………………自分を誤魔化すのも限界だ。
 俺は今、二階の寝室にいる。一応護衛として、室内の確認をしていた。窓の開き方とか、周囲とか……別に俺がしなくても良い事だが、一応俺だってさ!
 それで一階は普通のベッドだったが、二階の寝室は何故か性感ゼリーで埋め尽くされている。肌に触れると、快感を与えてくれるゼリー状の物体。別に珍しいものじゃない、スーパーでも買えるものだ。
 そもそも性感ゼリーって言い方は俗称で、正式名称は違う……色んな商品名があるから、どれとは言えないが。総合的俗称が性感ゼリー。
 袋入りで1kgのから粉状で売っていて、水を混ぜると出来上がる、それがコイツ。
 開発当初は子供の遊び道具だったらしいが、いつの間にか……。
 子供の遊び道具にも使えて、大人の夜のお遊びにも使えます。食べても平気なロングセラーとなった。……恐らく市販の物とは違うだろうが、感触は間違いなくソレ。俺も子供の頃遊んだもんな……。
 そして、部屋の隅には作りつけの棚があり、そこには機械がずらりと並んでいた。
 中身は大人の玩具……俺も良い年した大人、その程度を見てたじろぐわけではない。でもそれは『玩具』を『単体』で見た時であり、それが兄上のご意思でありお考えであると思うと、途端に空恐ろしさを覚えるのです。
 透明の消毒ケースに綺麗に並べられている玩具が二十個ほど。これがどのように使われるのか? 兄上がどのように使われるおつもりなのか? それを考えると意識が遠のきそうです。
 そして小型の薬品保管庫とその中には薬品が多数、その脇にはこれも消毒ケースに入った調合用の器具、そして何かを制御するらしいコンソール……あ、あの……兄上一体ここで何をなさるおつもりで?

 多分、やる……。それ以外は、ない。

 この状況でアイスホッケーでも始まったら、それはそれで吃驚だ。『二人アイスホッケー』俺の圧倒的な敗北!
 落ち着けエバカイン! 逃れようとしても現実は目の前にあるのだから!
 この大人の玩具、そして多々の器具。それらを用いてアレがどのように行われるのかは、よく解らない。結果的に、総合的にみても、最終的には同じでありますでございましょうが!(混乱)
 人は得体の知れない恐怖には対処のしようがありません、ですので混乱と恐怖を抱えたまま、これらが使用されるまで、戦々恐々と過ごしたいと思います。
 届けられた食事をテーブルに運んで、二人で食べ終わった後、医者の所にいって来る様に命じられたので、行って処置を。
 医師にあれらの使用方法を聞こうかな? と思ったのだが、どのように尋ねればいいのか? 皆目見当がつかなかった。
 俺も使用方法は解る、使用目的も解る、だが兄上のお心だけは解らない。だから医師達も兄上のお心は解らないだろう。聞く必要どころか、陛下に玩具の使用目的を問う身分の人は存在しないよ。
 全て準備を整えて、全裸になってゼリーの上に座りました! なる様に……どうなるんだろう……。
「寒くはないな」
「はい!」
 兄上は、まず薬品棚を開けまして調合用のバケツ? のような物に目盛を確認しつつ薬を計って入れ、次にこれまた薬品棚から希釈液を取りだし、投入。
 バケツの中に目盛が書かれているらしく、それを観ながら調合中。
「カルミラーゼンがな、この薬を1000倍に希釈した後、とある薬物を加えると体表面が敏感になるのだと」
 兄上から受け取った薬は、あ……これ知ってる。
 原液を体に塗ると、軽く触れただけでも痛みを感じるヤツだ。これは天然成分だからいいんだが、似たような効果を持つ合成麻薬があったな。あれ中毒性が高い上に、攻撃性が増して寿命が縮むんだよな……なんだったけ、そうそう! キュリンセ00059。
 あれの取り締まりもやったなあ。大体、違法奴隷販売と麻薬密売ってセットでやるんだよ。
 俺が手に持ってるコレは中毒性も何もない、なにせ高価だからな。一般庶民には手の届かないってヤツだ。陛下にしてみれば、俺なんかに使用しても全く問題ないけれど。
「偶にはそなたを思う存分酔わせてやらぬと、叱られると。カルミラーゼンらしい言い分だ。同意する部分も多々あるが」
 誰が誰を叱るのですか? その言い方ですと、俺が兄上を叱るみたいじゃないですか!
 俺は兄上を叱ったりなどいたしませんよ! 兄上を叱るように見えるのでしたら、これから俺の事も喧嘩皇子と呼んでください!
 クロトハウセと混同されるとマズイので、口喧嘩皇子とでもお呼びくださいませ! それだと弱そうだ ”弱い犬ほどよく吼える” みたいですけど……実際それほど強くないので、問題ないかと。
 そんな事を考えている目の前で、兄上は錠剤を何種類か投入し、柄杓で混ぜていた。
「お、お兄様。私が作りますが……」
 全裸で薬品を混ぜている姿は、それは間抜けだとは思いますが、兄上が作業なさっている傍で何もしていないのは……。
「そなたは黙って待っておれ」
 手を止めて兄上は俺の方を観て、はっきりと言われた。その力強いお声で。その全てを支配なさるお声で、
「平素、全臣民の生活の安定を考えておる余だが、今だけはそなたの快感だけを考えようではないか。余の全精力を注ぎ、そなたを楽しませようぞ」
 言い切られた!

