ビルトニアの女
レクトリトアード【12】
 真面目な聖職者とは言い難いが、長年の神学校生活の習慣により朝の祈りに間に合うように目覚めたヒルダは、やはり習慣通りに朝の祈りを捧げていた。
 前日《重大な決断》を下した翌朝だが、その祈りに特別な思いは篭もらない。
 穏やかな祈りを前に、ヒルダは自分が思っていた以上に教えを好いていたことに気付いた。このまま嫌いにならないためにも、自分は動かなければならない。
 だがそれに悲痛な覚悟などはなかった。覚悟ではなく、それが一連の教えにそった行動であると。ヒルダの世界は目もくらむような眩しさとともに激変するような世界ではない。だからこそ、心は平穏で新たな道をも選ぶことが出来る。
「お腹空いたー」
 よって何時も通り、空腹にもなった。聖印を握り締めて、ヒルダは朝食を取るために部屋をあとにした。
 法王庁の廊下は人気がなく、人が住むような気配は感じられない。
 精神の高潔さを表す白と、その身の純潔を表す青。そして約束された死後を表す金。精神を重んじる白が多様されている法王庁。
 圧迫されるほどの白い廊下を進み、ヒルダは漂うかおりに導かれるように食堂を目指していると、
「シスター・マレーヌ」
 途中で”見覚えのある”修道女に再会した。
「司祭」
 セツの妹である修道女マレーヌ。
「あ、もしかして今はシスター・マレーヌじゃなくて本名を名乗られているのですか?」
 格好は修道女のままだが《扱い》が修道女のままとは、さすがにヒルダも考えなかった。だがはっきりとした答えももらえなかったことに、それ以上尋ねることはなかった。
「朝食、ご一緒していただけませんか?」
「よろこんで」
 二人が食堂に入ると、静かな空気がより一層静かなものとなる。
 その静けさは緊張からくるもの。誰がなにに対し緊張しているのか? 答えを探し求める必要はない。
 この法王庁でこれ程の緊張を強いる相手。それはセツの妹に他ならない。
 二人はトレイを持ち、浅い皿に大量の具が入ったスープを。皿に重めのパンと、ソーセージをのせる。席に着きテーブルに備え置かれているジャムの瓶に手を伸ばし、蓋を開けながらヒルダは顔を見ずに聞いた。
「慣れませんか?」
「慣れませんね」
 表情を見なかったのは、声から感じ取りたかったため。ヒルダが聞いた分ではマレーヌは”修道女”のまま人生を終えられなかったことに関して悲観はしていないようだ。だが現状を不満とは思わないまでも、受け入れがたいと感じているような気がした。
「どうぞ」
 木苺のジャム瓶にスプーンを入れたまま差し出す。
 パンに塗っているシスターの爪先を眺めながら、ヒルダは自分のことを思い出す。ヒルダはドロテアが皇帝の寵妃になって、扱いが変わっても違和感を覚えることはなかった。
 だから姉であるドロテアが皇帝の寵妃だったと聞いた時、本心から驚いた。どこからも、ドロテアが寵妃であるということは知らされていなかったのだ。
 ヒルダもドロテアが寵妃だと教えられれば、周囲の変化がそれによる物だろうと気付いた。だが一切教えられなかった。
 ――教えられなかった――それをドロテアが望み徹底された。それに関してドロテアがなにを考えていたのか、ヒルダの知る所ではない。
 そしてセツがマレーヌをどのような立場に置こうとしているのかも。
「このソーセージ。マレーヌさんがいた修道院のものですね」
「ええ。私の皿にはいつも、あの修道院のソーセージが」
 マレーヌにとって生きていたら一緒に故郷に帰りたかった兄。死亡していると思っていた兄が生きていた。そこから始まった世界は、彼女の望んでいた世界とは違った。
 セツが短い期間だけではあるが「修道院の生活に馴染んでいた」のと同じように、彼女もまた「修道院の生活を好んでいた」のだ。
 マレーヌにとって修道院での生活は、もはや存在しない故郷での生活に近い。
 その生活であったからこそ、マレーヌは兄のことを忘れなかったのだ。兄がセツという名で生きていた。それを喜ぶというのは、兄の今の地位をも含めて喜ばなくてはならない。
 聖職者の頂点に立とうとしている兄を祝福せねばならぬのだ。
 彼女が望んだ兄の姿ではないが、兄の存在を認める時、それは全てとなる。
「美味しいですよね、これ」
「そうですね」

