8.北の国 −別【1】
 皇子と占星術師は残ることを希望し、北の王子は許可を与えた。
 将は二人に第九王女をも残す手立てはないかと尋ねたが、
「あの闊達な王女を無理に残しても、一人で抜け出して後を追うでしょう。連れて行かれた方が何かと良いですよ」
 言われ仕方なしという形で伴って去って行った。
 北の王子達が隊を進める前に護衛は城へ向かい、宦官と面会して皇子と占星術師を招き入れる手筈を整えていた。
 皇子と占星術師は北の王子と寵妃の息子の隊が睨み合っている場所を避け、闇に紛れて城の近くへとたどり着く。中に入るための手引きをしてくれる護衛は既に待っていて使節団の二人だと告げ、城壁の中へと入り込む。
 久しぶりに会った宦官と再会を喜び、第十王女との話し合いが上手くいかなかったことを告げた。宦官は第十王女が男を取り戻したことに喜びを感じるのは仕方のないことだろう、
「男であることを失ってしまった私ですが、戻れるのなら戻りたいと思うこと今でもあります」
 そう言い二人が悪いのではないと慰めた。
「第十王女が男としての存在を強めれば強めるほど、凶星の力は強くなります。皇子が女性から離れた場所にいてくださるので危うい均衡が取れてはいますが、それもいつまで持つかは解りません」
 北の王子よりも先に城下に立ち入ることのできた機会を使い、彼らが攻めてくるまでになんとしてでも争いを止めさせたかった。
 止めさせる方法は一つ、寵妃の息子に兵を引いてもらうこと。それがどれ程むずかしいことかは承知の上で。
「占星術師殿、お役に立てるかどうかは解りませんが占い師について奇妙な噂を耳にしました」
 宦官が語るところによれば、二人の占い師がひそかに連絡を取り合っているという噂があるのだと告げた。
 反目しあう主に仕える占い師が連絡を取り合う理由。
 噂を聞いた者達は興味本位で考え、一つの考えにたどり着く。
 二人のうちのどちらかが占い師ではなく、もう片方の占い師から結果を教えられて伝えているだけなのではないか?
「そのような考えにたどり着いた理由は?」
 皇子の問いに片方の占い師は結果を必ず≪後日≫に伝える方法を取っているのが理由らしいと宦官は答えた。
 片方の占い師は言われてすぐに結果を教えること決してなく、それが自らの占いの≪手法≫であると明言していると侍女として、従僕として仕えていた者達が口にしていたことが原因らしいと。
「その≪後日≫に結果を伝える占い師はどちらに仕えているのですか?」
 皇子は尋ね宦官は答えようとしたのだが、占星術師がその口の前に手を出し、
「皇子はどちらだと思われますか」
 振り返って問う。
 突然のことに驚いたが、皇子は考えてすぐに結論を出した。
「正室に仕えている占い師ではありませんか?」
「その通りです」
 宦官と護衛は驚き、占星術師は続けて尋ねる。
「なぜ、そのように考えられたのですか?」
「占星術師は寵妃の息子が王の子ではないと言いましたね。正室に仕える占い師が本心より正室に仕えている、本当に視ることのできる人物なら、正室はもっと前にその事を知り違う行動を取っていたと思うのです。敵となる相手の一番知られたくない箇所を見つけ出せなかったのでしたら、その占い師は貴方の追っている堕ちはしたが腕の立つ占い師ではない。だから正室に仕えている占い師が≪後日≫に知らせていると考えたのです」
 皇子の言葉に占星術師は頷き、
「皇子の意見に従います。今この場で占い師の術中に嵌っていないのは皇子、貴方だけですから」
 そのように言った後、自分の考えをも披露した。
 占星術師は逆だと考えた。
 正室に仕えているのが追っている占い師で、寵妃に仕えているのは目晦ましではないかと。
 正室に仕えている占い師は、知っているが時期が訪れるまで語らなかった。≪後日≫にしか結果を出さないのは≪もう一人の占い師≫があたかも本物であるように偽装するためではないか?
 占い師は元々何を占うのかを知っていて、前もって教えている。
「尋ねるのは先に占い結果を届けているのではないかと疑ったのですが、皇子の意見を信じます」
「そのように言われますと、自信が」
「自信を持ってください。なによりも皇子は私や占い師とは違う考え方の出来る方です。私や占い師は同じ学問を学び、違うとは言いますが大きく分ければ同じ道を歩んだ者同士。相手がどのように考えるのかを承知で罠を張りますから、余計に騙されやすくもあります」

 皇子と占星術師は宦官と共に城へと向かうことになった。


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