俺は試験場にいた。兵器のテストを行う場所の一つで、ここは[エヴェドリット王族が生身で戦闘に使う兵器]を試す場所だ。
試すのは俺、ビーレウスト。
「遠距離用兵器もいいが、近距離用の火薬を使ったやつも捨てがたいな。火薬の改良さえ進めば……」
≪ロヴィニア艦が無許可で大気圏を突入≫
突然響き渡る、監視システムの音声。この惑星には、対戦艦システムなんてのは完備されていない。防空もなにもありゃしねえ。無許可で着陸したヤツは、理由が何であれ兵器テストの的になる。
……でも、ロヴィニア艦ってことは……一応、俺の旗艦に聞いてみるか。
「おい、ダバイセス。今無許可でここに特攻かけてるバカ艦は誰の艦だ?」
「エーダリロクですよ」
やっぱりそうか……
「後からロヴィニア王艦隊が迫ってますけど、どうします? 一個師団で来ましたよ」
「あの吝嗇がえらい艦隊動かして……まあ、どうせ俺のところに来るんだろうから。解った、後は気にしないで兵器テストのデータまとめておけ」
「はい、畏まりました叔父様」
ダバイセスは、今のエヴェドリット王ザセリアバの実弟。俺と同い年だが……さて、
『いるか! ビーレウストォォ!』
成層圏に入る前から艦外放送って、確かに俺は聞こえるが。
「いるぜ、エーダリロク」
とりあえず、俺の音声拾って近くまで来いや。話はそれからだ。
万が一の事を考えて、対戦艦用のボディパーツを装備して……っても、さすがのロヴィニア王艦隊を一人生身で迎撃すんのは面倒だなあ。機動装甲なら勝てるかもしれねえが。まあ、ロヴィニア王は無駄な事に金使わない主義だから、軍備もアホみてえに揃えてねえだろうし……これでも、十分生き延びれるだろう。
ザセリアバ艦隊が来たなら、さすがの俺でも諦めるけどな。あの甥っ子は、間違いなくエヴェドリットだ。
「ビーレウスト!」
少し離れた場所に着陸したエーダリロク艦から、エーダリロクが走ってきた。
「どうしたんだよ? エーダリロク」
「俺に抱かれて」
「嫌だ」
そうくるとは思ったが、今度はどうしたんだよ?
「俺とやったら最後、結婚するハメになるんだぜ? それなのに」
鋭い目つきに、銀の真直ぐな指を通せばサラサラと音がなるよな綺麗な髪、そして薄い唇で大声で叫ぶ。
「アケミの貞操がぁぁ!!」
− アケミ? アケミ……アケミ……
「アケミって、あーアケミってあれか。お前の言う所の子どもの頃から病弱だった、マルバルセン産のティラノサウルスの雌、10歳だったか?」
俺にはアケミもユリヴァライドも、ベルセッケもハニータも見分けつかねが……あれ見分けるくらいなら、同じ種類の銃並べて名前付けてた方が良いと思うんだが。旋条痕はいいぜえ、火薬系銃のあれは芸術だよなあ、旋条痕。
火薬もいいよな、火薬。
大昔の黒色火薬なんか結構好きだな。火薬の殺傷力なんてのはたかが知れてるから、殺傷力を上げる為に釘とかガラス片とか混ぜ込んだ努力。
兵器開発の元祖だよな、金をかけないで殺傷力を上げるってのは。
俺達も血筋の組み合わせで殺傷能力を高めた個体になってきたけどよ。根はあれだよなあ、でも未知の分野も……
「アケミがぁぁぁ!」
今はそれ処じゃねえか。
「落ち着けよ!」
その鋭い目に涙浮かべて、下唇かみ締めて……気持ち悪いぃぃ!!
『あ、あー此方ロヴィニア王、此方ロヴィニア王。貴様等、聞こえておるか!』
来やがった。さすが王様の直属艦隊、数はスゲエな。生身に強化パーツでも、一割も落とせネエだろうなあ。二万艦くらいなら、兵器の種類によっちゃあ勝つ自信があるが、その百倍じゃあな。
「何しに来やがった! むしろ! エーダリロクのアケミに何しやがった!」
俺としては何をされてもいいんだが、それを知らねえと話が進まねえからな。
『ふふふ、見ろ!』
ロヴィニア王の合図で上空一体に画面が現れた。そこに映っているのは、檻。一つにはティラノサウルス、もう一個にもティラノサウルス……えーと? 何だ? 待て、よく見ろビーレウスト! 戦場じゃあ、一寸の見落としも命取りだ! よく見ろ! そこに何かが……? 確かアケミは雌だったよな。向かって左側のティラノサウスルは雄か? 雌と雄で貞操?
「エーダリロク、もしかして……俺とやらなけりゃ、アケミがあのティラノサウルス雄に襲われるってことか!」
「そうだ! だから俺に犯されて!」
「冗談じゃネエ! 何でティラノサウルスの貞操守る為に、俺がやられなきゃならねんだよ!」
ティラノサウルスのヴァージンのために、俺がこの演習場でエーダリロクに! 服脱がそうとするな! 襲うなら引き裂け! じゃなくて、やめえぇぇぇ!
「俺の可愛いアケミが! 可愛いアケミの為に!」
どっからどうみても、ティラノサウルスだ……あれ、可愛いんだ……
何時も聞かされてたが、身を持って教えられたような気がする。
なあ? メーバリベユ侯爵。あんた、男の趣味はいいが知れネエが、夫の趣味は悪いぞ。コイツは良い男だが、良い夫になる前段階で駄目だ。
友達には良いんだが、夫はどうなんだろうなあ……
あんた、結婚したらあのティラノサウルスに嫉妬しなけりゃならねえんだぜ?
