お兄様にご一緒させていただいて、ゼンガルセン王子の戴冠式と結婚式に参列することになりました。
本当は帝后ロザリウラ様が来たほうが良いような気がしたんだけど、ゼンガルセン王子が「自分の母親の結婚式だ。気兼ねするな」と命じてくださったので……でも、帝后様にしてみれば実兄の結婚式なんだけど。
そう考えていたら、帝后様と他の二正妃方も御懐妊なされたんで、大事をとって俺が来ることになった。
最高の宇宙船での星間移動だから胎児に何の負担もかからないのは証明済みなんだが、その胎児が「皇帝陛下の実子」となれば、どれだけ注意しても足りないということはないから。それで、俺は “王妃の養子としての手続き” が何だかって。アダルクレウスが言ってたが、覚えきれなかった。
行けば解るだろうから、良いよね。アダルクレウスも一緒に来てるけど、部屋からでてこない。そりゃまあ……陛下の護衛がカッシャーニ大公殿下で、向かう先にいる戴冠式総合警備責任者がカザバイハルア子爵閣下じゃあ……
『余を持ってしても和解は困難なり』
お兄様が仰られた、帝国一の婿取り合戦の景品ってか、なんつーか……でも、お兄様が『ダーク=ダーマからの下船を許可せぬ。また、カザバイハルアとカッシャーニの乗船も許可せぬ』と言ってくださったので。
ご迷惑をお掛けしてすみません。
そんなこんなだが、お兄様はご機嫌で毎日俺と一緒にいてくださる。ゼンガルセン王子の所に行くのに、全く気負ってない辺りがお兄様らしい。むしろ楽しんでいらっしゃるような。
それで見えてきたのがフィダ星のハスケルセイ城。
「あれがハスケルセイ城だ。余が此処に立ち寄るのは五度目になる。ゼンガルセンが余よりも早く死ねばもう一度足を運んでやらねばならぬであろう」
相変わらず危険な言葉を……でも、無いとも言い切れませんしね、ゼンガルセン王子なら。
「あ、はあ。これお城なんです……ね」
噂には聞いていたし映像も見たことあるけど、固そうな惑星だなあ……。天然惑星の上にある軍事要塞にしか見えない。海に浮かぶケシュマリスタ王城、空に浮かぶテルロバールノル王城、そして高層ビル群のようなロヴィニア城。どれもらしいと言えばらしいけど、王城に見えないよハスケルセイ城。
「エヴェドリットらしかろう」
「は、はい……」
軍事要塞だけど戴冠式と結婚式の準備はされているらしい。
あちらこちらに飾りがついてるから……赤と白と黒で彩られた軍旗が果てしなく続いているだけだとしても、すべての兵器が臨戦状態だとしても、それがこの国の祝いなんだから!
皇帝陛下着陸専用港にダーク=ダーマを付け、出迎えに来たゼンガルセン王子とお兄様が挨拶を交わされる。
「ようこそお越しくださいましたな、陛下」
「これで晴れて王となるか、ゼンガルセンよ」
「王だけでは終わらぬつもりですが」
「此処はお前の城だ、好きに言うがよい。それを行動に移す自由は、全宇宙を支配する皇帝として与えておらぬが。お前の事だ、与えられずとも動くであろうな」
「今までのことを御存知でしょう。答えはしませんぞ」
ひぃぃ、相変わらずなお二人だ。二人の傍に居ると、胃が! 胃が! ……痛くなるような!
「シャタイアス、そして妃。陛下のお相手を務めろ」
「あ、母さ……」
待て! 公の場で “母さん” って言っちゃ不味いよな。いや、でもこの場合何て言うべきだ?
