藍凪の少女・少女が街へと戻ってきた[02]

「うわ! 元気だったか!」
「うん! 元気、あてしとっても元気!」
 ピラデレイスは両親と共に現れたグラディウスに驚き、そして抱きかかえて ”高い高い” をしてやった。
「グレスが探していたのは、お前だったのか」
「優しいお兄さんといっていたから、てっきり貴方ではないと思っていたわ」
 両親は笑顔でそう言い、妻となる、
「初めましてレンディアさん」
「息子のことよろしくお願いしますね」
 レンディアに声をかける。
「こちらこそ。がさつで男言葉の抜けない女ですが、よろしくお願いします」
 喋り方で何時も男と勘違いされる花嫁のレンディアは頭をかきながらはにかむ。
「グレスか、そうかグレスか。良い名前に変更になったな」
 グラディウスはピラデレイスの言葉に、
「?」
 首を傾げた。
 ツギハギだらけの洋服を着た、帝星に向かう前と全く変わらない素朴な表情のグラディウス。まさかこのグラディウスが未来の皇太子候補の生母になったとは、宮殿に送り込んだピラデレイスですら思わなかった。
「どうしたんだ? ピラデレイス。その子、不思議そうな顔しているぞ」
「レンディア。あのなあ、この子はグレスってことで」
 言われたレンディアも、意味を理解した。
 ピラデレイスと二人でグラディウスを宮殿に送ったレンディアは、グラディウスの名前が帝后と同じことを知っている。
「そうか、宮殿だからすぐに変更がかかったのか」
 そしてグラディウスは宮殿で働いているので、名前の変更通知が早くに出されたのだろうと解釈した。
「恐らくな。最近名前を検索しても出てこなかったのは、そのせいだ」
 グラディウスがまだ未成年だった事もあり、ピラデレイスは斡旋所職員の権限をフルに活用して ”まめ” に検索をかけてグラディウスが無事であることを調べていた。
 だがある日突然 《グラディウス・オベラ》 が検索にかからなくなり、グラディウスが ”あまりにグラディウス” なので何かあったのかと、かなり心配していた。
「無事で良かったな。そうか、初対面だったな。レンディア・サマナーデ、ピラデレイス・ドミニヴァスと結婚したんだ。よろしくな」
「あてし、グレス! よろしくね、おねえちゃん!」
 レンディアとピラデレイスは帝星に転勤することが決定しており、到着したらグラディウスがどうなったのかを探そうと二人で決めていた。
 内輪の結婚式も終わり、
「どうぞ」
 転勤のために荷物は既に帝星に送り、官舎を引き払っている二人は、上司の家に出発まで滞在することになっていた。
 ドミニヴァスの両親も一緒に泊まることになっており、
「ナナ。解ったわね」
「はいママ。解りました」
 そして飛び入りである、
「あてし、グレス! よろしくね!」
 グラディウスも泊まることになった。
 だがグラディウスが泊まる部屋がないので、上司は五歳になる娘の部屋に予備のベッドを入れて、
「よろしく。私はナナよ」
 過ごさせることにした。
 五歳になる上司の娘ナナはかなり口が達者で、とても発育がよい。習い事もしているし、幼稚園にも通っているので、グラディウスより余程お姉さんに見える。
 体の大きさは全く違うが。

 その頃グラディウスと一緒にエルダーズ28星に来た両親の言葉に、
「…………」
 ピラデレイスは頭を抱えた。
「どうしたの? ピラデレイス」
 両親はグラディウスと話しをして、グラディウスが自分達の息子に会う以外の目的があることを知っていた。
 その目的とは 《驢馬を買って村に持っていくこと》 その願いを叶えてやってから帝星に一緒に戻ろうと言ったのだが、ピラデレイスとレンディアは顔を見合わせてから、深い溜息をつく。そして、
「あーあのさあ……」
 上司も交えて、グラディウスがエルターズ28星を出てからの出来事を語った。

