ALMOND GWALIOR −1
「ふーん。君、失恋したことになるね」
「別に。最初から“こう”だっただろうが。変わりゃしねえよ」
「そうかもね……何時までも宰相閣下のラブシーン見てるのも悪いから、向こう行かない? 僕も君に話があるし」
「儂は話はないぞ」
「僕があるから、君は黙ってついてくればいいの。それとも、何時までも此処で出歯亀してたい? 亀、亀言ってると、あの騒動に巻き込まれるかも」
「解った。あれに巻き込まれるくらいなら話す。怪音波め」
「ここでキュウウ! とか叫ぼうか? 折角のラブシーン台無しにしてもいいんだよ? そうして欲しい?」
「早く話せ」
「お人よしだね、ライハ公爵は」
「お前の性格が問題あり過ぎるだけだ、ガルディゼロ侯爵」

ALMOND GWALIOR


 全面鏡で覆われた部屋で、抱かれている。
「あぁん、キュラ! ああ、キュラ! 最高だよ」
 金髪の綺麗な顔立ちの男は、普段から甲高い声を更に一オクターブ上げて語りかける、
「う、うるせ……」
 鏡に向かって。
「ああっ! いきそう! いくよ、キュラ」
「っ! 待っ…………て、手前……」
「君は何時でも最高だよ、キュラ」
 俺から身体を離して、キュラは鏡の自分に語りかけ始めた。
「てめえ、もう少し待てって言っただろうが」
 自分の姿を見てるだけで高揚するキュラは、他人を抱いていようが抱かれていようが、鏡から視線を外すことはない。
 鏡のない所で行為するなんてのは考え付かない男だ。
 誰よりも、自分が好きな男。
「僕は僕が良くなりたいだけ。君は君でよくなるべきだよ、前を自分で扱くくらいできるだろ? それとも、そこまで “シテ” あげないといけないのかい? 大体、僕は君の寂しい体を慰めるだけのものだろう? そこまではしてやろうとは思わないね。ある程度は自力でイク努力をするべきだよ、何度も言っているだろう? ああ、カルニスタミアと一緒にされても困るね」
 相変らず、悪びれることなく上着を肩にかけ、長い髪を手で軽く払って、
「じゃぁね」
 裸同然で部屋を出て行った。
「……何時もの事だけどよ……」
 まだ満足していない身体を持て余しつつ、ベッドに腰をかけた。
 キュラが自分勝手に抱くのは、構いはしない。俺だって別にアイツの事をなんとも思っちゃいない。ただ、体中の熱を排出する為の行為であって、そこに何も在りはしない。
 自分で処理するのは癪に障る。でも、このままじゃ寝れそうにもない。
 カルニスタミアに連絡をつけると『解った今行く』と返ってきた。カルニスタミアが来るまで、俺は入り口を眺める。
 扉が開かれるその瞬間まで、俺は別の人間の訪問を期待している。
 絶対に来るはずのない相手。多分今頃の時間になっても、お仕事なさってるだろうよ……大事な大事な皇帝陛下の代わりに。
 あの扉の向こう側から、来る事はない。
 ばかみてえに大きな扉の向こう側から、たくさんの菓子を持って俺の様子を見に来ていたあの人はもう居ない。
「ザウディンダル」
「……! ……ああ、カルニスタミアか」
「人を呼び出しておいて、そのツラはなんだ、と言いたい所だが、もう儂も見慣れちまったから気になりもせん。お前が来訪を望んでる愛しいお兄様は、皇帝陛下と平民女の公式お忍びの監視で大忙しだ。どんなに待っても来やしねえよ」
 言いながらカルニスタミアは服を脱ぎ始めた。
「そんな話、必要ねえ」
「そうだったか。で、儂はどうすりゃいい? 勃たせてお前の好きにさせりゃいいのか? 儂がせめれば良いのか? それとも口で抜けばいいのか?」
「どれでもいい」
「そうかい。じゃあそこに横になってろ、終らせる」
 ベッドに横になってカルニスタミアに身体を預けた。
 俺の足を掴んで、見て
「誰のだ」
 前の痕跡の相手を問う。
「キュラ。どうせ入れるんだ、潤滑油代わりになるかと思ってそのままだ」
「そうかい……気になるなら、陛下のご様子でも見に行くか?」
 言いながら俺の足を肩に乗せて、俺のを口に含んだ
「ちっ……いらねえ」
 皇帝のために必死になってる帝国宰相なんて、どうでもいい……向こうだって、どうでも良いだろうが……な。


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