ALMOND GWALIOR −258
静寂を取り戻しつつある謁見の間とは逆に、退出した全員が扉の前の広間で、何を言って良いのか解らないが驚きを隠せずに違いに”知っていたか!”と叫び合う。
「ザウディンダル」
「なに? 兄貴」
「お前聞いていたのなら」
デウデシオンがザウディンダルに話しかけると、周囲が静かになる。誰もが情報を欲していた。
ザウディンダルは、
「聞いてたんだけどさ……俺、両性具有だろ? だから発言内容からして、陛下を貶めることになって不敬罪になるから言わないようにって」
浴室でシュスタークに言われたことに従ったまでのこと。
あれでシュスタークが《ロガを愛することができない》などと言ったら真っ先にデウデシオンに教えたが、ロガだけを愛すると言い切りその後も普通のシュスタークだったことと《後日公式に発表する》とも約束していたので、特に心配はしていなかった。
まさかデウデシオンにまで言っていなかったとは思いもしなかったが、それはザウディンダルの責任ではない。
「確かにそうだが……」
責任ではないと言えば、ザウディンダルの取った行動も責任はない。
両性具有の発言は価値がないと、誰もがいままで見なしていたのだから、知っていても言わなかったことを責めるのはお門違いなのだ。
「叔父上も知っていたのであろう?」
ランクレイマセルシュが叔父でありシュスタークの実父であり、暗示の真実に近い立場にあったデキアクローテムス。だが彼は首を振った。
「知らなかったよ。いやデウデシオンを帝国摂政にするまでは解っていたが、兄王までが暗示にかかっていたとは知らなかった。まして……巴旦杏の塔の中にそんなことが仕組まれていたなど」
デキアクローテムスはセボリーロストとオリヴィアストルに視線を移す。
本当に知らなかったセボリーロストは同意の意味で首を縦に振り、オリヴィアストルは《知っていたよ》の意を込めて首を縦に振った。
「なぜ陛下が男にしか興味がないことを教えなかった」
「必要はなかったからだ。陛下はいままで男に手を出したことはない」
「確かにそうだが」
「ランクレイマセルシュ、陛下が男にしか興味がないことを君に告げたとして、君になにか出来るのかね?」
皇君は”やれやれ”と両手を広げる。
「……まあな」
告げられたところで確かになにも出来はしないが、知っていたかったというのがランクレイマセルシュの正直な気持ちであった。
ただこれ以上口を開くと《金にもならないことなのにか》と言い返されることが確実なので、面白くないという態度のまま引き下がる。
「陛下の発言は本当のことなのか? 后を一人にするための発言ではないと言い切れるのか」
后候補の皇王族を多数手に入れたザセリアバが疑問を持ち、
「不敬とも取れるが、いままで男に興味を持っていなかったことから考えると、そう判断されても仕方ないか」
ラティランクレンラセオも同意する。
「じゃが、陛下の発言を疑うなぞ!」
カレンティンシスは否定するべきかしないべきかで混乱し、他の者たちは黙っているしかなかった。
《事態の収拾が付かんな、エーダリロク・ゼルギーダ=セルリード・シュファンリエル》
―― まあな。ザウや陛下の父たちの意見は、こう言っちゃなんだが、信用してもらえねえんだよ。意見を認めさせるには、それ相応の地位と実績と血筋が必要だ
《どうするのだ?》
―― 大丈夫だろ。俺が王にと望んでいる男がどうにかしてくれるさ
《ルクレツィアの末の王弟か》
―― そう言うこと
遅れてやってきて、騒ぎの中心から少し離れたところにいるカルニスタミアにキュラが近付く。
「カルニスタミア」
「なんじゃ? キュラ」
「君、全然驚いてないよね。君が驚きを露わにしないのは今に始まったことじゃないけど、今回くらいは驚いてもいいんじゃないの?」