母上? それは俺に相応しくない。王妃様? 却下だ、笑ってしまう。それに母さんの性格上、王妃と声を掛けたら皇君と言ってきそうだ。それはそれで俺にダメージが……半年過ぎたんだが今だに慣れない。一生慣れることなさそうだけどさ。
「あ、え、アレステレーゼさん、お久しぶりです。お元気にしてましたか?」
思いっきり母さんに殴られました。
お兄様はシャタイアス閣下と母さんと共にご休憩に。俺は用事があるのでと、ゼンガルセン王子の後ろをバーローズ公爵とシセレード公爵に挟まれて……こ、怖いよぉ。何でこの人達、こんなに大きいんだろう! それに迫力も……これが名門公爵家当主の迫力ってやつか。
お兄様には及ばずとも、その……こ、怖いよ。
軍服を着た人達が(もしかしたらここでは軍服は私服なのかもしれないけど)ずらりと並んでいる部屋に通され “座れ” と命じられた。
軍法会議とか尋問とかのほうがもう少し空気は和やかそうだ。なんでたかが養子の手続きだけで、殺戮の軍団に取り囲まれなきゃならないんだろう。
「王子待遇にはならんが、公子待遇となる。それに異存はないか?」
「はい、全く」
書類に軽く目を通すと、俺はゼンガルセン王子が持つ公爵位の一つ[ヴェルヘッセ公爵の息子]っていう待遇。王の子じゃないけれど、公爵の子ね。庶子だと貰えないけれど、母さんが正式な手順で独身時代に養子にした(元々は本当の子なんだが)子に与える権利ってことらしい。
母さんは王妃のほかにもヴェルヘッセ公爵妃にもなるので、そういった処遇になるらしいよ。
お兄様に「受けてよろしいものなのですか?」とお聞きしたら「問題ない」と言われたので、さてと……サインをして、これで俺は名実ともにゼンガルセン王にしてヴェルヘッセ公爵の息子となりました。
父親が欲しいと思ったことは過去に何度かあったけど、まさか……ねえ。でも、自分の血の繋がった父親よりかは、この人の方が……
「皇君、此処からが本題だ」
俺がサインした書類を秘書官に渡したゼンガルセン王子は、身を乗り出して俺を真直ぐ見てきた。
「何でしょうか? リスカートーフォン公爵殿下」
「やらせろ」
「? 何をですか?」
「抱かせろといった方が解りやすいか?」
「えええ! 何で!」
実の父親もアレですが、やっぱりこの父親もアレです!!
「何で!」と叫んだところゼンガルセン王子は説明してくださいました。なんでも、エヴェドリット領に戻る途中に……ピー! をね……自分の母親にアレしたとか聞かされるのは辛いのですが、ま、まあゼンガルセン王子なので伏字なしで、母さんを味わったらしい……
それで、母さんの……が、俺の精子の味と似てた……と。
お兄様がムギュ! と俺の精子をゼンガルセン王子にかけた後、確かに味わってってか唯の精子の味だって言い切られておられたような。親子だから体液成分は確かに似てると思う、それが舌先で解る人も凄いとおもうが。
ゼンガルセン王子はこの通りのご性格でいらっしゃいますので、母さんのを味わった後
『男と女でも親子だから、愛液の味は似てるな。むこうは精子だが』
そう言われてしまったのだそうだ。そした母さんが、
『何で息子のそれを味わって! ちょっとどういうことよ!』
確かに気にはなるよねえ……。
『別に我とて味わいたかったわけではない! が、似ているなあ、この辺りが』
確かに味わいたくはなかったでしょう。でもどの辺りが似てるんですか?
『舐めないでよ!』
『別にまずいと言ったわけではないから良いだろうが。息子の事は後で説明してやるから、今はもう一度』
『先に説明を』
『(思い出すと)萎えるから嫌だ』
確かにあのシーンは萎えるよねえ……
「と言うわけだ」
それから今日まで指一本触れさせてもらえないそうです。母さんが拒否したところで、ゼンガルセン王子が本気になったら拒否なんてし続けられるわけないんだから、ある程度悪いとはおもっていらっしゃるんだろう。
それと俺を抱くことの関連性はよく解らないが、息子として母さんに譲歩というか真実を告げてこようと思う。それで丸く収まるだろうし。
「いや、それでしたら俺が勘違いを訂正……ひっ!」
そう言っていたら、襟首掴まれた。
「我はアレステレーゼに “息子を襲った鬼畜” と言われ蔑まれ嫌われるのは構わん!」
構ってください!!
「だが! 襲ってもいないのに襲ったと言われるのは気に食わん!」
「そりゃ、そうでしょう……ですから私が母を説得……」
「今更息子に “襲われていません” と言わせたところで、我が無理矢理言わせたと思われることも理解している!」
ゼンガルセン王子くらいになればそう思われても仕方ないけど、
「そんな事はないと母に……」
でも俺が言えば信じてはくれると思うんだ。
「ならば、言葉を尽くして説得するより、勘違いを真実にしてしまえば良い! よって、今からお前は我に襲われる。一応断りを入れたのだ、和姦ということでサフォントには言っておけ」
俺は何一つ合意していないのですが! 既に和姦が成立したのですか!
ゼンガルセン王子が【襲う】と宣言されれば、それは既に受いれ、うれおれ……確かに受け入れだけど、受け入れ……あああ!
