PASTORAL −15
ソファーに座りながら、身支度整えさせつつロヴィニア料理食ってます。正確には、スープの液体部分だけ啜ってる……行儀の悪さ最高潮だ。
兄上はフルコースを着席して食べていらっしゃいます。お見事です、兄上。
下品に言えば抜かずの二連発、最もそれの上品な言い方を俺は知らないが。兄上としては、まだまだ大丈夫のようでいらっしゃりましたが、それは観なかった事にさせてください。
それをなさってもなお、何処にも御疲れが見えません。さすが帝国第一のお方であらせられます。
俺は椅子に座って食事できないほど腹筋と背筋が疲労困憊の為、だらしない格好で食事中。兄上は品が良い方なので、食事中に情事の事を口にしたりはいたしません。当然といえば当然だが救われた気がする。
食事自体は殆ど食べられなかったが、それでも予定はこなさなくてはならないので、俺は陛下の後を付いて宮中演劇場へと向かった。
宇宙で一番豪華で格式が高い、舞台で自らを表現する者達にとっては目指すべき場所。観客の目も肥えているから……。俺以外は全て目が肥えた観客だ。
「陛下にこのような場所で、このような紹介をされるとは思っておりませんでした」と、ヴェッテンスィアーン王女。
「お呼びくださり、感謝しております」と、リスカートーフォン王女。
「お呼びくださり、ありがとう御座います陛下! 出来れば皇后として此処に参りたかったですわ!」と、アルカルターヴァ王女。
全員、正妃になりそびれた四大公爵の嫡子だよ……。えーと、何故此処に彼女達がいるのだろう?
「ゼルデガラテアよ、私の妻となったヴェッテンスィアーン王女クリミトリアルトだ。今度から私の第一妃は彼女だ、覚えておいてくれ」
カルミラーゼン兄大公殿下がおっしゃった。確か兄大公はご結婚なされていたが、確かに正妃級の王女を娶るとなれば第一妃の座はクリミトリアルト様に譲らなければならないだろうな。……ってことは、正妃達は兄上の弟大公(俺除く)に下賜? ではないが位が低い弟大公に……?
「ロガ兄、我妻となったリスカートーフォン王女エリザベラ=ラベラです」
クロトハウセ弟大公の妻……クロトハウセ弟大公は二十過ぎた筈だが、まだ正妻はいなかったからこの方が問題なく第一妃か。ルライデ弟大公もまだ妃を迎えていなかったな。
「ロガ兄上様。我が妻となってくださった、アルカルターヴァのデルドライダハネ王女です」
どうやら兄上の妃となれなかった彼女達は、全員弟大公の妻となったようだ。……俺、下賜されなくて良かった。この方々の気位の高さの前では、クラティネなんて問題にならないだろう……イネス公爵家程度と同列に並べた時点で叱られるに違いない。
多分、正式には此処で皇帝陛下から弟大公達に、妃の顔見せをする場所だったに違いない。それをそっくりそのまま逆転させたんだ。
まあなあ、挙式が潰れたからと言って一年以上前から準備させておいた催しを潰すわけにもいかないし、それ相応の時間取りをしている訳だから。
劇は確かに面白い、さすがに帝国で一番好まれているだけの事はあるし、演出だって脚本だって最高のもの……なんだと思う、比べようが無いから仕方ないんだが。一幕と二幕の休憩時間が長いので(35分)俺はトイレへと向かった。
ついて来ると言った幇間などを遠ざけて、
「あ〜」
トイレの前室のソファーに腰をかけて、ため息をついた。
宮殿のトイレって広いんだ。
昔、軍警察にいた頃「宮殿のトイレって黄金なんですか?」と部下に聞かれた事がある。何処をどうしたらそんな噂になるのか解からない。宝石で飾られているが、便座は黄金じゃない。
……兄上のトイレはどうかは知らないが。皇帝陛下の使う個室と俺が使う個室は違うから。
それでトイレは大きい。一般的な家だとトイレだけがあるけれど、宮殿ってのはトイレに辿り着くまでに三部屋あり、トイレのある部屋の両脇に二部屋ずつ、一室の広さは約18畳ほど。
俺はトイレの右脇奥の部屋で、ため息をついていた。小さな開放感に浸ってるだけなんだが、一人反省会でもある……まあその、不甲斐なさってのか? もう少し気の効いたお相手のつとめ方ってもんがあるもんだろう? その自分のダメっぷりに少々気が重い。
後三日、お相手が務まるかどうか。
自分のあまりの枯れ気味加減に……若いんだからもう少しどうにかなるだろ? 等と無意味な自問自答を繰りかえしていたら、
「ロガ兄、ゼルデガラテア大公、調子でも悪いのですか?」
「クロトハウセ大公? いや、違う……違います、違います」
何故、弟大公がトイレまで?
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