繋いだこの手はそのままに −176
 現れたのは皇帝直轄領”シス侯爵領”で待機するように命じられたボーデンの艦隊。
 ボーデン艦隊は特別編成で、帝国軍本隊の一部として皇帝の帰還に従い「シス侯爵領」にはいった所で、帝国軍本隊と別れて領地駐留艦隊となっていたのだ。
 僭主側はここが固有の武力を所持しない空白の帝国領だと考え、それにあった艦隊編成をして攻撃をしかけてきた。
 《皇帝が奴隷に入れあげている》ことは僭主たちも理解していたが、まさかその奴隷が連れて来た犬の住環境を整えるだけではなく、皇王族に連ならせて爵位をあたえ、軍階級をあたえ、先の戦いの功績として昇進させ、あまつさえ私軍所持許可を与えるなど、僭主たちは考えもしていなかった。僭主以外の者もあまり考えないではあろうが。

「閣下」
 現れたボーデン准将艦隊からの光通信連絡を解読し、
「全軍、僭主艦隊と交戦。ロシナンテには私が直接指示を出す」
 メリューシュカは艦隊を指揮しているイズモール少佐の裁量に任せることを伝えた。

**********


「味方のようですね、准佐」
 テルロバールノル王の旗艦で敵機動装甲の情報を採取している技術兵が、突如現れた帝国軍艦隊に驚きの声を上げる。
「帝国軍も掴んでいなかったようだが……帝国軍は稀ではなく、頻繁に奇跡を起こすからな」
 それほど頻繁に起きていては「奇跡」と言われなくなりそうだが、今回のような奇跡としか言い様のない事例ばかりなので、結果として頻繁に奇跡が起きる。あるいは奇跡を起こすと言われているのが帝国軍だった。
「それで統一したと言われる軍事国家ですからね」

 狙い澄ましたように、狙った場所から、最高のタイミングで現れた准将艦隊。

「ヘルタナルグ准佐。ロシナンテの艦長、イズモール少佐からの通信です」
「繋いで」
『帝国軍イズモール少佐です。本艦隊は情報が不足しておりますので、現状を教えていただきたい。ダーク=ダーマとは交信途絶中なのですね』
 ほんの一時ながら「皇帝の旗艦の艦長」にもなったことがある、若き少佐は敬礼した状態で画面に現れた。
「テルロバールノル王国軍ヘルタナルグ准佐です。現在は少佐の言う通り通信は途絶しております。初期は通信はありましたが、途中で途絶しました。セゼナード公爵殿下が補助装置を作成してくださいましたが一機だけのため、現在ダーク=ダーマよりの通信は光点滅が主です。艦橋からバールケンサイレ大将閣下が”こちら側”に向けて発し、我々がダーク=ダーマ内の数カ所に”戻す”状態です」
『光点滅は、バールケンサイレ大将閣下が全て?』
「はい。指揮官自ら通信を受け、解読し、返しています」
『さすが通信大将閣下。ヘルタナルグ准佐、本艦隊はバールケンサイレ大将閣下から裁量を任せられました。まずは陛下の騎士ことガーベオルロド公爵閣下搭乗攻撃護衛艦の警備につきたい。よってテルロバールノル王国軍が確保している空間を渡してください』
「了承しました」
 ダーク=ダーマにもっとも近い位置にいたテルロバールノル王の旗艦は離脱し、そこへ対異星人戦役に用いられるイジューシャまで持って来た、ボーデン艦隊が入った。
「イズモール少佐。援軍要請は本当でしたね」
 副官の言葉にイズモール少佐は、画面を見据えたまま力強く頷く。
「そうだな。指示通り、イジューシャも持って来て良かった。ガーベオルロド公爵閣下が搭乗している護衛艦とダーク=ダーマを護るようにイジューシャ配置」
 対異星人戦に用いられる”壁”を動かす指示を出すと共に、その場所に設置するためには交戦を開始する必要がある。
 イズモール少佐はシュスタークから下賜されたヘルメットを司令席に置き、シス侯爵艦隊の総員に開始宣言をするために映像回戦を開く。
 画面に映し出されたヘルメットの置かれた司令席に、総員膝をつき頭を下げる。
「皇帝陛下の御為に」
 イズモール少佐の言葉のあとに、
『我等一騎当千の兵ではなけれども』
 兵士たちが続く。
「皇帝陛下の御為にこの命を捧げること」
『躊躇わず』
「我等征く」
『我等征く』
「何処へ征く」
『皇帝陛下の征かれる場所ならば何処へでも』
「その言葉が真実であると誓いはしない。何故ならば」
『何故ならば今此処で証を立てるゆえ』
「我等帝国軍人」
『我等帝国軍人』
「我等の死など皇帝陛下の眼前にある必要なし」
『我等の死の先にある未来をご覧あれ』
「その礎になれる者こそ」
『我等帝国軍人』
 全員が立ち上がり、イズモール少佐が右手を掲げた。

