あとがき
神にも人にも世界にも、自分自身と死にも叛いたその先に待つものは ――
話としては「決して許さない。だから俺のことも決して許さなくていい」ということを軸にして書きました。「全てを殺しても自分だけは生き延びる」という意思を持った主人公なので、それを徹底させるためには、許したり、許されたりしては根本から崩れてしまうからです。
ただ正直に言えば書いている途中で許したくなった、許させてやりたかった。
そんな気持ちを抱えながら、なんとか完結させることができたのは、読んで下さった皆さまのおかげです。
登場人物について
ヒルデガルド【侍祭→司祭】
本来ならこちらが主人公……なのかもしれない。
それなりに重要な役でした。
名前はかなり重要なポイントで、ヒルデガルドは剣の柄《ヒルト》をイメージしたキャラクター。柄がヒルダで刃がマリアで鞘がエルスト、それで剣を揮うのがドロテア。
クリームヒルトでも良さそうだったんですが、クリームヒルトは本来のイメージが強すぎて。
それと予言と薬草で有名なヒルデガルト・フォン・ビンゲンから拝借と……いうほどでもないのですが。
マリア【聖騎士】
男嫌いな美女ってのが好きなのです。
が、男嫌いな美女は最後には男嫌いが治って野郎とくっついてしまう! 個人的にそれが面白くないので、最後まで男嫌いを通させた……つもりだったのだが、男嫌いというよりドロテア好きになったような気がするのは何故だろう?
ドロテアと知り合わなかったら幸せだったかどうかは不明ですが、ドロテアと知り合って哀しみを知ったのは事実です。
セツ【枢機卿】
連載中からずっと「恋人はアレクスですよね」とよく言われたものです。
男は嫌いだと作中で宣言しても「アレクスは別ですよね」と。……それはそれで、まあいいんじゃねえのかなーと。強く生きて行け、セツ――とでも書いてやればいいのでしょうが、この男、これ以上強く生きられても困るので。まあ適当に生きて行けよ、としか言いようがありません。
あんまり幸せになっていないようですが、この男は幸せになりたくて生きていた訳ではないので満足できています。”じめっ”とした女に惚れられることに定評がある男でもあり、来世の妻は二人なのか? 一夫多妻制でいくのか? それはそれでいいような。
アレクサンドロス四世【法王】
全てが明かになった今、血であることが判明した――あとがきから読んでいる人は、本編を読んで理由を探してみよう!
物語の基軸が皇帝にある関係で、一部も二部も五章目(二部の場合は十五章目)の”部”の中心に皇帝が存在する地が登場するようにしました。基本話の構成は五章目を完全に重ねあわせて、他は第一部と第二部が二重螺旋のような構造を描く……イメージでした。あくまでもイメージです、脳内画像をお見せ出来ないのが残念です。
オーヴァート【皇帝】
すべての元凶なのかなんなのか? さっぱり解らん。
アホであったことは確かである。所詮あの血筋だ――あとがきから読んでいる人は、本編を読んで理由を探してみよう!
「オーヴァートの望みが叶う=英雄誕生」は避けられないことでした。上で書いた「許したかった」の多くは「英雄」にかかっています。ドロテアがオーヴァートを許せていたら英雄は存在しなかったのです。
一年くらい連載しないで助かる道を模索したのですが「助ける=別の話になる」ということで諦めました。
ヤロスラフ【選帝侯】
人生が無駄だったのか? 無駄が人生だったのか? そんな感じ。ハイスペック無駄人生。でも幸せだったから善かったと思う。うん、たぶん。
ヤロスラフにまつわるエンディングがないのは仕様です。
クラウス【隊長】
男の趣味が悪い男……いや、同性愛者ではない。
人生を迷えるだけ迷い続けて、辿り着いたわけです。孤高ながら心豊かな晩年を送ることができました。でもどこかで過去がひかかったまま……クラウスは一生クラウスなんですよ。誰もが年取ったら達観できるわけではないので、それで良いと思っています。
以前も呟いた通りクラウスは殺す予定だったのですが、”生かしておいて欲しい”という要望で生き延びた稀な男です。そう言う意味では神のご加護があったかもしてないが、神様自体がアレクサンドロスなので……。
ファルケス【枢機卿】
あの血が強いんですか? とか聞かれそうな男。うん、まあ、強いんじゃないかなあ、あの血が。
「好きそうなキャラですね」とは”よく”言われた。好きです……というより、書きやすいと言ったほうが正しいような。
ファンタジーでは聖職者は悪役担当がデフォルトですが、基本初登場時は柔和や高潔、俗人を見下す……みたいなのが多いので、最初からフルで悪人にしてみたら、この有様です。
ルクレイシア【枢機卿】
