「伯父上、陛下の無事をご報告いたします」
「そうか。だが、警護を怠るなよ」
「はい」
「して、インバルトボルグ陛下は如何でいらした?」
「はい、お元気だったそうです。音声はありませんが、映像のみ撮る事を許可してくださったので伯父上に送ります」
「そうか……」
私の伯父は帝領伯で四つの辺境伯を束ねている。年も近く家柄も良かった伯父はエバーハルト皇子の学友に選ばれ、とても仲が良かったそうだ。伯父はガートルード母妃の近い親戚にあたる。伯父がエバーハルト皇子とガートルード母妃の間を取り持ったのだそうだ。
現皇帝陛下の統治能力に関して私は何の疑問も持っていないが、皇后に対する態度は少々どうか? 決してないがしろにしている訳ではないと帝都にいる将軍は報告してきている。だが、ラニエなる女とその後の亀裂から……。伯父はずっと沈黙をたもっていたが、最近になって姿勢を強行にしてきた。
それはそうだろう、伯父はエバーハルト皇子に逃がされて生き延びた人だ。本来ならば伯父が最後まで残るのが筋だったのだが、エバーハルト皇子はそれを許さなかったという。私の母が結婚を控えていたそうだ、伯父が戦死すれば結婚は伸びただろうが……
「ママーリエによろしくな!」
伯父はその言葉に頭を下げた。後日伯父は語った、多分自分が殿を務めていればもっと被害は甚大であっただろうと。要するにエバーハルト皇子と共に! その士気の高さが敗北したとは言えアスカータ共和国に国境を越えさせなかったという事だ。
エバーハルト皇子の戦死により伯父は皇子の父である皇帝陛下に責任を問われたが、ガートルード母妃が皇帝になにやら手紙を見せて(その内容は知らない)お咎めなしで終わった。それ以降伯父はガートルード母妃とインバルトボルグ王女(当時)に忠誠を誓った。かつてエバーハルト皇子に誓ったのと同じように。
ガートルード母妃が亡くなった際に伯父はインバルトボルグ王女を引き取ろうとしたのだが、横槍が入り……入れたのは現皇帝の兄・アンドレアス……既に故人だがアンドレアスの横槍で王女を引き取るのを断念した。断念はしたが王女の身辺には何時も注意を払っていた。
そうそう、横槍を入れたアンドレアスは王女を妻にしようと目論んでいたという。実際、皇帝がインバルトボルグ王女以外全ての皇族を抹殺した後、ノコノコと帝都に来て王女を要求した。陛下は伯爵家の庶子で、アンドレアスは伯爵夫人が生んだ跡取りだったので……。横から来て戦利品を獲るのが伯爵家の跡取りとは笑わせてくれるものだ。そんな都合の良い頭でも、皇帝の座に就くのにはインバルトボルグ王女が必要なのは理解していたようだ。
陛下が当然そんな意見を聞くわけもなく、殺害された。殺される直前までアンドレアスは「父を呼んでくれ! 私はハイケルン伯の当主となる身だっ!」そう叫んでいたのを、私も覚えている。そうそう、息子に息子を殺害されたハイケルン伯は、帝都に到着した際顔面蒼白で小刻みに震えていた。
後にモジャルト大公、現皇帝の弟であり、大公に叙された彼から聞いた所によると、ハイケルン伯も皇位を「貰える」と勘違いしていたという。全くお目出度い者達だ、殺されたアンドレアスを見て自分の考えを口にする機会を失った為に生き延びはしたが、弟が大公に叙されたというのにハイケルン伯はハイケルン伯のままだという所に、全てが物語られているように思える。
何にせよ、男爵であったラディスラーオ卿はインバルトボルグ王女と結婚して即位し、安定した治世を敷いている。それ自体は喜ばしい事だが、私は伯父と同じく皇后となったインバルトボルグ様の身の安全を第一に考えている。
そんな中、突然の来訪者が現れた。