藍凪の少女・後宮配属・寵妃編[24]
 リニアはごく有り触れた嬌声を上げ、その嬌声を誘い出しているのはルサ男爵。二人は部屋で抱き合っていた。かなり深く愛し合っていると、
「邪魔するぞ!」
 妨害が入った。
「きゃあ!」
 リニアは胸を隠すくらいしかできなかった。
 ルサは動きを止めた。
「リニア小母さーん」
 妨害はグラディウスとサウダライト。
「そのまま続けていろ。奥の部屋を借りる」
 何時ものようにグラディウスを抱えて奥の部屋へと消えたサウダライト。そして動くに動けない二人。
 だが止めるにも止められない状態。
「もしールサ」
 その後すぐにノックをして入ってきたケーリッヒリラ子爵が、
「あ、悪い。邪魔したな」
 ドアを閉め、廊下を再び歩き始める。
「寵妃殿と陛下、どこに行ったんだ」
 まさか情を交わしている男女の部屋の隣で、見つかったら殺されるだけでは済まないような事をしているとは、ケーリッヒリラ子爵には思いもよらなかった。
「ケーリッヒリラ、父……ではなく、陛下は見つかったか?」
「いいや。二人で突発的な散歩にでるのは、本当に止めて欲しいもんだ。こっちの身が持たない」
「本当に。気楽な大貴族の当主時代とは違うというのに」

 気楽な大貴族の当主時代とは違うから苦労してるのだよ

 そんな事を思いながらグラディウスの太股の間の感触を楽しんでいた。
 ケーリッヒリラ子爵が覗きにきた理由も解らないし、奥の部屋ではまだサウダライトとグラディウスが触れ合っているので、二人は取り敢えず全てを終えて、余韻などは楽しまずに服を着て、体を拭くものを用意し、手を握り合って呼ばれるのを待っていた。
 扉が開くと奥からグラディウスの泣き声が聞こえてきて、二人は顔を見合わせてから立ち上がり部屋へと入った。
「うわぁぁぁん! あてし、あてし……うわああん!」
 泣いているグラディウスと異臭。
「珍しいことではないと説明してくれないかな」
 困り顔のサウダライトと、鏡の辺りの水たまり。
 鏡の前でグラディウスを抱えて繋がっていたのだが、体が小さいことと何時もと違う深さの具合から膀胱を刺激してしまい、最後のあたりで震えると共に放尿してしまったのだ。
 サウダライトが慰めたのだが、漏らしたことにショックを受けたグラディウスは泣いて話を聞いてくれずに困り果てていた。
 リニアはグラディウスの体を拭いて落ちつけてから、掃除をはじめた。
「あてし自分でお片付けする……リニア小母さん、ルサお兄さん……あのね、ジュラスには内緒にしてね」
 綺麗で頭の良いジュラスに、十三歳にもなってお漏らししたことを知られるのは、恥ずかしくてしかたなかった。リニアは一緒に片付けながら、
「絶対言わないわよ。そして良くあることだから、気にしないでね」
「でも、でも……」
「お腹押されるから、そうなることもあるのよ」
「でも……」
 掃除を終えてサウダライトと手を繋いでグラディウスは部屋を後にした。

 翌朝、ジュラスがグラディウスの部屋を訪れると、グラディウスがヒクヒクしながら倒れていた。
「グレス! なに、この匂い!」
 ジュラスは部屋の匂いにグラディウスを抱きかかえて運び出す。
「何事だ!」
 サウダライトはすでに仕事に向かっており、グラディウスが一人寝室にいた状態。
 ”ちょっとあてし一人ですることあるんだ!” と言われたので、ケーリッヒリラ子爵は別室で待機していた。周囲に危険はなく、寝室にも危険はなかったので油断していた。
「兵器か?」
 ケーリッヒリラ子爵は解析機器を持って走り回り、ジュラスはグラディウスの鼻に匂いをリセットする 《香り》 を嗅がせて服を脱がせて、浴室へと連れて行く。
 待っていたリニアが香りを取る溶液で体を洗い、
「起きて、グレス! グレス!」
 ジュラスは必死に声をかけた。
 昼になり何とか落ち着きを取り戻した館で、グラディウスはジュラスと昼食を取りながら、何をしたのかを語った。
「香油を二十本ぶちまけたと……」
 グラディウスが持っている香油は、市販の物とは桁が違う。
 一滴得るのに数十万トンの花びらをつかうような物ばかりで、香りもかなり強い。それら香油は身支度用として、寝室から続いている調香部屋に保管されており、ジュラスが毎日グラディウスの為に様々な香りを用意していた。
「良い香りだったから、選べなかったの」
「何故そんなに大量に?」
 そのケーリッヒリラ子爵の問いに、しばらくしょんぼりした後、
「き、きのう、おっさんと一緒にいるとき、おしっこ漏らした……から、おしっこの匂いしてると、ジュラスに嫌われ……ぎらわれーやああ!」
 恥ずかしくなって泣き出しながらも答えた。
 そこに香りがあることを知っていたグラディウスは、ジュラスが来る前に! と急いで部屋へと向かい、香りがする瓶を持って部屋へと戻ってきて、自分の体に浴びせかけて気を失った。
「泣かないでグレス! 気にしてたのね! 私、全然気付かなかった」
 ジュラスは涙を拭いてやりながら、グラディウスの口元に食事をも運ぶ。
「はじゅかしかった……変な匂いしたら、嫌われちゃうとおもった……」
「そんな事はないわよ。そうね、でも女の子だものね、気になるわよねえ。お昼ご飯食べ終わったら、自分専用の香水を作ってみましょうね」
 グラディウスは ”何かを作る” のが大好きなので、すぐに笑顔になり、
「楽しみ」
 機嫌も治った。