キュラには含みはなかった。
「……このことか。キュラ」
《我が永遠の友》皇帝の意識を見る事の出来る唯一の男の発言に、誰もが耳を傾ける。
「なに?」
「以前、后殿下がまだ奴隷衛星に住んでおり、儂等が警備に付いていた頃。ちょうど陛下が初めて后殿下にキスをした日と言えば解るか?」
「……まあ、その日のことは覚えているよ。その日になにかあったの?」
「あの日、お前は儂に”こう”聞いたであろう? ―― ねえ? カルニスタミア。君、陛下のお心を覗いた時に何か気付かなかった? ―― とな」
**********
「僕、純粋に不思議なんだけどさ、陛下はあの子の何処に惹かれたんだろう? 性格は確かに良いかも知んないけど、それ以前に “あの子のところに服を取りにいって謝罪する” そう決意させたのは何なんだろう?」
“素っ頓狂な貴族” ことシュスタークに好意を抱いたロガもだが、頭部の半分が爛れている奴隷娘に興味を抱いたシュスタークも不思議がられても仕方がない。
「あの顔がお好みなんじゃねえのか? そうとしか言いようがねえな。あの顔なあ……あの顔が好みだってなら、今まで用意した女は全て “お好みじゃない” だろうな」
ビーレウストは悪口を言っているのではなく、そのままを言っているのだが、
「お前等なあ……」
先ほどから暴言さながらの言葉を続けているキュラとビーレウスの肩をカルニスタミアは掴み力を込めて言葉なく批難するが、それが通じる相手でもない。
「ねえ? カルニスタミア。君、陛下のお心を覗いた時に何か気付かなかった?」
「……………………」
「なんだ? 何か気付いたことがあったのか?」
「何? 何?」
二人から質問の矛先を向けられたカルニスタミアだが、その事は一生口にする気はない。
「言いたくない……というか、言えん」
現時点では≪それ≫にシュスターク本人ですら気付いていない。気付かなければ、一生カルニスタミアは≪そのこと≫を口にするつもりはない。
「その意味深な言葉を前に、引き下がれと?」
「引き下がれ……これは陛下だけの問題であって、儂達が口を挟む問題ではない」
≪それ≫をカルニスタミアが口にしたところで、聞いた彼等が≪それ≫を訝しがることもないだろうことや、≪それ≫をシュスタークに告げることはない事も理解はしていたが、とにかく≪それ≫を口にするつもりはなかった。
おそらくシュスタークが≪それ≫について疑問的に尋ねてきたら、カルニスタミアは断固として≪それ≫を否定する気でいる。
「何だそりゃ?」
ビーレウストは笑いながら力を込められているカルニスタミアの手を引き剥がす。
「どゆこと? ああっ! 陛下が風呂上りのあの子の手首掴んでる!」
**********
「何となく思い出したぜ」
脇で聞いていたその場に一緒にいたビーレウストも記憶を探り、そんな話をしていたなと頷く。
「あの日の問いに答えよう。儂は陛下のお心を二度覗いた。二度目は陛下が暴行された后殿下の身を案じて帝王になったのを鎮めるため。一度目は、陛下が初めて后殿下に会って暫く落ち込んでいたのでその理由を知るため。……その一度目の時じゃ」
「なに?」
△▼△▼△▼△▼△▼△
「気が付きましたか?」
そこにいたのは顔の半分を布で覆った……? 髪が短いから、中性にも見える……貴族ではないだろうな。少年か! 声もそれっぽいしな! 少年は服というよりは布切れを身にまとっていた。その少年は頭を下げて謝罪する。
「驚かせるように言われたんですけれど、驚かせ過ぎてしまったみたいで。ごめんなさい!」
△▼△▼△▼△▼△▼△
「いいえ、驚かせてしまって……済みませんでした」
少年は頭を再び下げた。謝る筋合いはないのだが、あまりに余が驚き過ぎて怖くなったのであろう。脅かし役を恐がらせてどうするのだ、余よ!
