【繋いだこの手はそのままに―33】
帝星で開かれる皇帝の誕生式典に参加する為に貴族が集まってきた時にそれは起こった。
「おい、あの貴族達に今までお前達がしてた対応しろよ」
それは偉そうに、管理責任者を呼び出す貴族達一行。
ラバン・レボンスを脅しつけ、今までと同じ対応をするように命じて、五人は後ろで見張っていた。貴族達は、前にも来た事があるようでこの奴隷がいる人工惑星に “立ち寄ってやるから” 宇宙港を開けとのこと。
何時もどおりに、彼等を着陸させ賄賂を受け取るところまで見て、ラバン以下部下達を地下倉庫に放り込む。
「屑が侯爵様って言ってたが、何処の侯爵様だ」
取り巻きを連れて街中に出てゆく “侯爵様” の背を見ながら、ビーレウストが呟く。こういった所に “遊び” に立ち寄る際、大体の貴族は一度しか名乗りはしない、高貴な名前を何度も下賤如きに名乗れるか、と言った所らしい。
行為が下劣なのは当人達なのだが、当然自覚はないようだが。
過去にラバンに名乗った事がある彼も名乗らないままだった。
「バーディングレジェル侯爵家当主のテルギュレイオドレアス。ケシュマリスタ属、家名持ちじゃあないね。配下の名前までは知らないなあ」
同属のキュラティンセオイランサが、何時になく低い声で呟く。
「陛下の生誕式典に遠くから参加する前に奴隷で遊ぶ気か?」
あまり有名ではない、他の王家に名の知られていない “家名” も持たない、宮殿にも入れない貴族が偉そうに御登場した事にエーダリロクが薄笑みを浮かべ、全員に特殊警棒を一本ずつ投げつける。
「そうみたいだねえ」
一本受け取ったキュラティンセオイランサ。
「証拠持って帝国宰相に差し出したら、ケシュマリスタ王といい喧嘩になるだろうな」
二本を片手で受け取ったカルニスタミアは一本をザウディンダルに渡しながら、そう口にした。
「唯でさえあの野心家の国王と、異母弟達を守る為に絶対に現皇帝が必要な帝国宰相は不仲だからな」
続くように、最後の一本を掴んだビーレウストが面白そうに言う。
「証拠、取りに行こうか」
「キュラも行くか?」
「勿論。僕、ラティランが帝国宰相に追いつめられる顔見るの大好き」
ラティランとはケシュマリスタ王ラティランクレンラセオの事。
異母兄にあたる彼が困る表情を見たくて、悪さを仕出かすこと数知れずのキュラティンセオイランサだった。
「お前なあ」
「貴族の奴隷に対する暴行の証拠映像はないから、今これで取れれば立ち入り禁止にする事が可能になるだろう」
「あの方が “入れちゃ駄目” って言えば直ぐなんだけどね」
「あの方の感性からして貴族が奴隷に暴行を働いているという事自体、思いつかんだろう」
「だろねえ。僕、あの方のそう言う所好きだなあ」
騒ぎを起こした後、警棒で叩きのめして帝星に送りつけてやろうと思っていた五人も、この先に起こる事件など予想もしていなかった。
彼等にとっても「皇帝」は「穏やかで無害」な人であった。それが「表面上」だとは知っていても、その穏やかさが「剥がれ落ちる」事など想像もできない程、皇帝は何時も穏やかであった。
五人が外側から管理区画を閉鎖して、のんびりと “侯爵様達” を追うと、既に獲物を物色し襲い掛かっていた。
「ありゃりゃりゃ……早っ!」ガルディゼロ侯爵が作った[驚き顔]で言えば、
「少しは吟味して選べよな」デファイノス伯爵が呆れ顔で続ける。
「吟味して、あの奴隷娘選んだらどうするんだよ」今にも殴りかかりそうなレビュラ公爵と、
「まあそうなったら、一族皆殺しだろうな。第五親等までで済めば御の字だろう」それを押えるライハ公爵。
正式な記録画像を撮る際に使用する機器を構えたセゼナード公爵。
「とりあえず撮影して、適当なところで助けてやる……げっ! 陛下!!」
