ALMOND GWALIOR −266
投降し成り代わった僭主たちは、挙式の最中かなり暇であった。
「式を見に行こうかなあ」
瀕死の状態からなんとか回復したザウディンダルも暇であった。両性具有なので公式な席には出られない存在ゆえにすることがない……とは言っても、帰ってきたデウデシオンに添い寝をしてもらったり、飽くことなくキスをしたりと、それなりに充実はしている。
「あ……」
招待されない者が式を見るのにベストなポジション――デウデシオンから教えられた場所に到着すると、そこに先客がいた。
美しい黒髪と三代皇帝プロレターシャに似た、優しげな顔つきのヴィクトレイ=ヴィクシニア。
「見えるぞ」
だが体格は戦ったタバイと似たようなもので、顔と体格が相反している。
「あ……はい。イルトリヒーティー大公」
ザウディンダルは警戒しつつ手招きされたので近付き、式を眺めた。シュスタークとロガ、その直ぐ後ろにデウデシオン。
家臣として、異父兄としてシュスタークの挙式を見つめるデウデシオンの優しい表情に……かつては嫉妬したものだが、今のザウディンダルは素直に喜ぶことができる。
―― 俺も現金だよなあ
「ところでレビュラ公爵」
「なんですか?」
迫力のある声に無駄だが警戒しつつ答える。
「ジュシスに聞いた通りだな。王子たち相手にはため口だが、それ以外の者には敬語っぽくなると……面白いな、両性具有」
「あーいや……」
「人見知りというものなのだろう。それはともかく、これから仲良くやっていこうではないか」
カルニスタミアのような大きな手を差し出されたので、ザウディンダルはその固く厚い手を握り返す。
「仲良くっても」
「我はお前の甥と結婚するのだぞ」
「………………はあ?」
握手をしたまま見えはしないのだがヴィクトレイの頭の天辺から足の先までを不躾に、何度も見直し、幼さを感じさせる瞳を大きく開き、ぎこちなく首を傾げる。
ヴィクトレイは握っていたザウディンダルの手を引っぱり、自分の胯間を触らせる。
「ついてないだろう」
ザウディンダルは慣れた感触がないことに驚き、そして……
「うわ! ごめんなさい!」
手を離してもらい、勝手に「男」だと勘違いしていたことを必死に詫びる。
「気にするな。初見の我を女だと思うヤツはいない」
エヴェドリットでは珍しくはない【我が女に見えるやつがいたら、病院に放り込むか、殺してやれ】という体躯の持ち主、それがヴィクトレイ=ヴィクシニア。
「うわあああああ! 本当に申し訳ありませんでした! お詫びと言ってはないんですが、俺の胯間触ります。両方ありますよ! かなり珍しいはずです、はい!」
「要らん。ところでレビュラ公爵、お前の甥バルミンセルフィドとはどんな男だ」
「へ? あの……もしかして? バルミンセルフィドと結婚?」
「向こうから申し込んできた。トリュベレイエスの相手であるハネストの息子にも聞いたのだが、あの息子……何を言っているのか今ひとつ。我はあのタイプは苦手でなあ。ケベトネイアとジャスィドバニオンが気を利かせ結婚相手の候補から外したくらいだ」
ヴィクトレイは会話のいたる部分に☆が挿入される男は、やや苦手であった。
そんな投降僭主の女性の中で最も地位が高いヴィクトレイ。彼女と結婚することで、地位を確固たるものにしようと、バルミンセルフィドは命がけでプロポーズしたのだ。
「えーあーうお?」
ザウディンダルは声を失い、意味のない呻きを漏らすしかできないでいた。
「そうそう、レビュラ公爵。我には普通に話しかけてよいぞ、なにせ我はお前よりもかなり年下だ。近々やっと二十一歳になる。バルミンセルフィドとやらは十四で、そろそろ十五になると聞いたから、それほど歳も離れていない。我等は二十歳で結婚するが、襲撃を優先したので一応は処女でもあるからして……どうした?」
ザウディンダルは何一つ回答できなかった。
**********
シュスタークとロガの挙式は粛々と……とはかなり言い難くはあるが、しっかりと進んでいた。
家臣から祝福の言葉を受けてやるのもシュスタークの仕事の一つ。
「おめでとうございます」
「おめでとうございます」
普通であればロガも同席して祝福を受けるのだが、今回は席を外している。それというのも、祝福を述べに来たのはラティランクレンラセオ率いるケスヴァーンターン勢。
