「えー嫌ですよ」
「そう言わずに」
その頃キュラはダーク=ダーマの護衛艦の一つに移動したキャッセルの元へ、見舞いに来ていた。
「だってさあ」
ベッドに脇にある椅子に座り、キャッセルから渡された書類に目を通す。
キャッセルは負傷によりダーク=ダーマではなく、その護衛艦へと移動することとなった。移動する際に、機動装甲やその他専用武器の全てを持ち出させた。
「サーパーラントの事なんて僕じゃなくて、ユキルメル公爵とかに頼めばいいじゃないですか」
キャッセルの持ち物で唯一移動させていないのが、僭主と帝国内部を繋いでいる形となっているキャッセルの稚児であるサーパーラント。彼だけはダーク=ダーマに残したままになっていた。
理由としては彼が僭主の手引きをすると考えられているので、ダーク=ダーマから離すことができないことにある。
彼だけを残すのは非常に目立つが、それでも敢えて彼を残した。
キャッセルが戦死していれば目立ちはしなかった。そして目立たぬよう、キャッセルをダーク=ダーマに置いたまま彼に世話をさせるれば良かったのだが、彼がキャッセルを殺害する恐れもあったので引き離した。
通常のキャッセルであればサーパーラント如きに殺害されることはないが、現状のキャッセルでは殺害される可能性もある。
可能性だけであって、確実ではないのだが、タバイが可能性も良しとしなかった。
表面的な理由は「兄として」で、ほとんどの者が納得したが、誰でもないタバイ自身が内心に昏いものがあることを認めていた。
―― デウデシオンに対する切り札
もしもデウデシオンが帝星を奪い皇帝を名乗ったと考えた時、必ずやデウデシオンを討つ策となると、キャッセルが最も有効であった。
帝星にキャッセルが全力で攻撃を仕掛けたら、帝星にある防衛機能だけでは太刀打ちできない。そうなった時、デウデシオンは自ら機動装甲で出撃する必要がある。
たとえ勝ち目がないと知っていても。
タバイとしてはデウデシオンの反逆の芽を摘み取り焼き払うためには、生きているキャッセルを”僭主如き”に殺害されてはならないのだ。
生きている以上、生きて反逆の牽制となってもらわねばならない。自らが肩代わりできない事だからこそ、強く押した。
もちろん「優しい」あるいは「軟弱」な兄として、弟が殺されるのは耐えられないことも理由にある。
サーパーラントに関して一手に引き受けていたキャッセルだったので、
「いや、こういう事はキュラが一番だからね」
「褒めても何も出ませんよ。まあ、お見舞い代わりにさせていただきますけれどね」
必要な書類を作成して、誰かダーク=ダーマに滞在する時間の長い人物に自分の代わりをしてもらう必要があった。
それらを代行してもらう人として、キャッセルの頭に真っ先に思い浮かんだのがキュラ。
「ふーん。僕この子のこと良く知らなかったけど、なに? 親がちょっと現状に不満を感じて、僭主についたら大変な目に遭ったってことなんだ。馬鹿だなあ……えっと、この子と連絡を取り合っていると思われるのはインヴァニエンス=イヴァニエルドの……なにこの不確定要素」
キュラは重要書類としては怪し過ぎる箇所を指さす。
「此処までは凄い詳しいのに、ここから滅茶苦茶怪しいのは、なんでですか? キャッセル様」
「あ、それね。詳しいのはね……」
キャッセルからの説明にキュラは驚きと共に、納得してしまった。
「そういう事なんですか。なるほどねえ。そうでもなければ解らないですもんね。……あれ?」
他にも尋ねようとしたキュラだったが、手首に嵌めている通信機に《警備交代》と入り、
「あれ? まだ時間じゃないよね」
部屋の時計を確認した。確認しても交代時間ではなく、自分の警備用の高精度の時計と部屋の時計は同じ時刻を指している。
”ザウディンダルに何かあ……ラティランクレンラセオ!”
「キャッセル様。急用が出来たから帰る。また今度詳しく聞かせてね」
部屋を飛び出したキュラが移動艇を置いた格納庫へと向かうと、そこには会いたくもない者が部下を率いて武装待機していた。
「ブラベリシス」
その声にブラベリシスは小首を傾げるようにしてから、嘲るように笑った。
キュラの声に対抗するべく、特殊音声遮断ヘルメットを確認してから、キュラは”かま”をかけた。
「へえ〜。ロガ后を殺害しようとするとは、ラティランクレンラセオも相当追い詰められてるんだね」
「何時気付いた」
”本当かよ。まずい”
「教えるわけないだろ!」
キュラが殴り掛かると同時に、ブラベリシスが率いて来た者たちが一斉に襲いかかってきた。
「ちっ!」
相手の実力に舌打ちをしながキュラは応戦を続けた。
”これはラティランクレンラセオの指示じゃない。おそらくブラベリシスの独断。ってことは、まだ僕にも勝機と生き残る手立ては残ってる!”
