PASTORAL −44
「ルライデ大公・デルドライダハネ王女特別編−王か王妃か王婿か」
突然ですが、何でこんなにサフォント陛下が必死に開拓させてるのかと申しますと、あの暗黒時代が問題なんですよ。もう過去の話にしたいあの暗黒時代!
第29代皇帝が子を一人も儲けないまま崩御し、その後「俺が皇帝だ!」「私がなる!」とか言い争って混乱状態に。何とか第31代皇帝までは途切れなかったんですが、第31代皇帝が殺害されてから55年間空位の大規模内戦。
あれですよ、あの有名な第33代皇帝ビシュミエラが書いた本の出だし『今日100億人死んだ。明日100億人殺される。明後日は誰もいないかもしれない。私が殺してしまうのかもしれない』というあの時代ですよ!(皇族・王族の必読本『宇宙が壊れ行く日』)
その内乱の時代に有人惑星に核兵器は落すし、資源惑星に惑星破壊弾は打ち込むし「貴方達絶対統治する気ありやがらないでしょう?」状態の毎日だったんですね。
折角の人が住める惑星を、次々と破壊して「貴様等税収どうする気なんじゃあ!!!!」という訳です。
税収だけじゃありませんよ? 鉱山が豊富な惑星を攻撃されりゃあ物資は不足して武器はつくれませんし、宇宙航路にブラックホール作ってみたり、通行税をどうする気じゃ!!
基本的にあの時代は、屑ばっかりだったんだと思います。
五十五年後、ザロナティオン帝が全ての敵対僭主を殺害し第32代皇帝の座に着いた所で、内乱は終息したのですが……経済はメチャクチャ! どのくらいかと申しますと、現在サフォント帝は45代……45代の兄上が必死に立て直してるんです。
天才と名高いサフォント帝が七年間全精力を傾けて、やっと内戦前の税収に手が届きそうなんですよ。
13代も経っているのに、いまだにそうなんですよ! どれ程かわかるでしょう? 13年じゃないですよ! 13代!
そして税収の他のも問題があるんです。人口問題です。現在は貴族・平民合わせて三十兆、奴隷は五十兆、合わせて八十兆程。内戦前には全て合わせて三百兆もの人が住んでたんですよ、宇宙って! 今現在三分の一以下。それで内戦前の税収に手を届かせているのですから、サフォント帝は偉大です。
サフォント帝の偉大さはさておき、何故これ程までに後手かといいますと、第32・33皇帝の後に秀でた皇帝が出なかったので、五百年くらい無策状態が続いたのが大きいんですが。無策の部分に私の父帝も含まれてますがね。
それに第32・33代が早世したのも大きいんです。この二人は兄上と互角と言っても過言ではない名君でしたが、即位年数が少なすぎです。……でもこの二人は心労が祟ったとしか言いようがありませんから……なんとも。
この話をしていると永遠に終わらないので此処で打ち切りますが、惑星が壊されて人が居なくなったので、住める惑星を見つけては奴隷を送り込むという方式を取っているのです。完全なバックアップは出来ないんです、現在の税収から言って。解かるでしょ? 内戦前の税収での金の使い方と、現在の金の使い方違うから。
内戦前は異星人との交戦がなかったんですが、現在は異星人と交戦もしなきゃらないので、帝国防衛の為に軍事費が嵩むんですよ……サフォント帝のご苦労は如何程か……
そんな訳で結構責任重大なんですよね、辺境相。左遷職みたいな名称ですが、名称なんてこの際どうでもいいでしょう
着陸中、窓から外を観ている姫が、すこし楽しそうで良かったです。
「大きな滝があるみたいね。後で見てこようかしら」
「引継ぎが終わりましたら、ご一緒させてください」
「仕方ないから連れて行ってあげるわ!」
「ありがとうございます、姫」
やって参りましたアムラゼイラ開拓惑星群775星。
アムラゼイラ開拓惑星群には奴隷しかおりません。開拓できるのは権利は奴隷階級にしか与えておりませんので。え? なんでかって? 色々とあるんですが……簡単に言えば勝手に開拓させるから。平民に開拓させるとある程度の税をとらなければなりませんし(当然計算もしなければならない)、税収に見合った管理組織の派遣とか必要になるんですよ。
現時点では人も金も足りないので、基本的に人権のない奴隷階級、税収も何もない階級の人達に頑張ってもらうしかないわけですよ。いやね、人が住める星が結構限られてるんで人口の増加に伴い人口密度が……とか大変なですってば! もう! 暗黒時代のバカども出てこい!!
「こんな所で悪党が物品を強奪していたの。全く、弱い者いじめするような人ダイッ嫌いよ」
「私も嫌いです」
「当然でしょ! だからって別に見直したりしないからね!」
そりゃ構いませんけど
「姫、着陸いたしました。降りましょう、お手を」
タラップから降りてみますと、見事に何もありません。
「これは原始星ですね。中々美しいかと」
「何にもないから嫌い! 草は綺麗だけどね……まあ、別にどうでもいいけど!」
「ええ、草が綺麗ですね」
私と姫は先ず、ロガ兄上が約束した相手、キャセリア医師に会いに行きました。
何でも元は帝星中央の助教授だった方だそうで……普通辞めますかね? 詳しい事は解かりませんが、彼に面会を。
「ほ、本当に持ってきやがったのか……」
私が兄上からの寄付品の目録を読み上げてると、村人が集まって参りました。
「ありがたい。ありがたいが……これを使える技術者は……」
「医師も連れて参りました。製薬艦の技師、検査艦の技師、治療艦の技師、これでこの惑星の何処で怪我人が出ても大丈夫ですよ」
「この惑星、此処しか人が住んでいないんだが……」
ああ、そうなんですか? こんなに大きい惑星なのに人口百人以下?
キャセリア医師に私が連れてきた医師達に引継ぎをしていただいている間に、私は
「カルミニュアルさんはいらっしゃいませんか」
別のお届け物を。何でも彼女、ロガ兄上に婚礼衣装を依頼したとかの事で。一応のデザインの美しさと、体型的に兄上の記憶誤差があっても大丈夫なものを選んで参りました。
「あたし、カルミニュアルだけど」
「お届け物ですよ。ロガ兄上様からです。ロガ兄上様と私とで選んだ衣装ですが、お気に召してくださるでしょうか?」
“農家の娘さん”なのですが、とても可愛らしい雰囲気です。
昔、平民から帝后になったグラディウスも素朴で草の匂い……というかそういう感じの。貴族には中々居ないタイプの娘さんだ。ロガ兄上様の記憶に残るのも無理はない。
「いいんですか! これもらって」
箱開けて、彼女はとても喜んでくれた。
「勿論ですとも。是非恋人のランチャーニさんとの挙式に」
カツカツというヒールの音が。此処でその音がするのは姫だけ……
「何、女の人に贈物なんてしてるのよぉぉ!」
す……ごい……殴る手、残像だけしか見えない……お、音速?
兄さん……ほ、星がみえる……よ
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