「さあ、僭主と一戦交えるぞ!」

**********


 ロガはボーデンの艦隊を率いてくれたイズモール少佐に個人的に、会いたいと希望していた。
 シュスタークも”では、中佐に昇進する際に特別に呼び出そう”と言ってくれたのだが、それには相当な時間がかかる。
 出来ればすぐに連絡したいと考えたロガは「ナイトオリバルド様のこと助けてくれた感謝の気持ちを伝えたいので、連絡先を登録しておいてもらえますか?」とシュスタークに頼んだのだ。
 「お手紙書きたいんです」というロガの願いをシュスタークは受け入れ、軍名簿からイズモール少佐への連絡先を登録するように命じ、ロガは手紙を推敲していた。
 ロガは感じたままを書きたいという気持ちはあれど、メーバリベユ侯爵に手直しして貰う必要があるだろうという気持ち狭間で揺れながら、手紙を認めていた。


 この襲撃の最中、ザウディンダルが部屋に戻りミスカネイアに治療してもらった後に辞書を使って室内をある程度使えるようにしたのだが、それ以前にロガは辞書を使って勉強をしていた。
 ロガは部屋から無理矢理連れ出されたので、辞書であり勉強用のノートにもなり、通信をすることも可能なそれは立ち上がったままだった。

 放置された形となったボーデンがよろよろと近寄り、キーの幾つかを踏んで押す。その時、通信用のキーを押してしまい、唯一登録されていたイズモール少佐へ「私信」が届いたのだ。
 まだ艦内の通信が途絶していなかった時期なので《手紙》は簡単に少佐のもとへと届き、
「ダーク=ダーマより私信?」
 発信元に驚き、彼女は大急ぎで手紙を開く。
 文面からただならぬものを感じて、少佐は艦隊を率いて「通信が発信された場所」へと急いだ。
 その文面というのがたどたどしいロヴィニア語の、途切れ途切れの文章。
 実はそれ、シュスタークが会戦終了に行った演説。
 ロガは《ナイトオリバルド様が舞台の上で語った言葉を理解したい》という気持ちと《ロヴィニア語も覚えなければ》という考えで、その文面を勉強に使用していたのだ。
 会戦終了後の文章なので、端々に「僭主」「防衛」「進軍」「イジューシャ」という単語が散りばめられていた。
 完璧に書き写された物がイズモール少佐の元へ届いていたら、記憶があるので「何かの間違いだろう」と緊急性を感じず、このタイミングで現れることはなかった。
 だがロガは完全に書き写せず、途中が抜けた状態。
 これが駐留艦隊の不安を煽る。
 軍の装置ではない特殊機器からの、暗号文のような出撃要請《と読める》文章。
「発信された機器が特定されない?」
「はい。軍用機ではない通信機器からの発信です」
 もちろんイズモール少佐は《后殿下が自分に個人的に手紙を送りたい》と考えているなど想像もしていない。
「大至急準備して出撃する。何もなかったら、そのまま引き返せば良いこと」
 目標ポイントまでは用意を含めても、約二時間半で到着できる距離。
「確認は?」
「この文章の通り、僭主の襲撃を受けているのならば、奇襲をかけるべきだろう。目標ポイントは通信発信源、全艦ステルス体勢。基地は艦隊出撃後、臨戦態勢を取れ。さあ、三十分後には出るぞ!」
 イズモール少佐の指示に副官が頷き、基地は大騒ぎに。
 艦隊の代理管理を任されていたイズモール少佐は既に用意が整っている状態なので、基地内の大騒ぎを笑いながら眺めていた。
「何事もなかったら、宇宙を眺めて酒を飲み交わそう、中尉」
 副官にそう言うも、
「もう見飽きてますよ、少佐」
「そう言うな。何事もなければ、軽率な私に乾杯を。僭主がいたら中尉に乾杯」
「生き残ったら、全員で乾杯ですね。もちろん少佐の奢りで」
「破産する」

