カミラはデイヴィットと同じくパロマ伯爵領から来たという。それは嘘じゃないだろう、二人とも雰囲気が似ている。同じ惑星で育った者はどこか雰囲気に似通ったところがある、この二人には周囲には感じたことのない雰囲気が確かにそっくりだ。
パロマ伯爵領は既に主はなく、誰も住民はおらず城代と少しのお供が年に一、二度、城の保守点検をするだけなのだという。
二年前に知り合ったデイヴィットはそう言って、偶に帝星を離れてゆく。知り合ったのは二年前だが、会っている月日は半年くらいだろうか? それでも随分と会っている気がする。
田舎育ちというカミラは都会の娘のような派手さはないが、素朴とはまた違う清楚……三十にもなった自分が言うのには気恥ずかしすぎる表現が良く似合う少女だ。ほとんど人がいない伯爵領で育ったため、少々口の利き方などが可笑しい所もあるが、概ね礼儀正しい。
この子と同じ育ち方をしたはずのデイヴィットが何故あれほど行儀が悪いのか? 帝星の水を長く飲むとそうなるのだろうか? 生まれも育ちも帝星の私としては認めたくない所だが。
カミラはまだ十六だが両親は既に他界しているといっていた。特に悲しそうでもなかったのが気になったが、母は六歳の時に病死、父は三歳の時に戦死したそうだ。特に父はエバーハルト軍に従軍していたそうで、母親も死んだ事を悲しまないで褒めるようにと言って育てたという。
確かにエバーハルト軍がいなければ、大変な事になっていただろうが。
言動はどこかゆったりとして、偶に想像もつかない事をするカミラだが知力的には相当だった。ただ、その差が激しい。文学の知識はずば抜けているのに、物理学は存在すら知らなかったりする。どういう教育をしていたのか少々、パロマの城代に問いただしたい……勿論、言葉の上だけだ。
デイヴィットが言うところではカミラは城の歴史管理を担当するように育てられたので、必要ないものは教えられてはいないのだという。その代わりに貴族の歴史などは、群を抜いているそうだ。何にせよ、歴史管理の教育は終わったので後は少し一般教養を学ばせようとこの公営住宅に住まわせて……デイヴィットが此処に出入りしていると仲間内で噂になっていたらしく……ものすごく不本意な噂だ……デイヴィットの故郷まで届いてるなんて。パロマ伯爵領って宇宙帝国領の端のほうだろ? フォレーン辺境伯領の隣じゃないか、ここからどれだけ遠いと思ってるんだよ……まあ、何にせよそういった経緯でカミラは其処に住むように命じられたのだという。デイヴィットの家に連絡は行っていたのだが、帰っていなかったので知らなかったんだと……
「毎晩帰るといって家を出て行っていたが、実際は何処に帰っていたんだ」
「気になるかい?」
「もっと仕事を真面目にする男だと思っていたのに残念だ」
「そう言うなって。俺もまさかカミラが帝星まで来るなんて思ってもみなかったし。来るって知ってたらしっかりとで迎えたさ」
多分この言葉に嘘はない。デイヴィットは、明らかにカミラを気にしている素振りが見える。女性嫌いとは言わないが、興味がないデイヴィットの女性に接する態度を側でみていた私にしてみれば、意外としか言いようがない程、優しく接する。だが、逆にカミラがデイヴィットを気遣う素振りは一切ない。
気になる程ではないが、不思議な感覚ではあった。
*
「ねえ? 今日は来るかな?」
「どうだろな?」
俺たちが住んでいるのは貧民街ってやつだ。生まれも育ちも此処だから、それ以外は知らないが蔑まれてるってのは肌で感じる。だからって言って、俺は何をする気もないけどな。今一番必要なのは飯。隣に住んでる足の動かない爺さんにも食事持って帰るのが日課だ。
勿論手に入らない日もあるけどな。でもさ、最近結構な確率でいい食い物にありつけるんだよ! 始めてそのゴミ袋を見た時は驚いた。すげえ肉がはいってた。大きいんじゃなくて薄かったんだけど、口に入れたらすぐに消えてなくなるような、アレを食ったときは驚いたね。
それらから、結構捨てられるんだよそ、その手の食い物が。
「あ、おにいちゃん。来たよ」
肩の辺りまで黒い髪の毛伸ばした気障ったらしい男が置いていくんだよな。あ、確かにあの男だ! ドサリとゴミ袋(俺たちにとっちゃあゴミじゃないが)を投げつけてすぐに帰っていった。一度後をつけてみたい気もするが、とりあえず今はこの飯を持って帰ろう。
「やれやれ上手く処分してくれているようだが……余計な気持ちを起こさなければ良いんだがな。ついてきたりしたら、殺さなきゃならないんだから、黙ってそれだけ持って帰ってくれよ……そろそろ場所を変えるか。全く張り込んでまで食べたい物……なんだろうな」