奴隷に対する暴行の証拠を収めて、奴隷区画の貴族立ち入りの制限を他の王達にも納得させる為(デウデシオンが勝手に決定すると、他の王達は絶対に反対するので、証拠を持ってくるようザウディンダルに命じた)出向いてきた五人は、そこで「豪華プラチナ台・天然アレキサンドライトをふんだんに使われたマスク」を着用され、
「何で……テルロ髪の縦ロール?」
テルロバールノル系の茶色い髪の鬘、それも何故か縦ロールが緩くかかっている鬘を被ってご登場された彼等の陛下は、『あきれる程のんびりと』奴隷を襲っている貴族達に声をかけ、そして
「第九親等までいったな」
「ああ、いったな」
殴られた。
「誰彼構わず殴るから」
「もう第十五親等までいったな」
「一発殴っただけで第九親等まで処刑だろ、それから一発増える毎に二親等ずつ追加だから」
指を折りながら “あ〜あ” といった表情で数えるザウディンダル。かつて自分で皇帝の手を払いのけ、大変な事態を招いた皇帝の異父兄は両手で数えなければならない程、蹴られている皇帝を眺めている。
「もう数えるな、ザウディンダル」
眉間に皺を寄せ、目蓋を閉じて視線を逸らしたカルニスタミア。最早、一族皆殺しでは済まないレベルに達した彼等の行為を見るのも馬鹿らしかった。
彼等が止めに入らないのは、一応警官であり「貴族間の揉め事」に立ち入らないでいる姿勢を見せる為。
「近衛兵団団長閣下、帰ったら下血もんだろうなあ」
奴隷と貴族は衛星を使用して記録していないが、皇帝は衛星で帝星に直接映像が送られている。
「だろな。街中は離れて警備しなきゃならないのがきいたな」
要するにこの状況が、後宮にだだ漏れ。帝国宰相やら父親達やらが画面の向こうで大絶叫している有様が、
「狙撃のキャッセル兄はどうしたんだよ!」
異母兄であるザウディンダルには良く解った。
「毎年の事だが、火薬の管理だろう。陛下の御生誕祭に打ち上げる花火の火薬量などの……」
さすがに止めに入ろうか? だが警備の責任者である団長も見えているから……とのんびりとしていた彼等の前で、殺されても文句の言えない行動に出る奴隷が現れた。
「おい……まずいぞ」
ロガ、その娘。
「すごいなあ、あの奴隷娘。貴族の足にしがみ付いたよぉ」
「やめてください! 放してください!」
「驚いた」
皇帝の頭を踏みつける足にしがみ付いた奴隷。
「ああ、……行くか」
「おう!」
「足はなしてくださいよ!」
「何だこの顔」
− そして神が降臨す −
「うおぉぉぉぉぉ! ……うああああああ!」
シュスタークの叫び声に、王子達の動きが止まる。
「がっ……ごふっ……で、出たぜ……皇帝が」
「冗談じゃねえ……ぞ……」
「行くよ、デファイノス伯爵、セゼナード公爵。後は任せるから[我が永遠の友]と[女王]に。近衛兵団団長と協力して止めてよね」
そう言うと、ガルディゼロ侯爵 キュラティンセオイランサは一番に走り出した。
何時もの彼の走りよりは格段に “遅く” だが真先に皇帝に躊躇いなく電撃を食らわせる。一般人ならば目玉が飛び出して即死する程の衝撃も、皇帝には通用しない。
「最大電圧二本で止められると思うか? エーダリロク」
「無理だと、思うぜ? ビーレウスト」
二人も自分の物とは思えない程に重くなった体を引き摺りながら、皇帝の前に立った。
− 神を信じない −
エターナ・ケシュマリスタとロターヌ・ケシュマリスタは “性玩具” として作られた人造人間
ゼオン・ロヴィニアとルクレツィア・テルロバールノルは古来から存在する “人”
シュスター・ベルレーは軍人で、戦争で大怪我をし、業者と癒着していた医者のせいで “安い臓器を移植” された。正規品を買うよりも安く手に入る臓器、その差額を医者は着服する。人間の臓器よりも安い臓器、即ち人造人間のもの
そのせいで、人間としての籍を剥奪されたシュスター・ベルレーは人造人間扱いされるのを嫌い逃げた
史上最強の傭兵といわれるアシュ=アリラシュ・エヴェドリット
元は人間だった彼は、人を殺す為にわざわざ人造人間の強化パーツを体に組み込んだ。当時、それは「珍しい事」ではなく、「ごく一般的」な事