「良い。依頼であったのだろう? それにしてもよく出来た面だな? 特殊メイクか?」
少年の顔は驚くほど恐い造りになっておる。見るもおぞましい半分だ、人間の顔とは思え……
「地顔です」
「そ、そうか。……別に娘子ではあるまいし、顔など別に気にする必要はないだろう」
言いつつよくよく見れば、控え目ながらも胸が膨らんでいるような気が……する。あれ?
「私は女ですが、顔も別に。気になさらないでください」
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すっかりと静まり返った周囲を気にせず、微笑みながらカルニスタミアはキュラとビーレウストに尋ねる。
「説明する前に聞くが、お前等は后殿下を初めて見たとき、どう思った? 隠さないで本当の気持ちを述べてくれ」
「そりゃあ、顔が崩れてるなって」
当時のロガの顔を初めて見れば、誰でもそこに目が行く。
「それ以外は?」
「変わった子がお好みなんだなあって」
顔から判断すると、そう思うのが当然。
だがそれよりも先に答えはあった。
「陛下の女の趣味に、ちょっと驚いたな」
「それだビーレウスト」
その先に触れたのはビーレウスト。
「は? なにが”それだ”なんだ? カル」
何気なく言ったビーレウストは、カルニスタミアから”正答だ”と言われて、聞き返す。
「儂はな、陛下の記憶を見て最初から女だと気付いた。お前達も一目で女だと解ったであろう?」
多くの者が息を殺して、カルニスタミアとのやり取りを凝視する。
「そりゃまあ少女だってことは解ったよ」
”何を言っているんだい? カルニスタミア”とキュラは首を傾げて、独特の嗤いを僅かに含んだ笑顔で答える。
「どう見ても少女だろう」
ビーレウストは意味もなくこみ上げてくる笑いを飲み下しながら、周囲にいるシベルハムやアシュレートを見て同意を求めるように頷く。
「何を言っておるのじゃ! カルニスタミア! 手早く説明せい!」
カルニスタミアの言葉に我慢しきれなくなったカレンティンシスが怒鳴りつけるが、カルニスタミアは何時も通りそれを聞き流し、
「黙って聞いていろ、兄貴。儂はな陛下のお心を見た際に知ったのじゃが、陛下は后殿下を”少年”と勘違いしたのじゃよ」
最も重要な部分を語った。
「どういう……こと」
「陛下は后殿下に一目惚れをした。これは事実じゃ。陛下は一目惚れしたから、后殿下のことを”少年”だと思ったのじゃよ」
カルニスタミアはこの事は誰にも語らなかった。
元々シュスタークの意識を覗いた理由は「なぜシュスタークが落ち込んでいるか?」であって、シュスタークが「少女を少年と間違った」ことは報告する必要がなかった。
「……待って、それって……」
シュスタークの感情の”ふれ”を直接感じたカルニスタミアだけが解る
「”解ける暗示”綻びが最初から用意されている暗示の奥底で絶えず流れ蠢く感情。陛下はご自身の趣味がどうなのかを、知らない間に感じ取っておったのじゃよ。だから一目惚れした相手を”少年”だと思ったのじゃよ」
**********
現時点では≪自らの性的嗜好≫にシュスターク本人ですら気付いていない。気付かなければ、一生カルニスタミアは≪シュスタークの性的嗜好について≫を口にするつもりはない。
「その意味深な言葉を前に、引き下がれと?」
「引き下がれ……これは陛下だけの問題であって、儂達が口を挟む問題ではない」
≪シュスタークの性的嗜好≫をカルニスタミアが口にしたところで、聞いた彼等が≪皇帝の男性趣味≫を訝しがることもないだろうことや、≪性的嗜好について≫をシュスタークに告げることはない事も理解はしていたが、とにかく≪シュスタークの性的嗜好≫を口にするつもりはなかった。
おそらくシュスタークが≪自らの性的嗜好≫について疑問的に尋ねてきたら、カルニスタミアは断固として≪それ≫を否定する気でいる。
**********
「陛下が后殿下を最初に少年と? 言ったのか?」