母さん、一つだけ教えておくよ……皇帝陛下とか王殿下は、俺達凡人の想像の斜め上をワープ航法して異次元に飛んでいくような人ばっかりなんだよ。
「ちょっ! ちょっと待ってくださいませんか! ひぃえええ!」
床に押し倒されるまでの時間が、スローモーションに! 一応皇君なんで、皇君と和姦なんかしたらお兄様と仲が悪くなりますよー とか思ったけど、元々この方簒奪狙いだから、仲悪くなっても全く問題ないんだよねえ……。
それに今お兄様はエヴェドリットの中心部に一師団連れて来ただけであって、この帝国最大の武力を擁する王国の首都に……うあああ、どうやっても……抵抗して勝て……るわけない。
背中が床にドンッ! と押し付けられたら、声が。
「王」
「何だ? バーローズ」
「一枚くらい下に敷いておかないと和姦にならなねーよ」
だから問題点はそこじゃなくて!!
「一枚? じゃあお前のマントでも寄越せ」
「冗談じゃねえ。何で自分のマントを精液まみれにしなきゃならねえんだよ。なことしたら、女房に叱られるわ」
銀河に名だたる公爵家の当主様がマント一枚に固執なさるのですか……バーローズ公爵閣下の奥様も恐妻家なんだ……そんな場合じゃない!!
ゼンガルセン王子が俺から離れて、バーローズ公爵閣下と言い争いに。床に仰向けになっているのも変なので、身を起こしたら
「あー皇君」
「は、はい……シセレード公爵閣下……」
シセレード公爵閣下が笑顔で、
「えーとですね。犯されてください。抵抗しても良いですけど、痛い思いするのは嫌でしょう? ウチの王は襲うといったら殺す勢いで襲いますから、抵抗しない方が良いと思いますよん」
“よん” じゃなくて……いやぁぁぁ!!
くくくといったような笑いを押し殺した声で、
「大きな声では言えないのですが、皇君に語った一件の後、王妃から夜は全て拒絶されておりまして、何と言いますか、何て言えばいいのかなあ……早い話が “欲求不満で悶々として” 周囲が大変なんですわ」
「あ、あの状態で悶々なんですか?」
物凄く攻撃的で、陰鬱な感じになってるような気がしないんですが。
「凄い鬱屈してます。ウチの王にしちゃあ、考えられないほど卑屈に鬱屈して悶々としてます」
ひ、卑屈? あの方の何処に卑屈さが?
「いや、でも。欲求不満の解消方法なんて幾らでもあるでしょう、ゼンガルセン王子なら」
「ウチの王の欲求不満を解消できるのは、皇君の母君だけなんですなあ。なあ、お前等」
俺達を取り囲んでいる方々が、無言でだけど首が千切れるほど何度も頷く! そんな勢いよく何度も頷かれても困るし! ……いや、でも皆困ってんだろうなあ。
「マント寄越せってんだろうが! クレスケン!」
「テメエのマントを外して使え! ゼンガルセン! 和姦の基本だろうが!」
和姦に基本編も発展編もへったくれ編もないよーな。エヴェドリットにはあるのかなあ?
「要約すると “王は襲う気なんで、襲われてください、アシカラズ!” そういう方向で、ヨロシク!」
指をパチンと鳴らされたシセレード公爵閣下。
陽気なのは良いんですが、その……ああ、これが有名なエヴェドリットの狂気なる陽気だ! 本人達は何が変なのか、全く理解してないってか……その、お兄様! 不甲斐ない俺は多分此処でゼンガルセン王子に組み敷かれて最後までやられて帰ると思います。
お許し下さいぃぃ! 俺には逃げるの無理っぽい!
「浮気なんて大した事じゃねえだろう」
「そ、そーじゃなくて。その……お兄、陛下以外の男なんて、嫌ですよ!」
俺は元々は女性の方が好きなんですよ。まあ、全くその……アレですが、男と女なら女の方が好き!
「嘘つくなよ」
バーローズ公爵閣下がそう言ってきますが本当なんです! 信じてもらえないでしょうが!
「その! 俺は別に男が好きなわけではなく! 基本女の方が好きなんです!」
「嘘付け!」
「本当か?」
ゼンガルセン王子まで驚かれて。俺ってそんなに女が駄目そうな感じなのかなあ……
「皇君、マジで女抱けるのか! 試しても良いか!」
言いながらシセレード公爵閣下が服を脱ぎだした。そりゃまあ、確かにシセレード公爵閣下は女性ですが、
「テメーの体に勃起したらやっぱり男好きだぜ」
男より体が男らしいんですけど。
その胸板の厚さに腹筋の割れ具合……その、俺なんか足元にも及ばないぃ!