相反する軍人と傭兵の行動
その当時、宇宙には人間だけの社会と、人間と人造人間が共存する社会が同時に存在していた
戦争の根本はそこにあり、そして勝者は宇宙を支配した
シュスターと名乗り宇宙から「人造人間」の存在を消し去る。だが彼等は人ではない
勝者はどちらなのか? それを知るものが皇族であり王族である
− 神は祈らない −
そして人造人間の特性が人と混ざり合い、子孫達は様々な機能を有するようになる。それ以来彼等は長年研究を重ねてきた。その中の一つが[容姿と機能の関係]
シュスタークはその長年の計算の中で「理論上完全体」とされてきた容姿を持つ。
アシュ=アリラシュのように声で部下の行動を制御でき、身体能力が異様に高く、テルロバールノルが誇る絶対の精神安定度も持ち合わせ、ロヴィニアの人間が持つ強い繁殖能力を所持し、ケシュマリスタの精神感応能力を絶対に有する。それがシュスタークの容姿だった。
シュスタークが叫ぶと同時に、キュラとエーダリロクとビーレウストは体の自由が利かなくなったのは、ザロナティオンも所持していた同族を支配する声。全ての皇帝が持っているものではなく、非常に稀な能力なのだが[理論上完全体]のシュスタークは有していた。
家名持ちの貴族は、原則的にこの声に抗う事はできない。
彼等は多かれ少なかれ、この「人間の作った生命体」を有する。昔から存在する “人間” とは全く違う。
だが、それらを持っていても、支配に抵抗できる個体が三種類だけ確認されていた。
先天的に抵抗できる個体は二種類あり、そのうちの一種類が両性具有のザウディンダル。
「俺が時間を稼ぐ。その隙に、てめえの精神感応能力を最大限にして止めろよ!」
後天的に抵抗できる個体は一種類。「我が永遠の友」と呼ばれる個体変異を起こしたカルニスタミア。
「お前の身体能力では、虐殺されるのがオチだ」
「いいから黙って精神集中しろってんだよ!」
先天的に抵抗できるザウディンダルだが、両性具有の身体能力は低い。
通常の人間に比べれば段違いだが、今目の前にいる、最高の戦闘能力を有した個体に抵抗できるような個体ではないのだ。
だが、ザウディンダルはシュスタークの音声支配を受けないだけで、彼の正気を引き出す能力を持ち合わせてはいない。
それを持っているのは、カルニスタミア。彼だけが、現在全宇宙で唯一人[シュスタークの沈んだ意識]を引き上げることが出来る能力を持つ。
ザウディンダルは逃げてゆく貴族には目もくれず、引き抜いた脊椎を握ったまま彼等を追いかける皇帝の前に立ち、行く手をふさぐ。
『俺の力じゃ、殺す気でかかっても傷一つ負わせられるかどうか!』
「避けろ奴隷ども! 早くとめろよ! タバイ! うあぁぁぁ! 目ぇ醒ませぇぇぇ!」
ザウディンダルは体勢を低くし、シュスタークの腰にタックルをかける。次の瞬間、
「! ……」
膝は鳩尾に、背中に肘が降り、肋骨が折れ胃が破れた感触を辛うじて感じ取り、体を離す。
『……無理だ、絶対に……』
見た事もないような笑いを浮かべつつ、叫び声を上げながら腕を大きく振り上げザウディンダルの頭上に振り下ろす。大きな動きをかわしたザウディンダルにシュスタークは休むまもなく次の一撃を用意していた。かわされた腕を地面にめり込ませたまま、逆立ちをし勢い良く膝を曲げる。
変則的に振ってきた踵落としに鎖骨を折られ、口から吐き出しそうになっていた血交じりの胃液を痛みの叫びと共に吐き出す。
シュスタークは二本の足を地面につけると彼の顔を掴み、口を開き噛み付こうと顔を近くに引き寄せる。ザウディンダルはシュスタークの喉仏を押し、膝で急所を何度も蹴り上げるか全く効く気配はない。
正面から来る口を避けようと、顔を背けるが耳朶を噛み千切られる。
「まだかよ!」
完全に耳朶が失われた箇所から血が噴出し、首を真赤に濡らす。シュスタークは空いているもう一つの腕で、ザウディンダルの体を抱きしめる。