 会えないときの寂しさと、会ったあとの寂しさは違う。それは全てにおいて。喜びだけをもたらすのではない再会は、決別するまでその心を悩ませる。

 二人の朝食が半分程度減ったところで、
「ヒルダ、お早う」
「お早うございます、マリアさん」
 木箱を抱えたマリアとアニスとイザボーが食堂へとやってきた。
 木箱からは硝子瓶がぶつかり合う音や、ブリキ缶が触れ合う音などが上がっている。
「なんですか? それ」
「調味料よ」
 マリアはヒルダの隣へとやってきて、マレーヌに軽く礼をし挨拶して、テーブルに置いた木箱から、
「調味料?」
「そうよ」
 さまざまな調味料を取り出し、手渡して見せる。
 薄いピンク色をした岩塩や、多種多様なハーブが混ざっている塩。刺激の強い香辛料もある。
「ヒルダ、食事終わったらドロテア起こして連れてきてくれないかしら? ドロテアの口に合う朝食作っておくから。ドロテア、お酒飲んだ次の日は特に味が濃いもの食べたがるでしょう?」
「そうですね。ところでマリアさん、この香辛料や塩はどこから? わざわざ買ってきたんですか?」
 アニスとイザボーは調理場へとゆき、使用許可をとっていた。
「これね。以前ドロテアが”聖騎士は他国のぼんぼんが伯付けにきてる”って言ってたでしょう?」
「そんな感じのこと言ってましたね」
「イザボーもそうなんだけれども、元々故郷で”いい”生活していた人って、ここの薄い味付けで満足できないらしいのよ」
 貴族や権力者はいかに金や権力を持っているかを競う。
 競い方はさまざまあり、その一つがどれ程「変わった食材の料理を食べたことがあるか」調味料なども、手に入れるのに困難な場所にあるものや、作るのに非常に時間がかかるものなど。それらを覚えている舌は、聖職者の味付けでは物足りず、市販の調味料では満足できない。
 もちろん身分の高いものや金持ちが毒殺を恐れて薄味にするというのは通説で、そのようにしているが、徹底しているわけでもない。
 金を持ち様々な珍味を手に入れられるというのに、食事が質素過ぎるのは我慢できない。また「毒殺を恐れているのか」や「ろくな部下がいないのだろうね」などと言われると、虚勢を張りたくなるのも事実。
 それらが交錯し毒殺にいたり、結果として毒殺は根強く残っているのだ。
「だから実家から調味料を届けてもらってるんだって。だから彼らから買ったの。……と言いたいところなんだけれど”買う”って言ったら、無料でくれたの。これなんか結構高いのにね」
 硝子瓶に一欠片入っている、先程みた薄いピンク色の岩塩。
「高価なんですか」
「相当高価よ。オーヴァートの家にあった調味料で”もっとも高価”って言われてた物」
「それは高価ですね」
 確かな高級品の称号を持つ、そのピンク色の岩塩。
「ドロテアそれ好きだから」
「もしかして持ち主に”ドロテアが好きなの”とか言いました?」
「言っちゃったわ」
「それはもう、値切り発動状態ですよ。むしろ金とったら後で命とられるくらいの脅しですよ、マリアさん」
「値切るつもりなんてなかったのよ」
 マリアは木箱に調味料を詰め直し、手招きしている二人のいる厨房へと向かった。
 ヒルダはマレーヌとの食事を終え、食堂を後にする。
「シスター・マレーヌ」
 廊下の別れるところで、
「なんでしょうか? 司祭」
「修道女に戻りたいのなら、私が作ろうとしている国にどうぞ。私は姉さんを起こしてきますので。それでは」
 ヒルダは”シスター・マレーヌ”またの名を”エセルハーネ”に対し、確りと顔を見て言った。マレーヌは瞬時に意味を理解することはできなかった。
 ヒルダは背を向けて、磨かれた鏡のような廊下を歩き出す。
 その迷いのない後ろ姿は確かに決意を物語っていたが、マレーヌにはヒルダがなにをしようとしているのかは『できあがるまで』理解できなかった。

