王子と幼女・3 - 少年残像≪前編≫
「ほら、朝だぞ。起きろ侯女」
「ん~何時?」
「五時半」
「まだ眠い……」
眠いって言ったんだけど起こされて、やっと思いで目を開けたら王子の方を見たら変なリュックサック背負ってた。あれ、何か篭みたいなの。
「さあ、飯を採取しに行くぞ」
「え?」
採取って……え?
「食う物は全て採る。さ、いくぞ。リオンテ、その他の事は任せたぞ」
顔も洗ってないのに連れ出されて最低! と叫んだら、
「そこの川で洗え」
そう言われちゃった。出来ないって言うのも悔しかったから、何とか顔を水洗いしていると、脇で王子が色々なものを採ってる。
「何採ってるの?」
タオルで顔を拭きながら近寄っていくと、
「木苺。食うだろ?」
「うん」
そう言ったら手袋で拭いた木苺を口に放り込まれた。吃驚したけど、何か楽しい。王子の隣に並んで両手で一生懸命採って篭にいれてたら、
「これだけあれば十分だ。次ぎにいくぞ」
王子は立ち上がって歩き出す。
「次ぎは何を採るの?」
「きのこ」
「何処にあるの?」
「大体地面に生えているから、注意深く探すしかない」
地面をみながら必死に探してみた。
王子はわりと簡単に見つけては……あれ? 放り投げてる。
「何で投げてるの?」
「毒キノコだからだ」
「ふ~ん、何でも知ってるね? じゃあこれも毒かな? 採ったら裏側が変な色になってきたんだけど……」
「そいつは大丈夫だ。空気に触れると反応起こすやつもある」
そんな事言いながら朝ごはん用なのかな? きのこと木苺を採ってキャンプに戻った。
戻ると料理は出来上がってて、木苺は朝食後のデザートできのこは昼ごはん用だって。
「次ぎを見て行動しないとな。とは言っても飯食い終わって少し休憩したら、遊ぶか? 侯女」
「うん!」
「何して遊びたい?」
何? って聞かれたから、王族にしか出来なさそうなことを頼んでみた。
「王子は近衛兵になれるくらい強いの? 近衛兵だったら空を飛ぶように木々を移動できるって聞いたことあるから、抱きかかえてそれをしてもらいたいな。出来なかったら違うことにするけど」
頼んでみたら、
「近衛になるには今のところ力が足りないが、移動能力なら大丈夫だ。で、侯女お前体重何キロ?」
そう言われちゃった。
「解んない」
「だよな。よいしょ!」
「きゃあ!」
そういったら抱き上げられた。腰のところを両手でつかんで軽がると持ち上げた。お父様よりも力あるんだ……す、凄い。
「おう、軽いなあ。この程度なら簡単に持って飛びまわれるぜ」
抱き上げてくれる王子を見下ろすと改めて格好いいなって思う。親戚の貴族と王子はやっぱり全然違う。
「よぉし、行って来るぜ。後は任せたぞリオンテ」
「いってらっしゃいませ王子、侯女」
召使? に見送られたらしいけれど、全然気付かなかった。だって突然飛びあがるんだもん。
枝から枝に飛び移って、木々の間を駆け抜けて凄かった。凄かったけど……
「泣くなよ」
「だって……いたい……ひっく……」
おでこが枝に[がんがん]ぶつかるし、体もあっちこっち枝にぶつかって……痛くて痛くて、召使のリオンテが治療してくれるけれど涙が止まらない。
「王子。人を連れて移動するのと単独で移動するのは違いますよ」
「今更言っても遅ぇよ、シーゼルバイア。悪かったな侯女、俺人を抱えて移動するの初めてだったんだ。それに、俺はその程度ぶつかっても平気だからさ」
しゃがんで本当に “ごめん” て顔しながら謝ってくれたんだけど、涙も鼻水も止まんない。
「王子、これほど上級貴族の姫の顔に傷つけたら責任取って妃にしなければならないんじゃないんですか?」
召使が笑いながらそういうと、王子本当に頭を下げて、
「責任取りたくないといえば無責任だが、顔の傷は跡形も無く消すから……その妃には出来ん」
謝った。
王子ってこんなに簡単に頭下げるのかな? でも本当に偉いから謝れるのかな……そう思ったのは、家に帰ってから。その時は王子が頭下げていることよりも、
「別にお妃じゃなくてもいいから、痛いの治して! おでこ、痛い痛い! いたいー!」
自分のおでこが大切だった。
「悪ぃ! 次ぎは気をつけるからな!」
― 成長した後に考えてみれば、あの時お妃にして! と言い寄れば良かったと思わなくもなかったけれど。言い寄ったところで王子が妃にしてくれるわけもないと知ったのはもっと後のこと ―
悪い悪いと繰り返す王子と、朝採ってきたキノコを使った料理を食べた後、
「狩りにいってくるから休んでろ」
言われた。
「ついて行く! 狩りならお父様と一緒にしたことあるからできるもん」
「痛いの治ったのか?」
「うん、平気!」
それで銃を渡されたんだけど……
「これ自動照準じゃない」
照準がない。
狩猟用の銃って、獲物のデータが登録されていてナビを聞いて場所に向かって、指示通りに撃てば良いのが普通でしょう?
「おう、俺は自動照準銃使わないから」
「じゃあどうやって探して当てるの!」
「自分で探して見て撃つんだよ。昔の銃は全部そうだったんだぞ!」
「なんでそんな昔の銃使ってるの!」
「おまえなあ、昔狩猟ってのは銃の鍛錬でもあったわけだ。今は自動照準だが、その自動照準ってのは脆いもんだ。ちょっとした宇宙嵐で誤作動を起こしたり、射抜かれたりしたら終わりなわけよ。狩りなら別にたいしたこと無いかもしれないが、俺は狩りで銃の腕をも上げ逃げる敵すべてを射抜きたいわけよ」
何か喋り方が違うなあ……もしかして?
「ねえ、それを言ってるのはビーレウストってエヴェドリットの王子?」
本当に驚いたみたいで、眼を見開いて体をビクッとさせて私を見た。
「何でわかった?」
「喋り方違うもん。王子今までそんな喋り方しなかった。それに王子のところを訪問する前に “王子は効率の良いことが好きだ” って聞かされてたから、王子だけならそんな考え方しないとおもう。だって私でも解るくらい効率悪いもん」
王子本当に困ったような顔をして、
「侯女、おまえ本当に口が達者だし頭が切れるな。ま、俺は射撃がそれ程上手じゃないんで、練習してるんだよ。俺がもって来てるのは、全部自動照準もナビもついてねえから、それでも良けりゃついて来い」
そう言ってきた。
もちろん銃を持ってついていったんだけど、ウサギには逃げられてばかり。
自動照準だったら簡単に捕らえられるのに!
王子はといえば、簡単に三羽狩って私の後ろで “ほらほら、あそこに隠れてる” って指示出してくれるけれど、
「侯女、おまえコッチの道には進まないほうがいいぜ。才能ねえ」
「ほっといてよ!」
結局ウサギを追いかけるだけで終わっちゃった。