君想う


 皇帝と皇太子が死去し、次の皇帝は「ファライア」だろうと誰もが考えた。
 エヴェドリット王はファライア帝の婿にと、狂人キシャーレン公爵を帝星へと連れて来るように命じた。
 その任はバーローズ公爵バベィラに。シセレード公爵リスリデスは王国の防衛を命じられた。
 バベィラはサズラニックスを檻に入れて、帝星へと向かう途中、
「ケーリッヒリラ子爵」
「はい、バーローズ公爵閣下」
「ゼフと共に公爵領の防衛を頼むぞ」
 途中で回収し連れ回していた子爵を、ヨルハ公爵領で解放した。
 ヨルハ公爵が居る場所から少し離れたところに戦艦は着陸し、子爵は身一つでヨルハ公爵の元へと向かう。

 ヨルハ公爵は庭で、あの楽器店で買ったミニグランドピアノを、抱えるようにして座る独特なポーズで奏でていた。

「ヴァレン」
「シク! どうしたの?」
「詳細はあとで説明するが、サズラニックス王子だ」
 子爵は夕暮れの空に浮かぶ孤影を指さす。
 搭乗口が開き、そこから檻に入ったサズラニックスが手足をばたつかせ、首を大きく揺らしている姿が見えた。
「サズラニックス! ああ! 陛下の葬儀か! 行ってらっしゃい! 行ってらっしゃい!」
 ヨルハ公爵は船を追いかけ、皇帝の葬儀へと向かうサズラニックスに手を振り続け、子爵もそれを追って行った。
「行ってらっしゃい! サズラニックス」


”お帰りなさい、はなく” 君想う【終】 ”ただいま、はない”



 小麦粉にバターに牛乳に卵を混ぜて、伸ばして、ちぎって焼いて。かあちゃんと作ったビスケット、たくさんリュックに入れて、村長さんのところの驢馬と一緒にお塩を取りに。

「かあちゃん、とうちゃん、行ってきます!」