**********


「姉さん! マリアさんが特別味付けで朝ご飯作ってくれてますから、起きて下さい」
 ドロテアは片足をベッドから降ろし、もう片方を胡座をかくようにして、欠伸をしている口元に手をやった。
「姉さん、服着ないと。それにしても、裸で寝て寒くないんですか?」
 ノックして部屋に入ってくるなり ―― お酒の匂いがしますよ ―― 言いながら、カーテンを開けながら窓も次々開いてゆく。
 胸の上あたりまでしかシーツがかかっていなかったドロテアは、外気の冷たさに肩をすくめて起き上がった。
「裸じゃねえよ。上だけは着てるだろうが」
「下着はつけてないし、ボタン一個も掛かってないじゃないですか。その格好じゃあパジャマ着てるとは言いませんよ」
「そうかもな」
 だが今更ボタンを掛ける必要もないので手で前を握り、合わせるようにして立ち上がる。
「エルストさんも起きて下さい」
「あ、うん。いやあ、飲み過ぎた飲み過ぎた」
 ドロテアは羽織っていただけのパジャマを脱ぎ捨て、ハンガーから何時もの服を外して手際よく着てゆく。
 服と肌が触れ立てられる鋭さに似た音。
「なんだ? ヒルダ」
「いやあ、姉さんって服着てるだけで威圧的ですよね。なんで立って靴下を上げているだけで、そうも威圧的なんですか」
「知るか」
 黒が多い服を着終えて、最後に手袋を嵌め、手首のボタンをヒルダがかける。
 最後にドロテアは懐中時計を持ち、
「行くぞ、エルスト」
 声を掛けてさっさと歩き出した。