その中にかつてのお妃候補であったエダ公爵バーハリウリリステンが混ざっていたのだ。彼女が何を祝辞とするのか? 解らない以上、ロガを遠ざけた方が良かろうと。そして、
「私が対応いたしますので」
かつてその座を争ったメーバリベユ侯爵が控えることになった。
もちろん帝国宰相であるデウデシオンは並んでいるが、デウデシオン自身エダ公爵相手に上手く立ち回れる気がしなかった。政治的なことならばエダ公爵に勝ち目はないが、デウデシオンは女特有の攻撃から皇帝を護る力は低い。
エダ公爵は美しいブルネットの髪を持っている。いまは前髪がやや長目で、目にかかるほど。その髪越しに見える瞳の輝きは、強いが悪意はない。
一通り差し障りのない挨拶を終えてから、
「陛下」
エダ公爵はあのケシュマリスタ特有の笑いを浮かべて、一歩踏み込んだ。
「どうした? エダ」
「陛下はいまだ妃を手中に収めていないようですが」
シュスタークがロガに手を出していないことを知っているくらいの地位でなければ、祝いを述べるなど出来ない。そしてエダ公爵は主であるケシュマリスタ王が未だに皇后同意書にサインしていないことを知っているので、皇后とは言わずに妃だけに留めた。
「そうだ」
そしてもちろん、シュスタークも否定しない。否定などしても無意味であり、下手な否定はロガに矛先が向かうので、しっかりと受け止めて濁さずに答える。
皇帝の寝所はあからさまにする必要はないが、明かにしておくに越したことはない。
「陛下はもっと自信をお持ち下さい。このエダ、国王の愛人であり帝国宰相の愛人でもありますが」
「ふおあ? ……あ、続けろ」
エダ公爵がラティランクレンラセオの愛人だということは聞いたことがあったシュスタークだが、皇帝の前でも女嫌いを隠せなかったデウデシオンがエダ公爵を愛人にしているとは、考えるはずもなかった。
思わず玉座から転がりそうになったシュスタークであったが、皇帝として踏みとどまった。今更踏みとどまらなくても誰も笑いもしなければ、表情一つ動かさないのだが、妃を迎えてラードルストルバイアと別れた一人の皇帝として矜持を持ちシュスタークは堪えた。
「いまのことは事実です。その私が断言します。陛下はケスヴァーンターン公爵殿下よりも、帝国宰相閣下よりもお上手です」
このエダ公爵以外には言えぬ言葉。
それが世辞になるのか? 事実だとしたら……謁見の間にいる他の貴族たちは、どうして良いのか困り果てるが、
「……なにがだ? エダ」
一人だけあまり困っていない人がいた。
それは誰でもない、シュスターク。なにが「お上手」と言われたのか解らず、普通に問い返す。
「セックスです」
返されたほうは宮廷隠語やならなにやらを使わず、ストレートに告げる。どのように返事をして良いか? シュスタークは解らずデウデシオンの方を見るが、よくよく考えなくとも自分に比べて下手と言われたデウデシオンに、なにをどのようにフォローしてもらっていいのかも解らないので、話しかけることもできなかった。
「自信をお持ちください。妃を失望させることなどありません」
シュスタークがロガに手を出さない理由は様々あるが、この自信のなさも若干関係はしていた。自分にやたらと自信のある皇帝よりも良いかもしれないが、弱腰であることも否定できない。
「心配させてしまったようだな」
「はい」
「そうか。そなたの心配も近いうちになくなる」
「吉報、心よりお待ち申し上げております」
先制攻撃的なエダ公爵の祝辞のあとも、六名ほどの祝辞が続き、その後シュスタークは昼食を取るためにロガと共にアルカルターヴァ公爵の待つ会場へと向かった。
「陛下、私はケスヴァーンターン公爵と話がありますので。それとメーバリベユを借りますので、そのこと皇后に。私の代理はタバイで」
「了承した」
謁見の間から退出したケシュマリスタ勢は、ラティランクレンラセオとエダ公爵以外は早々にその場から立ち去った。
長居して良い場所ではないので当然だが、それにしても彼らが立ち去るのは早かった。
デウデシオンと共にやってきたメーバリベユ侯爵は、
「私は夫はおりますが、比べる相手がいないもので」
これもまた誰もが知っている事実を笑って話す。
「まったくだ。君が言うのが一番無難だっただろうに。それなのに君の夫ときたら。こんなにも魅力的な妻から必死に逃走して、困った王子様だ」
困った王子はどこかでくしゃみをしているか? それとも気付かないか?
