ALMOND GWALIOR −43
温かい浴室で椅子に座ってる。
あの後、兄貴が “ああ、そう言えば陛下はおまえの望みを……” ブツブツ言いながら、整えてくれた。
小さい浴室だな。精々6m四方あるかないか程度……と思ったけど、兄貴は入浴する時絶対に一人で、他人に身体を洗わせることが無いからこの位でいいんだろう。
「髪から洗うぞ」
椅子をゆっくりと倒して地肌に指が触れる。
頭皮も触れられると痛いけれど、それ以上に……なんか、痛いのに幸せってバカみたいだなあ。
「洗うの上手だ」
肘を捲り上げて、俺を見下ろすように洗ってくれている兄貴は、
「手間隙かかる弟を何人風呂に入れたと思っている。特にお前は他人に任せるわけにはいかないから」
そう言って笑いながら指を動かし続ける。俺が何時も使っているシャンプーの香りがあたりに漂う。
「あの、その節はども……」
兄貴がいつも丁寧に洗ってくれていたことを、思い出して少しだけ恥ずかしくなった。いや……あの、俺の性器の部分は感染症とかにも罹りやすい構造だから確りと洗わないとダメだったらしい。
う、う……あ、思えば兄貴はあのディブレシアに寝るように命じられていたんだから、当然俺のコレがどんなもんかは理解してたっていうか……いや、子供の頃だから! でも両性具有は上位の性、俺の場合は男性は発達するけれども下位の性、女性はあまり発達しないから……女性器のほうは子供のまんまなんだよなあ。
恥ずかしいくらいに、ツルツル……気になって自分で見てみる事もあるんだけど、女性らしさってか色気? は無い。
俺は男だから色気なんざなくてもいいんだけど……なんか、気になる。
兄貴は俺の動揺に気付かないまま、話を続けてくれる。
「それ程苦労したわけではない。最も苦労させられたのはデ=ディキウレだ」
「デ=ディキウレ兄……あのさ、兄貴」
「何だ?」
「俺、デ=ディキウレ兄とその嫁さんに会ったことない」
「会わせたことがないから当然だろう」
何を言っているのだ? と言った風にして髪を湯で流す。
「会っちゃ駄目なのか?」
「駄目ではないが……もう暫くすると絶対に顔を合わせることになるから、それまで待て」
「……うん」
兄貴は笑ってた。
「どうしたの?」
「昔は黙って座っていろと言っても、動いて洗い辛かったお前達だが、今は楽でいいな。もっとも今は洗う機会もないに等しいが」
身体の痛みは増したけど楽しかった。
ベッドに横になると、兄貴がシーツをかけて椅子に座って照明を落した。
俺も色は平民帝后の藍色でも夜目は利くから平気だけど……そう言えば兄貴は通常執務時間以外は、いつも暗い部屋にいるな。
兄貴は暗がりで腕を組んで目を閉じた。久しぶりに解いたままの銀髪と平服姿が……懐かしいとは少し違うけど……
**********
ベッドの中のザウディンダルがもぞもぞ動き出した。
睡眠をとることが、唯一にして最良の治療方法だというのに……全く。何をしているのだ? それも必死に隠れているつもりらしいが、
「どうした? ザウディンダル」
「兄貴! なんでもない!」
なんでもない訳、ないだろうが。声は上ずっているし、早口だ。
お前は陛下の次に嘘を付くのが苦手なのだから……シーツを勢いよく捲ると下着に手を入れていた。
治療薬は体機能を上げる効果のあるものが多いので、性欲も当然上昇する。その事に関してすっかり忘れていたな、それとザウディンダルは性欲に関しては強いから……仕方あるまい。
「手で抜くだけで我慢しろ。挿入は回復してからだ」
下着ごとパジャマを引き釣り降ろすと、ザウディンダルは枕の上で “違う” と頭を振る。
「か、痒いだけ!」
「痒い? 何処がだ。洗い忘れた箇所でもあったか」
隠している手を避け、性器をつかむと身体が反応を示すが、
「何でもねえって!」
どうも違うようだ。
「何処が痒いのだ?」
ミスカネイアが薬の調合を間違うとは考えられないが、些細な体調の変化もザウディンダルには大きいからな。
手袋越しに握っている性器は膨張して、本人の顔は真赤だ。そんなに性器が痒いのか?
「煩せえな! ここが痒いだけだよ! 自分で……」
言いながら女性器の方を指差した。
「それは痒いじゃなくて、疼くだろう。お前は、身体が元来所持している機能の中でも、痛みを快楽に変える力が特に強いからな」
言いながら指を二本、本来存在しない箇所にあてる。
「何する気だよ」
「疼くのだから仕方ないだろう」
特に女性器の方が活発に稼動すると、痛みが和らぐとも記述にあったからな。
……よこしまな気持ちは一切無い……自分に言い聞かせながら指を押し込もうとしたのだが、
「痛いっ! いた……あっ!」
「少し我慢しろ。疼いて眠られないのだろう?」
体中痛んでいるらしいから、私としても……と思いながらザウディンダルを見ると目尻に涙を浮かべて、
「そっち使ったことないから……もうちょっと……」
消え入りそうな声で、いや消え入ってしまったがそう言ってきた。
「使ったこと無い?」
聞き返すとこれ以上赤くならないだろう言うほどに顔を赤くして瞼を閉じて、小さく頷く。
私が指を当てているのは女性器、それは未使用との自己申告。それを信じると……
今は何も考えないでおこう。嗚呼現実逃避だ、それは認めよう。
だが今、私がしなくてはならないことは、弟の! 弟の痛みを和らげることであって! 弟が処女かどうかを調べることではない!
私は手袋を脱ぎ、男性器の先から溢れている本人の体液を潤滑油にして、指を一本押し込んだ。
この締め付けからすると嘘ではないよう……いや、ディブレシアの血が流れているから、処女ではなくてもこの位の締め付けがあるかもしれないが。
「ここか?」
指で感じる箇所を探しながら、もう片方の手で扱く。
「そ、そこ……もっと……」
初めてと言うわりに、感度が良過ぎるような気もするが、
「解った」
ふるふると小刻みに震えているザウディンダルを解放することに集中しようか。
「あ、いくっ! いちゃっ……」
きついが心地よい程度の収縮を人差し指に感じながら、もう片方の手に力を入れる。白濁した性と、指を伝う透明の液体が私の両手を濡らした。浅い呼吸を繰り返すザウディンダルを見ながら、男性器から手を離してタオルを取って身体を拭いて、女性器のほうからゆっくりと指を引き抜く。
指は骨折していない。ディブレシアの時は、腕も折られたことがあるからなあ……あれは別次元の膣というよりは、魔窟だったが。
「痒いのは納まったか?」
「う……うん……」
ザウディンダルの身体を拭いて、シーツをかけてから私は手を洗う為に洗面所に向かった。
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