凱 歌 葬

「……大丈夫だ。今回のこれは、色彩異常だけだ」
「なにが起こるの?」
「宇宙空間の一部が真っ白になるだけだ」
「他は何も無いんだね?」
「ああ。宇宙船の計器類に異常が出るようなエネルギー波も観測されないし、余波ってほどでもねえし……平気だ。ただし”今回は”ってつけておく必要はある」

いつか人的被害を被るだろう。それがいつなのか? どれのどの物なのか? 残念ながら俺には解らない。
表現としては”捩る”これでワープできる。その際に発生した歪みは”向こう側に溜まる”
許容量がどれ程の物か? 俺は解らない。だが”こっち側”で考えてみたところ、捩られた際に発生する歪みは確実に凶器になる。

「次回があるの?」
「次回はあるだろうな」
「いつ」
「知らねえ。だが確実にくる」
「それがなにか問題なの?」
「俺たちは次元を無理に開いているから、その”余波”がどこかで、とんでもないことをしでかす」

何事も無ければいいなと思うし、その頃には頭の良い奴が居て、上手く対処しているかもしれない。
ん? 確かに残念だよ。この捩れがもたらす惨状を回避できるかどうか? その危機的状況に立ち会えないことは。俺も結構危険は好きだ。頭脳を使って回避するのはもっと好きだ。

「君にしちゃ曖昧だね」
「まあな。だが余波は確実に未来で起こる。俺たちはこれからこの理論を研究して利用する。その先で……」
「そんなに言いたくないことが起こるんだ」

俺の予想? そんな時代がくるかどうかは解らないが、大艦隊がワープを抜ける際に捩れの余波に巻き込まれて壊滅だな。正直なところ、民間の輸送船団が飲み込まれるくらいなら良いんだ。大艦隊だぜ? 大艦隊。出るってことは、相当な状況だろ? それが安全じゃなくて速度を取るんだ。行き先はおそらく対異星人戦。となりゃ、そりゃあまずい状況だろうよ。
そんな時、大艦隊が壊滅したらどうなる?

**********


「早く帝星へと連れて行け、レドルリアカイン」
 人はもう生きてはいないだろう。ほとんどの生命維持装置は切った。冷たいこの人工惑星のすべてで敵の攻撃を防ぐ。
「私ではなく、ハイラ様が。イルギ公爵であるハイラ様ほどの適任者は」
「大公。我もロスタリオールの娘を連れて帝星に行きたいが、我がここを離れたらあのバーローズのガキが調子にのって前線に飛び出してしまう。戦争は老いも若きも関係ないとは言うが、ここまで生きた老兵が死に場所を、それもバーローズのガキに死に場所を奪われるのは腹立たしい」
「……」
「ここまで言っておきながらだが、お前が戻ってきた時に、まだ生きているかも知れん。我は中々死に場所に恵まれぬ。今回もケスヴァーンターン公爵と可愛いハヴァレターシャ元皇太子が公爵軍と帝国軍の連合艦隊を引き連れて《ワープ》でやってくるそうだ。ハヴァレターシャ元皇太子殿下は機動装甲まで用意して。軍帝の、リスカートーフォン皇后の一人娘のお伴を、あのガキに譲ってやる気にはなれんな。お前にもローグの跡取りにも、もちろんロスタリオールの息子にも。かつて戦う軍帝の陰と称されたこのイルギ、譲ってやるものか」

 レドルリアカインは機動装甲にイザベローネスタを乗せて、援軍が使用するワープを避けて帝星へと向かった。レドルリアカイン、彼は言う―― あの時、イルギ公爵に連合艦隊がワープでやってくると聞かなければ、気が急いていた私は使用して、そして巻き込まれていた ――

 援軍が絶望的になった前線に彼が戻って来た時、すでにハイラはいなかった。

「イルギのババア、ボディブローかまして行きやがった」
「……」
「なにを笑ってる、カイン」
「多分君が行ったなら、イルギ公爵は私に”バーローズのガキ、アッパーかまして行きやがった”と言っただろうなって思ってさ……結構似合ってるよ、その名前」
「俺はクレスカの響きが、自分の名前のなかで一番気に入ってたんだけどな。この俺がイルギ公爵の名前をひっつけて、クレスターク=ハイラムだとよ」
「クレスカは格好良いもんね。でもハイラムも似合ってるよ。イルギ公爵は君と名前を交換するために、ここまで生きてきたのかもね」
「冗談」

 クレスターク=ハイラムは凍りついた尖塔に立ち、夜ばかりの空を見上げる。

「死ぬのは構わないが」
―― 俺は死にたくねえな
「お前、死にたくないから俺の体の自由を奪って、ハイラのババアに殴らせたな。お前は誰だ?」
―― ローグの跡取り、ハンサンヴェルヴィオの中にいる奴”だった”
「ラードルストルバイア……ハンヴェルの中にいるのとは随分違うな」
―― そりゃそうだろ。あいつは暗黒時代に死んだ俺だ
「お前はいつ死んだんだ?」
―― こいつと一緒に死んだのさ
 単身宇宙に出てザロナティオンの腕を構え撃つ。人々が驚いた敵の防御の壁が砕け散る様を見ることもなく、後方に飛ばされて随分と古い型の機動装甲に助けられる。
 今はもう作られていない頭部操縦席型。機体の紋はガルディゼロ侯爵。
「シュスターク帝の中にいたのか。補助に入ってたこれは……六代オーランドリスになる男か」
―― そうだ。どうやら驚いたみたいだな
「それで、死ぬのが嫌なラードルストルバイアはどうしたいんだ?」
―― 死んでやるよ
「そりゃどうも。その心境の変化は奈辺に?」
―― この危機的状況を作ったのは”彷徨える帝王”だからだ
「弟思いなことで」
―― 存在していなけりゃ、なんとも思わないが
「どこにいる? いつの時代の」
―― とびっきりの奴だ。この俺と一緒に生きた奴だ。俺たちは従兄だった。シャロセルテが入ってた奴は天才だった。奴が開発した腹部操縦室で誕生するとは、俺も奴もあいつも思ってもいなかっただろう

 セゼナード公爵エーダリロク・ゼルギーダ=セルリード・シュファンリエル。ワープの際に起こる未来の事故を予測した最初の人物。腹部操縦席型機動装甲の産みの親。いまだに宇宙に名だたる天才として名を残す、早世を惜しまれたロヴィニアの王子。

「鐘を鳴らされた男……ああ、そういうことか。そして帝王は生まれたての帝国最前線姫の中か。いまは帝星まで前線が引っ込んじまったけれども。それにしても帝王はよっぽど帝国が好きなんだな」
―― そうらしい。そういう訳だ、行こうぜクレスターク=ハイラム
「お前の覚悟が決まったんなら。俺は最初から覚悟は決まってるんでね、”不均衡の翼”あるいは”不和の象徴”さんよ」

**********


「……まあな」
「じゃあ聞かないでおく。ま、僕が生きている間には起こらないんでしょ? だったらいいや」



《敗北し、人と共に滅びるのだろうか。もしもその時、存在することができたなら、私はやはり帝国を守るであろう》




「お前らしいな、キュラ。俺がどれほど考えても、俺が生きてるくらいじゃあこの余波は来ないだろうから……俺はここで見張ってるから、お前は式見てきたらどうだ?」