「そうです、非常に困った夫です。さて、帝国宰相閣下。早々に話して会場へ急ぎましょう。式典において、テルロバールノル王を陛下一人で相手するのは負担が大きすぎます」
「……」
「……」
デウデシオンは無言で、ラティランクレンラセオも無言のまま。
メーバリベユ侯爵はわざとらしく息を吐き出し、エダ公爵の方に事態を動かすように合図を送る。
「酷い顔ですね、二人とも」
エダ公爵は皇帝の前では帝国語で話すが、それ以外の場面ではケシュマリスタ口調のほうが多い。その彼女が珍しく帝国語で話かける。
「……」
「……」
彼女は独特の口調と表情で相手を小馬鹿にしているように見えることの多いケシュマリスタ語よりも、皇帝以外に帝国語を話している時の方が何故か馬鹿にしているように感じられることが多い。
本人も理解して使っているので、特に問題はない。
「言っておきますが、あれは世辞ではありません。王や帝国宰相とは全く違う、あの方はご性格その物で抱きますから。女にしてみれば幸せな時間を与えてくださいますよ」
「……」
「……」
曖昧な表情のまま二人はエダ公爵の話を聞き続け、
「そんなにも順列が欲しいのでしたら差し上げます。王と帝国宰相なら帝国宰相のほうが好いです」
互いにダメージを食らって……帝国宰相はメーバリベユ侯爵と共に次の会場へと向かった。何をしたかったのか、メーバリベユ侯爵でもよく解らなかったのだが、知ったところでまさになんの得もないので追求はしなかった。
それでラティランクレンラセオとエダ公爵はと言うと、
「帝国宰相の方が大きなダメージを食らったと思いますよ。帝国宰相は女に上手と言われるのは死ぬほど嫌でしょうから。それをふまえて帝国宰相と言いました。もちろん事実ですけれども」
謁見の間の前でまだ話をしていた。
「私はそんなにもお前が欲しいものを与えていないか?」
ラティランクレンラセオは全力で寄りかかってくる愛人は嫌いだが、エダ公爵のような愛人は嫌ってはいない。昔ながらの王の子(庶子)を産めば未来は安泰、と考えるような女を特に嫌う。その感性そのものが人間由来のもので、人造王と言われるケシュマリスタにはそぐわない。
実はキュラティンセオイランサの母親はその性質があり、先代ケシュマリスタ王が生きている頃、息子の未来を案じて当時王太子であったラティランクレンラセオに庇護を求めに来たことがあった。
偽りの笑顔で応えてやったのだが、その行為がラティランクレンラセオの人造人間の部分に触れた。
彼女はそのような行為をしていなかったとしても、殺害される未来は変わらなかっただろう。だがそれをしていなければ、息子のキュラティンセオイランサに向けられる憎悪は幾分かは軽くなった筈だ。
語ったことで致し方ない過去の出来事ではあるが。
「王、ここは”僕”といきましょう。僕は君から何一つ欲しいものはもらってないよ」
「君が欲しいものとはなんだ? 僕が君に与えられない物などないよ」
「僕は君の妃の座が欲しい。もらって良いかい?」
「君は僕が止めろと言ったら止めるのかい? その程度なら諦めるべきだよ、リリス」
「僕を止めない君だから、僕も止めはしない。目指すといいよ、僕が君の妃を目指したように、君は君の欲する所へと向かえばいい、王よ」
エダ公爵バーハリウリリステン・モディレッシェル・サンファオンディラードは皇帝シュスタークの挙式後、ケシュマリスタ王妃ネービレイムスを殺害し王妃の座に収まった。
そして皇后の女官長メーバリベユ侯爵と対立し続けることとなる。
**********
着実に近付いてくる、ロガとシュスタークの初夜。
喜びに溢れている民衆たちは、まさか皇帝が二年近くも傍に置いている皇后に、まったく触れていないなど思ってもいない。
「来年には誕生するんだろな!」
「来年だろうね。今年中に未来の皇太子殿下を見れると思ってたけどな」
来年は親王大公誕生のお祝い! と沸き立ってもいた。
罪なき民衆の期待と、その他諸々を背負う皇帝シュスターク。彼はいま困惑していた。困惑している時の多い皇帝ではあるが。
「……」
「……」
成すべきことは解っているのにどうする事も出来ない。
「陛下……」
「ザウディンダル」
シュスタークと向かあいっているザウディンダルは頬を赤らめ、まだ膨らみの残っている胸を腕で隠しベッドの上で顔を背ける。
「あの……触るぞ」
「はい」
それで、何をしているのかというとザウディンダルの下着を脱がせている……いや、正確には「脱がせる練習をしている」
一週間後に迎えるロガとの初夜の練習を、この時点でザウディンダルを使って練習していたのだ。
