7.北の国 −偽【1】
 占星術師は事態を知っている人々を集め決定的な事実と、この先に関わることを語り始めた。
「信じるも信じないも自由です」
 占星術師は前置きしいつも大事に持ち歩いている書を目を閉じ尋ねごとをした。
「第九王女お尋ねします。北の国に第九王女と同じ父を持つ《王子》は何人いますか」
 聡明な彼女は占星術師が尋ねたいことを理解して三名と答えた。
 北の王子、妾妃の息子、第十王女。第九王女以外であれば《二名》と答えてしまう質問、そのように思われたのだが間違いであった。
「違います。正解は二名、一名は王の子ではありません」
 互いに顔を見合わせた後、北の王子と第十王女の二人に視線を向けた。
 驚きに声を失っている全員に占星術師は語り続ける。占星術では《北の王子は二名》と現れ、世間どころか北の王すら信じていたので《北の王子は二名》は半ば真実となっていた。
 遠い国での占いだけでは、表面上の事実が合致していたので気付くことが難しかったのだ。
「誰が王子ではないのか正確なこと《今》は解りません。ここで私が私の封を解き放ち占えば視えます。ですが私の存在も占い師に視えてしまいます。私の存在が視えれば占い師はなりふり構わなくなり、北の王子の隊が劣勢になるかもしれません」
 真実を《視る》ことはやぶさかではないが、争いが激化する引き金にもなるので判断をこの国の人達に任せると占星術師は宣言した。
 北の国の者達は少しだけ時間が欲しいと告げ、占星術師と皇子、護衛を残して部屋を出た。残された皇子は占星術師に問うと、あっさりと答えが返って来た。
「本当に解らないのですか」
「解っています。王子ではないのは妾妃の息子です。この先のことは第十王女にも臨席してもらい話しましょう」
 第九王女に《燕》とどうしても話したいことがあると皇子が頼み、別室で二人と占星術師そして護衛とで話を再開する。
 占星術師は妾妃の息子が王の子ではないと教え、
「なぜあの場で言わなかった」
 《燕》に責められるが占星術師は表情を一つ変えずに、占星術師にとって最良の手段を選びたいからだと言い返す。
「言えば北の王子はすぐに進軍を開始します貴方をも伴って。貴方はこの戦に参加してはいけない人だ」
「占星術師。貴方が今、私達に告げられる《事柄》を全て教えて! 全てのことを聞いて見極めたいの」
 皇子が卓に手をつき身を乗り出すが、占星術師は目を閉じて首を振り拒否をした。
「師匠が《視た》ものが全てではありません。小出しにしていると思われるでしょうが《見た未来》の記述が現実に起きた時に初めて占いは効果を発揮するのです。先を語り《視た未来》へと誘導してはいけないのです。私は占星術によって道標になることはできますが、道標は決して目的地にたどり着くことはできません。それどころか道標は目的地を見ることはないのです。道標は道を行く人の方向を向き続け人に《このような路もある》と教えるだけの存在です。私は道標であり道を進むのは皇子と第十王女、貴方達二人なのです」
 占星術師の言葉に皇子と第十王女は各々思うところがあったが、言葉に出来ず少しの間沈黙が訪れた。
 それまで口を開かなかった護衛が占星術師に尋ねごとをする。
「北の王子の護衛を命じられ潜伏していた間、話し相手も務めさせていただきました。それで知ったのですが、北の王子は妻に裏切られた理由が全くわからないと言われていました。私は将の隊と合流してから情報を集めたのですが、やはり北の王子の妻が何故裏切ったのかは解りませんでした。その理由は解りませんか?」
 護衛の意見に占星術師は《わからない》と答えた後、
「北の王子が妻に裏切られた理由は解りませんが、妾妃の息子が北の王子の妻に求めたものは解ります。北の王子の《子》です。妾妃の息子は何らかの理由で自分が王の子ではないのを知ったのでしょう。この時期に知ったのですから占い師が関係しているのは明らかですが」
 国を継ぐ権利がないと知った妾妃の息子は認めたくない気持ちから、王の血を引く《子》を持つ北の王子の妻を味方に引き入れた。
 どのような取引が行われたのかは解らないが、この戦いの中心であることは確実であった。
「そうでしたか」
「この戦いの結末は皇子にも第十王女にも関係ありません。二人がしなくてはならないことは、歪められた悪意の連鎖を断ち切ること。戦いを早くに収めようと考えるのでしたら、皇子と第十王女が占い師から《占い》を奪うしか道はないのです」

 室内の明かりの一つが消え暗さを帯び、影が濃くなった室内で四人は互いに硬直したかのように動かないまま時が流れた。


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