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「よろしく頼む、リガルド」
「ああ、任せて置け。リドリー」
 皇后陛下がいらっしゃった。もちろん皇后としていらした訳ではない、カミラ・ゴッドフリートとして……とは少しばかり違うが。ファドル・クバートに対しては「カミラ・ゴッドフリート」、リドリーに対しては「パメラ・イリート」となる偽名を使ったとして。
恐れ多くも私とパロマ領に関する口裏を合わせて……陛下だけならばそのような真似をする必要はなかっただろうが、デイヴィット様がファドルを伴っておいでになるのだから『パロマ領出身』となっている陛下が、パロマ領に関してあまり知らなくてはこの先困るという事から。
 外見は中古の宇宙船で、中身を最新鋭に変える。気付かれないように軍船で警護する……ここはリドリーがヴァルカ総督にお願いしたので苦労はなかった。皇后陛下は近くのホテルでツイードのスーツに着替えて、デイヴィット様と共にファドルを出迎えてその船に乗る。
 宇宙船を操縦するのは当然軍人達。民間船を装うので、芸達者な軍人に見えないのを借りてきた。
 リドリーには、
「ファドルというデイヴィット様のお気に入りの男をカモフラージュに使う。安心してくれ、ファドルからデイヴィット様は離れないから」
 そう説明した……スマン、リドリー。実は皇后陛下がカモフラージュなんだ……ファドルの気持ち、解からないでもない。調べてみたら通常の性癖の持ち主だったからな。……リドリーは全面的に信頼してくれているので、ちと痛い(実はかなり痛い)。お前の信頼を裏切るのは辛いよ……だが、まあ許してくれ。所詮はヒラ貴族、皇族とか貴族なんて手に負えない。
皇后陛下は始めての宇宙旅をそれは楽しんでくださった。到着した宇宙船から元気良く降りる皇后。
「船長達は宇宙空間で待機していてくれるか?」
 デイヴィット様とファドルと共に寂れきった宇宙港から駆け出して行った皇后を見送った後に、軍人達に声をかけた。
「もとより、そう命令を頂いておりますので」
「ガンジェル大佐……でしたね」
「ランス船長です」
「そうですか。ではランス船長、待機よろしくお願いします」
「何事かがありましたら、直ぐにお呼びください」
 飛び去ってゆく宇宙船を見送る。ランス・デ・ガンジェルはハーフポート伯の腹心だ。ハーフポート伯はヴァルカ総督の甥にあたる。
「ハーフポート伯アーロンか……」
 伯父に似て真面目な軍人で、その評価もきわめて高く何より年齢が
「21歳だったな」
 皇后に近いので、まあ……いわば皇帝のライバルでもある。後押しがヴァルカ総督であれば、皇帝は危うい。近くで警護しているだろうハーフポート伯……彼を此処に寄越すのには色々な山やら谷やらがあったらしいが、ヴァルカ総督を前線から外す訳には行かない上に、帝都の守りを割く訳にも行かずこうなったようだ。
 このまま皇帝と皇后の間に子ができなければ、ハーフポート伯アーロンが皇位を継ぐ可能性だってある、正直ラニエ妃の子など問題にならない。
「コッチで考えても仕方ないから……精々楽しんでいただきましょうか」
 俺は準備しておいた食事などを皇后と共に(冷や汗が出たが)デイヴィット様に給仕したりして、短い休暇を満喫していただいた。
 失礼な言い方だが、皇帝は皇后の何が気に入らないのだろう? こんなに親しみやすいのに。気位が高いのは皇帝陛下のほうか? 母親の事で悪く言われて気位を高く持たなくてはならない……解からないでもないが。

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