デウデシオンは最初に「怖がらせるために用意した娘」として目を通していることもあったが、確かに一目で娘だと解った。
女らしい少女ではないが、少女らしい少女であり、少年らしい少女では決してない。
「そうじゃ。陛下が恋に落ちた瞬間、陛下の中で后殿下は少年であった。すぐに少女であることに気付いたが、その感情は変わらなかった」
この時”暗示”が帝国にとって最高の働きをした。
シュスタークの性的嗜好をねじ曲げていた暗示により、シュスタークは自らが興味を持った相手が少女であったことに安堵した。
自分の感情を乱した相手が女性であったから、許されると理解してそのまま興味を持ち続け、いつの間にかその人柄を愛して后として迎えるに至った。
「それってさ、偶々恋に落ちた相手が女性だったってこと?」
察しの良く二人の奴隷衛星での生活を間近でみて覚えているキュラは、カルニスタミアの言葉を全て受け止めて目を細める。
まだなんの憂いもなかった頃のロガと、初めて恋をしたシュスタークの姿。
「そうじゃよ」
もうあんな無邪気な二人を見ることは叶わないが、あの時間は無くなってしまうからこそ価値があるのだろうと、目を閉じて二人を脳裏に思い出して”嗤い”を収めて下を向く。
「少年と見間違うような格好をしていたのだろう?」
「それはねえよ、兄貴。この俺も同じ格好をしている后殿下を見たことあるが、誰かに聞かないでも女だって解った。むしろ男には見えなかった。この爬虫類大好きな、人間に興味のない俺がだぜ」
「后殿下付きの女官長として、夫である殿下の発言がこんなにも心強いこと嬉しく思いますわ。夫に逃げられ続けている甲斐がありましたわ」
「いや、その……なあ」
あまりにも心強いエーダリロクの言葉にビーレウストは笑って視線を逸らす。
そしてエーダリロクが人間の女性に興味を一切持たないことを誰よりも知っているランクレイマセルシュは、握り拳をつくって奇妙な表情を貼りつけて口を噤んだ。
《素晴らしいな、エーダリロク・ゼルギーダ=セルリード・シュファンリエル。お前の発言で皆が納得した。人間の女に興味のない童貞というのはこれ程までに発言力があるとは》
―― うん、それ以上言わないでくれ。自分で言うのもアホだけど、兄貴の”悔しいが納得してしまった”の表情に結構落ち込んだ
《ならば言わねばよかろうが》
―― そうなんだけどさ
キュラは顔を上げてカルニスタミアを見つめて、
「僕さ、あんまりこの言葉好きじゃないんだけど……陛下が后殿下に恋をしたのは奇跡ってこと?」
有りはしない―― そう自分に言い聞かせて今まで生きて来た《奇跡》に巡り会ったことを素直に認めた。
「そう言うことじゃな。帝国は奇跡によって未来を繋ぐことが出来るのじゃよ。今の陛下にとって、后殿下は男や女などという性別など関係の無い場所に置かれておる……兄貴」
「なんじゃ?」
「陛下はあのように穏やかに言われたが、実際はもっと感情は大きく渦巻いておられる。下手に女は近づけぬ方が良いであろうし、皇后として推戴するべきであろう。もちろん儂の意見を聞き入れるかどうかは自由じゃが……陛下のお心を無闇に動かそうとすると、后殿下が封じ込めている《帝王》が動き出す」
「お前は以前、レビュラがそうだと言ったではないか!」
「あの時はな。あの頃はまだザウディンダルが上だったが、今は后殿下が超えた……超えたというか……帝王の欲する所が変わったというか。ザウディンダル、なにか知っていることがあるのなら教えてくれぬか? 儂はお前の意見を正式な物として受け入れる」
「うん。あのな陛下が二人きりになったときに教えてくださったんだが、確かに陛下の中の《帝王》を封じていたのは俺っていうか両性具有の存在だったらしいが……帝王は両性具有と離れたから、もう俺じゃあ駄目なんだってさ。意味は良く解らないけれども、陛下はそのように言われたよ。陛下の中の帝王は銀の月に向かって飛び立ったそうだ、両性具有は自ら望んで冷たい海に残ったと」