ことの始まりは……一年近く前からなのだが、早い話が《寝所のロガの格好はどうしましょう》と言うもの。
ロガを全裸でベッドで待機させるか? 着衣で待たせるか? というそれだけのことなのだが、シュスタークは服を脱ぐのが苦手で、他人の服を脱がせるのはもっと苦手。
どのような服を着ていようが力任せに引き裂くことはできるが、望みに望み大事にすると心に誓った少女の着衣を引き裂いて初夜は、シュスタークの性格上不可能。
あくまでもロマンチック推奨の異父兄弟たちは、ロガの服を一枚でもいいから脱がせて行為に及ぶべきだと力説。
―― 陛下の負担になろう ――
唯一全裸で待機を推すデウデシオンだが、弟たちの恋路に首を突っ込むことに情熱を燃やすタウトライバの前にやや劣勢であった。
シュスタークの結婚相手が《好きになった少女》なので、普通に恋愛をして女性と結婚した弟の意見と感性を蔑ろに出来ないのだ。
なにせデウデシオンは初恋は拷問の跡が痛々しかった人妻両性具有で、現在好きなのは異父弟で初恋の人の孫。
その事に後悔もなにもないが、己が持つ感情とタウトライバが持つ感情ならば、タウトライバの方がシュスタークに近く、また近くあってもらわねばならぬと考えている。
悩みに悩んだ結果「シュスタークにヒモパンを脱がせる練習をさせること」に落ち着いた。普通の下着よりも脱がせやすいということから選ばれた下着である。
ちなみにロガは胸の膨らみが皆無に等しいのでブラジャーの着用はなし。
実戦に耐えうる練習である必要があるので、当然誰かが穿く必要がある。シュスタークが裸を見て緊張する身内……となると、ザウディンダルしかなかった。
途中キャッセルが「私の方がよくないかい?」とヒモパン(女性物)を穿いて現れたが、同性愛者は禁止なので、胃が痛くなりながらタバイが撤収作業。
そして結局ザウディンダルになった……というよりもザウディンダル一択であった。
「このヒモパン、女性用だから」
「俺は半分しか女じゃねえよ! それに外見は男だって!」
ザウディンダルにはしっかりと男性器はついている。それで言ったらタバイだろうがタウトライバであろうが、その他誰でも良いようにも感じられるが、ザウディンダル以外の兄弟であればシュスタークは感謝すれど照れはしないし、緊張もしない。
ある程度、性的な緊張を感じつつそれを乗り越えてもらう必要が……
ということで、二十五歳過ぎた皇帝が、挙式の最中に初夜に向けてヒモパン脱がせる特訓とあいなった。
火を付けると仄かに甘い香りが漂う蝋燭。その揺らめく炎に照らし出される二つの影の主は、ザウディンダルとシュスターク。ベッドで羞恥に耐えながら身を捩るザウディンダルが着用しているのは純白のヒモパン。
無駄に飾り立てられた室内で、自ら手袋を脱ぎ捨て(上手く脱げずに破けた)指をかける。
「……」
「……」
ザウディンダルの肌に直接指先が触れ、感触に困惑しながら、固めに結ばれた紐を掴む。”緩めにしておけば?”と言われそうだが、ロガは身体全体が薄くて平ら気味なので、ヒモパンなどはしっかりと結んでおかないと、直ぐに身体からずり落ちてしまうのだ。
「……」
”あまり肌に触れては駄目だ!”思えば思う程、シュスタークの指は残念で悲しいほどにおかしな動きをして、ザウディンダルの柔らかい肌に触れてしまう。
「……っ」
腰から太股にかけての敏感なラインに、違う意味で息が荒くなっているシュスタークの吐息が触れ、胸を手で覆い隠しながら必死に自分の男性器に「大きくなるんじゃねえよ」と命じるが、吐息がかかり肌に触れずに結び目を解こうと紐を引っぱるせいで、性器が圧迫され、硬さを持ってしまった。
―― あああ! 内腿のキスマーク消し忘れ……気付かないで下さい、陛下! 気付……ああああああ! 陛下が硬直したああ
柔らかな内腿に散らされたキスマーク。治療をすると直ぐに消せるのだが、兄の妻に「治してください」と言うのは恥ずかしく、キュラティンセオイランサに相談を持ちかけて体用ファンデーションで一時的に消した……のだが、全てを消しそびれていた。
ザウディンダルが普通にしていると、見えない箇所なので仕方がないと言えば仕方がない。
「……」
気付いてしまったシュスタークは、素知らぬふりを出来たら良かったのだが、キスマークとザウディンダルの顔をまじまじと見比べてしまい、最早ヒモパンの紐を解いているような状態ではなくなってしまった。
そんな両者いたたまれない空気の中、紐を引っぱるとザウディンダルの性器が震え蜜が滲み、女性の部分も熱くなってくる。
「……」
―― お願い陛下、早く終わって!