ロガ死亡の責任を取らせると仮定したとき、ここでキュラがブラベリシスに殺害されてはラティランクレンラセオとしては何の意味もないのだ。
**********
「犬に犯された気分はどうだ?」
体内に排泄された体液に、顔をテーブルに押しつけて拒否するように頭を振る。そのザウディンダルの髪を掴み顔を力尽くて持ち上げ、ラティランクレンラセオは話しかける。
「どんな気分だい?」
いつものラティランクレンラセオではなく、ケシュマリスタのラティランクレンラセオに恐れを感じ体が硬直すると犬が呻き、挿送を再開した。
涙で潤んだ目を閉じてなすがままになっているザウディンダルの顔から、確認するべき箇所へと視線を移動させた。
「気持ち良くないようだな。射精していないどころか、勃ってすらいないとは。拷問用だから当然だが、両性具有はもっと性に貪欲で、どのような行為も快感に変換すると思っていたのだがな」
言いながらラティランクレンラセオは薬が正常に効いていることを確信した。ザウディンダルは聞かされても聞こえもせず、自らの体が何時もとは違う状態に気付けなかった。
男性機能をほぼ停止状態にしているので、前立腺近辺に触ろうとも反応は示さない。もっとも犯されている状態では気付きはしないであろう。
ザウディンダルの体が一時的に女性機能のみを有したことを確認したので、ラティランクレンラセオは次の段階に移ることにした。
「これが何か解るかな?」
目を閉じているザウディンダルの頬を軽く叩く。目を開いたザウディンダルは、ラティランクレンラセオが旧型の銃を持っていることに驚いた。
銃器好きのビーレウストに教えて貰っていなければ、銃とは解らない”骨董的なデザイン”
「リボルバー……?」
銀色の銃身に映る自分の絶望にも似た不安を隠せていない表情。そしてその銃口が自分に向けられることに気付くと同時に背筋が凍り、傷を負った下半身だけが自分の体ではないほどに熱いことを感じとった。
ラティランクレンラセオは弾薬を回転式弾倉に装填し、部屋に置かれている別のケースを開いた。現れたのはザウディンダルにのし掛かり蹂躙している犬と同じ物。
ラティランクレンラセオはその犬目がけて、銃を連射した。
弾丸を撃ちきったところで、死体に背をむけてザウディンダルに近寄り、火薬特有の匂いがしている銃身を顔の傍まで持って来た。
ザウディンダルは銃身の熱を感じ、それから顔を遠ざける。
ラティランクレンラセオは口を拘束した犬に熱い銃身を押しつけた。犬の動きが一瞬とまり、熱により肉が焼けた匂いが広がる。
ラティランクレンラセオは犬から銃身を離し、消毒用の布で綺麗に拭く。
動きが止まっていた犬は、その間に再び動き出した。銃身を拭き上げたあと、再びザウディンダルの前で弾倉に弾薬を装填してゆく。
「さあ、キュラと警備を交代しろ」
ザウディンダルの右足を拘束していた枷を外して、足首を自分の肩に乗せて足を大きく開かせ、シュスタークを誘う場所へ僅かながら銃口を差し込んだ。
「……」
「これが最後だ。交代しなければ撃つ。ここから銃弾を撃ち込まれたら、即死なのは自分自身が知っているだろう?」
”カチャリ”という音と共と、殺されたばかりの”犬”の死臭。股関節が外れるのではないかというほど上げられた足と、延々と続けられる犬の挿送。
「った……わかった……」
ザウディンダルは陥落した。
ただしラティランクレンラセオが想像していたよりも、大幅に時間がかかったが。
腕の拘束を外され、交代用のキーを打ち込む。
「良い子だ。では自由にしてやろう」
ラティランクレンラセオはザウディンダルの膣入り口に差し込んだ銃を、腰を振っている犬に向けて連射した。
一撃ずつ犬の体から力が抜け、五発目にはザウディンダルの体の中に押し込まれている物からも消え去った。
死んだ肉が浅ましくもまだ体の中に居座っている。その肉は破壊された体と共に引き抜かれる。圧迫感と死体の肉の感触から開放されたザウディンダルだが、安堵する時間は与えられない。
畳み掛けるようにラティランクレンラセオはザウディンダルの拘束を外し、顎を固定して顔を近づける。
「舌を出せ」
「い、嫌だ……」
最後の仕上げに、一時的に舌を麻痺させる薬を注入するための針の長さが二十センチもある注射器を取り出した。
ザウディンダルは視界の隅に現れた、見た事もない物に驚いたが、驚いてばかりも居られなかった。
顎を掴んでいるラティランクレンラセオの手に力が込められ、頭蓋が軋む音を上げ始めたのだ。
「舌を出さないと、頭が潰れるぞ」
言いながらラティランクレンラセオは僅かに開いたザウディンダルの口に自らの舌を差し込み、吸い出して舌先を噛んで力ずくで引きずり出した。
舌先の滲む血の味と、目の前に現れた”注射器”
ラティランクレンラセオは一回目、わざと舌の中心に垂直に突き立てた。
串刺しになった舌と、
―― 舌を無理矢理戻そうとすると、噛み切るぞ
頭に響く声に、ラティランクレンラセオを凝視する。
”エータナ=ロターヌ?”
考えていることを、相手に送ることが出来る者が存在するとザウディンダルも知っていたが、目の前の男にそんな能力があるとは思いもしていなかった。
ラティランクレンラセオは串刺しにした舌からゆっくりと針を抜き、次は横から刺した。垂直に刺すよりも、平行に刺されて痛みを長く感じる。
途中で薬を舌に注入したが、ザウディンダルにはそれが薬を体に注入する物だとは解らなかったので、何をされたのか解らなかった。
再び串刺しになった舌と、ラティランクレンラセオに噛まれて血が滲む舌先。
冷や汗と内腿を伝う犬の体液と自分の血液。
―― 恐いのか?
”……”
答えなど求める必要もない程に、ザウディンダルの体は震えていた。
針を抜き、舌をゆっくりと味わうように噛みつき吸い上げる。拒否しようと体を捩り、遠離ろうとするが、後頭部を押さえられ逃れられず、ザウディンダルは口内をラティランクレンラセオに散々玩ばれてから誰も居ない廊下へと連れて行かれた。
薬で口を閉じることもできず、声を上げることもできない。下半身からは血を流し、服は引き裂かれている状態で、開放された。
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