―― 僭主 攻めイジューシャ 防衛 要請 大至急 シャロセルテ 艦隊

「それにしても、ザロナティオン大帝がロヴィニア語で書かれているところが、非常に危険な感じがする」
 文面を見たイズモール少佐が奇妙に感じても、おかしくはない”仕上がり”だった。

**********


「キャッセル兄、安全が確保できましたよ。どうぞ”完全”攻撃体制にはいってください」

 アイバス公爵から連絡を受けたキャッセルは、僭主側の二体の機動装甲に狙いを定め、撃ち出した。
 最大射程からなら機動装甲をも撃ち落とすと言われる男の真価。
 銃身の長さ100メートル、背後に三体の白き最強騎士の機体を従えて、左足を前に出し右足で体を固定する。
 戦火を見て敵の動きを推測し、その先を読み撃ち出す。

「兄さん、大丈夫かなあ。まさか完全異形化とかしてないだろうな。兄さん完全異形化して戦ったりすると……」

**********


 イズモール少佐に場所を渡し、テルロバールノル艦隊を整列させながら、ヘルタナルグ准佐はデータ採取の進み具合を確認する。
「どうだ?」
「まってください……終わりました!」
 技術者たちの自信に満ちた表情に頷き、王からの命令を果たすためにザセリアバへと連絡を入れた。
「リスカートーフォン公爵殿下! 情報収集終了いたしました!」

 何が起こるのか? 誰もが知っているはずなのに、誰もがその事態に驚く。彼ら以外の者は驚くしか選ぶことができない。

『そうか、じゃあお前達はデータを大事に保管しておけよ。よし、シベルハム、エレスバリダ! 用意はいいな!』
 ヘルタナルグ准佐からの連絡を受け取ったザセリアバは、待っていたという感情を露わにして叫ぶ。
『おう、いつでも』
 艦隊指揮をしているアジェ伯爵も、
『待ってたぜ、王』
 バーローズ公子も、待っていたと叫ぶ。
『シセレード公爵 ストローディク=ザーレリシバ! 行け!』
『了解した、リスカートーフォン公爵 ザセリアバ=スフォレディク』

 ザセリアバはエヴェドリット特有の名前交換を行い、シセレード公爵に「さあ、死ね」と命令を下した。言われた方も心得たとばかりに、僭主側機動装甲二体に突撃してゆく。
 この状態になることは、ほぼ誰もが解っていたが、艦橋に響き渡る異常な笑い声に、血の気がひいてゆく。
「な、なにが楽しいのだろうか」
 ザセリアバに”データ収集完了報告”をするという重大任務を任されていたヘルタナルグ准佐も、艦橋に響くエヴェドリット勢の笑い声に呆然としていた。
 ヘルタナルグ准佐も軍人だ。
 人の死に何度も直面したことはあるが、目の前で起きているのは人の死ではなかった。
 誰もがエヴェドリットは”こういう性質だ”とは知っているが、知っているのと目の当たりにするのは違う。
 僭主騎士二名もシセレード公爵の自爆体勢だと理解し、必死に逃げようとするが、エヴェドリット艦隊そのものが「三体」に狙いをつけて攻撃を開始する。
『死ね! 死ね! シセレード!』
 僭主艦隊への攻撃を止めて、味方に集中砲火を加える。
『殺せ、殺せ! 僭主! 死ね!』
 味方を撃つことに一切の躊躇いなく、そこに属している者たちは叫ぶ。
 キャッセルも援護するとばかりに狙撃を開始し、ザセリアバ王も至近距離から撃つ。
 そして誰よりも楽しそうなのが、
『ひゃひゃひゃ……来いよ! 逃げるなよ! ひゃひゃひゃひゃ……ああああ!』
 死にゆくシセレード公爵。
 笑い声は狂っている感じがあるが、操縦席の彼の表情は非常に穏やかで、それがヘルタナルグ准佐のいる艦橋には映し出されているので、余計に不気味なのだ。
 高潔に死ぬような表情ではなく、声は完全に狂っているが穏やか。死そのものを楽しんでいる、というのが最も近い表現かもしれない。
 だがそれを普通の人間が理解することはできない。普通人間は死を恐怖するからだ。