 い、いやぁぁぁぁ! 普通に全臣民の生活の安定を考えつつ、片手間でお願いします!!

 本気を出した兄上って、その……。
 俺の心の動揺などさておき、兄上は作った薬を丹念に塗ってくださいました、刷毛で。すごい高級そうな刷毛で。兄上がお使いになってるんだから、高級なのは当然なんだが、ついつい言いたくなる。
 この時点でかなり体中が気持ち良いので、このまま放置してくださっても結構です。俺の事は放置して、全臣民の安全などをお考えになられてもよろしいかと。
 薬とゼリーの感触だけで十分ですと言いたい所ですが、兄上今度消毒ケースからなにやら取り出し、乳首にくっつけた。大きめのクリップに見えるんだが、挟まれても痛くない強さ。……わざわざ調節させたのだろうか? 一言で言えば『丁度良い圧力』……あ、圧力か? とにかく見事と言いたくなるようなクリップ。
 次は再び薬品棚からスプレーを取り出し、細長くやわらかいノズルを挿しながら説明を、
「尿道を瞬間的に麻痺させる。時間としてはせいぜい二分程度だ」
 少しずつスプレーをかけられ、ノズルを飲み込んだ……他人事のように感じられる。実際今、全く感じないんだけどさ。
 兄上それを引き抜かれて、今度は尿道専用の玩具を。中が真空だから……出るんだろうな……それを「つぅー」と中に差し込んで、それが外れないように先端部分に、クリームの絞り口みたいなのをかけた。
 最後に後ろに物体を、大きさも太さもそれ程じゃないから……我慢できるが。
「挿るのは容易い造りだが、内部に挿入した後、大きさ・形などを外部調節できる」
 兄上……帝国の科学力をフルに使ってらっしゃいませんか? 銀河帝国は兄上のものですから、全く問題はないのですが。
 あ……兄上もこのくらいだったら、我慢が……でも兄上がこんな小さいイメージは……最早持てない。何言ってるんだよ、俺のバカ……。
「それでは最後だ」
 背骨に沿って、四角い何かを張っていった。
「脊椎に直接刺激を与え、快感を引き出す」
 準備が全て終わったようで、兄上はコンソールを出してスイッチを。
「よいな」
「は、はい……」
 この時点までは、気持ちいいな……で済んでた。
「…………っ!!」
 動いた瞬間にイってた。
 まさしく自分の体全体が……
「いあぁぁぁぁぁ! やめ!」
 頭の奥からの快感、そりゃそうだ! 脊髄に直接刺激あっい……
「せ、背中の……んっ!」
 死ぬ! 死ぬ! 絶対に死ぬ!
 やっとの思いで目を開けると、俺を見ながらコンソールで調整!
「脊髄刺激が強過ぎるか、ならば脊髄を弱め後ろの方を変形させよう」
 な、中で動きだした。
 大きくなってる? 突起みたいなのが、あ、っ……あ、い……
 どこが気持ちいいのか解らない! 脳が快感を追えないくらいな、ああぁぁぁ!
「あまり口を大きく開き叫ぶと、顎が外れるやも知れぬぞ」
 言いながら兄上、刷毛とあの薬! ゼリーの上で暴れてる俺に再び塗りながら、
「心地よいか?」
 死にそうです! 死にます! 快感が内臓を裏返しにしているかのようっっっ!! んっ……!!
「出なくなったが、出たほうが良いか? それ用の薬もあるぞ」
 もう駄目! まっ、また脊髄、
「脊髄におくられる信号のパターンは、七千種類以上準備した。快感に飽きる事はなかろう」
 いっ……あっ……こっ、呼吸できないっっ!
「お、おにい……さまぁ。とめてぇ……」
 止まれ! 止まれ! 止まれよ! 止まりやがれぇ!!!(下品で申し訳ない)
 兄上は直ぐに止めてくださったが、体が余韻というのはあまりに、く、苦しい。体自体についている器具は止まったが、自分の瞬きの感触すら体に響く。
「心地よくあったであろう」
 肉体的には最高の快感ですが、どうにもあの……その……これ、拷問一歩手前では?
 確かに気持ちいいですし、痛い所は無かったのですが。ま、まさか死ぬほどの快感を味わう事ができるとは、思ってもおりませんでした。
 兄上! 兄上はいつも銀河帝国の民の安寧を考えつつ、慰み程度に俺をお使いください。俺なんぞを、良くしてくださる必要はございませんので。
 思わず勢いで自分で全部外してしまった。……かっ! 勝手なことして申し訳ございません! 外してよいとはまだ……そのっ!
「おっ……おに、いさまの方が、お兄様が欲しいです」
 
なんか、色々なモノが吹っ飛びかけてるよ、俺。 

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