**********


「あら、意外に早かったわね」
 三人が食堂に到着すると、誰もいないテーブルに湯気が立ち上っている皿が二つ乗っていた。三人に気付いたマリアが、そのテーブルを指さす。
「まだ作る気か? マリア」
 マリアの手にはフライ返しがあった。
「もちろん」
「そんなに食わねえぜ」
「あなたの隣にいる司祭の目が輝いてるから」
 言われてドロテアは自分よりも少し背の低い妹を”ちらり”と見てから、
「お前、朝飯食ったんじゃないのか?」
 ”よく食うな”と思いの全てを込める。
「食べましたけど。まったく問題ありません。ご安心を」
「適度に安心しておくぜ」
 椅子をひき腰を下ろす。エルストはコップと水がなみなみと注がれているピッチャーをトレイに載せて持ってきた。
「あのさ、ドロテア」
 水を注いだコップを各自の前に置く。
「なんだ? エルスト」
「ミゼーヌにカジノに案内して欲しいって頼まれたんだが、連れていっても良いか?」
 ドロテアがヒルダとマリアを連れて宴席から外れている時、ミゼーヌがエルストに頼みに来た。エルストとしてドロテアが戻って来たらすぐに話そうと思っていたのだが、その後宴席が《エルストの元上司》により非常に混乱してしまったために話そびれてしまった。
「ああ? ミゼーヌがカジノ? なんでまた」
 次々と運ばれてくる料理。マリアに片手を上げて”食べる”と合図を送り、ドロテアはフォークで温野菜を突き刺す。
「アンセロウムの遺品? を観たいんだってさ。壁はあのままだってファルケス大僧正……じゃなくて、枢機卿閣下がおっしゃってたよ」
 人によって”足を運びにくい場所”は違う。
 ミゼーヌにとってそれがカジノと花街。
 年齢からいってもう誰の許可も必要なくカジノも花街も行けるのだが、本人がどうも”そういう空気”に弱く、自分一人では行けない。
 エルストにしてみれば、遺跡調査という名の危険地帯を突き進めるのだから、それに比べればカジノなど子供の遊び場くらいの物だろうと思うのだが、ミゼーヌ本人にとってそうではなかった。
「そういうことか。連れて行け」
「ドロテアはどうする?」
「俺は法王庁に棺に関するものがないか、もう少し調べてみる……マリア、さすがに朝からそのヒレカツはどうかと」
「ヒルダ、食べるでしょう」
「はい! ご安心ください。ところで、エルストさん。私も一緒にカジノに行っていいですか?」
「もちろん」
 朝食と言ってよいのか? と言う程の量を平らげたあと、各自動き出した。
 ドロテアは棺に関するものがないか? どこかに隠されていないかを調べるために、
「俺には無理だと思うぜ」
「どうでも良いから、調べろ」
 ビシュアを連れて法王庁の深部へ。
 グレイはミロとバダッシュ、そしてオーヴァートと共に棺の調査をすることに。
「この模様を写し取ればいいんですね」
「そういうこと。頼むぞ、グレイ」
「へいへい。このくらいなら、すぐに写せますから」
 スケッチブックにペンを走らせる。
 そして……
「お手数をおかけします、エルストさん」
「気にしなくていいよ、ミゼーヌ。それで本気でついてくるつもりなのか? クラウス」
「当たり前だ。お前と言う男は目を離すとろくなことをしない」
「確かにそうだけどさ。レイの一緒に来る?」
「そうだな。ここにいても役に立てそうにないしな」
 目覚めてすぐに”棺が置かれている部屋の警備をしなくては”とやってきたクラウスと同じように考えたレイ。

この二人は特別会話をするわけでもなくの部屋にいた。
 その後ミゼーヌが棺を調査しようとやってきて、そのミゼーヌを誘うためにやってきたエルスト……と相成った。
 クラウスは立場が立場なので、法王庁の中を自由気ままに歩き回ることなどできない。本人にやましいところはないが、それは個人の理由であって、他者を納得させるにはいたらない。
「居心地悪いでしょう」
「居心地の悪い場所しか知りませんので」
 クラウスの人生はそういう道ばかりを進んできた。望むと望まざると。

*********


 エルストとミゼーヌ。レクトリトアードとクラウス。そしてマリアとヒルダでカジノへと向かった。
 地下にあるカジノに続く、すこしばかり薄暗い階段を下りて扉を、こういう時は先頭にいるエルストが開く。
 階段とは違い室内は明るさが溢れていた。日中だが窓がないので、全ての”灯された”灯り。炎特有の揺らめきと怪しさがある。
 カジノは基本的に店じまいがないので、いつでも開いているが、客の入れ替わりの時間というものがあり、エルストたちが訪れたのは丁度その時間帯だった。
「壁見せてもらいたいんだけど」
「どうぞ」
 客として遊びに来るのなら時間はいつでも良いだろうが、遊ぶのではなく壁を見に来ただけなので、邪魔にならない時間帯を選ぶのがちょっとした心使いというものだ。
 壁を隠している衝立を移動させて、目的のものの前に立ったミゼーヌは、
「懐かしい……でもやっぱり字が若いですね。それにこの頃はまだ、解り易く書いてますね」
 ミゼーヌ以外は誰も言わないような事を。
「ええー!」
 脇で叫んだヒルダ。その叫びは付き添いどころか、カジノにいる全ての人の叫びでもあったことは想像に難くない。
「偉大なる学者の残した記録か。無学の俺には読めないな」
【そういうレベルじゃないから安心しなよレイ】
 一緒に来た”人”には数えられないが、アードとクレストラントも同行していた。アードは成り行きだったが、
【元魔王でも読めん。さすがアンセロウム】
 クレストラントのほうは、アンセロウムを知っていたので興味があり付いてきたのだ。
【え? 知ってるの】
【ああ。私が生きていた頃には既に文字の汚い学者として名を馳せていた。あと最後のグレンガリア人としても】
【あーそう。凄いね……】

