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荒野に啼く花・3
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 俺はこれでも王子だから、結婚式に出席して欲しいって依頼も結構来る。
 俺自身は次世代の全てを「断種体」にしちまう機能を有しているから、子供を作る自由はない。生体兵器の増殖は管理下に置かれてるからな。それはそれで楽だ。王族最大の責務である婚姻から逃れられるから、この体質を悲観したことはない。
 断種用の薬を作る場合は、細胞を十キロほど提出するくらいだ。それも頻繁には行われない上に、管理している人が皇君だから……それなのに……よりによって無性のガゼロダイスと結婚組まれるたぁ……
 そんな事よりも、出席している結婚式を無事に終えることだ。
 今俺が出席している結婚式は、俺が過去に出席した中でもかなり金のかかっている部類にはいる。
 なにせ花嫁の父が……
「アゲミィィ!」
 ロヴィニア王子のエーダリロクだからな。そりゃもう式は盛大だぜ、ただ盛大だが招待客は一人もいねえ。
 馬鹿馬鹿しいから誰も来ないって訳じゃねえぜ。
 エーダリロクに招待されたら、爬虫類の結婚式だった参加したいってのは山ほどいる。なにせロヴィニア王子がなによりも可愛がっている爬虫類の結婚式だ、参加できたら儲けもんだ。実際参加したがってた奴、結構いたしよ。
 俺に結婚式の参加について尋ねてきた奴も、十人二十人じゃあ済まねえ。
 ただな、今は僭主がちらほら見えるから結婚式を僭主につぶされ、間違ってアケミが怪我したらヤダってんで招待客なしになった。
 ちなみにあんなに反対してたエーダリロクが折れたのは、アケミはマサヨシと出来ちまったんで結婚させることにしたんだとさ。
 子供も誕生したし、もう……その、なに? 責任を取らせ無いわけにはいかない状況なんだとさ。俺は知らないが、アケミの父を自負するロヴィニア王子エーダリロク殿下がそのようにおっしゃるので、仕方ないのですよ……慣れない敬語なんて使うもんじゃねえなあ……敬語ってか、なんか未来から電波受信したような気分だ。
 ちなみに俺は、
「では新郎のお父様からお言葉を。イデスア公爵殿下、お願いいたします」
 新郎マサヨシの “父” な。
 いやあ、俺とカレティアの間に子供が出来たとしてもティラノってことはねえと思うが、遺伝子レベルの変異であり得るかも……
 俺の原型はスレイプニルだから、あれ? カレティアって原型なんだ? イヤ、待て落ち着けビーレウスト、どう考えてもティラノは生まれねえよ。
 そんな事を考えながら式進行を務めるリオンテからマイクを手渡されて俺は荒野でスピーチする。
 爬虫類二匹と、王子とその部下を前に、
「本日はお日柄も良く、そして花嫁も美しく……えっと、マサヨシが美しいアケミさんを妻とすることが出来て、父である我もあの……」
 花婿の父としてスピーチ。

 喋るのそれほど苦手じゃないんだけどよ、こればっかりは死ぬほど苦労した。

 粛々と進んでいるらしい式を眺めながら……それよりもちょっと待て、俺スピーチ前に変なこと考えなかったか?
 “俺とカレンティンシスノの間にできた?” な、なんでそこで儂王様?
 大丈夫か俺?
 何でカレティア……そういやあカレティアと王妃クレドランシェアニの間に第二王子が誕生したんだったな。
 カルの名前の称号表示に順位変動かかるのか……ラティランに色々されながらも、両性具有ながらも子供ちゃんと作ってたんだなあ、結構驚きだ。
 それにしてもどんな態度で王妃を愛撫してヴァギナに突っ込んで、どんなイキ顔してんだろうな……
 あの顔だから男でイクよりも、女でイッた方がいい顔しそうじゃねえか。声も絶対に女でイッた方が良い声で啼くような……あ、でもカレティアの嬌声は想像つかねえや。どう考えたって……機会があったらいっぺん襲ってみるかな。
 帝国宰相の牢に突っ込まれてる時なら、暗闇標準装備だから見えないだろうし。