 仲睦まじく話している二人を見ながら、
”種類の違う香油、約五リットルぶちまけの方が、その……なんだ、変な匂いだ、兵器レベルだ。そうか、昨日途中で漏らしてたのか。下手にみつけなくて良かったな……恥じらいとは少し違う気もするが恥じらいもあるらしいし、上手く纏まって良かった。こういうのは、やはり同性だよな”
 ケーリッヒリラ子爵は無言で食事を口に運んでいた。

 ジュラスにとって調香は趣味であり特技であり、職業である。
 なにせジュラスはマルティルディの調香師の一人であり、最も重用される調香師でもある。そして折角だからと理由をマルティルディに告げ、
「僕の香油を分けて欲しいって事かい? 良いよ、好きなだけ使いなよ。そしてグレスに僕にあった香りを作らせな。僕を讃える香りをね」
 多種多様な香油を手に入れて、二人で香水作りにいそしんだ。

**********

「このくらいで良いか」
「良いんじゃないか?」
 ケーリッヒリラ子爵とシルバレーデ公爵と、
「警備的にも文句はない」
 ガルベージュス公爵が、塔の前に家を建てた。
 場所が場所で、人も機械も持ち込めないために、事情を知っている男三人が秘密裏に建てた。軍用資材を用いて、組み立てで造れる家のキットを作成し、それらを人目を避けて運び込み、三人で完成させた。
「私は戻るが、驢馬用と馬用の建物は任せたぞ」
 総司令長官はそう言って戻っていった。
 二人は建てた家を見上げて、水を飲む。
 二階の高さがあるが平屋建て、部屋は四室しかない。外見は素っ気ないが内装は凝っている。大きな窓が特徴的な、簡易の家だった。
「煩いかもしれませんが、我慢してくださいね」
「いいえ。とても……楽しいです」
 リュバリエリュシュスは目の前で、先ほどまで三人が文句を言い合いながらも家を建てているのを、楽しく見つめていた。
 グラディウスの驢馬の家と、サウダライトの馬用の家を建てて、傍を流れる小川で手を洗い、夕暮れの空を見上げたザイオンレヴィは、溜息をついた。
「どうした? 疲れたのかザイオンレヴィ」
「このくらいでは疲れはしないが……本能が危険を叫んでいる」
 何かを肌で感じているのだが、それが明確に掴めないザイオンレヴィ。彼の最後の一線である ”父に対する信頼” それが、本能に薄い膜をかけていた。
「……ま、まあなあ。だがこの家を建てるのは王が許したことだから、我等にはどうすることも出来ない」
 マルティルディ王太子とイダ王と、妹に殴り飛ばされたエヴェドリット王と、娘に眉無し連呼されど突かれたテルロバールノル王が許可したのだから、彼等にはどうすることも出来ない。

 そしてグラディウスは 《グラディウスのもう一つのお家だよ》 とサウダライトとに連れられ、その家へと向かった。

「うわああ! お家だあ!」
 言いながらグラディウスは、驢馬用の家屋に突進していった。
「綺麗なお家!」
 グラディウスは、驢馬用家屋が自分の家だと信じて疑っていない。その後、隣にある大きな家が自分とサウダライトが寝泊まりする家だと知り驚く。
「小さめなお家っていってたから、此処だと思った! でも、驢馬のお家も大きいよ! だってピラお兄さんのお家くらいあるよ!」
 大貴族あがりの皇帝の言う 《小さい家》 とは、そういう物だ。

 その頃、驢馬の借宿と同じ大きさの家に住んでいるピラデレイス・ドミニヴァスは、再婚に向けて話をしていた。
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