ALMOND GWALIOR −35
“ごめーん! メーバリベユと兄貴! 大事だからぁ! 行って来る! ” と笑顔でザウディンダルについてきたエーダリロク。
責任はキュラが負っている状況だが、仕事はこの人が一番真面目にしている。
五人の中で最も多くの地位に就いている皇帝の従兄。帝国近衛兵、帝国騎士、王国軍元帥、エネルギー庁幹部、技術開発統括庁副長官、皇帝機動装甲整備責任者、巴旦杏の塔管理責任者。
実務能力と戦闘能力が上手く合致している、数少ない王子である。
このエーダリロクを “天才的閃き以外” の普通の能力で上回っている王子は、テルロバールノルのカルニスタミアだけだが、彼は兄と不仲で役職に就けず、その能力を発揮することはほとんど出来ていない。
ただカルニスタミアとエーダリロクは、カルニスタミアの方が断然評価が高い。
それはエーダリロクが、爬虫類に入れあげ過ぎて奇行を繰り返す事と、爬虫類好きが講じて妻から逃げ回る事、そして、
「こういうゲーム的な射殺もいいなあ」
「血の匂いが届かない距離となると、どうしてもな」
エヴェドリットの人殺しを具現化したようなビーレウスト王子と仲が良すぎるために、本人の才能よりも評価は低い。
エーダリロクはそんな事は全く気にせずに、血に酔うと危険な状態になるが人殺しの大好きな親友の為に、今日も装置を開発していた。
今ビーレウストが行っているのは、元々この奴隷管理区画に居た『処分対象になった警官達』の半数。それを地下ブロックに押し込めて、画面を見ながら自分で座標を合せて撃ってゆくという物。
大昔に存在したシミュレーションゲームをエーダリロクは復元し、この奴隷区画で暇で気が狂いそうになっているビーレウストに渡していた。
血に酔い過ぎる傾向の強いエヴェドリット王子は、自分がエーダリロクの評価を下げていることは知っていても、何故下がるのかは全く理解できない。
ビーレウストにとって、人を殺すのは息をすることと同じであり、殺戮兵器の開発に能力が高いことは尊敬に値すること。
ただエーダリロクの兵器開発能力の評価自体は高いのだが、王国や帝国に差し出す汎用兵器ではなく、ビーレウスト専用の少々残酷仕様になり過ぎる兵器の開発が問題視されているのだが、ビーレウストは自分が残酷だという認識はあまりないので、それが解らない。
ビーレウストも実兄のアジェ伯爵は『残酷だ』とは思うが、アジェ伯爵にいたっては一般では評価対象外の残酷さを持ち合わせている人物。
彼等の評価と残酷の度合いは、世間とは少々違う。
そんな二人は改造し最新鋭のシステムを導入した管理区画で、一人は情報統制、一人は人を撃って遊んでいた。
当人同士が良いので、そこら辺は全く問題にならない。
システムを弄るのが好きなエーダリロクは一人しか居ないので試験的なシステムを組んではサブルーチン大破させては組みなおしを繰り返していた。
もちろん彼の心のオアシス、四人に「愛人同伴かよ……」と言われた選び抜いた爬虫類も連れて来ている。
通信システムを触りながら、好きな爬虫類に身を任せ(ギッと締められる)妻に迫られることもなく過ごせ、ビーレウストも居るこの区画は、エーダリロクに取って宮殿よりも幸せな場所だった。
爬虫類と戯れ、気力を充実させたエーダリロクが管理区画の全てのシステムを統括管理室している部屋へ戻るとそこにはザウディンダルが居た。
「ああ、エーダリロク」
「よお、ザウ」
五人とも同権限を持っているので、誰がどの部位を触っても問題はない。
エーダリロクが触っている箇所を他の四人が理解できるかどうかは別としても。エーダリロクも今まではそう考えていたのだが、
「エーダリロク、ここのコレって」
ザウディンダルはローデータを並べ検証していた。
「ああ、それな。空間周波数はコッチに合せて検証すんだよ」
渡されたデータと照合して、楽しそうに検証し始めたザウディンダルの顔を見ながらエーダリロクは腕を組んで隣に座った。
これらのことに関しては『あの才能がある以上、例え会議に一切出席しなくとも……首は切れん』とカレンティンシスにまで言われるエーダリロクから見ても、ザウディンダルは才能があった。
『性質的に俺に似ててもおかしくはないしな……両性具有だから適性検査も受けさせてないんだろうし』
エーダリロクの父親は『持っている才能を眠らせておくのは無駄!』とありとあらゆる適性検査を子供達に受けさせ、その才能が見られた部位は漏れなく伸ばした。
潜在能力という点ではエーダリロクは現ロヴィニア王ランクレイマセルシュをも上回っている。
無性のガゼロダイスなどは足元にも及ばない。
対するザウディンダルは『両性具有』というだけで才能というものの存在すら否定されて育てられた。
生まれつきの才能である『帝国騎士の能力』を所持していると判明したことすら遅い。
エーダリロクとビーレウストと同時期に帝国騎士に叙爵されたのだが、二人はそれこそ生まれて直ぐに検査されて判明し『王族の成人式に合せて陛下に叙爵していただこう』二王家で段取りやその後の式典やパーティー、続く会戦への予定と、それに合せて機動装甲を作るなど完璧な予定を組んだ程。
対するザウディンダルは、物心が付くまでそんな能力があることに誰も気付かなかった。
両性具有にしては身体能力が高く、反射神経が良すぎる事に気付いた帝国宰相が十歳を過ぎたザウディンダルの身体能力検査を行い、そこで初めて見つかった。
見つかったのは良いのだが、今度は皇王族などから『両性具有などを帝国騎士という役職に就けて良いのか?』との意見が出され諍いが起こる。
帝国宰相はそれをねじ伏せ、ねじ伏せ続ける為に帝国宰相は急いでザウディンダルを帝国騎士にしなくてはならなくなり、ビーレウストとエーダリロクの式典にねじ込んだ。
『いや、全く良いんだけどさ』
その席でザウディンダルは皇帝陛下の手を叩き避けて、帝国宰相の緊急措置により大怪我をすることになった。それはザウディンダルにとっては良かったかもしれないと二人は思っている。
帝国騎士叙爵後の用意されていたパーティーで、他の皇王族や王族の類縁達が『両性具有と並ばれて、さぞやご不快であったでしょう』と口々に言ってきたのを聞き、二人で顔を見合わせて気分が悪くなりその場から逃げ出したくらいだ。
エーダリロクとビーレウストは後宮で『ザウディンダル』に対して悪意を持っていなかった皇帝の父達に育てられたせいもあって、そのような認識が育ってなかった。
嫌われているのは解っていたが、此処まで露骨に言ってくるとは思わなかった……それが二人の意見だったが、口にすることはしなかった。
自分達が口にしてしまうと、余計にザウディンダルが悪く言われることを理解していたから。
『もしかしたらこの才能を育てると俺が懸念している役職に……でもその為には、派手に陛下に暴れていただかないと……どれ、やってみるか』
「なんだよ? エーダリロク」
自分の横顔をずっと見ているエーダリロクに気付き “見るんじゃねえよ” といった口調で声をかけたザウディンダルに、
「お前意外とコッチの才能あるんだなあ」
エーダリロクは思っていたことをあっさりと口にする。
意外なことを言われて驚いたザウディンダルは、顔を赤らめて視線を外して、
「そうか?」
データに向き直った。
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