ALMOND GWALIOR −33
甥達を悩ませ続けるレビュラ公爵ザウディンダル(男性型両性具有:通称・女王:二十四歳)は、兄の考えたとおり四人を連れて奴隷管理衛星に降りる。
管理を請け負っている警官達の半数を殺害し、残り半数を彼らが奴隷に強いていたような状態に置き、彼等は皇帝陛下のために包囲、制圧を完成させた。
その頃帝星では重要なる問題が持ち上がっていた。
“氷菓子” についての大問題
その問題を論じ合っているのは、銀河帝国の実質的な支配者・帝国宰相デウデシオンの前。
帝国崩壊後、銀河大帝国と呼ばれるようになった「銀河帝国」
その銀河帝国の宰相として後の世に名を残すパスパーダ大公デウデシオン。帝国宰相として群を抜いていたわけではないが、有能と評しても誰も文句はつけない功績は残している。
彼の人となりは良く解ってはいないが、彼は非常に強欲で権力欲が強かったとされている。特に有名なのはシュスターク帝がロガ皇后を得る前に愛姫としていた者を “寄越せ” と強請り得たと言われている。
その愛姫、正式な名は知られていない。
“姫” と呼ばれていた事だけは残されているが、その存在は幻ではないかと言われる程に何も残ってはいなかった。
皇帝の愛姫を横取りしたほどの権力を持つ男として名を残した、本当は唯の恋愛下手なだけの彼は【あほう】な弟達に囲まれて、渋面を作っていた。
『弟達の育て方、間違った……』
帝国宰相の前で弟達が力説しているのは、氷菓子。それも「アイスキャンディーのエロスを極める」
晩熟な陛下に奴隷に対して性的な興味を持っていただこうと、何処にでもある『それっぽい形のものを口に運んでいると、アレを連想するよね』計画。
何度も言おう、帝国宰相は恋愛下手であった。彼に育てられた弟達は大なり小なり、帝国宰相の影響を受けている。そしてなにより、全員前皇帝の庶子。天然の血には事欠かない。
目の前で力説する弟達が、甚だアホな事を言っているのは理解できても、その代案が見つからないので渋面作って黙って聞いているしかない。
「だから、コンデンスミルクのアイスキャンディーが最も劣情を誘います!」
「そうか? 私は色合い的には葡萄の方がより一層ソレを連想させると考える」
「だから、噛んだら中から練乳が出てくる方が良いと」
ちなみに此処は、帝国宰相の執務室。
皇帝のお忍びは隠されているので、話題に出来る場所も限られている。
皇帝の全てを握っている帝国宰相の執務室は、最もその会話が多くなされた場所でもある。帝国の全ての懸案を処断する場所で延々と繰り返される「奴隷に食べさせるアイスキャンディーについて」
未だ財政難の続く、人類初の異星人との交戦を続ける人類の砦たる帝国の中枢での会話。
他者には本当に聞かせられない、まさに密談。
「帝国宰相閣下!」
そんな中、皇帝陛下の菓子職人アイバス公爵は、兄弟全員の意見(帝国宰相とザウディンダルは除く)の意見を聞き、その妙技でアイスキャンディーを作り上げて差し出した。
「……」
帝国宰相の顔が渋面だけでは表現しきれない状態になったが、そんな事は気にせずにアイスキャンディーの説明を開始するアイバス公爵。
「コンデンスミルクは中に仕込みました! サクッと噛むとドロッと出てくるようなカンジで」
手に持っている帝国宰相が噛んでみると、口の中にコンデンスミルクの味が広がった。そして、
「外側は色彩的に葡萄・西瓜・苺をあわせました」
何の色彩にあわせたのかは、聞く必要もない。
帝国宰相が誰よりもよく知っているからだ。そして陛下のソレの映像を見ながら色と味を調合したアイバス公爵は確かに職人だ。それを職人と呼んでいいのかは知らないが。