―― 動力リミッター解除 ――

 艦橋に響く、機動装甲内自爆装置の起動を告げる声。
 そして帝国艦隊に突進してくる僭主艦隊。
 僭主艦隊指揮官のトリュベレイエスは、今が好機だと陣頭指揮を執り、帝国軍の最後の防御ラインを越えてきた。
「戦争するために生まれてきた……さすが」
 メリューシュカはその才能に驚きはしたが、茫然自失に陥ることなどなかった。
「……完全防御陣形!」
 突進しあと少しでダーク=ダーマを撃ち破壊することが出来る所で、トリュベレイエスは驚異的な突進を止め、最高レベルの防御陣を取るように命じた。
「機動装甲!」
 反応が遅れた僭主側の五十艦ほどが、一瞬にして消失する。
 移動することはできず、防御機能も働かなくなったダーク=ダーマの一角から、ブランベルジェンカ系統ではない機動装甲が現れて攻撃してきたのだ。
「誰か解りますか? トリュベレイエス」
「もう少し時間が掛かる。それまで指揮は任せた、ファーダンクレダ」
「はい」
 トリュベレイエスは突如現れた機動装甲に意識を向けた。
―― この動き、誰だ?
 彼女の頭の中には、帝国騎士全員のデータがある。データと言っても血筋や容姿ではなく《戦い方》その物。
 僭主側も機動装甲を所持している以上、その威力は理解している。だからこそ強襲として使ったのだ。
 先制攻撃に機動装甲を使った理由。
 それは待機している機動装甲をおびき出す囮。機動装甲が攻めてきた場合、数の上では勝っている帝国は動かせる全帝国騎士を投入し、人的被害を被らないようにすることを普通は第一に考える。
 異星人戦の切り札たる、機動装甲という機体を動かすことのできる唯一の《帝国騎士》
 僭主側よりは数は多い帝国側だが、戦況からすると数は足りてはいない。よって帝国騎士を無駄にする策を取ることはできないことを僭主側は掴んでいる。

―― 近衛兵と唯一重なっていない、ザウディンダル・アグティティス・エルターを待機させていたか? 違うな、あちらは反射速度がもっと優れている。血に酔う傾向があるビーレウスト=ビレネスト・マーディグレゼング・オルヴィレンダを待機させていた……それも違うな。狙撃用銃専用機体ニーデスがない。誰だ?

 帝国騎士のほとんどは近衛兵でもある。重複していないのは、両性具有で”弱い”部類に属するザウディンダルと、あとはロヴィニア王国軍に二名。そのためまずはザウディンダルを疑ったが、彼女の記憶にあるものとは違った。

「該当者はヒドリクの異父弟ニューベレイバ公爵クルフェル・リークエット・ベルシアローゼ! ヤツ用の陣形を取れ! それにしても、応戦せずによくぞここまで耐えたものだ。忍耐力だけは素晴らしい」

