謁見・1
 先代ロヴィニア王バイロビュラウラが妾に産ませた庶子は143名。
 私、ランクレイマセルシュが後を継いでから諸事情により殺害し、今は65名。
 諸事情というのは色々だ。
 ロヴィニア王位を狙い敵対した者25名。
 与えられた財産を食いつぶし無心に来たので処分された者41名、情けないことにこれが最多。
 残り12名は職務についている最中に死亡した。

 庶子をいかに上手く処分するかがロヴィニア王の座を継いだものの手腕であり、新ロヴィニア王にいかに処分されないように己の存在を誇示するかが庶子の手腕である。
 他王家や皇族のように血眼になって私生児を排除しないことが知れているので、ロヴィニア王の愛人になりたがるものは多い。
 そのように人々を騙し、愛人を多数持ち私生児を放ち後継者の手腕を見る。箱庭の中で血族で殺しあい、腕を磨き外に出る。
 他者に迷惑をかけていないのだから構いはせぬだろう。

 無能は容赦なく切り捨てる、これが基本方針でそれ以外の無謀はしない。

 領地に戻り王城で書類に目を通していると、庶子の一人で秘書を務めるクライグレンが報告を届けに来た。
「エーダリロクが帰宅しただと?」
 私の顔色を伺いながらの秘書はエーダリロクと同い年の二十一歳。全く役に立たぬ男の無能さを露呈させ、そろそろ処分しようかと思っていた所。
 目を通した書類は公文書。
「クライグレン、これを受け取ったのは何時だ」
 セゼナード公爵がロヴィニア王に謁見を申し出ている文書を、
「かなり前です。帝星を発った頃ですから」
「お前は何故今これを持って来た?」
「あ、セゼナード公爵殿下が到着なさったので……」
 今提出してどうする!
 謁見を受けてやる連絡と、それにあわせた時間調整など、しなくてはならぬことは多数ある。帰宅と謁見は違う。庶子で王の秘書をしているくせに、その違いも解らんとなると……切り捨てても良いな。
「死ね、無能。貴様はこれはエーダリロクが王城に帰宅する連絡だとでも思ったのか? ふざけるな、これはロヴィニア王子セゼナードがロヴィニア王に謁見を申し出ている文書だ。どうしたら連絡と公文書を間違えられるのだ! 私は無能は嫌いだ、だから死ね」

 庶子の数はこれで64名か。

 近いうちに後一名消えることになるが……
 執務室から出て正装し、謁見の間に向かう。
「何時間待っている」
「三時間ほどです」
「食事の用意をしておけ」
「畏まりました」
 玉座に向かう廊下に先客がいる、ガゼロダイスか。
 報告ではエーダリロクの帰還する宇宙船に同乗してきたらしいが、あのエーダリロクがこの無性の同乗を許すとは珍しい。
 いつも鬱陶しがって離れたがっているというのに、何故許可したのやら。それともガゼロダイスの鬱陶しさなど問題にならないほど『集中』しているのか。
「どうしたルメータルヴァン巫女公爵」
「あの……エーダリロクの様子がおかしいので、報告に」
 何時もは口を開けば『ビーレウストとの間を持ってくれない』と愚痴ばかりのガゼロダイスが怯えた表情で申し出てくるとは、余程本気のようだな。
「おかしいとは?」
「エーダリロク……じゃなくて ”セゼナード公爵殿下” になってます」
「貴様は何か機嫌を損ねるようなことはしていないか?」
 ガゼロダイスは思い当たる節があるらしい表情をしたが、全くないだろう。エーダリロクは基本的にガゼロダイスを相手にしてはいない。
「何かあったら取り成してやる、だから下って大人しくていろ。エーダリロクが本気になったら怖いのは貴様も知っているだろう、騒ぎを起こすな。いいな、ルメータルヴァン巫女公爵」
 黙って頷いたガゼロダイスが去ったのを見届けた後、私は玉座に座る。
「待たせたな、セゼナード公爵」
 見下ろした先にいるのはエーダリロクではなくセゼナード公爵エーダリロク・ゼルギーダ=セルリード・シュファンリエル。
「ロヴィニア王に会うことができると思えば、待つことなど苦ではありません」
 銀糸の髪に白を基調にした空色の縁取りと金糸で装飾が施された正装をまとい、黒曜石の床に膝をついている。憎たらしいほどに “ロヴィニア” が映える男だ。
 “爬虫類大好き実弟” としてではなく “ロヴィニア王子” として城に戻ってきたのだ、余程のことを要求するつもりだろう。それに見合った「もの」も持って来たのだろうが。何であろうか? 楽しみだ。
「臣、何を望む」
「疑問に答えをいただきたい」
 何であろうかな?
「述べよ」
「それでは。先代テルロバールノル王ウキリベリスタルが帝星において肉体関係を持っていた愛人の名を教えていただきたい」

 ほう……
 この男女関係に興味を一切持たない男が、それを知りたいが為に正装しここまで来たか。
 『帝星』限定であらば、帝婿にでも聞けば良いものを、あの男も知っているというのに。
 帝婿デキアクローテムスに聞けぬ理由があるとしたら、それはそれで面白いな。相手が相手だ、ただ事ではなかろう。

「それまた、謁見の間で口にするには憚られるような質問だが。セゼナード公爵よ私と食事をしようではないか」
「ありがたき幸せ」


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