「我も及ばぬ大胸筋をさらして女と言うか」
「酷いですよん! 王! このシセレードの繊細な心は傷ついた!」
「はいはいはいはい、いい乳首だな。乳首の色は繊細なんじゃねえのか、あーうんうん。これで良いか!」
「家臣と主の関係も断絶ですよん! 良いんだ! 明日ミサイルの雨降らしてやる!」
話が段々ズレて……何ていうのかな、まさに黙って抱かれてれば良かったような。
違う意味で泣きたくなってきた。自分の事は自分でしようと決意したけど、俺如きじゃあ何も出来ない相手ってのは……
「アジェ伯爵!」
凄い勢いで扉が開いて、現れたのはカザバイハルア子爵閣下のお母様。
「何用だアジェ?」
「三名よ、今日の朝食のワインは美味かったか?」
三人は突然顔を見合わせ、アジェ伯爵は、
「朝食の全てに入れさせてもらった」
瓶に入った液体を出されたんですが、ラベルも何もないので何なのかさっぱり解りません。
「なんだそれは?」
「下剤だ。朝食に致死量の下剤を混ぜておいた。強姦するのだから、そのくらいの覚悟はあろうぞ」
ぶっ! ち、致死量の下剤?
「強姦せぬならば、加担もせぬならば解毒剤をくれてやろう。どうする? 両公爵、そしてゼンガルセン!」
「さっきから腹がくだってたのはそのせいだったのか」
表情一つ変えないでそう言われても、そうは見えませんよシセレード公爵閣下。
「肛門括約筋の限界に挑戦せよというのだな」
そんな限界に挑戦してどうするんですか? バーローズ公爵閣下。
「ふっふっふっ! はぁーははは! 我は止めぬぞアジェ!」
この笑い出したゼンガルセン王子も、そうは見えないけど腹下ってんですよね。止めましょうよ、ゼンガルセン王子。致死量の下剤飲んで、命を危険に晒してまで俺を襲う必要はないと思うのですよ。そもそも、俺を襲う必要など全く……
「腸があるから腹が下るんだ! 腸取り出してそのまま襲う!」
いやー! 腸取り出した人に襲われるのは、何か普通に襲われるより精神的ダメージってか! やっぱり王は斜め上をワープ航法で……うあああ!
「ゼンガルセン王子! 腸抜いたら死ぬー!!」
そして襲われた俺も精神的ダメージ大で死ぬー!
「我は腸を抜いても三時間は稼動できる自信はある! アシュ=アリラシュは二時間だったが我は三時間に到達してみせる!」
三時間もこの人に襲われたら死ぬ! 絶対に死ぬ!
「それでこそ、エヴェドリット王!」
下剤盛った張本人のアジェ伯爵が褒めてるし!
なんか、余計に盛り上がってきた!
何だろう、この敗北感。俺には決して到達できない世界がそこには広がって、ヒンポンパンポン。何だ? 何だ? 緊急連絡?
『シャタイアス閣下注意報! シャタイアス閣下注意報! 閣下ベルカイザン濃度75で出撃するって言い出した! ゼンガルセン様! 止めてぇぇぇ! シャタイアス様のエバタイユ砲の照準がコッチに! コッチにぃぃ! ぎゃぁぁぁ! 破壊の雨が降るぅぅ! 破滅の嵐が吹き荒れるぅぅ! 俺、この仕事が終わったら新しく買った家に帰って生まれたばかり娘に会う予定だって同僚に語っちまった! そんな死亡フラグを自分で立てるから! 俺のばかぁぁぁ!』
通信兵の混乱ぶりで、本当に切羽詰っていることがよく解る。でも死亡フラグは大体自分で立てるものだと思うよ、通信兵。
ゼンガルセン王子、シセレード公爵、バーローズ公爵、アジェ副王が顔を見合わせて壁に隠されていた通信機を立ち上げて、
「シャタイアス!」
「オーランドリス!」
「望みは何だ!」
「皇君の解放であろうな」
必死に声をかけてた。
『うるあぁぁぁぁぁ! だぁしゃあああ、うりらう*****(以下俺の耳では判別不能)』
「大丈夫だ、まだ食っちゃいねえよ!」
『だでぃらああ+++++++』
「バカ! ゼンガルセン王のバカあん! あんたが食うって言ったら直接的なほうに勘違いするに決まって」
『うぎあぁぁいうでろだああ☆☆☆×☆☆・・・・・・・だぎゃあああしゃああ!』
「だから食ってないって! 襲ってもない! 剥いてもいないし! 無傷! 無傷!」
「ここに無事でおるぞ! 安心せい! シャタイアス=シェバイアス・カストーサイマイゼン・バスキアウスラよ!」
『ディロシシェロディアラドデアギヤヤヤヤヤ』