相手人間じゃなくて、ティラノ=アケミだぜ、ティラノ キャラング アケミ……強そうだ。
『さあ、今ここで兄であるロヴィニア王の前でやれ!』
そう言えば今日の武器の試用……ザセリアバの野郎知ってやがったな……。あの野郎も無駄な事は一つもしねえ、たいした王様方だ。
だが、感心もしてられねえか。
「落ち着けよ、エーダリロク! 肩掴んでる手、少し弱めろ」
俺でも痛いんだから、常人なら肩の骨砕けてるぜ。
「アーゲーミーがー」
ア[ゲ]ミじゃなくて、アケミだろが!
「少し落ち着け! エーダリロク! 混乱してて勝てる相手か! あの策謀王に! 吝嗇だわ、策謀家だわ、がめついわ……ケチ……ケチ……ロヴィニア王! 一つ聞こう!」
もしかしたら、これで!
『何だ、デファイノス伯爵』
「このデファイノスが拒否し続けたら、その雄のティラノサウルスをアケミの檻に放り込むんだな!」
『その通りだ』
「だが! そのティラノサウルスは発情期でもない限り、交尾したがらないはずだ!」
『その事も調査済みだ! 確りと発情している。檻に入れたが最後、マサヨシはアケミを襲う』
よし、思ったとおりだ! ……で、あの雄はマサヨシって言うのか……よー解らんが!
「今ここで、俺が断固拒否し逃走したらマサーシェン……じゃなくてマサヨシをアケミの檻に放り込むんだろう? そうなれば、マサヨシとアケミの子ができるのは確実! そうなった時、あんたはマサヨシとアケミとその子達の飼育……じゃなくて、養育費用払ってくれるんだろうな! あんたが勝手に繁殖させたもんだ! そのくらいの覚悟はできて脅してんだよな! まさか、アケミを孕ませてそのままエーダリロクに返す気じゃねえだろうな? この爬虫類バカ一代にそんな事したら、どれ程の慰謝料取られるかわかってんのか! ロヴィニア王!」
多分コイツはやる。
ロヴィニア王相手に、アケミに対する暴行罪を陛下に訴えるに決まってる。
少し言葉に詰まっているロヴィニア王、この隙に!
「確りしろ、エーダリロク。いいか、ここで手前等兄弟の得意分野の数字をぶつけろ! 惑星を整える金額から食事代やら人件費やらをあの “女房の浮気は許すが、浮気に使った金は実家から利子つけて巻き上げる” 王にぶつけろ!」
王妃バセレアダの実家デラサハ公爵家は、これのせいで破産寸前らしい。
とうの王妃は実家がそんな目に遭ってることは知らないで、満たされない夫婦生活ってのを埋めてるらしいが、その損失補填は実家だ。
[王は私に何の興味も持っていない。私のことなど、何も知らないし知ろうともしない]とか言ってるらしいが、あんたも少しは興味をもってロヴィニア王の性格を理解しろよ! 一寸でも知ってりゃあ、絶対浮気なんて出来ねえぞ、このがめつい王様の下で浮気なんざ!
「そ、そうだな! 俺、がアケミの貞操を守ってやらないとな」
ついででいいから、俺の貞操も守ってくれや。たいしたモンじゃネエけど、アケミとマサヨシの暴行未遂の代償に失うのは、俺としても笑えちまうんでな
「兄貴! いいか! よく聞けよ! その憎たらしい、色男のマサヨシ!」
あーあのティラノサウルス、色男なのか? カルニスタミアも色男だって言われるが……俺には全く、ただの恐竜にしか見えねえけど、あれ色男なんだ……いーや、ただの恐竜だ! 騙されんじゃねえよ、ビーレウスト!
「そのマサヨシをアケミの夫にするというのなら、それ相応の用意をしてもらおうじゃないか! 天然惑星一つ用意し、そこに気象安定装置、予備を含めて五機。管理用の人員は特別選抜試験を行う。五次試験まで行われ、当然全ての星系から人員を集める。世話をする奴隷も補充してもらおうじゃないか! それとマサヨシとアケミの間に子どもが一匹生まれる度に、これと同じ金額を支度金として貰う!」
今、ロヴィニア王の頭の中じゃ細かい数字が弾き出されてるんだろうな。
こいつ等数字には異常に強いから。俺達も強いには強い、エネルギー物理式とかはやるが、こいつ等は国家予算とかそういったヤツに強い。エーダリロクはどっちも強いんだが……
『この話はナシだ。じゃあな、エーダリロク』
ワリが悪かったんだな……あんたのそう言う所、俺は好きだぜロヴィニア王
「アケミを解放しろ! アケミを! そしてマサヨシも寄越せ! どうせ、ろくな飼育してねえだろうから! 寄越せ!」
『ありがたく差し上げよう。飼育費用一年分は振り込んでおく。さあ、帰還するぞ』
アケミとマサヨシの入った檻を丁重に地表に置いて、さっさと宇宙に消えてゆくロヴィニア艦隊を見送った後
「ダバイセス、アケミとマサヨシ輸送用の宇宙船を……二隻用意しておけ。別々に運ぶ……最高のヤツを用意しておけよ」
『かしこまりました』
回収を命じた。
俺とアケミのヴァージンは守られたらしい……なんかもう、誰相手に捨てても良い気持ちになってきたが……
ティラノサウルスに向かってアケミ、アケミ無事で良かった! 嬉しそうに叫んでいるエーダリロクを見守りながら、試作品に関するレポートはあいつに任せようと心に決めたビーレウストであった
いつか[2]に繋がる……はず