「済まぬ! 許してくれ!」
結局シュスタークはヒモパンを脱がせることが出来ず、いたたまれなくなって逃走。
「陛下! なんで、なんで蝶結びがこんな固結びに? タウトライバ兄! 陛下には無理っぽいぞ!」
逃走した皇帝を追うように、見守っていたタウトライバに向かって叫んだ。それでザウディンダルのヒモパンは、どのようになったのか? と言うと、
「外れねえなあ」
必死に解こうとしたのだが、固くなってしまった結び目はどうすることも出来ず。
「どうなってんだ……ペロシュレティンカンターラなら解けるかなあ」
帝国史に名を残す、口と態度が”控え目に言っても超弩級に悪い”と言われるほど悪かった、全能の神をも凌ぐ指先を持つ物作りの天才の名を呟きながら努力する。
「ザウディンダル」
「兄貴! 陛下が駄目だった」
逃走したシュスタークに「ヒモパンの紐……あとは任せたぞデウデシオンよ」と命じられやってきたデウデシオンは、乱れたシーツと欲情している体を見下ろして、何分余裕があるかを瞬時にはじき出して、ザウディンダルの性器を布越しに含んだ。
「んあぁ!」
突然の刺激にザウディンダルは大きな声を上げる。デウデシオンは何も言わずに吸い上げ、女性の部分に指を一本入れ、誰も触れていない奧を優しくかき混ぜた。まさかデウデシオンがそこに指を伸ばすとは思っていなかったので、非常に驚いた。だが同時に、触れられたことに喜びを感じ、口元を手で覆いながら、責めにも似た快感に耐える。
デウデシオンの口の中で果て、手のひらまで濡らした。達し敏感になった肌から、デウデシオンの服が離れる。
時間がないので、これで終わり戻ろうとしたデウデシオンだったが、ザウディンダルが目を潤ませながら、
「挿れて……」
濡れ肌が透けている下着をずらしながら足を開く。
「……」
自分が居なくとも、式が滞るようなことはない――
ヒモパンは軍刀により切り裂かれた
扇情的なザウディンダルのところに向かったので、帰ってこないことは解っていた――自らにそのように言い聞かせているのはタバイである。
抑えが効かなくなっているデウデシオン。仕事を放棄させてしまうくらいならば、タバイが向かえば……元々嫉妬深かった(エーダリロク作膣薬)デウデシオンが許すはずもない。
「兄の影武者も用意せねばならんな」
タバイは溜息混じりに呟いたところ、物陰から一人の男が現れた。
「我が演じてやろうではないか」
獰猛さの中に狡猾さを滲ませた笑いを浮かべながら声をかけてきたのは、首が元通りになったディストヴィエルド。
溶接されたりアニアスに食材にされたりしたが、生来の強さでしぶとく生き延びアーガードロケア公爵位を奪い取り、見事皇王族となった。
「……好意だけ貰って遠慮しておく。二十近く歳上の男を演じるのは無理だろう」
誤魔化すだけならば確かに最適なのだが、デウデシオンの影武者ということはシュスタークの近くに立つことが多くなる。
こんな危険極まりない男を皇帝の側に近づけるわけにはいかない。シュスタークのほうが強くはあるが、皇帝を危険に晒す馬鹿もいない。
「遠慮するな」
その上、シュスタークの影武者を務めるのはビーレウスト。
襲撃の際に「エーダリロク」を名乗ったこのディストヴィエルドのことを、ビーレウストは嫌い隙あらば殺してやろうとしているので――皇帝の影武者と帝国宰相の影武者が、公衆の面前で殺し合いを始めたら目も当てられない。
「遠慮ではなくて」
そんな彼の背後に足音なく忍び寄る料理人の影が ――
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