我が名は皇帝の勝利


― 04 ―


 ダンドローバー公が現れたのは午後。
 もしかしたら来るのではないか? そう思って待ってました。人払いは完璧です……と思ったのですが、ダンドローバー公は胸元から何かを取り出して室内をしらみつぶしに探しました?
「何をしていらっしゃるのですか?」
「盗聴器などが設置されていないかを調べてるんですよ」
「誰も此処には立ち入らせてませんが?」
「掃除の時には多数侍女などが来たでしょう?」
 そういう事ですの。タンドローバー公は一通り調べて、何もなかった事を確認してから口を開きました。
「失礼を申し上げるようですが、あのような遊びは……」
「やめる気はありませんわ。むしろ協力していただけません?」
 母の手紙を見せると、タンドローバー公は暫く考えて
「……三日後には普通の生活に必要な物を取り揃えておきます。それらを運び込むのにあの家の鍵をお借りしたい……明後日の夜は大丈夫でしょうか?」
「大丈夫ですよ」
 二日後の夜にタンドローバー公と会い、鍵を渡しました。どうやらその鍵は複製が作れない物のようです、他の住宅は形は同じですが複製を作る事が可能らしいのですが。
 それとタンドローバー公から多数のディスクを手渡されました。
 それを持って帰って読みますと、タンドローバー公デイヴィット殿は、下級貴族のデイヴィット・クライスラーと名乗っている。
 職業はパロマ伯爵の城代の部下……パロマ伯爵はデイヴィット殿のご生家のようです。私の為に市民としての戸籍まで作ってくれるそうです「カミラ・ゴッドフリート」なる名前。
 此処に書かれているところによれば、あの古い公営住宅を作ったのはディアヌ・マギという役人だった女性。
 この方が皇帝の愛人となる前後に作られたのだそうです、恐らく皇帝もそれをバックアップしたのだろうとの事。中々面白さのわかる方ですね。
 その陛下特に苦労もなく即位して、特に何も悪い事も良い事もせず代を終えた方ではありますが。
 公営住宅は最初は三十八軒、二年ほど遅れてファドルさんと私が通っている場所が完成したらしいです。
 最初の住人はマーガレット・ゴッドフリートで、戸籍もしっかりとあるそうです。この方が恐らくディアヌ・マギ様なのでしょう。それから暫くの空白があって、突然マーガレット・ゴッドフリートは養女を迎えています。
 ジュリエッタ・ゴッドフリート、経歴は孤児院出身の戸籍不明の女性。化粧がとても濃い写真ですが……知っている人が見ればすぐに解かるでしょう、確かにこれは母です。
 当然ながらジュリエッタ・ゴッドフリートの死亡届などは出ませんので、そのまま契約が続行しているのだそうです。
 家賃や水道・電気などの諸費用……これらが必要だとは知りませんでしたが、ともかくそれらの引き落としはジュリエッタ・ゴッドフリートの通帳。
 相当額が入金されているそうで……金額を見ても私には良く解かりませんが、少なくとも向こう千年は借りていられるくらいの金額はあるそうです。
 私は未成年ですから、ジュリエッタが生きているようにしておくのも考えたそうですが、何かと融通が利かない面もあるので後見人という制度を取るのだそうです。後見人はリガルド・デ・グリーブス。パロマ伯爵家の城代。前の城代の息子で、デイヴィット殿がダンドローバー公に養子として入った時についていった方なのだと書かれています。
 ジュリエッタ・ゴッドフリートの養女、カミラ・ゴッドフリートとなって生活する事になりました。
 私一人ではこうは出来なかったでしょう……隣に偶々ダンドローバー公が居てよかった。
 母が書き残した “賢い” というのはこの事をさしていたのでしょうか? だとしたら時期尚早……でもこれから頑張っていきたいと思いますよ。
 そして隣に住んでいるファドル・クバートさんは市民大学の講師だそうで、タンドローバー公の想い人。応援するべきなのかどうなのかは、少し様子をみようと思います。


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