「少し酸味が強いのは、口の中でコンデンスミルクと交じり合った際の味を重視してのことです!」
帝国宰相としても、味も文句のつけようはなかったので、
「では明日、陛下にこれを食後のデザートとしていただこう」
許可を出した。
彼らの皇帝は奴隷娘のところに昼食持参で向かい、仲良く食べて帰ってくるのが日課となっていた。
弟全員が部屋から退出した後、一人アイスキャンディーの棒を噛んで遣る瀬無い雰囲気を纏っていた帝国宰相に声を掛けられる者も、そして存在自体がなかった。
ただ彼の部屋の片隅にある、愛と言う名の牢獄の中に置かれているヌイグルミたちが見つめているだけで。
翌日、皇帝陛下は【あほう】な異父兄弟が誠心誠意考えた、善意の暴力に近いアイスキャンディーと昼食を持ち奴隷娘の家へと向かう。
それを帝星から見守る帝国宰相と、
「デウデシオン兄さん、てんとうむしとカタツムリが見えますが、撃ちます?」
帝国最強騎士にして、狙撃の名手であるキャッセル。
「天道虫も蝸牛も有害ではないから撃たんで良い」
帝国で狙撃の名手と言われるのは三名。帝国最強騎士キャッセル、その次に位置するラティランクレンラセオ、そして帝国騎士としては二人より劣るが『銃撃戦巧者』と名高いビーレウスト=ビレネスト。
「はあい。ああ、今日も陛下を拝見できて私はとても嬉しいです」
容姿的に皇帝の最も好みとされるケシュマリスタ容姿で、ペディラスト。追加オプションに善悪の判断が出来ないサドであるキャッセルは、未だに皇帝陛下に直接会ったことは無い。会わせたら大変なことになると、帝国宰相の判断で。
「陛下に見とれるのは構わんが、周囲に気を使え」
「はい。てんとうむしとカタツムリが見えます」
「だからソレは良いと言っているだろうが」
帝国にある帝国宰相が信頼できる全ての人員を投入し皇帝陛下と奴隷娘が並んですわり、アイスキャンディーを口に運ぶ姿を見守る。
奴隷娘は嬉しそうに食べ、
『ナイトオリバルド様は食べないんですか?』
『あ、ああ。えっと、食べる』
彼女にみとれていた皇帝に、奴隷娘は別のものを手渡す。手渡された皇帝はそれでも視線を外さないでアイスキャンディーを手に持つ。皇帝の表情がどのような物なのかは、見守る帝国宰相には解らない。
何せ皇帝は皇帝という身分を隠すために、仮面と鬘を着用しているからだ。
本日はかつて地球でファラオと呼ばれていた王の面。若干呪があると噂のあった王の面のレプリカだが、食事用に口のあたりは覆われていない。
皇帝は外戚が「空色のロヴィニア」の関係上、貴族として奴隷娘のところに向かう際には濃紺を用いているので、この仮面は《桜墓侯爵》としては似合いであった。他のことなど、帝国宰相的には構っていられない。
黄金の仮面を被りつつ、奴隷娘に見とれてアイスキャンディーを口に運ぶ皇帝は……むせた。
『ぶはっ! げふぉ! ぬ……があ! だっ!』
『ナ、ナイトオリバルド様?!』
奴隷娘は慌てて鼻からコンデンスミルクを噴出した、黄金仮面を被った大男の顔を拭く。
『す、すまぬな、ロガ。ちょ、ちょっとびっくり……は、初めて食べたから』
皇帝陛下は棒に刺さったアイスなど食べたことはい。ましてその中に、コンデンスミルクが仕込まれているなど。
『大丈夫ですか?』
その毎度毎度の色気に全く発展しない映像を見ながら、帝国宰相は打ちひしがれる。
『弟達ばかりか、陛下の育て方をも間違ってしまったか……』
がっくりと肩を落としている帝国宰相の脇で、同性愛者閣下は悪気無く語る。
「でも陛下の鼻から白いのが出てきたのは、色っぽっ!」
キャッセル、帝国宰相に蹴られた
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