「嘘だろ……」
嘘だといって欲しい。一騎で一国をも滅ぼすと言われている機動装甲を四体だと? 大帝国騎士の一人ヴァレドシーアの再来と言われるニーヴェルガ公がそんな物を手元においたら。
「情報を掴んだから陛下も参事官もツラが渋面でヒドイもんだ」
機動装甲というのは特殊な乗り物で、それほど操縦できる者はいない。
その特殊な能力は『血』に乗っている、そしてその血を確実に引いている国には優劣は抜きにしても多く現れる。
理由は簡単だ、恐らくどこかで血が混じっているのだろう。
エヴェドリット王国というのは、かつて宇宙を統一支配していた(地球外生物をも殲滅した)ベルレー王朝の一角を担っていた軍事にずば抜けた才能を持つ人材を輩出していた家柄の流れをくむ王国だ。
当然、特殊兵器である機動装甲の操縦者も圧倒的な多数を占めていた。
色々な理由があって、機動装甲の操縦者は減っていったがそれでもその血にはまだ残っている。
ニーヴェルガ公ジルニオンとベルライハ公エバカインだ。脅威としか言い様のない強さを誇る二人。
近年はテルロバールノル王国の皇太子テクスタードが有名になってきた。当然と言うべきだが、テルロバールノルも大帝国四大公爵家の血統を伝えている国だ。
「国が離れている上に、中央が混乱し過ぎて陛下も手の打ちようがない……が、隣接国で手を打ってくれそうな才能のある王やら大統領やら指導者やらもいないのが事実」
隣国であれば脅威を感じつつも手の打ちようがあるだろう、特に陛下は策謀がお上手だ。
あの国の軍事全般を担っている二人を殺してしまえば自分達の国が危うくなる事は、色事にうつつを抜かしている僭主達も知っている。
我々の讒言に乗って攻撃を仕掛けたら……ニーヴェルガ公はこれ幸いと牙をむくであろう。
「他の国が確り手を打ってくれる事を期待しておこう」
「そうだ……な」
戦闘においては全力を尽くす……そんな安い言葉では決して太刀打ちできない相手。
「コレは個人的な質問なんだが……総督はお怒りか?」
「……ラニエの事か?」
外憂もそうだが内患もある、皇帝と侍女の間に子ができた事だ。
その子を正式な嫡子として認めてしまった事が問題であった。聞いた話では『皇后自らラニエの子に権利を与えるように』と申し出たそうだが……。
「伯父上は何時もお怒りだ。ラディスラーオ陛下の対応は、伯父上の望む程ではないから」
「だよな……兄上もヴァルカ総督から、預かった昔の上司の王女様なんだからもっと大事に扱えばいいのに」
血筋だけを観れば伯父上の方が陛下よりも皇室に近い。
よって皇后陛下を伯父上が手元に置けば、伯父上は必然的に皇帝の地位に就く事ができた。それをしなかったのは、伯父上自身が自らの才能、内政に対する才能に自信が無かったからだという。
それ以上にかつての主・エバーハルト皇子の王女を妻に迎えるなどという気は無かったに違いない。
インバルトボルグ陛下はあくまでも仕える対象であり、側で共に居る相手ではないのだ。
「だがな、コレだけは信じてくれ。兄上は皇后陛下に対して、ラニエの子を認めるように強制したわけじゃない。本当に突然現れて……最もらしい事は言ってたけどな」
「なんと?」
「陛下の子を野に放てば、いずれ我が子を殺して皇位に就かれるでしょう。ならば最初から権利を与えておけば宜しい……そんな件だったらしい」
「そのように言うという事は、皇后陛下は皇帝陛下に対して疑念を抱いていると取るしかないな。自分の子よりもラニエの子の方を推すのではないか? そのように思われているのでは」
「そう取られるんだろうな。気ままな伯爵家のごくつぶし時代に戻りたい」
モジャルト大公自体には何の罪もないだろうし、そう思う自由もある。
大公と別れた後、私は皇后陛下が帰還するまでの総警備を預かったものとして、グリーブス城代と定期的に連絡を取り合う。
そこからもたらされる映像は、始めてみる笑顔で、観れば伯父上も喜ぶであろうものばかりだった。
短い休暇を終えて帝星へと戻った皇后陛下が無事宮殿に到着したのを受けて、私は前線へと戻った。