「俺の名前はクレスケン=クライドレンだって! そりゃ、俺の女房の名前だ! まて、シャタイアス! もしかして俺の女房に連絡いれたのかあ! 冗談じゃねえ! あのアマ来たら俺が殺される!」
何で皆、シャタイアス閣下の言ってること解るんだろう……ちなみにバーローズ公爵閣下の奥様の名前はリデンゼンゲレンド=リザイドル……何処を聞けば、その……
えーとですね、結局……シャタイアス閣下のご尽力により俺は腸をむいた……じゃなくて腸を抜こうとしていたゼンガルセン王子に襲われずに済みました。死亡フラグ絶叫してた通信兵も無事に生き延びることが出来た。良かったね、全く知らない人だけど娘さんによろしく。
シャタイアス閣下は俺を助ける為に出撃してくれたそうだ。なんでも俺が襲われ始めの頃、ザデュイアル閣下が気付いて大急ぎで父君であるシャタイアス閣下に連絡してくれたらしい。
それでシャタイアス閣下曰く
『陛下に伝えれば一大事、王妃に知らせてしまえばゼンガルセンとの仲がますます悪くなろうから、ひっそりと収まる方法をと考えて』
だ、そうです。
あの赤と白、そして金で象られた帝国最強騎士オーランドリスの紋章がついた機動装甲が、超破壊兵器エバタイユ砲を二砲も抱えて惑星をぐるぐる回って無人迎撃機を次々と落として……ひっそりと終わると思っていらっしゃるのですか?
結局母さんにもばれてしまいまして、ゼンガルセン王子が「我を信用せん貴様が悪いのだ! 王妃」と絶叫するも、母さんは完全無視。その後三人でトイレに直行なされたとか。トイレよりも先に医者を呼んだ方が適切ではありませんか? あの人達にとっては致死量の下剤も気合とか信念とか殺戮本能でどうにかなるのかもしれないけれども。……いや、普通に考えてどうにもならないよね。
それでもって今、
「何をしているのかと思えば」
母さんと向かい合ってお話中。
「母さんが悪いんだよ。俺はゼンガルセン王子になにもされてないよ。俺が言っても信用してくれないだろうからって、嘘吐きになりたくないから真実にする……って」
この辺りがちょっと違う気がするけど、そういう事だったよね。
「それに関しては謝っておくわ。まさかこんな行動に出るとはねえ」
「母さん知らないだろうけど、皇帝陛下や王殿下は俺達凡人が想像できない方向に物事を解釈するし、行動するから気をつけてよ」
言ったら変な顔されて、暫く見つめられた後、大きいため息をつかれた。
「バカな息子だと思ってはいたけれど……自分の事は解らないって本当ね」
「なっ! 何だよ!」
「どこかの皇君も、間違いなく凡人には想像のつかない方向に物事を解釈して行動してるんだけど、自分は普通なつもりなのねえ」
「そ、そんな事ない」
「約一年間、皇君だったことに気付かなかったくらいの男ですものねえ。気付けるわけないわよね……はあ」
……俺も斜め上だってこと……なのかな……結構ショック……
「ま、まあその……母さんと仲良くなりたそうだったのは伝わってきたから、少しは仲良くしてね」
「言われなくても解ってるわよ。私は仲良くしたくないけれどね」
お願いだからしてあげて。周囲が大変らしいか……そんな話をしていたら、何だろう、また凄い足音が!
「皇君殿下! 王妃! 大至急おいで下さい!」
入ってきたのはダーヌクレーシュ男爵。血相も変わるに変わって、血の気も失せきってるよ。
「どうなさったのですか? ダーヌクレーシュ男爵」
「陛下とゼンガルセン王が一触即発状態に!」
それはもう、俺が行ってもどうにもならないような。
「理由は?」
「あの……先ほどの事をゼンガルセン王が語ったところ、陛下が “なれば余が味を見て判断してくれよう。王妃を愛人として召し上げることも珍しくはないしな” と申されて。明らかに、先ほどの意趣返しですが王の性格と、陛下には前例がありますので、王が怒ってしまって!」
お兄様、その……俺が言うのもおかしいのですが、ゼンガルセン王子を許してあげてくれませんか? 事態が混乱して、もう……戴冠式まで後半日、俺の精神が持つかどうかが心配だ。
「行くわよ、エバカイン」
「はい、母さん」
− 終 −
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