**********

 グラディウスが村を出てからすぐに、兄は妻子を置いて村を出た。仕送りをするために、別の惑星で働くために。
 妻は自分を残して村から出た兄に腹を立てたが、村人達の視線は冷ややかだった。
 兄が村に残っていたのは、妹のグラディウスがいたから。自分がいなくなってしまえば、グラディウスが虐められるだけでは済まない、殺されてしまうのではないかと不安に思って、彼は残っていた。
 その兄は何故、妻がグラディウスを虐めるのを庇いきれなかったのか?
 二人の間に産まれた息子は知能の発達が非常に悪かった。
 妻はその息子を嫌い面倒を進んでみようとしなかったので、兄が必死に見ていた。そのせいもあり、グラディウスまで目が届かなかった。
 事態を見守っていた村長によってグラディウスは村を出て行き、そこではっきりと自分の妻が妹を虐めていたことを知り喧嘩になる。そしてグラディウスが仕事を見つけてエルターズ28星から出て行ったという知らせを村長から貰い、兄は安心して村から出て行った。
 村から出て、働いて村長に仕送りをするから、息子の面倒を見て欲しいと。
 置いて行かれた妻は腹を立て、そして息子にグラディウスの悪口を言った。息子は理解できない存在だと思い、悪口を言った彼女。
 だが、家を出る前に父親が彼にかけた言葉を理解していた息子は、母親を殺害する。

 《もしもグラディウスが帰ってきたら、お前が守ってやってくれ》

 そう言われたのだと、息子は村長に必死に語ったという。兄は息子が妻を殺害したことを知らない。

**********

「一年半くらい前に、ヒルメニウム鉱山惑星で爆破事故が起こって多数の死傷者が出たの知ってるだろう?」
 ピラデレイスの言葉に、その場にいた大人達は全てを理解した。
 ヒルメニウム鉱山惑星には、多くの貧しい者達が働きに来ていた。その労働者の一人が、グラディウスの兄だったのだ。
「国営だったこともあって、保証金は出たから、それを村長に送る際に、息子が母親を殺したことを聞いた。息子は保証金で何とか養っていけるが、あの子グラディウスが帰ってくるのは無理だということだ。兄の死を伝えるか伝えないかを迷ったんだけど、成人してから伝えても遅くはないだろうと思ってさ。二年も宮殿で働いたんだから、驢馬を買うくらいの金は貯まっただろうが、買って村に帰ると兄と兄嫁の死、そして年の近い甥の殺人を知ることになる」
 全員がグラディウスの笑顔を思い出し、
「楽しみにして帰ってきたのに……可哀想ね」
「そうだな」
 首を振った。

 その頃、グラディウスは部屋の主であるナナと話をしていた。
 十五歳のグラディウスよりも、五歳のナナの方が喋るのはうまい。
 自分よりも年上相手に上手に喋ることが出来ていることで、子供特有の優越感を満たされ気を良くしたナナは、
「私の宝物見せてあげる」
 グラディウスに自分の宝物を見せてあげることにした。
 ナナの宝物は、両親と旅行に行った先で買った 《しおり》
「本に挟むんだって。本は高くて買えないけどね」
 紙で作られる本は高価で簡単には買えないが、それに使う栞はよく売られている。以前は 《本を買ってから栞》 だが現在は 《栞を買ってから、買えたら本を》 となっている。
 宝物を見せて貰ったグラディウスは、
「あてしの宝物みせてあげるね」
 そう言って、ツギハギだらけの袋からサウダライトの手袋を取り出した。
「別々のもの?」
 手の甲にある模様の違いに首を傾げるナナに、
「違うよ。どっちもおっさんの物だよ」
 答えにならない答えを返す。
 ナナがもう少し大人だったら、その手袋を見てグラディウスが何者なのか理解できないまでも、驚いたであろう。
 左右違う模様の描かれている手袋。その左手側に描かれているのは 《イネス公爵家の紋》 
 サウダライトが皇帝の座につく際に、イネス公爵家の紋はあちらこちらで見られ、人々の記憶に深く刻まれた。 
 ナナはまだその頃、一歳を少し過ぎたばかりで、イネス公爵家の紋で飾られた町中を知らない。
「ふーん。触り心地いいね」
「うん! 一人で寝る時は、これをぎゅっとして寝るの」
 もう片方の手袋にある紋は、ガイレロドレウセ親王大公紋でますます馴染みがない。
「大人なのに一人で寝れないの?」
 ナナの言葉にグラディウスは顔を赤らめて、
「うん。あてし、おっさんと一緒に寝るのが好きなの」
 答えた。
 ナナはグラディウスをベッドに手招きして、
「狭いけど、一緒に寝ようか」
 二人は仲良く眠ることになった。
「うれしいなあ。あてしも、赤ん坊と寝たいなあ……」
 ナナはこの言葉の意味を理解は出来なかったし、真相を知る事もなかったが、とても寂しいのだろうと思い、体を寄せて抱きついた。

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