 アードは思った。”アンセロウムって、どうやって学者になったんだろう……”と。

 ミゼーヌを案内して衝立を移動させるという仕事を終えて、あとは連れて帰るだけのエルストは、
「酒は昨日浴びる程飲んだし、なによりお堅い元上司と一緒なんで。昼から酒はやめておく。水をもらえるか?」
 カウンターに座り水を求めた。
 ヒルダほどではないがマリアの容赦ない朝食メニュー。思い出すだけで二日酔いの喉元に、戻って来るなにかを感じつつ。
「どうぞ。それで、ちょっと相談にのって欲しいことが」
 水は無料ではなく、料金設定がありランクも存在する。
 エルストに出された水は、最高ランクの水。グラスは大きめで水も冷えていて、スライスされた柑橘類が入っているもの。
「厄介ごと、勝手に拾って帰ると、俺捨てられるんだけど」
 言いながらエルストは相談を引き受けるよと、無言での肯定を込めて水を飲み干す。
 ほのかな柑橘系の香りに、喉にこみ上げてきていたものが姿を消した。
「あそこで字を読んでる、若い学者さんで解決できそうな相談だ」
 カウンターの中にいたのはカジノの責任者。
 エルストたちが来たのを聞いて、大急ぎでやってきたのだ。
「じゃあ、ミゼーヌに」
「その前段階さ。まっとうな学者さんに見せる前に確認して欲しいんだよ」
「なにを」
「この古びたノートをさ」
 差し出されたノートをカウンターに置たままグラスを持っていない方の手でページを捲る。扱いには注意を払わなくてはと思わせる古びた色。
「ずっとここにあったんだとしたら、日に焼けた……は正しくない表現だけど、日に焼けたような色合のノートだな」
「煙草の煙だろう。それで、そのノートは届け出ていいものか?」
 ノートにはなにかが書かれているのだが、その”なにか”が誰にも解らなかった。
「いつ発見されたんだ? もう一杯もらえる?」
「はいよ。このノートが見つかったのは、あんた達が最初に出発したあと」
「吸血大公を殺したあとってことか」
「そう。あの後定期的な全面改装をしたら、このノートがどこからともなく現れたんだ。いままで一度の見つかったことがなかったのに。ページを捲ったら、壁にある”触れるな”って言われてるヤツに似たような《もの》が書いてあるだろ? でもよ、これが壁にある《もの》と同じだって言い切れるヤツもいなかった」
「そうだろうね」
 ミゼーヌが懐かしげに眺め、控え目に触れているアンセロウムが壁に書いた文章。
「子供の落書きとか、酔っぱらいの悪ふざけっていうことも考えられるだろ? こっちも、あの壁のこと知らなけりゃ、ごみとして廃棄してたところだが」
 エルストは二杯目を半分ほど飲み干し、ノートから顔を上げた。
「なるほど。……これは間違いなくアンセロウム、あの壁に字を書いた人が書いた物だ。前回と同じく、俺にはなにを書いているのか、全く解らないけどな」
「そうか。じゃあダンナに預かってもらいたいんだが? いいか」
「ミゼーヌに渡してくるよ。お代は?」
「そのノート引き取り代。手元にあるうちは、気になって寝られやしなかった。帰る時は衝立はあのままでいい」
 エルストはノートを持ち、満足したらしいミゼーヌが近寄ってきたので椅子から立ち上がり、カジノをあとにするだけになったのだが、そこで”あること”が起る。

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