 トリュベレイエスの”読み”は的中していた。

 最後の防衛線であるクルフェルを投入した帝国軍だが、僭主側の”その騎士が出撃してきた場合に取る策”の前に、現状維持こそできているが押し返すことが出来ない状態。
 どのように命令を出すべきかを考えているメリューシュカの元に、艦橋を守っていた夫率いる近衛兵たちが続々と入ってきた。
「シダ公爵。お戻り……」
 タウトライバはハネストとヤシャル、そして《作戦成功の結果》である数名の僭主を連れて艦橋へと戻って来た。
「メリューシュカ、全軍に進撃命令を出せ。被害を最小限に抑えるのには、それしかない! そして、説得を頼むぞ」

 連れて来られた僭主たちは笑い、頷いた。その腕を束縛する物はなく、その足に枷はない。
 束縛のない人質、それは”意味がない”という強者の証。

 その表情と僭主たちの特性に、メリューシュカは恐怖を覚えたが、この状況を収めるには信じるしかないと、先ずは防御の達人と言われるタウトライバの命令に従い指示を出す。

 帝国艦隊の状況など最早知ったことではないと、
『何をしている、テルロバールノル艦隊』
 暴れているザセリアバは「データが無くなったら困る」という事で、もっと離れろと命じる
「リスカートーフォン公爵殿下……」
『さあ、撃て。撃て! 巻き添えで殺すぞ』
 シセレード公爵の機体が二体を捕らえる。その瞬間、エヴェドリット艦隊が集中砲火を加え、閃光が集まり光りの大きな球となって、シセレード公爵の機体は僭主ケルディンセルとハーマンクランドの二名の機体と共に弾け飛ぶ。

 殺せ! 殺せ!

『ひゃはははは! 死んだぞ! 死んだぞ! お前の息子のことは任せておけ。お前の弟がしゃしゃり出てくるだろうが、あれも殺してやるよ』

 王が死んだ部下に、手向ける言葉はやはり殺戮だった。

「解ってはいるが……言葉にできない」
 ヘルタナルグ准佐の言葉に、兵士たちも頷く。敵を殺すために味方を犠牲にするのも仕方ないという考えではなく、殺すために全てが存在するのだという姿を目の当たりにすると、普通の感性の持ち主は耐えられない。
 大義も名分も捨てて、本能の赴くままに殺しにかかる。それがエヴェドリットその物であることは、帝国の歴史が証明しているのだが、これを容易に認められるか? となると、軍人であるなしに関わらず難しい。
 だが呆然としている暇もなく、今度はヘルタナルグ准佐の主が指示を出す。

―― リスカートーフォン勢! 大至急、此処へと来い!

『アルカルターヴァからのご命令だ、お前らまず行ってこい。我は僭主艦隊を沈めてくる』
『了解した』
 僭主艦隊はザセリアバ王が襲ってくると見て、撤退を開始したが、
「エヴェドリット王! 目的を見失なってはなりません!」
 テルロバールノル王の艦橋に響いた、メリューシュカの声に、兵士たちは急いでダーク=ダーマと連絡を取ろうと操作卓へと戻る。
「ダーク=ダーマの通信が回復した? ……目的?」
 帝国艦隊がザセリアバ王の後を追う映像を見ながら、ヘルタナルグ准佐はカレンティンシス王の無事な声に安堵した。

 ダーク=ダーマへと来いと言われた「リスカートーフォン」たちは、次々と乗り込むための機体が格納されている場所へと向かった。
「突撃艇の用意は」
「できております。アジェ伯爵殿下」
 まともな離着陸をする気など皆無な、根っからの戦争狂たちは、ダーク=ダーマに激突上陸を開始する。
「キャッセル」
 操縦席についたアジェ伯爵が、通信機を使いキャッセルへと声をかける。
『なあにかな?』
「一応援護しろよ」
『了解。それじゃあ、お腹一杯食べてきなよ』
「お前、敵がどういうのか知ってるのか?」
『触手系。美味しいと思うよ』
「そいつは我の大好物だ。触手に埋め込まれている瞳を抉り取った下にある柔肉は最高だ」
『存分に食べるといいよ。私の分もね』
「お前は本当に同族食わんなあ。美味だぞ」
『兄さんとの約束だからね。私は拷問して殺すだけ』

―― 兄さん、泣かないで。もう食べないから、泣かないで。兄さんは食べても良いんだよ。良いよ、私は良いからさ


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