「それではお願いします」

 リオンテの声に正気に戻ったら……正気じゃねえ光景が。俺が少しばかりトランスしている間に、随分と式は進行していたようだな。アケミとマサヨシとエーダリロクの三人? 三 “人” でいいか? まあ、いいや……それを眺めていると、意識が遠退く。なんつーの、現実的にあり得ない風景。いやあ、ティラノの指輪交換って大変だな。
「指輪のサイズが合って良かった」
 ワゴンに食事をのせて押してきたリオンテは、指輪交換している三人を見ながらそう言うが……問題はそこか?
 デカンタごと麦茶を飲んで、
「はぁ……」
 肩を落とす。そりゃそうと……
「おい、リオンテ」
「何でしょうか? デファイノス伯爵殿下」
「あのな……」
「はい……」
 どうしてもリオンテに言いたいことがあった。

「アシュレートも爬虫類に興味持ったって本当か?」
「え?」

 最近アシュレートが、妙に爬虫類関係の本を漁ったり、捕まえたりを繰り返している。たぶんあいつ、俺よりも爬虫類知識上だ。長年エーダリロクの暴走爬虫類講義を聴いてる俺よりも、絶対に上になってる。
 暴走講義だから全く頭に入ってこねえってのもあるんだがよ。
「あ、あの……ジュシス公爵殿下は、ちょっとは興味をお持ちのようですが……はあ……」
「どーにかしてくれ! あいつまで爬虫類好きで大騒ぎされたら俺が困る。爬虫類嫌いにしろとは言わないから、元に戻してくれ!」
 何で好きな女に近付くために、好きな女の夫がうつつ抜かしている爬虫類を学ぶんだよ!
「決意は固いようですし、私には」
「なんでよりによって、爬虫類……」
 いや、両生類でも困るし魚類でもちょっと……うん、爬虫類でいいか……哺乳類になると《人間モ含ム》になっちまうから……
「どうなさいました、デファイノス伯爵殿下」
「いや、なんでも……」
 何なんだろうな、この言い表せない敗北感。もしかしたら、これが人生の諦めってやつか? 俺は諦めってのを覚えたのか……まあいいや。
 結婚式は無事に終わって次はアケミとマサヨシを宇宙船に乗せることになる。エーダリロクが新居(中型天然惑星)を用意したんで、そこまで連れて行く。麻酔とか殴って気を失わせてその間に運び込むのが普通なんだが、ほらエーダリロクはアケミを傷つけることを嫌うから、
「こっちだぞ! こいっ!」
 爬虫類の好物を背負いながら疾走開始。
 結婚式で腹が減っているアケミとマサヨシは俺のこと追いかける、追いかける!
 リオンテは宇宙船を動かすために操作室に、エーダリロクは二人が宇宙船にはいったら扉を降ろすために待機中。要するに追われてるのは俺一人。
 いや、いいけどな! これでも結構足には自信あるし、本気になったらティラノなんざ簡単に振り切れるからよ。
 あまり離れすぎると、諦めちまう可能性があるから、付かず離れずで距離を保ってやらないと……とか考えてたら、向こうが挟み打ちかけて来やがった! 中々やるじゃねえか、ティラノ!
「アケミ、そんなにマサヨシとコンビネーションを組まないでも……くっ!」
 感動なのか嫉妬なのかわからない声が聞こえてくる。
 そして操作室からエーダリロクにはいる通信も聞こえてきた。
『王子! なんでデファイノス伯爵殿下に誘導用の餌背負わせているんですかっ! 船倉に設置しておくだけで良いじゃないですか!』
 その声を聞いた瞬間、俺の膝から力が抜けてゆく。


 やべえ、転びそう。
 つか、転んだ。


 そーだよな、リオンテ。普通に考えりゃあ、それしかないよな。
『リオンテ! お前天才だな! 俺もビーレウストも全く気付かなかったぜ!』
 俺は荒野にひれ伏して、後ろから迫ってくる震動を感じながらエーダリロクの返答に頷くしかなかった。俺も全く気付かなかった……ばっかだなあ、おい!
 その後俺は餌を外してエーダリロクに投げつけ、それを追って二匹も船倉へと消えさる。当然と言えば当然だよなあ。
 二人が船倉に入ったことを確認した宇宙船は直ぐに離陸開始。俺は荒野に座り込んで空を見上げながら手を振って二人の門出を祝った。

 ああ、これでもうアケミとマサヨシには悩ませられなくて済むんだなあ……と。


荒野に啼く花・3 ― [終]

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