「あっ……ぐぁ……」
軋む暇もなく、折れてゆく骨。シュスタークの腕は、折れていない骨を求めてザウディンダルの体をまさぐり、探し当てると折る。
骨盤の辺りに来た時、その手が止まった。 両性具有の骨盤は、臓器の関係上独特の形と傾きの為に触れると直ぐに解る。
息も絶え絶えなザウディンダルに、噛んでいた耳朶を吐き捨てて、シュスタークとは全く違う声が死亡宣告を下す。
『子宮を引き抜いてやろう。優しいからお前に選ばせてやろうじゃないか、腹から引き抜いて欲しい? それとも下から手を入れて引き抜いて欲しい?』
両性具有は、片方でも性器を失うと「完全に死亡する」
即死しても一時間以内なら蘇生できる機械はあるが、それはあくまでも[核]が身体に[付いている]のが前提。全てを引き千切られ、身体から抜かれれば[それを戻したとしても]蘇生は不可能。。
「どっちも…や…だね……」
人間とは違う体機能を持つ彼等は[核]なる部分を持つ。人によって色々な部位にあり、双子であっても違う場所に存在する場合もある核だが、両性具有だけは場所が決まっていた。それは、大昔から変わらない。そう、シュスター・ベルレーがエターナ・ケシュマリスタに出会った頃から。
「それ、抜かれると困るんで!」
重い体を引き摺って、キュラが皇帝の腕を蹴り、少し緩んだ隙にエーダリロクがザウディンダルの体を引きずり出し、地面に捨てる。
瀕死の重傷者を背負って対峙できる相手ではない。
少し離れた所で、カルニスタミアの盾になるようにビーレウストが中腰になって冷や汗をかいて立っていた。
エヴェドリット属は、祖先が声による支配を行っていた一族な為、受ける影響が他のどの一族よりも大きい。
「こんな支配音声、聞けるたあ、思……わなかった……」
無論高い耐性を持つ者も多いが、シュスタークの声はビーレウストの耐性度を凌駕していた。
「早くしてくれ、カル……あの二人と団長が抜かれたら、俺は一撃……弾き飛ばされるくらいしか、役に立たないぜ」
「儂もやるのは初めてなんでな。目に繋がってもいない神経を集中させるのは難しい」
近衛団長のタバイが少し遅れたのは、声による支配もあるが「他の二名」に緊急の指令を出していた為。
「陛下の目を覆っている部分を撃ち、破壊しろ」
というもの。
シュスタークは仮面を被っており、それは左右違う瞳の色も隠している。それが現れていれば、先ほど殴りかかった貴族達もあれ程までしなかっただろう。
皇帝眼、または正配色と呼ばれる「右:蒼、左:緑」の瞳。
それが、精神感応能力器官であり、そこにカルニスタミア[我が永遠の友]が働きかける事だけが事態を収束させる手段。
その器官、無論覆われていても届くが、出来るだけ遮る物がないほうが良いとタバイは判断し、シュスタークの右側、肉屋の向かい側に住んでいるタウトライバに右側のレンズを、左側のレンズをデ=ディキウレに狙撃するよう命じた後、タウトライバの足の装着を手伝い、それからシュスタークを取り押さえに入った。
瞳が精神感応能力器官である以上、傷付けるわけにはいかない。
先ほどザウディンダルがシュスタークの顔を殴らなかったのは、目に傷を負わせては精神感応能力を受ける能力が落ち、事態収拾の妨げになる事を考慮してのこと。
エネルギーを最小に絞り、瞳を覆う部分を狙うタウトライバとデ=ディキウレ。
「今の陛下ならば、間違っても射抜かれることはなかろうが、レンズ部分に到着する前に避けられる可能性のほうが高いな、デ=ディキウレ」
自動軌道修正装置をつかえば、確実に弾道を「目標ポイント」に向かわせる事は可能だが、最短距離で狙わなければ今のシュスタークは容易に回避してしまう。
[そうですな、タウトライバ兄。そこは、タバイ兄を信用しましょう]
その為二人は自分で構え、狙いを定める。
「ああ。ただ、今の一撃が失敗した場合、私は銃を捨て陛下を止めさせていただく、カルニスタミアを除く四人は最早戦えないであろう。そうなったら、レンズ部分の破壊はお前に任せたぞ、デ=ディキウレ」
