REVEL
Epilogue
「私を殺せば、あの当時のほぼ全てが解る」
「断る」
 儂は海岸沿いである男と歩いていた
 男はラヒネと名乗った
 ”あのラヒネか?”
 そう問うと、男は頷いた
 随分と”むかし”に死んだ男に、同じ容姿のラヒネが居たなと尋ねると
 男はやはり頷いた
 儂よりも背が低く、銀と金の瞳を持ったその男は
「お前は知る必要がある」
「必要などない。お前が見た過去などお前の過去でしかない」
 執拗に過去を知れと儂に言う
「”だから”だ」
「だから?」
「私が見た過去をお前が、なんの因縁もないお前が見て冷静に伝えて欲しい」
「要らぬと言っておる」
 儂の手にはハルバードがあったが
「だが!」
「このハルバードは、お前の記憶にある最高のハルバードか?」
 これは儂が持つべきハルバードではない
「……」
「儂に渡すのであれば、柄の部分にオレンジダイヤで儂のモノグラムが入っていなければならぬ。こんなもので、儂がお前を殺すとでも」
「……」
「大方”殺して”記憶を手に入れろと言うのであろう? お前は死に、儂は過去の詳細を手に入れる。どちらにとっても悪くはない話と言いそうじゃが、儂に過去は必要はない」
「なぜだ?」
「過去が間違っていようが正しく伝わっていなかろうが良いのじゃ。歴史は勝者のもの。儂はそれで良いと思うておる。勝者は敗者よりも実りが多くあるべきじゃ。違うか? ”得”しないのになぜ必死に戦う必要がある? お前はそういう面を儂よりも尊ぶと思ったのじゃが」
 ”ラヒネ”と名乗るこの”存在”らしいものは、儂に全てを預けて死にたいのであろう
 預けない限り死ねない
 じゃがそれは、このラヒネの意志ひとつでどうにでもなる


「泣き声?」


 奇妙な泣き声が聞こえてきた
 波打ち際近くから
 儂がそちらの方を向くと、そこには小さな娘の背があった
 泣いているようじゃ
「あれは?」
「グラディウス・オベラ」
「なんのつもりじゃ?」
「あれは私の中にいた」
「帝后を留めておく必要はなかろう。解放してやれ」
「逆だ、ライハ公爵」
「逆?」
「そうだ。私がグラディウス・オベラを留めているのではない。グラディウス・オベラの一部が私の全てを留めているのだ」
「お前を殺せば帝后は自由になり、帝后を殺せばお前は自由になれる。どちらも殺さなければ、どちらも自由になれはしない……ということでいいのじゃな?」
「その通りだ」

 儂は泣いている帝后に近付いた
 砂浜で海に向かい泣いている少女
「泣くな、帝后」
皇后は泣き続けている。問いをかえた
「何故泣いている?」
 振り返った帝后は
「仲良くして。あてしは兄弟仲良くして欲しいよ」

 嗚呼、そうか
 これは儂の一部でもあるのじゃな

「泣くな帝后、帝太后、いや大帝太后と呼べばいいのか?」
「グレスだよ、あてしはグレスだよ」
「わかったグレス。グレスの子、アルガルテス親王大公カレンティアンディクスの子孫として、お前を泣かせはせぬよ」
「あてしの……」
「そうだ。儂はカレンティアンディクスの直系の子孫じゃ。そして……あそこにいるのが、ファラギア親王大公カルロンテタニアスの直系の子孫……ラヒネじゃよ。儂等は仲良しじゃ、だから泣くな」

 美しい笑顔とは到底言えぬが……良い笑顔で帝后は頷き、そして儂等に手を振った。有名な両手を前に出して指を開いて精一杯

 そして消えた。自らが産んだ双子の子孫が一緒にいるのを見て安心した訳でもないであろうが

「消えたぞ」
「……」
 帝后が消えたら消える筈の”ラヒネ”はそこに残り
「過去は要らぬが、お前を継承させはしない」
「いや、それはありがたいが、それだけでは済まない」
「どういうことじゃ?」


―― 帝后が消えるのであれば、私を殺さなければ取り返しのつかないことになる ――

REVEL−Epilogue【完】

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