我が名は皇帝の勝利


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 学校の方が楽しくて(少々気に食わない人もいますが)すっかりと宮中行事の事を忘れておりました。
 舞踏会とかありましたわね……別に私は出席しなくとも構わないと思い今まで何回も欠席していたのですが、今回は何故かダンドローバー公が宝石類やらドレスやらを贈って下さいましたわ。どうやって手を回したのかは知りませんが……多分グラショウを経由したのでしょう。
 特に気に入ったのは王冠。前にヴェールが幾重にもついていて、私の顔は見えないつくりになっています。ドレスの方は地味なスタンダードな型です、真赤な私の髪に合う様な色合い。蒼い素地と白手袋と黒地のベストは金糸で刺繍されている、襟が高い本当に基本的な帝国ドレス。
 公営住宅の方で話をつめて、私は生まれて初めて心躍らせて舞踏会に臨みました。
 今までははっきり言って何時もつまらないものでしたのよ、ええ何せ椅子に座っているだけですからね。勿論背のついた椅子に座って何段も高い場所にいるのは私と陛下のみですが、それだけですわ。陛下は私が他の貴族と接するのをあまり好まれないのだそうです、何でも他の貴族が野心を抱きかねないとか。
 何がそんなに陛下を神経質にしているのか知らなかったのですが『私』という者が陛下を必要以上に神経質にさせるようです。
 お腹の大きいラニエも会場いました。警護を四人も引き連れて、周囲に人が多数。次代皇帝の母妃になるかも知れませんからね……それは構いませんけれど。私はラニエが母妃になろうがなるまいが、他の人達からは忘れられたような存在ですから。
 侍従が持ってきたグラスに注がれているのはアルコール分のないものばかり……16ですからアルコールも飲めますので(15歳から平気ですのよ、我が国の法律では)スパークリングワインのロゼを命じました。侍従は私の言葉を受けて陛下のほうへと近寄って、ご意見を聞いたようです。
 全く……法律で許可されている年齢だというのに。
 陛下は此方に体ごと向き
「飲むのならば自室で飲むように。この場で不備などがあっては傷がつく」
 何に傷がつくのでしょうかしら? 帝室の権威などでしょうか?
「陛下にそのような事を言われる筋合いはないかと? 何故法律で許可されているのに。それにその侍従、私を何だと思っているのですか? 私の意見などなく陛下のご意見しか聞かないのでしたら、私に飲み物など持ってこさせる必要はありませんわ。何の為の給仕用の侍従ですの」
「……一杯だけだ」
「一本です。側でボトルを開いたものが欲しいのですから」
 冷や汗をかきながらスパークリングワインを取りに行った侍従ですが、黙って持ってきていれば良かったものを。
 ヴェールの下でワインを飲むのは中々に難しかったのですが、これはこれで楽しめましたわ。やはり良いお酒なのでしょうね、これも……今度、街の酒屋に買いに行って普通のものを買って飲み比べてみましょう。
「そこの」
「は、はい!」
「私の邸の前にロゼスパークリングワイン、白ワイン、赤ワインの逸品を一本ずつ準備しておきなさい」
そんな事をしていましたら、待ち人が来ましたダンドローバー公です……椅子に座ってみていますと、結構人気あります。ふ〜ん……同性愛者って多いのですね。陛下に挨拶をして私にも挨拶をしてダンドローバー公は私に手を差し出しました。
 ドレスのお礼も兼ねて、私は椅子から降りてバルコニーの方に。
「緊張しましたね」
「何がですか?」
「陛下がお怒りになるのではないかと思いまして」
何故陛下が? これはジョークとか言うものでしょうかね?
「それにしても同性愛者お方が多いのですね」
 私は纏わりついていた人達全員が同性愛者だと思ったのですが、違ったそうです。ただ、挨拶に来ただけだそうで……そうなんですの、残念? 何が残念なのかしら、私ったら。
 さて、ダンドローバー公とお話をして軽くお酒を飲んで早々に舞踏会を切り上げました。まあ、中々に楽しかったですわ。
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