[一撃で、当てましょう]
タバイがシュスタークの頭を両手で挟む。それを引き離そうとするシュスタークの腕にキュラとエーダリロクがしがみ付き、
「足止めな!」
「ビーレウスト!」
ギリギリまでカルニスタミアの前にいて盾になっていたビーレウストが駆け出し、暴れる足を全ての力で固定する。
「今だ! 撃て!」
シュスタークの目を覆っていたレンズが弾けると同時に、四人は振り払われ飛ばされる。四足歩行でもするかのように姿勢が低くなったシュスタークは、瀕死の状態のザウディンダルの方向へと向かって歩き出す。
叫び声を上げながら向かうシュスタークに弾き飛ばされ壁を突き破り図らずも ”民家に不法侵入” してしまった抗う力も殆ど残っていない三人は、それでも軽口をききながら体力の回復を図る。
「弱ってるのから順に殺すんですね……」
「そりゃ……そうだ……勝手に死なれ……たら、腹たつからな……」
「死んでゆくんじゃなくて、殺す……のが楽しい……んだった……けか?」
辛うじてまだ動けるタバイ一人が後を追うが、叫び続けるシュスタークの声に足が思うように動かない。
シュスタークは瀕死のザウディンダルの傍に近寄り、足を腹に落とそうとするが、まだ骨が折れていない足の力を使ってザウディンダルが避ける。
それを見て足首を掴み、次々と骨を砕き動きを封じ圧し掛かり、ついに抜き取ろうと手を伸ばす。
「うぉぉぉぉ!」
自分に向かってくる叫び声にシュスタークは頭を上げその声の方角を見る。
そこにはカルニスタミアが来ていた、直ぐ傍まで。
カルニスタミアがシュスタークの両腕を掴み、ザウディンダルから引き離し仮面に額を叩きつけ両の目を覗き込む。
「そろそろ戻ってきて下さいませんか? 永遠の友の為にも」
皇帝と我が永遠の友の絶対条件は、瞳が正配置であること。
相手を止める時、向かい合い互いの目を覗き込むのが最も効果的とされている。
皇帝の蒼い右目を見つめるのは、我が友の緑の左目。我が友の蒼い右目を覗くのは、皇帝の緑の左目。
両者は[鏡に写ったような]状態ではいけないのだ。必ず色違いの瞳同士でなければ。右の蒼い瞳は発信機能、左の緑の目は受信機能だけを持つ故に。
「ぎぃ……あああああ!」
「うぉぉぉぉ!」
額を押し付けあったまま、両者手の骨が折れる程に握り合って叫び続ける。
カルニスタミアはシュスタークの脳を沈静化させる信号を送りつつ、シュスターク本来の性質を呼び戻す切欠を探す為に、無作為に発信されている脳波を受け取り解析する。
力負けし始めたカルニスタミアは膝を付くが、それでもまだ視線を逸らさない。やっと二人の元に辿り付いたタバイがシュスタークの両脇に手を差し込みカルニスタミアを援護する。
『一箇所でいい……一箇所で。貴方を呼び覚ます切欠になるのは……何だ? あの娘はこうなった切欠だから出来る限り押し込めて……やはり、宰相か?』
(これは陛下の……)
『宰相? 何だ、此処か?』
(これは陛下の……まあ兄とは言えませんが)
『これ以上は儂の意識の方が……出てきてくれ!』
(これは陛下の……まあ兄とは言えませんが、はい異母兄です。年齢は陛下に最も近いので)
− 祈りは此処にある −
突然力の抜けた皇帝の手から逃れ、カルニスタミアは息を整えた。
それを見て感じ取った全員が安堵のため息を付きながら、次なる仕事の準備を開始する。
「やった……抜けたよ……」
キュラは急いで立ち上がり、
「一生眠っててくれねえかな……ザロナティオン……」
エーダリロクも立ち上がってビーレウストに手を貸しながら呟く。
「ウチの甥が手出さねえ訳だ……」
ビーレウストは借りた手をありがたく借りて立ち上がり、互いに制服の乱れをある程度直し、シュスタークの元へと向かった。
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