”幸薄い女性”を書こうと、基本に忠実に花街売られ→買ってくれた人に恋するも相手にされず→別の男に嫁ぐがそれでも……という基本を踏襲したつもりなのだが、幸薄いというよりはなんか奇妙に捩れた気がしてならない。男の趣味の悪さはドロテアに近いものがあったかも。
ハミルカル【王】
たぶん、アホ……ではなく、ファルケス同様あの血が強いので《魔法》に優れているわけです。
結局の所ドロテアのことを理解できなかった訳ですが、ドロテアもハミルカルのことを理解しようとはしなかったので問題ないでしょう。
ミロ【王】
ドロテアはとにかく美しいものから着想を得ようとして色々な物を見て、ミロのヴィーナスもその一つでした。ミロのヴィーナスは腕がないのが美しさを……というのは通説なので、ドロテアも「欠落」を作ることにしたのですが、さすがに両腕がないと目立ち過ぎるのでいまの形に。
そのドロテアの恋人ということで、名前はそのまま拝借してミロになりました。
マクシミリアン四世【王】
肢体欠損とドロテア、領土とミロが繋がったのはミロのヴィーナスのせい(えらいとばっちりである、ミロのヴィーナスが)
マクシミリアン四世はいいんですよ、マクシミリアン四世はどうでも。
クナ【枢機卿】
王女は潤いである。例え年嵩であろうとも、王女さまは王女さまなのである。
そして由緒正しく深窓で育てられた信心深い王女さまというのは、由緒正しい王と結婚するべきなのだ!(力説)
そういうことです、持論です。
登場した王のなかで、もっとも性格良いと思うんだ……あれでも。
ヘイド【下男】
まさかの重要人物、その一。
一応それっぽい伏線は張ったんだ。分かり辛さ満載の伏線だけれども。
イリーナ/ザイツ【御者】
驚きの重要人物、その二、その三。
それっぽい伏線は張ったと思うんだ。ヘイド同様、一章まるごと使ったしね。
ビシュア【盗賊】
元々こういう配置だったんですよ。中東のリビアあたりにビシュア村なるものがあったんで、砂漠に似合う名だなということで拝借。
ビシュアは普通苗字なんだけどね!
それと石屋の息子も同じ意味を込めて。国造りとなると石屋の息子は大事だから(フリーメイソン設立諸説の一つ)
レクトリトアード【勇者/エピランダ】
歴史序説(イブン=ハルドゥーン著)で”神の教えに叛いて滅ぼされたアード村”というのがあったので、そこから。
ソドムやゴモラは解り易すぎ、なにより名前に組み込みようがない。個人的に「無口で誤解されやすい」というのは、ただのコミュニケーション下手だと思うので、思う存分そのように書いてみた。コミュニケーション下手というより、ただの天然になっただけという気がしなくも……
クレストラント【魔王】
RPGゲームで最後に魔王を討つ都度『最初はまだ気にならないにしても、中盤くらいになったら気付いて殺しに来いよ』と常々思っていたので、最初に魔王を殺す話を。
最初に殺すためには意味が必要だよね……ということで、こんな流れに。
キルクレイム【勇者】
重要な情報を持っている人……じゃなくて幽霊でした。
ファンシー邸で殺害された未亡人ですらあれだけ語れたので、特殊幽霊はもっと重要なことを語らせようとした結果です。
ジェダ【死の王】
容姿がポイントです。《自分たちも》同じ間違いをした――
一人でずっと死んで生きてきたジェダがこの先どうなるのか? エルストが居る限り、幸せになれない感じがなんともジェダらしい。
ドロテア【主人公】
悪口を同じレベルで言い返して落ち込む。みんなを助ける。被害を最小限に抑える。実は神に選ばれた特別な力を持つ。空気は読めるが自分に対する好意には鈍い。子供と動物には何故か好かれる……等、ヒロイン条件の幾つかを逆さまにしてみたところ、酷いことになりましたが、ドロテアがこのドロテアでなかったら最後まで書ききれなかったでしょう。
なんにせよ初めて書いた物語の主役が”ドロテア”という辺りに、私の全てが集約されているかと。
エルスト【主人公?】
何の為にいるのか分からない、なんかいないと話にならないような、でもいなくても話になるような……そんな男、エルスト。
人気投票で不動にして余裕で一位になった、何もしていない男、エルスト。
実はすごく書き辛い男、エルスト。
そうそう、十八禁の本にすると言っていたエルストとドロテアの交際中の話は、永遠にハードディスクの中で眠るということで。
あとがき【終】
あとがきから読んだ方は、
よかったら序章からどうぞ。お待ちしております。
そして最後までお付き合い下さった方、本当にありがとうございました――
六道イオリ
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