曖昧で抽象的で意味など通じないような《答え》
「……それは本当か?」
「エーダリロク?」
「それは本当なのか?」
「あ、うん。まったく解らない理由なんだけど、不思議なことに解ったような気がした。陛下にはもう両性具有は必要ないんだろうよ」
「そうか」
だがそれは帝王にとっては重要な発言だった。
**********
シュスタークに呼ばれたロガは、早足で玉座に座っているシュスタークに近付いた。
「聞こえていた?」
「はい、全部聞きました」
シュスタークは玉座から立ち上がり、玉座を左手側にしてロガと向かい合う。
「ロガの質問にも答えよう。子供は一人の方がいいのかどうか」
ロガは僭主の襲撃で自分の子が僭主のような戦争を引き起こす可能性があることを知り、子供は一人だけ産むべきかどうかを尋ねた。
聞かなくても帝国がそのように判断したらロガには産むことは出来ないのだが、そうならば教えて欲しいという気持ちで。
「余はたった一人の後継者という立場が辛かった」
そして向かい側に立っているロガに、
「……」
「辛いということが考えられられないくらいに、辛かった。だから余は後継者は複数人欲しいと考える」
自ら出した答えを告げる。
「ナイトオリバルド様」
「全宇宙のことを考えるというよりは、自分のこと、そして未来の自分の子たちのことのみを優先した結果出した答えだ。だが……子が争うことだけを考えていては未来へ向かうことはできない。争わない子を育てることが重要だと余は考える」
ザロナティオンのクローンであるルーゼンレホーダが僅かながらの安定と教育で狂うことが無かったように、継承権はあろうとも就けないことを認めることができるような子を育てること。
それが暗黒時代からの脱却だとシュスタークは考える。武装した理性はそうだが、柔肌に近い感情は違う。
感情が出した答えは”ロガ以外は必要ない”
「だがな、降りることのできない責任を一人だけで負うことが辛いと知っていながら、余は后をロガ一人だけにしたい。余はロガが子を産んでくれたら、責任が分散して少しばかり楽になる。もちろん先に述べたように教育を施し、戦争を回避する必要はあるがそれは……ロガの苦労に比べたら些細なことだろう。どれ程子を産もうがロガは楽にはならない……余が后を三人抱えて、他にも正妃候補者を多数抱えた方がロガとしては楽であろう。全宇宙の責任を一身に背負うことを考えれば、嫉妬など物の数にも入らぬ」
シュスタークは膝をつき、手を差し出す。
「余は嫉妬しないと皆に言われるが、嫉妬如きの感情は帝国を一人で背負う責務の前には簡単に押し潰され消えてしまうからだ。余は殆どの感情を責務で潰してしまい上手く育てることができなかったが……今は違う」
ロガはその手に自らの手を重ねて、まだ何かを言おうとしているシュスタークを見つめる。
「押し潰されるという思考すら麻痺してしまうほどの重責を背負わせることになるが許して欲しい。この先ロガ一人にどれ程の重圧がのし掛かるか。余が全力で支える、宇宙を支えるのと同じだけの決意を持って。頼りない言葉だけしかここに示せぬの余だが、信じて受けて欲しい。余は愚かだろう、愛する后に負担をかけても……これが愛を貫くというのかは解らぬ。正直間違っているのかもしれない。だが偽りのない余の気持ちであり、これが考え抜いて下した決断だ」
瞳の色以外対称な顔と、ほぼ色素のない冷たそうな唇。瞬くような輝きを持つ黒髪。
ボーデンに噛まれても”頑張ります”と言い、ロガの寝顔を見て喜ぶ姿。どれもが愛しく、どれもが本物であった皇帝。
ラードルストルバイアはシュスタークを見つめるロガに微笑んだ。誰も見えないはずの微笑みだが、奴隷の少女は感じ取り、シュスタークを抱き締めた。
「はい。私一人だけをナイトオリバルド様のお側に置いてください」
CHAPTER.10 − 形而下の抱擁[END]
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